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リザードマンが舎弟になった

 ダイレクトに西日が差し込む城塞の広間。

 赤く染まる石造りの床に――、


「大邪神様と現魔王様への数々の無礼、マジですんませんした!」


「「「すんませんした!」」」


 20人からなるリザードマン一味が頭を擦り付けていた。

 単純に言っちまえば、土下座だわ。


 十二神将の暑苦しいスキンシップから解放されたこいつらは、速攻土下座で命乞いを始めたのだった。

 事故とは言え、跡形もなく消し飛んだ天井を見れば、こいつらの反応も仕方ないものだろう。

 まあ、これ以上余計な戦闘をしないですんで良かったというところだろう。


 何だかんだ言っても、こいつらには3日間ほどもてなしてもらった恩があるからな。

 素晴らしきアヴァロンを提供してくれたこいつらを倒さずにすんで、本当に良かったぜ。


「ぬふふ。わかればよいのじゃ。これからも誠心誠意、この大邪神セシリアを崇めるのじゃぞ」


「「「はは~!」」」


 このクソガキはリザードマンたちがヘコヘコし始めた途端、調子に乗り始めたな。

 これ以上つけあがらせると後が面倒だし、ここらが潮時だろう。


「さてお前ら! 土下座はもういいから、ちょっと俺の言うことを聞け!」


「「「イエッサー! 何なりとご命令ください!」」」


 おおう!

 超いい返事だ。

 なんだろう、この誰かを支配しているような優越感。

 目覚めそうだ。


「お主、ただでさえ自意識過剰な変態なのじゃから、その上にS属性までついたらいよいよ救いがなくなるぞ」


 黙れ、ポンコツドS邪神。

 貴様に言われたくないわ。

 散々こいつらに崇め奉らせまくっていたくせに!


 ……まあ、こいつのことは置いておこう。

 

 いい加減疲れてきたし、さっさと済ませるべき仕事を済ませてしまおう。


「いいか、お前ら。もうここで旅人を捕まえて奴隷商人に売り渡したりするな。どこか別の土地へ行け」


「へい! わかりやした、魔王様! 別の土地に行って、旅人を捕まえることにしやす!」


 ……………………。

 

 うん。まあいいや。

 今回の仕事は、こいつらを『この国』から追い出すことだしな。

 他の土地で何してようが、俺の出る幕じゃねえ。


「別の国でまたこやつらに誘拐をやらせ、賞金が出たところで再び刈り取りに行く……。――ふむ。完全に詐欺師のやり口じゃな。さすがはわらわの見込んだ新魔王。清々しいほどの小ずるい三下ゲス野郎振りじゃ」


「うん。てめえはこのままここに残って、明日の朝、奴隷商人に引き取られてろ」


 売値は本を買う費用に充ててやるから安心しろ。

 てめえは心ゆくまで、金持ちの愛玩奴隷としてでっかいお屋敷でくつろいでこい。

 

 ただまあ……その手口自体は割といいアイデアだったので、念のため覚えておいてやろう。

 いつか使える日が来るかもしれんしな。(←あくどい笑顔)

 

 ともあれ、御印の代わりに一味の旗をもらい、リザードマンたちが旅立っていく姿を見送る。

 やや時間がかかったが、これにて今回の討伐クエストは無事終了。

 俺とセシリアは、3日ぶりに隠していたマイホーム・万桜号に戻り、一路ヴァーナ公国を目指した。


 ――と言いたいところだが、何時間にもわたる決闘で精根尽き果てていた俺とセシリアは、そこでダウン。

 万桜号に乗り込むなり、糸の切れた操り人形のように倒れ、泥のように眠り続けた。


 で、翌朝。

 睡眠バッチリでお肌もツヤツヤになった俺たちは、リザードマンからの献上品(ということでセシリアが奪取したもの)である上物お肉を頬張り、奴隷商人がやってくる前に森から離れた。


「なんだかんだ言って、よいバカンスになったのう」


「ああ。宿泊費無料で三食メシ付き。ニート志願者には夢のような環境だったぜ」


 ここ数日の生活を思い出し、思わず顔をにやけさせる。

 ビバ、怠惰な生活。


「うわ~。『ビバ!』とか考えとるよ、この男。ダメ人間の思考そのものじゃな」


「てめえに言われたくないわ、ニートオヴァノール代表!」


 俺、てめえのようなものぐさ邪神違って、ニート志望じゃないからね。

 さっきのだって、あくまで一般論なんだからね!


