うちの邪神はやっぱりポンコツだった
というわけで、半ば連行されるような形で見事城に潜入成功した俺たち。
セシリアの希望通り、早速リザードマンたちのボスにお目見えすることとなったのでした。
こうなったらセシリア、あとはお前のカリスマ性だけが頼りだ。
邪神の威厳、バッチリ見せてくれよ。マジ信じているからな! (←生まれて初めて見せる超真剣な視線)
「ボスー、そこの廊下でこんなの拾いました」
俺たちが通されたのは、城塞の中心部と思われる広い部屋だった。
部屋のあちこちで、リザードマンたちが酒を飲み交わしている。
数にしたら、大体20人くらいか。
意外と少ないな。もっとたくさんいるのかと思っていたが……。
で、部屋の一番奥、上座に座ったリザードマンのボスが、のしのしと俺たちの方へやって来た。
「んだ、てめえら。オレたちを討伐にでも来たのか?」
ボスの問い掛けに、周りのリザードマンたちが「ゲヒャヒャ!」と笑う。
ああ、これはアレだ。
完全になめられてるよ、俺たち。
まあ、当然の反応か。
「ちゃうわい! わらわたちは、お主たちに『ここから立ち去れ』と命令するためにやって来たのじゃ」
そう言ったセシリアが、フフンと胸を張る。
こいつはどんな状況でも偉そうだな。
ある意味、感服するわ。
心臓に毛でも生えてるのかね。
だけど……。
「はあ? オレたちに命令? てめえ、何様よ」
「自分の立場解って言ってんのか、お嬢ちゃん」
リザードマンたちから次々と、こちらをバカにしたようなヤジが飛ぶ。
まあ、ある意味これも当然か。
逆の立場なら、俺でもそうする。
「フン! わらわの正体を聞いた後でも、同じような口が叩けるかのう?」
それでも不敵な笑みをうかべ、リザードマンたちを睥睨するセシリアちゃん。
すると、セシリアの物怖じしない態度に興味を持ったのか、リザードマン(ボス)が話に乗ってきた。
「ほほう、貴様の正体か。いいね、聞かせてもらおう。一体貴様は、何者だというのだ?」
「ぬふふ。聞いて驚くではないぞ。わらわこそ、元魔王に加護を与えていた大邪神セシリアなのじゃ」
多分、本人的にはドドーンッという効果音が付くような気分での告白だったのだろう。
腕を組んで、「ムフーッ!」とか言っている。ムカつくほどのドヤ顔だ。
で、肝心のリザードマンたちの反応はと言うと……。
「「「…………」」」
ふむ。
全員ピタリと笑うのをやめたな。
おや? もしかして、セシリアの言っていた通りになったのか?
こいつ、実はただのアホの子じゃなく、本当にモンスター界のアイドルだっただろうか……。
――なんて、俺が淡い希望を持ち始めた時だった。
「ゲヒャヒャヒャ! お前のようなちんまいガキがあの大邪神セシリア? ありえんだろうが。寝言は寝てから言えや、クソガキが!」
今までで一番の大爆笑が、部屋中に響く。
周りのリザードマンたちも笑い出したから、うるさいことこの上ないな。
まあ、そのうち笑うのにも飽きるだろうからほっとこう。
さて、それじゃあ俺は俺で、大事な確認を一つしておこうか……。
「……セシリアさんや、これはどういうことですかね? お前、超自信満々に『向こうはわらわのことを知っておるに決まっておる』って言ってなかったっけ?」
「それなんじゃけどな、ヨシマサ。わらわ、一つ大事なことを忘れておったのじゃ」
「ほう……。言ってみたまえ」
「よくよく考えたらな、わらわ、魔王軍の重臣以外の前に姿をさらしたことなかったわ。――テヘッ☆ 失敗、失敗」
かわいらしくペロッと舌を出してウィンクするセシリア。
そうかそうか。
姿をさらしたことがなかったのか。
じゃあ、リザードマンたちが知らなくても仕方ないな。
……で、この落とし前、どうつけてくれるつもりだ、ポンコツ邪神? (←般若のような顔)
「まあ仮に、お前が本物の大邪神セシリアだったとしてだ。魔王軍を壊滅させ、オレらを路頭に迷わせるような邪神の言うことを聞くわけないだろうが」
リザードマン(ボス)の言葉に、『ああ、納得』という顔でポンッと手を打ったセシリア。
うん。
旧魔王軍はアホの集まりだったようだが、中でもトップが最大のアホだったようだ。
てめえ、まったく持ってダメすぎるだろう!
宴会魔法で火葬するぞ、クソガキ! (←激怒)
「…………。ふむ、仕方ないのじゃ。ヨシマサ、プランBに移行するぞ」
「初耳なんだがどんなプランだ?」
「全員ぶっ飛ばす」
実にわかりやすいな。
けどお前、ここ来る前に『退治は優雅さに欠ける』だの、俺のことを『これだから野蛮人は~』だの散々言ってくれたよな。
「ヨシマサよ、お主の世界にはこのような素晴らしい言葉があるのじゃろう。――すべては秘書がやったことだ」
ニヤリと外見に似つかわしくない、あくどい笑みを浮かべる邪神様。
いや、意味わかんないからな。
用法も使いどころもすべて間違ってるかんな。
第一、この場面までに色々やらかしちゃってんの、お前自身だろうが。
何を架空に人物作り上げて、責任押しつけちゃってんの?
