邪神様の有り難くない忠告
セシリアからもらった邪神パワーで快調に草原をかけぬける万桜号。
目指すはヴァン王国とかいう国。
で、件のヴァン王国へと向かう道すがら……。
「そういえばさ、お前の神様パワーって、お願いすれば俺以外でも使うことができるわけ?」
「んにゃ。わらわが憑りつ――契約して力を貸せるのは一人までじゃ」
……ツッコまないぞ。
なんかとてつもなく嫌なワードを聞いた気がするが、絶対にツッコまんぞ。
「わらわがお主を選び、お主がこの世界に来るのを選んだ時点で、契約は成立した。故に、今、わらわが力を貸せるのはお主だけじゃ」
「お前、数時間前に『適当に呼んだ』って言ったよね! しかも、俺に選択権なんてなかったよね!?」
ダメだ。我慢できんかった。
ていうか、何その騙し討ち的な契約。完全に詐欺じゃん。
すぐ騙されやすそうなやつだと思っていたが、こいつもこいつで極悪人だ。
やっぱりこいつ、立派に邪神だった。
「故に、わらわはお主が近くにいなければ、清楚で可憐、見目麗しく愛らしいだけのただの美少女でしかないのじゃよ。残念なことにな」
一文の中でどれだけ自分を褒めれば気が済むんだ、このジャリ。
それと、少しは俺の話を聞け!
そして心の底から全身全霊をかけて謝罪しろ!
「なので、努々わらわへの気遣いを忘れるでないぞ。できれば信仰してくれるとなおよしじゃ。ああ、お供え物は甘いものがよいのう。ケーキとか最高じゃ」
「そこら辺の石でも食ってろ」
「ガウッ!」
冷たくあしらったら、俺の頭に食いついてきやがった。
チッ!
面倒くさいやつだ。
とはいえ、こいつがいないと俺もチートな能力が一気になくなるのも事実。
とりあえず、このロリ神から目を離さないようにしておこう。
騙されやすそうなことに変わりないだろうから、お菓子とかに釣られて簡単に誘拐されそうだし……。
「ああ、それとな、ヨシマサ。契約の話が出たのでついでなのじゃが……。お主、魔王になったからって、ここらの小説に出てくるようなハーレムを作ろうとか考えるなよ」
再びパソコンで某小説投稿サイトを見せつつ、そんなことを言うロリ邪神。
ん? どういうことだ?
「は? なんで? 俺、魔王なんだよな。仮にも王様なんだよな。なんでハーレム作っちゃいかんの?」
自慢じゃないが、大奥くらい作ってかわいい女の子をたくさん囲う気満々でした。
毎日ウハウハする気満々でした。
「いやまあ、その……。なんでかと言われるとな……」
なんだか歯切れの悪い様子のロリ神様。
ふーむ。これはもしや、ハーレムを作ってはいけないのには重大な秘密が……。
あ、いや。もしかして民衆からの好感度がどうのこうのって方の理由か?
「お主の顔……、悪くはないが、別に取り立ててイケメンというわけでもないし……。何より性格が三下の小物っぽいし……。――うむ! ハーレム作ろうとしても、ひどく残念な結果になるだけじゃと思うぞ。故に悪いことは言わん。自らを傷つける前に、すっぱり諦めよ!」
「車から放り出すぞ、クソガキ!」
彼女いない歴=年齢の純情チェリーボーイに辛い現実突きつけやがって!
ぜってぇ許さねぇ! (←血の涙を流しつつ)
「まあまあ、落ち着け。五厘ほど冗談じゃから」
「なんだ、そうか。……………………。――って、一瞬納得しそうになったが、五厘って0.5%だろうが。99.5%本気じゃねえか!」
「チッ! 気づきおったか」
面倒くさそうに舌打ちするセシリアちゃん。
ちくしょう!
童女のくせにバカにしやがって!
「ハハハ。まあ、ぶっちゃけ何が言いたいかというとじゃな、魔王たる者、規律を守ることが大事ということじゃ。たくさんの女を囲っておっては、それだけで性が乱れるでな」
心の中で血の涙を流していたら、なんか諭されてしまった。
23歳童貞魔王に男女間の風紀を説くロリ邪神……。
なんなんだろうな、この状況……。
「まあいいや。つまり、お前は俺がたくさんの女性と【ピーッ!!】したり、【ズッキューンッ!?】したりすると風紀が乱れるって言いたい……」
「わーっ!? ガウガウッ!!」
無茶苦茶噛まれた。
どうやら放送禁止用語に耐えられなかったらしい。
耳年増なくせに随分とウブなヤツだな。
邪神のくせに……。
ハーレムを阻止しようとするのも、実はそこら辺が理由か?
