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要塞をリフォームしてしまった……

 俺とセシリアは階段を上り、堂々と迷うこともなく城塞の中を歩いていく。


 実はこれまでにも何度か脱獄しているからな。無性に腹が減った時とかに。

 もはや勝手知ったる我が家だ。

 迷う余地もない。


「あいつら、また広間で飲んだくれてんのかな」


「ここらにまったく気配がないところから見て、おそらくそんなところじゃろう。まあ、所詮は元魔王軍の下っ端なんて、ニート予備軍みたいなものじゃからな。さもありなん、じゃよ」


 「元魔王軍など、恐るるに足らず!」なんて言いながら、カッカッカと高笑いする元魔王軍付きの邪神様。

 いや、うん。

 お前がそれでいいなら、俺はいいんだけどね。


 ともあれ、俺たちはリザードマンに見つかることなく、初日にリザさんに案内された広間へ到着した。


 うーむ。

 本当に危機感ってものがないな、リザードマンたち。

 まあ、所詮はトカゲ頭だ。こんなもんか。 


「野郎ども! 今日は好きなだけ飲んで騒げ。酒ならたんまりあるからな!」


「ヒャッハーッ! さすがボス! 太っ腹~!」


「それもこれも、地下牢の連中がいい金になってくれたおかげだぜ!」


 広間の中から聞こえてきたのは、とても上機嫌なリザードマンたちの声だった。


 ほうほう。

 俺たち、そんなに高く売れたのか。

 まあ、当然といったところだろうな。

 このジャリも見てくれだけはいいし、何より俺の溢れんばかりのエレガントなオーラ。

 奴隷商人もこぞって高値を付けたに違いない。

 ああ、自分の魅力が恐ろしい。


「あの男の方は予想通り過去最低の値しかつかなかったが、ガキの方がピカイチだったな。愛玩奴隷として一人で十人分の価値が付きやがった。男の方はタダ同然でもしぶられたが」


「まったく自称邪神様様だぜ。あの男の方は単なる穀潰しだったが」


「ガキの方はなかなかいい面していたからな。男の方は残念だったが」


「ゴルァ! 誰が残念イケメンだ、こんちくしょう!」


 さすがに我慢できずに、飛び出してしまった。


 てか、こいつら、人が黙って聞いてりゃ、いい気になりやがって。

 ぜってぇ許さねぇ!


 ――と、俺がリザードマンに怒りを燃やしていると……。

 

「ヨシマサよ、落ち着くのじゃ。そう自分を過大評価するでない。お主は残念イケメンではなく、単なる残念な男じゃ」


 セシリアが残念なお知らせをするかのごとく、神妙な顔でそうのたまった。

 

 毎度のことながら、てめえはどっちの味方だ。

 慰めるような素振りで、より辛辣なこと言ってきやがって。

 そこは「お主の魅力は顔だけじゃない。真の魅力はその澄み渡った心じゃ!」くらい言えんのか。


「すまぬ、ヨシマサ……。わらわは自分の心に嘘はつけんのじゃ」


 普段なかなか謝らねえくせに、こういう時だけ素直に謝ってんじゃねえよ!

 あと、その勝ち誇った余裕の笑みはやめろ。

 ちくしょう! どいつもこいつもバカにしやがって!


「おい貴様ら、一体どうやって地下牢から抜け出した!」


「うるせえ! んなことはどうでもいいんだよ! それよりてめえら、俺がタダ同然ってのはどういうことだ。ありえねえだろ! てめえら、一体どんな売り込みしてやがるんだ。まずは商談の様子を事細かに聞かせろ!」


「いいわけあるか! ええい、相変わらず人の話を聞かんヤツだな!」


 うるさいボス氏だな!

