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夢のニート生活(三食牢屋付き)

 さて、ここらでちょっと状況を整理してみよう。


 10000ゴルドという賞金に目が眩み、リザードマン一味を退治すべく、そのアジトに乗り込んだ俺とセシリア。

 セシリアの邪神としてのカリスマを利用した説得作戦はあえなく失敗し、プランB(全員ぶっ飛ばす)もセシリアの見栄により不発。

 つまり 俺たちは早速窮地に立たされることになったわけだ。


 ……あれ? てか、これって全部あのロリ邪神の責任じゃん。もしかして俺、もっと怒っていいのでは?


 まあいいや。

 ともあれ、反撃の手段もなく、俺とセシリアは憐れにもリザードマンたちに捕まってしまったのだった。


 で、古い城塞の地下牢に閉じこめられること3日。

 外界との連絡手段もなく、完全に孤立無援となった俺たちは……、


「オレのターン、ドロー! 俺は場のモンスターを生贄に、上級モンスターを召喚! 右端のモンスターにアタックだ!」


「なんの! トラップ発動! その攻撃は無効じゃ!」


「くっ……。なら、カードを2枚伏せてターンエンド」


 と、牢屋暮らしを大いにエンジョイしていた。

 

 いや、だってね、ここ何もしなくても毎日三食出てくるんですよ。

 俺たち、一応売り物なんで、何も食わさずに痩せさせるわけにはいかないらしい。


 いやもう、あれだな。

 働かなくてもメシが食える。

 一日中引きこもって遊んでいても怒られない。

 その上、セシリアの異次元収納空間にゲームやらなんやらがたくさん入っているから、エンジョイし放題ですよ、ハッハッハ!


 ……はあ。

 ここ、実は天国じゃないですかねえ……。(←満ち足りた漢の顔)

 

 あ、そうそう。

 今はセシリアがなぜか持っていたトレーディングカードゲームでデュエル中。

 これまでの勝敗は3勝3敗1引き分け。完全に五分と五分。

 ここは、意地でも負けられんのですよ!


「フフフ……。ついにこの時が来たな、セシリア。さあ、年貢の納め時だ」


「ぐぬぬ……」


「くらえ、ダイレクトアターック!」


「――てめえら、いい加減うるせえんだよ!」


 俺のファイナルアタックが炸裂したところで、牢屋の鍵番をしているリザードマンが怒鳴り込んできた。

 ちなみにこのリザードマン、最初に俺たちが遭遇したあのリザードマンだ。


「また変なおもちゃ持ち込みやがって。これで何度目だ。没収だ、没収!」


「まあまあ、そう言わずに。どうッスか、リザさんも一勝負」


 ガーガー怒るリザさんに、カードを振り振りしながら勝負を持ちかける。

 あ、『リザさん』っていうのは、俺が付けたあだ名な。

 全員リザードマンだから、呼び分けるための呼称がないと不便なんだわ。


「やらねえよ! いいから、さっさと渡せ」


 やれやれ、仕事熱心だね~。

 しょうがないな。

 んじゃ、俺がちょっとばかし羽目を外させてあげようじゃないか(ニヤリ)。


「あ~るぇ~? もしかしてぇ~、売られた勝負から逃げるんスか~? 誇り高き、リザードマンが~? まあいいッスけどね、リザさんが尻尾巻いて逃げるってんなら~」


「ああ? 上等だ、クソ野郎。いいだろう、受けてやろうじゃねえか。さっさと貸しやがれ! 吠え面かかせてやる!」


 よし、かかった!