「と・も・か・く・じゃ! わらわの目が黒い内はお主にハーレムなんぞ作らせん。努々忘れるでないぞ!」
ツーンとそっぽを向くセシリアちゃん。
……ふむふむ、なるほど。
どうやら俺は、勘違いをしていたようだ。
これは、つまり――。
「つまり、『わらわというものがありながら、他の女に目移りするなど言語道断! そんなことしたら、わらわ怒っちゃうぞ、プンプン!』ということだな」
「言っとらんわーっ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶセシリア。
図星を突かれて恥ずかしくなったのだろう。
かわいいじゃないか、このツンデレさんめ。
だが、すまんな。いくら神様とはいえ、見た目十歳は守備範囲外なんだ。
心苦しいが諦めてくれ。
ただまあ、俺に心奪われちまったいたいけな少女(見た目)の頼みだ。
大奥――というか、ハーレムはとりあえず断念してやるとしよう。
感謝しろよ、子猫ちゃん。
――なんてやり取りをしながら万桜号を走らせること数時間。
日もどっぷり暮れて、真夜中と言える時間になったころ。
俺たちは草原を横断するバカでかい川の畔にたどり着いた。
「なあ、セシリア。ヴァン王国ってこの川の先なんだよな。どうすんだよ、これ」
「一応ここから上流へ行けば橋はあるぞ」
「んじゃ、その橋を目指すとするか」
「いや、その必要はないわい。この乗り物は今や世界最強の乗り物じゃ。こんな川くらい余裕で渡れる」
「…………。あっそ」
俺の可愛い万桜号は、いつの間にか人知を超えたよくわからんものに変貌していたらしい。
なんだろうな……。
知らん間に汚されちゃった気分だ。
「ともあれ、川渡りは明日にして今日はここらでキャンプをするぞ。ヨシマサ、メシ~」
「あるか、んなもん。詐欺まがいの方法で呼び出された一般人に何を期待している。お前こそ、なんか持ってないのか?」
「お主の方こそ、わらわに何を期待しておるのじゃ。そんなもん持っていたら、とっくに一人でメシにしておるわ」
やれやれ、これだから素人は~。なんて素振りで呆れるロリ邪神。
つうか、食いもん持っててもオレにくれる気0だったな、こいつ。
最悪すぎる。
「まあよい。食うものがないなら、そこの川から魚でも取ってこればよかろう」
「あいにく釣竿なんか持ってねえぞ」
「まったく使えんのう。――ほれ」
…………。
漁網を投げ渡されました。
「何でこんなもん持ってんだよ! つか、こんなん持ち歩くくらいなら、食べ物の一つくらい持ってろや!」
「細かいことを気にする男だのう。いいからさっさと魚を取ってこい」
腹減った~と喚くセシリアにブツブツと文句を垂れつつ、川岸から網を投げる。
網はそれ自体に魔法でもかかっているのか、想像以上に綺麗に広がって川に落下。
引き上げてみると、魚が十匹ほどかかっていた。
「拍子抜けするほど楽だな。何だか、人間としてダメになりそうな楽さ加減だ」
「ごちゃごちゃ言っとらんで、さっさと調理するぞ。わらわはそろそろ限界じゃ」
包丁とまな板、魚を刺すための串、焚き火用の薪を差し出すセシリアちゃん。
だから、何でそんなもんを持っているくせに、肝心の食べ物を持っていないのだ。
……なんて思っていたら、俺の腹もグルルルと鳴り出した。
やべえ。俺もそろそろ限界が近いかもしれん。
「はあ……。んじゃ、魚さばいとくから、お前はその間に火をおこしておいてくれ」
「心得た」
言うが早いか、セシリアは草原から枯れ葉を集め出した。
それが終わると、テキパキと薪を組んで、焚き火の準備を済ませる。
……意外と手慣れているな。てっきり「できるか、ボケーッ!」くらい言われると思ったのだが。
「魔王軍がわらわとアンデルスだけだった頃は、よくこうして火をおこしておったからな。この手のことは、けっこう得意なのじゃ」
火打石をカチカチやりながら、そんなことを言うセシリア。
どうやらただのポンコツニート神ではなかったようだ。
意外と苦労してきたんだな。
少し見直したぞ。
まあ、この分なら火の方は問題なさそうだ。
んじゃ、俺も魚をさばくとするか。
モテたい一心で身に付けた、板前顔負けの華麗な包丁さばきを見せてやるぜ!
……使い道0だったけどな。
フッ……。何だか切なさが込み上げてきたぜ。
あ、目に心の汗が……。
ともあれ、心の汗と戦いながら、次々と魚をさばいていく。
こうして俺の異世界生活一日目の夜は更けていったのだった。