いざ、リザードマンの森へ!
市場街にもどった俺たちは、とりあえずご近所さんたちに「一週間くらい、西の森でモンスター狩ってきます」と挨拶回りをすることにした。
こうしておけば、万が一の時は捜索くらいしてもらえるかもしれんしな。
何事も、打てる手はすべて打っておくべきだろう。
なんたって、俺にとっては命がけ(セシリアは知らん。そもそもあいつ、ポンコツだけど神様だし、死んだりはしないだろう)の大仕事。
万が一の保険、すっげえ大事です。(←力説)
そういや、俺たちが「モンスター退治に行く」って言っても、誰も止めようとしなかったな。
それどころか、「ああ、仕事に行くのかい」とか「しっかり稼いできな!」なんて、笑顔で送り出された。
この反応……普段の興行で大魔法連発している所為か、どうもそっちが本業と思われているっぽいな。
心配している様子が欠片もないってのも、若干さびしい気が……。
あと、挨拶回りにセシリアも連れていったら、市場のおっさん連中が男泣きを始め、当たりが騒然という珍事件が発生してしまった。
おっさんたち、どんだけセシリアに骨抜きにされてんだ。
つか、日焼けして割と逞しいおっさんたちが童女囲って泣き崩れるって……かなりドン引きだぞ。
その場にいた女性陣、あまりにもひどい光景に口元押さえて目を逸らし、「見なかったことにしよう……」とか言ってたし。
とはいえ、セシリアのおかげで選別はたんまりもらえたな。食べ物だけじゃなくて、薬に剣、なぜか全身甲冑なんてものもあった。
よし、ここら辺は計画通りだ。
セシリアをいっしょに連れ回しておいてよかったぜ、ゲースゲスゲスッ!(←下種な笑い)
まあ、セシリアの前に並ぶおっさんたちの長蛇の列は、さすがにシュールだったけどな……。
つか、いい年したおっさんたちが、泣きながらプレゼント持って列作るなよ。
相手はこのロリな見た目を武器にした、狡猾な性悪邪神だぞ。
見た目ロリだけど、実はいい年こいたバb――(ドカッ、ゲシッ、グシャッ!)。
「……口は禍の元じゃぞ、ヨシマサ」
「すみませんでした……」
だから口には出さなかったのに……。
人の顔色読んで、もらった甲冑の兜使って笑顔でフルボッコってひどくないですかね。
兜は人を殴るための装備じゃありませんぜ、お嬢様。
これもう、ホラーやスプラッタの類ッスよ。
ほら見なさい。血が間欠泉のように吹き出して止まらないじゃないか。
周りで見ていた人たちも、なんか真っ青な顔してオロオロしちゃってんじゃん。
「冷静にアホなこと考えとらんで、さっさと止血したらどうじゃ?」
元凶がそれ言うのはどうかとも思うが、確かにその通りだ。
なんだか少しフラフラしてきたし。
てか、俺って意外と頑丈だな。あんだけ鈍器(←兜のこと)で頭を殴られて、よくもまあザクロ的なグロ画像にならなかったもんだ。
「お主は紛いなりにもわらわの眷属なのじゃぞ。今のお主は、わらわの加護をこれでもかという程に強く受けている。龍種に体当たりされても死ぬほど痛い思いをするだけで、バッチリ生き残れるわ」
「それは見方を変えれば、単なる拷問ではなかろうか」
死ぬほど痛い思いして悶え続けるって、死ぬより辛いじゃん。
もはやそれ、呪いの類じゃん。
体強くしてくれるなら、痛覚とかも何とかしてくれや。
「まあ、やろうと思えばできなくもないんじゃがな……。ほら、お主のような雑な作りの顔してるヤツでも、感覚というのは割と繊細に出来とるじゃろう。ぶっちゃけ、調整するのがめんどくさくてな。だったら、そのままでもいいかなって」
チョロっと舌を出し、「テヘッ☆」とかわいらしく自分の頭を叩くセシリアちゃん。
うんうん、なるほど。
面倒くさかったか。
そうかそうか。
ハッハッハ!
とりあえず、したり顔しているところに一発拳骨を叩きこんでみた。
「ほぎゃ! いきなり何すんじゃい!」
「何すんじゃい!」じゃねえだろ、ゴルァ。
肝心なところで手ぇ抜いてんじゃねえよ、クソ邪神。
もっと気合入れて召喚しろや。
あと、雑な作りの顔って何だ! いい加減泣くぞ――じゃない! 泣かすぞ!
「仕方ないじゃろうが! お主を呼び出す儀式をしている時、ニ○生でな○うラジオがやっとたんじゃから。お主も男だったら、多少設定が甘くなったくらい許容せんか!」
「できるか! つか、俺の召喚の優先度はなろ○ラジオ以下だったんか! ニ○生だったらタイムシフト予約でもしとけや、ボケナスが!」
ギャースギャース! (←周囲の人間がドン引きするほど激しい罵り合い)
ドッタンバッタン!! (←決闘に発展。おっさんたちが乱入してヨシマサをシメる)
ドサッ! ヒュルルルーッ! (←ヨシマサ、あっけなくダウン。敗北の風が吹き抜ける)
ふう……。
OK。俺も大人だ。今日のところはこれくらいで許してやる。
――あ、すんません。ぼくが悪かったです。反省してますから、皆さん揃ってこぶしを固く握りしめないでください。
「ニャハハ! わらわと決闘など、百年早いわ!」
土下座する俺を見て笑い転げる性悪邪神。
何が「百年早いわ!」だ。
お前、何もしてないじゃん。
ああ、ちくしょう。腹立つなぁ~。
――ああ、すいません。何でもないですよ、皆様。
……………………。
……はあ。
まあいいや。やめておこう。ここでこれ以上やっても、俺が痛い目見るだけだし。
ともあれ、ご近所付き合い含めて出発の準備はすべて整った。
俺たちは「頑張れよ~」と手を振ってくれる市場街の住人たちに見送られつつ、万桜号を一路西の森へと走らせた。