 ハハハ。

 持つべきものは、単純単細胞な見張りってな。

 リザさんが見張りである限り、俺たちの優雅な牢獄生活は安泰だ。


 ――と、思ったら……。


「おい貴様、何を遊んでいる」


 地下牢の入り口にリザードマン(ボス)が現れた。

 珍しいな。

 ここに入れられてから、リザさん以外のリザードマンを初めて見たわ。

 しかも、ボスが登場とは……。


「なんじゃ、メシの時間か?」


 ひょこひょこっとセシリアが檻の前に出ていく。

 こいつ、リザードマンたちの見分けがついていないな。

 リザードマン(ボス)のことを給仕係か何かと勘違いしていやがる。


 つか、1時間前に昼飯を食ったばっかりだろうが。

 つまりこれは……。


「バカだな、セシリア。メシの時間にはまだ早いだろうが。つまりこれは――おやつの時間だ」


「おお、そうか! 頭が良いな、ヨシマサ!」


 まさかボス自らおやつを持って来てくれるとはな。

 フッフッフ。

 苦しゅうないぞ。


「…………。お前たちは、捕まっている自覚があるのか……」


「フッ! 甘く見ないでいただこう。俺たちは――今や監獄生活のプロを自認している!」


「はあ……」


 自信満々に答えてみせた俺を見て、ボスさんが頭を抱えて溜息をつく。

 俺のあまりの潔さに脱帽してしまったというところだろう。

 さもありなん。


「まあいい。そんな監獄生活を満喫しているお前たちに、朗報だ」


「ほう。――つまり、今日のおやつは特別ゴージャスということですかな?」


「ならば、わらわはプリンアラモードがいいのう。あ、いや、ここはイチゴがたくさんのったパフェも捨てがたい」


「んなわけあるか! ふざけんじゃねえ!」


 おやおや?

 なぜだろう。ボスさんがいきなりキレてしまった。

 もしかしてカルシウムが足りていないのだろうか。


 まあ、この人(?)も一つの組織をまとめる立場にあるわけだからな。

 ストレスになることも多いのだろう。(←ストレスの原因からの同情)

 

 しょうがないな。

 ここは……。


「おい、セシリア」(←居た堪れなくてボス氏から目を逸らす)


「うむ。――ほれ、リザードマン。煮干しじゃ。たんとお食べ」(←同情の眼差し)


「貴様ら、いい加減にしろよ……(プルプル)」


「ボ、ボス、落ち着いて~」


 あらら。

 リザさんまでオロオロし始めてしまったな。

 情緒不安定な上司を持つと苦労するね。

 心中お察ししますよ、リザさん。

 合掌。


「お前ら、頼むからそれ以上ボスを煽るな!」


 興奮するボスさんを羽交い絞めにしたリザさんから、超涙目で訴えられてしまった。

 おかしいな、何も悪いことはしてないはずなのだが……。

 まあ仕方ない。

 他でもないリザさんの頼みだ。

 ここは、大人しくボスさんの話を聞こう。


「それで、朗報とは一体何ですかね」


「ハア……ハア……。いいか、よく聞け。先程、貴様らの買い手が決まった。明日の朝、引き取りに来るそうだ」


 ん?

 俺たちの買い手?


「おめでとう。これでお前たちも、晴れて奴隷身分だ」


 なんかものすごくうれしそうにボスさんが言う。

 

 え? 

 明日引き取りに来る?

 つまり、この監獄から出されてしまうということか!


「貴様、俺たちをこの楽園から追い出すつもりか!」


「ふざけるでないわ! 意地でもこの牢屋は明け渡さんぞ!」


「うるさいわ! むしろ、さっさと出ていけ!」


 喚いてみたら、三倍の音量で言い返された。


 ぬう……。

 なんと卑劣な大家なのだ。

 三食昼寝付きの天国(←地下牢)から出ていけなどと、一体このボスさんは何様なのだ。


「ともかくだ! お前たちは明日の朝、奴隷商人に引き渡す。残り一晩の監獄生活を、せいぜい楽しむがいい」


 鼻息荒く、ボスさんが俺たちに言い渡す。

 そのまま彼は「ああ、疲れた」と言い残し、リザさんを連れてさっさと地下牢から出ていった。

 人の話も聞かず、言いたいことだけ言っていくとは、なんと失礼な輩だろうか。

 まったく、少しは俺たちを見習って礼儀作法というものを身に付けてほしいものだ。


 ともあれ、こうして俺たちのめくるめく監獄(という名の楽園)生活は、ピリオドを打たれることになってしまったのだった。


 ……はあ。

 なんだか面倒くさいことになってきたな。

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