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”先生”って素敵な響きだ……

 万桜号内に用意した大きめのテーブルに、二人の生徒が着席する。

 二人とも、ワクワクした様子で俺のことを見ているな。

 腕が鳴るぜ。


「二人とも、準備はいいか」


「「はい、先生!」」


 兄妹の元気な返事が、万桜号の中に木霊する。

 先生か……。

 フフフ。

 なんともいい響きだ。素晴らしい。正に俺にぴったりの言葉だな、『先生』!

 さあ、遠慮することはない。子供たちよ、もっと言ってくれ。


「愉悦感に浸っとる顔が最高にキモいぞ、先生。わらわ、あまりのキモさに吐きそうじゃぞ、先生」


「廊下に立ってろ、落第生」


 誰がキモいだ、誰が!

 360度、どこからどう見ても、できる系イケメン教師だろうが。

 オマケの分際でしゃしゃり出てきおってからに。


 ……だが、まあいい。

 俺には素直でかわいい生徒が二人もいるのだ。こんな不良邪神、目じゃないぜ。

 さあ生徒たちよ、俺の神ティーチングに酔いしれるがいい。


 俺は、自信に満ちたイケメンフェイスで、講義を開始した。


「いいか。今回やるのは画帖装がちょうそうっていう装幀そうていだ。こいつは俺の国に古くから伝わる由緒正しい製本方法の一つで、折帖仕立おりじょうじたてと同様の作りで背を表紙で覆った本だ。折帖仕立のように何丁にもわたって展開することはできねえが、絵を見開きで見るのには向いており……」


「「???」」


「ストップ、ストップ! ちょっと待つのじゃ、ヨシマサよ。見てみい。ユーリとクレアがパンクしかかっておるぞ」


 セシリアが気分よくご高説する俺の手を引く。

 言われて見てみれば、ユーリとクレアは湯気でも噴き出さんばかりに顔を真っ赤にし、目を回していた。

 しまった。どうやら二人には、ちょっと難易度が高過ぎたようだ。


 セシリアの言う通り、二人とも知識の奔流にパンク寸前。

 いや、どちらかと言うと、ギリギリアウトっぽいな、これ。

 ……やべぇ。やり過ぎたかな。


「悪い、二人とも。ちょっと難し過ぎた。まあ、名前や装幀の歴史なんかは別に覚えんでもいい。要は、古くからある本の作り方で、誰でも割と簡単にできるってことだけわかれば大丈夫だ」


「う、うん……。それならわかる……」


 茹蛸から回復したユーリが、ホッとした様子で返事をする。

 隣では、クレアもコクコクと頷いていた。


 よしよし。

 どうにか持ち直したようだ。

 では、気を取り直していってみよう。


「そんじゃあ、論より証拠。さっそく作るとするか。二人とも、渡した紙を二つ折りにしていけ。絵が描いてある方が内側になるようにな。きれいな本にしたいなら、きっちり折れよ」


「わかった」


「任せてよ!」


「ヨシマサ、めんどいからやってくれ」


「帰れ、クソ邪神」


 素直に工作に励む兄妹を尻目に、素早く窓を開けてセシリアを背負い投げで放り出す。

 直後、窓をがっちり施錠。

 ついでに、車のロックをかければ完璧だ。


「よし。これで悪の根源は排除した」


「ところがどっこい、そうは問屋が卸さぬのが世の常じゃ」


「…………」


 普通に戻ってきていやがった。

 よく見たら、セシリアの後ろにでっかい穴が開いている。穴の向こうに見えるのは……外の景色だな。

 こいつ、リザードマン一味の時に使った異次元収納空間の通り抜けで戻ってきやがったな。

 なんと小賢しいヤツだ。

 しかもこいつ、視界に入ってない場所にも出口を開けられるようになってやがる……。


「ぬふふ。この程度でわらわを排除できると思ったら大間違いじゃ。あまりわらわを舐めるでないわ!」


 腰に手を当て、「えっへん!」とまな板な胸を張るセシリア。

 一匹わいたら、次から次へと次が出てくる。

 ゴキブリのよう――へぶらっ!


