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子供たちからの依頼

 勇者たちとの会食から一週間。

 俺たちは、相変わらず平和な日常をむさぼっていた。


 ちなみに勇者たちは、何やら仕事があるとかで今もこの国に逗留している。

 詳しい内容は教えてくれんかったが、この国を治める貴族(この間の四男坊の父親だ)直々の依頼らしい。

 フレアちゃんの御パパ上(つまり現アリオス王国国王)経由で、直々に御指名があったそうだ。

 国のトップから御指名で仕事が来るとは、さすが勇者。

 知名度から信頼度まで、俺たちとは規格が違い過ぎるな。

 まあ、当人にそう言ってみたら、「今回の仕事は、フレアのお父さんのコネでしかないよ。僕の知名度なんて、言う程大したことないさ」と謙遜しておったが……。

 こんなスカしたこと言っていても嫌味に聞こえないんだから、こいつって本当にすごいやつだわ。そりゃあ、人気も出るわな。勇者、恐ろしい子。

 俺が同じセリフ吐いたら、総スカン喰らうか周囲みんなから白い目向けられるものだが……。

 ホント、なんなんだろうな、この差は……。


 とまあ、自分と勇者の差に若干落ち込みつつも、俺は今日も仕事に励んでいるわけですよ。

 で、これはそんな折の出来事だった――。


「――は? 本が欲しい?」


 それは、いつものように子供たちを集めて読み聞かせをした後のことだった。

 俺がこの国に来た当初からお話を聞きに来ている兄妹が、妙なことを言い出したのだ。


「それはつまり……ここにある本をくれってことか?」


「うん。そう」


 万桜号の方を指さしながら言うと、兄妹の兄の方、メガネをかけたユーリが頷いた。

 メガネの所為か、10歳とは思えんくらい落ち着いて見えるんだよな、このガキは。

 ただ、今はメガネの奥から、どんぐりのような目が訴えるよう俺を見ている。


 うーん、そう言われてもな~……。


「欲しいっつわれてもな~。悪いけど、さすがにそれは無理だわ」


 本に興味を持ってくれたことはうれしいし、自分の手元に置きたいという気持ちもわかる。

 けど、「くれ!」と言われて「はい、どうぞ!」と渡すわけにもいかないのが現状。

 さすがに首を縦には振れなかった。


「ええ~。こんなにたくさんあるんだから、一冊くらいちょうだいよ!」


「この説話集をやるわけにもいかんし、他の本はお前たちじゃ読めないだろう?」


 なんたって、他の本は別世界の言語だし。

 そんな俺の心の声などお構いなしに、ユーリの隣から勝ち気な声が飛んだ。


「それでもほしいんだもん! 一冊くらい、いいじゃんか~。減るもんじゃないし~」


「いや、あげたら明らかに減るだろ」


 妹の方、クレアが「けちんぼ~! どーてーやろー!」とブーイングを入れてくる。

 7~8歳くらいのガキって、なんでこうも生意気なのかね。

 あと、この罵倒は明らかにうちのクソジャリの影響だよな。

 あんちくしょうめ、いたいけな子供たちに何を教えてるんだ。

 後で締めてやる。


「ねえねえ、ヨシマサ~。いいでしょ。一冊だけ~」


「ダメなものはダメ。一人にあげると、他のガキどもも『欲しい!』って言い始めるからな」


「ぶ~」


 むくれたまま、しょんぼりとするクレア。

 ユーリも表情はほとんど変わらないが、少しばかり気落ちした感じだ。


 ハァ……。

 まったく、見てられねえや。

 仕方ねえな。


「わかった、わかった。お得意様の頼みだからな。さすがにここの本はやれねえが、別の方法を考えてやるから、明日の朝まで待ってろ」


「「本当!?」」


 俺の言葉を聞くや否や、途端に表情を輝かせ始めた二人。

 ホントまあ、うれしそうな顔しちゃって。


「絶対だよ。約束だからね、ヨシマサ! 嘘ついたら……」


「針でも飲ませるか?」


「ううん! 溶かした鉄を一気飲みしてもらう!」


「恐えよ!」


 あどけない笑顔でなんて恐ろしいことを言いやがんだ。

 誰の影響だ、誰の!


「――ハッ!」


 妙な気配を感じて、ズバッと後ろを向く。

 万桜号の影から顔を出し、ニヤリと笑うセシリアと目が合った。


 ヤロウ……。やっぱりてめえの仕業か。

 クレアに妙なことばっか教えてんじゃねえぞ、ゴルァ!

 この子が貴様みたいな悪女に育っちまったらどうするんだ!


「じゃあね、ヨシマサ! 約束、忘れないでね!」


「またね」


「へいへい。気を付けて帰れよ」


 手をつないで帰って行く兄妹を、適当に手を振りながら見送る。


 さてはて、妙な約束をしちまったな~。

 まあ、仕方ないか。

 他ならぬ、本を好きになってくれた子供たちの頼みだし。


 グイッと腕まくりをして、グルングルンと肩を回す。

 うっし! 準備はOK。

 それじゃあ……、


「ちょっと気合入れて頑張りますか!」

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