 いいから、大人しくそこに直れ。

 今から俺が、元の世界でモテるために身に付けたマーケティング理論をその体の芯まで叩きこんでやる。

 返事はただ一つ。

 サー・イエッサーだ。


「金の力に頼って、それでもなおモテんかったとは……。哀れじゃのう」


 てめえもうるせえよ、ポンコツ邪神。

 一通り勉強し終わって『さあ、これから稼ごう!』って時に、てめえがこの世界に呼び出したんだよ。

 モテんかった理由があるとすれば、むしろお前の所為だ。


「ほほう? いいじゃろう。ならば久しぶりに、遊んでやるとしようかのう。かかってくるがいいわ、万年女日照り」


「いい度胸だ、寸胴ボディ! 俺にケンカを売ったこと、すぐに後悔させてやる!」


 正に一触即発。

 戸惑うボスさん以外のリザードマン一味を尻目に俺とセシリアは向かい合った。


 ――と、その時だ。


「い・い・加・減・に・しろぉおおおおおおおおっ!!」


 城塞がビリビリ震えるほどの大音量が俺たちの鼓膜を打つ。

 俺とセシリアの間に立ったボス氏が、渾身の力を持って叫んだようだ。


 しかし……。


「うるさい!」


「邪魔じゃ、ボケ!」


「げふらっ!」


 そんなことで俺たちは止まらない。

 とりあえず場所的に邪魔だったので、魔王と邪神のサンドイッチ式ラリアットで一撃KOし、床を舐めさせておく。

 俺とセシリアの間に立っていたのが運の尽きだったな。


「「「ボ、ボス~!」」」


 うっしゃーっ!

 とりあえず邪魔な障害物は片付いた。

 なんか周りのリザードマンたちがしっちゃかめっちゃかしているが、気にしたら負けだ。

 なぜなら、セシリアが犬歯を光らせこちらに突っこんできているからな!


「貴様ら、よくもボスを!」


「もう取引なんて関係ねえ。今すぐ血祭りに上げてやる!」


「ボスの仇! 覚悟しろ!」


 セシリアの噛みつき攻撃を捌いていたら、なんでかリザードマンたちが乱入してきた。

 後ろで小さく「オレ……、まだ死んでねえ……」とか聞こえるが、まあ幻聴だろう。


 ともあれ、この場面で俺たちが言うべきことはただ一つだ。


「「決闘の邪魔だ(じゃ)! すっこんでろ(おれ)!!」」 


 言うと同時に、手に持っていた『できる! 陰陽道』を発動。

 十二神将とかいうボディビルダー並のガチムチマッチョな式神たちを呼び出して、リザードマンたちの相手をさせる。


「うぉ! なんだ、こいつら! ――ぐほっ!」


「ぎゃぁああああああああ! 逞しい上腕二頭筋が――げぺっ!」


「あ、だめ。マウントポジションは――がふっ!」


 式神たちが自慢の筋肉を駆使し、言葉にしたくないほど暑苦しい攻撃をリザードマンたちにお見舞いしていく。

 厚い肉の壁を前に、リザードマンたちは打つ手なしだ。

 次々と、肉の海に沈んでいく。


 さあ、これで本当に邪魔者はいなくなった。


「第二ラウンドといこうか、セシリア。土下座の準備をしておけよ」


「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ」


 リザードマンたちがまとめてフルボッコにされる中、俺とセシリアはそちらを一瞥することもなく己の戦いに集中する。


 そのまま決闘を続けること数時間。

 リザードマンたちがマッチョたちと暑苦しく戯れる横で、セシリアと壮絶な泥仕合を続けていた俺だったが……。


「おりゃーっ! 隙ありなのじゃ!」


「何ーっ!」


 一瞬の隙をつかれて、セシリアに背負い投げられてしまった。

 チッ!

 こいつ、俺の技を盗みやがったな。

 つか、身長差50cmくらいある俺をどうやって投げてんだ、こいつ。


 しかも投げたそばから全力で顔面を踏みつけに来やがったよ、このロリ邪神。

 容赦なさすぎだろ。


 とりあえず、転がって避けたわけだが――その時、俺の手に懐かしい感触が伝わった。


 ――っと、それどころじゃねえ。


「死に晒せーっ!」


 どこかから取り出した釘バッドを振り被るセシリア。

 いや、それマジヤバいから!

 マジ死んじゃうから!!


「のぉおおお! 【悪魔様、おいでませ】!」


 条件反射的に、二日ぶりに手にした懐かしい本『サルでもわかる! レメゲドン』で防御しつつ、これまたいつものクセで呪文を唱える。


 結果……。


「「あ……」」

 

 決闘していたことも忘れ、完全同期の動きでギギギ……と横を見る俺とセシリア。

 俺たちのやっちまった的な視線の先で、魔方陣展開。

 しかも今回は、直前まで思い切り殺気立っていたセシリアからの全力魔力投入だ。

 十二神将にも負けない立派な大胸筋と上腕二頭筋をお持ちのいつもの悪魔さんが現れ……。


「HAHAHA~ッ!」


 ――チュドォオオオオオオオオンッ!


 城塞の天井が、とても風通しの良い形にリフォームされました。

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