「誰がゴキブリじゃ! あのようなおぞましいものと一緒にするでないわ」


 こめかみにかつてないほどの衝撃を受け、その場でトリプルアクセルを決めた俺。

 で、きれいに着地した瞬間、今度は逆のこめかみに衝撃を受け、続けて逆回りで前人未到の四回転アクセルを披露。

 フィギュアスケート関係者が見ていたら、拍手喝采をもらえたかもしれん。


 ちなみに回転しながら見てみれば、セシリアが超冷たい眼差しでバッドを振りぬいていた。

 ババア発言の時とは比べ物にならないキレ具合。

 どうやら俺のゴキブリ発言は、こいつの逆鱗に触れたらしい。。

 二撃ともお遊びは一切なく、実に腰が入った一撃必殺のアルティメットアタックだった。


 ふむ……。

 今後、これについては考えないようにしよう。

 いくら不死身属性入っていても、ちょっと看過しきれない痛みだ。

 というか、意識が遠くなってきた。


「ヨシマサ、大丈夫?」


「まったくもって無問題だ、ユーリ。俺、ちょっと頑丈だから、これくらいどうってことない」


「でも、頭から血が噴水みたいに出てるよ」


「ハッハッハ! 大丈夫だ、クレア。いつものことだから」


 ――ササッ!


 あれ、おかしいな。

 ユーモアを交えたつもりだったけど、なんか青い顔した二人から思いっきり引かれた。

 今の俺の頑丈さをもってすれば、これくらいは何でもないのだがな。

 まあ、それを知らないこいつらから見れば、ちょっと刺激が強すぎる光景だったか。

 さもありなん。 


「ふむ。どうやら俺のギャグセンスは、ハイレベル過ぎたようだな。すまん、二人とも」


 俺、自分の才能が怖い。


 ……って、あれ? なんだろう。


 なんか急に眠くなってきたな。

 それに、目の前に色鮮やかなお花畑が……。これはユートピアというやつか?


「世迷言を言って浸っているところ悪いがな。どちらかと言えばお主の顔の色の方がやばいぞ。ついでにお主の血でせっかくの紙が汚れそうじゃ。さっさと止血せい」


 つまらなそうなセシリアの言葉に、ユーリとクレアが無言かつ高速で頷く。

 出血の元凶がそれを言うのもどうかと思うが、確かに今回はちょっとヤバいようだ。

 本気のセシリア、恐るべし。


 ともあれ、勧めに従って適当に止血しておくとしよう。

 

「ヨ、ヨシマサ……本当に大丈夫?」


「安心しろ、ユーリ。言っただろう? 俺は頑丈が売りなんだよ。これくらい、つばつけときゃすぐに直る」


 力こぶを作ってみせながら、笑顔でユーリの頭を撫でる。

 心配してくれてありがとう。

 お前、いいヤツだな。

 OK。もしよければ、爪の垢をわけてくれ。

 そこの人でなしに、吹き矢で打ちこむから。


「ヨシマサ、頭おかしくなってない?」


「安心するのじゃ、クレア。こやつの頭は当の昔に手遅れじゃ。気にするだけムダじゃよ」


 俺を指さして残念そうに首を振りながら、セシリアがクレアの頭を撫でる。

 少しは心配する素振りを見せろや、ゴルァ!

 お前、相も変らず最悪だな。

 OK。よろしくなくても表に出ろや、ロリババア。

 決着つけてやる。


「ヨ、ヨシマサ! 紙、折れたよ!」


「わたしもわたしも! 次はどうすればいいの?」


 青筋浮かべてセシリアを見ていたら、ユーリとクレアが俺の両腕に抱きついてきた。

 チッ! 仕方ない。

 今の俺はこいつらの先生。こいつらに本作りを教える方が優先だ。

 命拾いしたな、まな板邪神。

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