「そもそも、わらわから溢れる神々しいオーラを感じ取れん段階でこいつらに存在価値なしじゃ。魔を司る神として、裁きの鉄槌を下してやるのが慈悲というものじゃろう」
むふふ、と胸を張るセシリア。
溢れんばかりに外道なダメオーラを漂わせてやがる。さすが邪神。
けどまあ……OK。
さっきからこいつが言っていることはさっぱりわからんが、一つだけよくわかった。
こいつ、最悪だ。
何が最悪って、まずちっとも謝りやがらねえ。
妙な理屈付けて煙に巻こうとしてんじゃねえよ、クソガキ。
とりあえず、床に額を擦り付けて誠心誠意俺に謝れ。
「さて、言いたいことそれだけか? だったら、次はこちらのもてなしを受けてもらおう。最近はこの近辺を通る旅人がめっきりいなくなってな。久しぶりのお客人に、オレたち流のフルコースを味わってもらおうか」
舌なめずりしながら、ジリジリと近づいてくるリザードマン(ボス)。
周囲にいた手下のリザードマンたちも、少しずつ包囲を狭めてきているな。
やべ~。
逃げ場がない。
「のうのう、ヨシマサ。フルコースじゃって! どんなご馳走かのう?」
バカが俺の服の裾を引っぱってきやがった。
つか、てめえ、何うれしそうにしてんだ。
「期待しているところ悪いが、俺が思うに投獄、人身売買、奴隷化の転落人生三点盛りってところだと思うぞ」
「なんじゃ、食べ物ではないのか……」
俺の回答を聞いて、セシリアがしょんぼり落ち込む。
こいつって、時々ガチで純真無垢になるよな。
純粋なアホだけど。
「……まあ仕方ないな。さっさと片付けるとするか」
「うむ。そうするのじゃ」
懐から、『サルでもわかる! レメゲドン』を取り出す。
狭い室内だ。本当なら『これで完璧! 今日から君もエレメンタルマスター』の方がいいんだがな。
でも、そっちは生憎、背中のナップザックの中だ。
さすがに取り出している余裕はない。
「……セシリア、さすがにこの室内でいつもの悪魔さんパワーはまずい。力の調整は任せるぞ」
ここで全開悪魔さんパワーなんか炸裂させた日には、俺たちもお陀仏だ。
……あ、いや、意外としぶとく生き残れるかもしれないが、確実に死ぬほど痛い思いをすることになるだろう。
それだけは、絶対に避けなければならない。
だって、痛いの嫌だし。
「ぬふふ。任せておけ。それくらい、朝飯前じゃ」
言うと同時に、セシリアの腹の虫が盛大に鳴く。
朝飯前ってそういう意味じゃないからね。
あとお前、ガッツリ朝飯食っただろうが。
「まあいいや。ともかく任せたからな。――せーの、【悪魔さん、おいでませ】!」
ポフンッ! (←ば○きんマンみたいなちっさい悪魔さん登場)
ボッ……! (←手に小さい火の玉を灯し、どこぞの漫画のタイトルのように大きく振りかぶって……)
ヒュ~……。 (←投げた)
ポン! (←ボスに当たった。ナイスピッチ! けど……)
ブスブス……。 (←すぐ消えた……。リザードマンボス、どう反応すべきか困っている様子)
ポフンッ! (←悪魔さん、なぜか満足げに頷きながら退場)
「「「……………………」」」
一同、無言。
なんだろう。
俺たちに向けられるリザードマンたちの視線が――超痛い……。
「すまん、ヨシマサ……」
俺たちにとって痛い沈黙の中、それまで決して謝らなかったセシリアが謝ってきた。
「その台詞だけですでに不満と怒りしか覚えんが……何がだ、セシリア」
極めてやさしい笑顔で、どういうことか聞く。
さあ、説明するがよろしい。(←般若の面を準備)
「実はな……わらわ、力のコントロールとか、そういう細かいこと――大の苦手じゃった」
もはや見慣れたと言ってもいい、セシリアの「テヘッ☆」というかわいらしい恥じらいポーズ。
うん、そうか。
苦手なら仕方ないよな。誰にだって苦手はあるもんだ。
それはいい。
だけどな、セシリア……。
「この肝心なところで、何をしょうもない見栄張ってんだ~!」
「だって、その方がかっこいいじゃろうが! さっきのわらわのセリフ、超決まっておったじゃろうが!」
「グースカ腹の虫を鳴らしてる時点で、まったく決まっとらんわ、ボケ邪神!」
邪神と魔王の掛け合い名物『醜い争い』、この場面で勃発。
なお、完全に置いてけぼりのリザードマン一味はポカーン。
けどまあ、そんなの長く続くはずもなく……。
「おい、てめえら。さっさと捕えて、地下牢にぶちこんどけ」
「「「へい!」」」
俺とセシリアは、あっさりリザードマン一味に捕まってしまいましたとさ。
あ、もちろん『サルでもわかる! レメゲドン』やナップザックは没収された。
なんだろう。もうこれ、笑うしかないな。
ハッハッハ。アーッハッハッハ!
フウ……。
……………………。
「助けて、お巡りさ~ん!」
腹から力を入れて、全力で叫ぶ。
しかし、悲しいかな。
当然助けなんて来やしなかったとさ。
ちゃんちゃん!