 第一、俺、超勤労意欲に溢れているし!

 ちゃんと昼は読み聞かせ、夜は大道芸やって働いているし!

 あの牢獄暮らしもセシリアに付き合っていただけだし!


「ヨシマサよ……、自分に素直に生きなきゃ、人生の八割方は損するぞ」


 外見に似つかわしくない達観した口調で、そうのたまうセシリア。

 あとなんだ、その煙草でもふかしているような仕草は。

 ぶっちゃけイラッとするからやめなさい。


 つか、お前自身がニート志望であることは否定しないのか。


「わらわ、このとおり神様じゃし~。どちらかと言えば、祀られておとなしく力を与えているのが仕事じゃし~。むしろ、ああいった何もしないでお供え物をもらっている環境こそが、わらわの仕事場じゃし~」


 だめだ、こいつ。

 魂の底からニート精神が溢れてきていやがる。

 邪神改めニート神とした方がいいんじゃねえか。


「フッ! 何をいまさら。人を堕落させるのも邪神の仕事じゃぞ。率先して自らがその生き様を示すのは、当然のことじゃろう」


「へいへい。さいですか」


「ぬふふ。なんじゃ? うらやましいか? うらやましいなら、素直にそう言ってみい」


 ニヤニヤ笑いながら、俺を魔の道に引きずり込もうとする性悪邪神。


 ハン!

 貴様、誰にものを言っているのだ。

 バリバリ有能なエンターテイナー兼図書館員であるところの俺が、そんなことを言うわけ――。


「超うらやましいッス! つか、今すぐ俺と代われ!」


 いかん!

 俺の体、最近ちと素直すぎる。

 どうも考える前に欲望に飛びついている気がする。

 それもこれも、すべて隣の意地汚い邪神の影響だな。

 この世の宝であるところの純真無垢な俺の心を汚しやがって。 

 世界遺産を汚した罪で逮捕するぞ。


「お主の心が世界遺産? ああ、負の遺産とかいうやつかのう?」


「誰の心が負の遺産だ!」


 ぐぬぬ。言わせておけば……。

 俺よりよっぽど小汚い心をしているくせに……。


 まあいい。いや、あんまよくないけど、それはおいといて……。


「あのさ、気になっていたことが一つあんだけど、聞いていい?」


「あん? なんじゃい」


「俺が召喚する方々ってさ、なんでこうガチムチマッチョ系ばかりなの。もっとこう小悪魔系とかセクシー系とかが来てもいいんじゃない?」


 聞いた瞬間、セシリアが気まずそうに顔を逸らした。


「いやまあ、その……。召喚される側にも、選ぶ権利というのがあってじゃな……」


 うん。

 何だか嫌な流れになってきました。


「それって、つまり……」


「ぶっちゃけ、お主は悪魔界や式神界においても女性型からは避けられ、ガチムチ系から好かれるということじゃな」


 嫌な事実だった。

 人種どころか種族問わず女性に避けられマッチョにモテるって、もう呪いじゃん!

 なんだよ、この絶望しかない状況。


 ……いや!

 これはきっと夢だ。夢の続きに違いない。

 でなければ、このありえない状況を説明できない!


「ああ……。まあ、お主がそれで納得するなら別にいいのじゃが……」


 ポンコツ邪神が何か言っているが、どうせ俺を蛇の道に誘い込もうとしているのだろう。

 適当に無視した。


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