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誰かうちのアホ邪神に危機感というものを教えてやってくれ

 森の中はこれまでも長年に渡って定期的に人が通っていたのか、細い道が確保されていて歩きやすかった。

 もっと未開の地的なものを想像していたんだが、若干拍子抜けだな。

 まあ、歩きやすいに越したことはないので、『グッジョブ、昔の人たち!』って感じだが。


「そういやさ、討伐依頼の御触れを見た時から気になっていたんだけど……」


「ん~? 今度はなんじゃい?」


 森の中をテクテク歩きながら、セシリアに話を振る。

 歩いている最中は、基本的にそれ以外することがないからな。

 うっとうしそうな言葉遣いの割には、セシリアもすんなりと無駄話に付き合ってくれた。


「いや、別に大したことじゃないんだけどよ。――こんな討伐くらい、わざわざ賞金かけなくても騎士団にやらせればいいんじゃないかと思ってさ」


「まあ、騎士団も国の警備やらなんやら、やることが山積みじゃからのう。こんな些末な問題にかかわっておられんのじゃろう」


「些末って、何人も旅人や行商人が攫われてるんだろう。国としては十分な大事件だと思うけどな」


 俺の世界で大量誘拐なんてあったら、それこそ警察が本腰入れて捜査に当たるだろう。俺はその手のことに詳しくないが、場合によっては県を跨いだりして他の県警に応援要請を入れるんじゃないか?

 間違っても、有志を募って解決に当たらせたりはしない。


「お主の世界ではどうだったか知らんがのう。このオヴァノールでは、旅人がモンスターや魔族に襲われるなど日常茶飯事じゃ。それらに一々騎士団が出張っておったら、下手をすればひと月で国が破産してしまうわ」


 セシリアの言をまとめるとこんな感じだった。


 基本的に、この世界で騎士団が討伐に動くのは、国を揺るがすほどの一大事でもなければないそうだ。

 それ以外は、基本的に放置。今回のように、さすがに放置しておけない場合には、在野の冒険者やハンターなんかに依頼して事件の解決に当たらせる。

 それがこの世界的なスタンスというものらしい。

 その方が経費的にも安く済む(今回の例で言えば、騎士団が出張るとその経費は10000ゴルドでは済まないということだ)し、騎士団も国の防衛に専念できて一石二鳥なんだと。

 ちなみに、今回の賞金10000ゴルドというのは、セシリア曰く、かなりおいしい仕事の部類だそうだ。


「おそらく国以外にも商工ギルドがスポンサーになっているんじゃろうな」


 とは、セシリアの談。

 ……一般常識的なことはすっぽ抜けているくせに、なんでこういうことは知識豊富な上に聡いんだ。

 

「それに、在野の者たちでも単騎でモンスターを退治できる力を持った者は腐るほどおるからな。お主も、そういう者たちを何人か見てきたじゃろう」


 言われて、指折り数えてみる。

 ええと、ナーシアさんにアイラさん、あと多分カイゼル氏とマリアンナさんもそうだろうな。肉の鎧纏ってたし。


 うん。

 確かにこの世界、モンスター以上に(色んな意味で)化け物みたいなのが結構たくさんいるよな。

 この世界に来て一か月ちょいしか経ってない俺でも、こんだけすぐに思い当たるのが出てくるんだから。


 で、その頂点にいるのが勇者パーティーって感じか。全員揃って一騎当千。……しかも、美男美女の集まり。フフフ……。(←フォー○の暗黒面発動)


 ~~しばらくお待ちください。~~


 ふう……。(←落ち着いた)

 ……まったく、どんだけパワーインフレ起こしてんだ、この世界。


「力を持った連中の中には、自己責任でこういう傭兵稼業を生業としておる者も多いのじゃ。手っ取り早く稼げるからのう。そういう連中は仮に討伐に失敗して死んでも、国が責任を負う必要はない。言わば、国にとって傭兵は使い勝手のいい戦力、傭兵にとって国は最大のお得意様なのじゃ」


 お主の世界的な言葉に当てはめれば、こういうのをwin-winの関係と言うんじゃったか、とセシリアが聞いてくる。

 まあ、需要と供給の関係がうまく成り立っているって言うんなら、そういうことなのかもしれんな。

 実際、俺たちも賞金を見て、渡りに舟と討伐に乗り出しているわけだし。

 ここら辺は、俺の世界とは常識そのものが違うんだとでも思って、順応しておくとしよう。

 郷に入りては郷に従えって言うしな。


 ――と、そんなどうでもいいような会話をしながら森の中を進んでいくと……。


「おい、セシリア」


「うむ。どうやら目的地に着いたようじゃな」


 昼間でも若干うす暗かった森が途切れ、前から明るい日の光が差し込んでくる。

 最初はまぶしさで視界がホワイトアウトしていたが、光に慣れてくるとようやくその先が見えてきた。

 どうやらここは、森の中にポツンとできた広場のようだな。

 目測で100メートル四方くらいあるかなり広い空地だ。


 つか、これって人為的に作られた空地だな。

 広場の中央に石造りの立派な城塞があるし。

 見た感じ結構古そうなもので、『自分、なんとか現役で頑張っています!』って感じだ。


「何の目的で作られたかは知る由もないが、かなり昔の戦用の城塞じゃな。見たところ、使われなくなって久しい半遺跡のような状態じゃが……」


「で、今はリザードマンたちの根城にしているってわけか」


 俺の世界でも廃墟は不良の溜まり場ってイメージがあるが、こういったところはどの世界に行っても同じなんだな。


「つか、もっと見張りやら何やらがいるもんだと思っていたんだが、外にはリザードマンの影も見えねえな」


「ハッハッハ! やつら、魔王軍の残党じゃぞ。見張りなんて高等な戦術、思いつくわけなかろうが」


 なんか偉そうに高笑いを始めるセシリア。

 うん。

 元魔王軍って、元々お前たちが率いていた軍だよね。

 その不出来をお前が笑うのもどうなんだ。

 ねえ、元魔王軍付きの邪神様?


 てか、どんだけ烏合の衆なんだよ元魔王軍。

 あまりにも危機感なさすぎだろ。

 お前ら、そんなだからあっさりと勇者パーティーに壊滅させられたんだよ。


「まあいいや。おかげで潜入も楽にできそうだし」


 あ、いや、むしろこのまま気づかれない内に魔法でふっ飛ばしちまった方が楽か。

 よし、それなら……。


「さあ、サクッとけりをつけるのじゃ。いくぞ、ヨシマサ!」


「あ! おい、待てって!」


 チッ!

 セシリアめ、能天気に飛び出して城塞に入っちまった。

 こいつ、危機感なさすぎだろう。

 さすが、見張りも立てない元魔王軍を率いていた邪神だ。

 部下に輪をかけてアホすぎる。

 

「まったく、勝手なことをしやがって」


 セシリアが離れちまった以上、魔法は使えない。

 いや、仮に使えたとしてもセシリアが中にいる以上、城塞ごとふっ飛ばすとかはできない。

 本当に余計なことばかりしてくれるな、あのポンコツ邪神。


「仕方ねえな」


 セシリアを追って、城塞の中に突入する。

 もうなるようになれだ。


「おい、セシリア。ちょっと待てって」


「あん? なんじゃ」


 テクテクとのん気に城の中を歩くセシリアを、ようやく捕まえる。

 こいつ、意外に歩くの速いな。


「一度外に出るぞ。これなら、レメゲドンの悪魔さんに来てもらうだけで十分だ」


「ん? しかし、そんなことをしなくとも――」


「おい、貴様ら! そこで何をしている!」


 突然聞こえてきた見知らぬ声に、俺とセシリアが顔を上げる。

 見れば、通路の先にトカゲのような顔と鱗を持った人型のモンスターが立っていた。


 やっべ! 速攻で見つかっちまった。


「おい、逃げるぞ、セシ――」


「お主、ここに巣食ったというリザードマンか? ちょうどよい。わらわたちをお主らのボスのところへ案内してたもれ」


 なんの危機感もなくリザードマンの方へ歩いていく、我らが姫様。

 バカなの、あいつ。

 警戒心、動物園の動物以下か。


「ゲヒャヒャ! いい度胸だ、ガキ。いいぜ、ついてきな」


 下卑た笑い声を響かせるリザードマン。

 うん。

 あれ、『バカな得物が向こうからやって来た』って顔だわ。

 

 よし。

 残念だが、こいつは見捨てていこう。

 すまん、セシリア。成仏してくれ。

 邪神だからって、化けて出てくるなよ。


「では、俺はこれで……」


「おい、そこの! 何やってんだ。てめえもくるんだよ」


「…………。ですよね~……」


 逃げられませんでした。

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