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レッツ、モンスターハント!

「ええと、何々……。『西の森に魔王軍の残党と思われるリザードマンたちが住みつき、旅人たちを襲っている』ねえ……」


 掲示に書かれた内容をまとめると、こんな感じだ。

 どうも2か月くらい前から、西の森にリザードマンというタイプのモンスターがアジトを作って住みついたらしい。

 そいつらは旅人や行商人なんかを攫って、他のモンスターや魔物、奴隷商人に売り物として売りさばいているようだ。


「で、迷惑だし国の評判も落ちるから退治したいというわけか」


「みたいじゃな」


 コクコクと頷くセシリア。


 なるほどな。

 確かにここでこいつらを退治できれば、ヴァーナ公国を救えて好感度うなぎ上り。ついでに、10000ゴルドの賞金でさっきの本も買えて俺もハッピーってわけか。


 だが……。


「セシリアよ……」


「なんじゃい」


「無理だ」


 俺、ラノベ主人公じゃないんで。

 正直、モンスターハントなんて無理っすわ。


「情けないのう。それでもお主、時代をときめく新世代の魔王か」


 詐欺まがいの方法で呼び出された一般人に何を求めとるんだ、このポンコツ。

 俺に倒せるのはロリ邪神と……強いて言うなら運動不足の肥えたオッサンくらいだ。

 過保護かつ平和な社会で育てられた現代人を舐めんじゃねえ。


 つか、これ明らかにお前と先代魔王の不手際が原因じゃん。

 自分で種まいといて、刈り取ったから金もらうって、どんな自作自演だよ。


「こんな名前も知らない下っ端連中の行動まで責任なんぞ持てるか。それに、勝手に魔王軍の残党を名乗っているこいつらが悪い。蹴散らされても文句は言えまいて」


 開き直りおった。

 久しぶりに最悪だわ、こいつ。

 さすがは性悪邪神。


「第一、ここの連中はわらわたちの正体なんぞ知らんしな。まったくもって、無問題じゃ。もらえるものはもらっておく。これぞ、邪神&魔王クォリティ」


 うわぁー。

 超悪い顔してるよ、こいつ。

 見た目かわいい童女なだけに、ギャップでより一層悪く見えるわ~。


 つか、なんでこいつ、もうモンスター退治した気になってんだろう。

 バカなの?


「セシリアよ、『捕らぬ狸の皮算用』って言葉を知ってるか?」


「ハッハッハ! お主はわらわを誰だと思っておるのじゃ。まったく知らんわい!」


 だろうな。

 あと、そんな偉そうにふんぞり返らんでよろしい。

 知らないんだったら、もう少し謙虚にしていろ。


「で、具体的にどうやって退治するつもりだ?」


「退治とは、また荒っぽいのう。優雅さに欠けるぞ、ヨシマサよ。これだから野蛮人は~」


 うん。

 お前さっき、「蹴散らされても文句は言えまいて」とか言っていたよね。

 舌の根の乾かぬ内に、いけしゃあしゃあと何言ってんの?

 アホなの? 記憶力ないの?

 てか、野蛮人って何だ。

 360度どこから見ても完全無欠の紳士だろうが。


「じゃから、枕詞の『変態』を付け忘れていると何度言えば……。――って、そんなことはどうでもよい。要するにのう、別に退治なんて必要ないということじゃ。そんなことせんでも、片は付けられる」


「は? どういうことだよ」


 思わず首を傾げる。

 退治しなくても問題ないって、本当にこいつ、どうする気だよ。

 鍛え抜いたあのえげつない嘘泣きで泣き落とす気か?


「誰の涙がえげつないじゃ! 超かわいくて、天使そのものじゃろうが」


 しゃべらなくても勝手にツッコミを入れてくれる。

 なんだろう。

 最近慣れ過ぎて、『手間が省けて楽だ』くらいに思えてきたわ。


 あと誰が天使だ、邪神のくせに。

 ツッコミのために自己のアイデンティティを否定してんじゃねえよ。


「まあよいわ。――ともあれ、まだわからんか? 本当にお主はアホじゃな」


 やれやれまったく……と首を振る我らがセシリアちゃん。

 うん。

 とりあえずムカつくので、ここらで一発張り倒してやろうか。

 ――とも思うが、ここは富裕層の街のど真ん中。なんか警備の衛兵さんたちがまたこっちを窺っているし、ここは抑えておこう。


「すみませんね、何分アホなもんで(怒)。申し訳ないですが、どういうことなのかこのアホめに教えてもらえませんかね(激怒)」


 青筋浮かべながらも、精一杯の営業スマイルでお辞儀しつつお願いしてみる。


 くっ!

 衆人環視の中でなければ、今すぐにでも決闘を始めて、力づくで吐かせるものを……。


「ハハハ! 謙虚は美徳よのう。苦しゅうないぞ、表を上げい!」


 心の中で血の涙を流していたら、なんか色々と満足したらしいセシリアが、「仕方ないのう~」とものすごく偉そうに話し始めた。

 ぐぬぬ……。

 我慢だ。我慢だぞ、俺。


「よーく考えてみい、ヨシマサ。わらわとお主はなんじゃ。邪神と魔王じゃぞ」


「あー、まあそうだな」


 ただし、ポンコツロリ邪神ともやしっ子魔王という迫力に欠けるコンビではあるが。


「で、それが?」


「つまりじゃな、やつらに取ってわらわたちは崇めるべき存在であるわけじゃ。言わば、わらわたちはヒエラルキーのトップに存在する、神に等しい存在じゃな」


「…………」


 ふむふむ。

 なんとなく、こいつの言いたいことが見えてきましたよ。

 ただまあ、気持ちよくしゃべっているようなので、このまま続けさせておこう。


「そんなわらわたちが『この国に手を出すな!』と命令してやるのじゃ。やつら、揉み手でヘコヘコしながら、早々にこの国から去っていくに決まっておる!」


 ちんまい体を精一杯のけぞらせ、自信満々に言い放つセシリアちゃん。

 まあ、やっぱりそういうことか。


 だけどな、セシリア……。


「お前、さっきこのリザードマンたちのこと、顔も知らないって言ってたじゃん。向こうもお前のことなんか知らないだろう」


 お前はヴァン王国での出来事から何も学んどらんのか。

 国境警備隊の詰所で、「いい子だから、魔王や邪神を騙るいたずらは止めなさい」って散々怒られただろうが。


「バカじゃの~。わらわは言わば、モンスター・魔族界のトップアイドルじゃぞ。こちらが知らんでも、向こうはわらわのことを知っておるに決まっておるじゃろうが。ナッハッハッハ!」


 とうとう往来の真ん中で高笑いを始めてしまった、我らがポンコツセシリアちゃん。


 ぶっちゃけ、こいつの計画って穴しかないように見えるんだが……。いやもう、穴ばかりで床さえなくなっているように見えるんだが……。

 それなのにどこから出てくるんだろうね、この無駄な自信。

 少しわけてもらいたいものだ。


「さて! わかったら善は急げじゃ! ヨシマサ、さっさと出発する準備をするぞ。名声と賞金がわらわたちを待っておる」


 名誉欲と物欲にまみれた邪神が、意気揚々と市場街の方へ駆けていく。


 すんません、嫌な予感しかしないんですが……。

 これ、やっぱり俺も付き合わないとダメなんですよね?

 ――あ、ダメですか。そうですか。……ですよね。


 はあ……。

 仕方ない。形だけとはいえ、俺も魔王でこのロリ邪神の保護者だ。

 金が欲しいのも事実だし、10000ゴルドあれば他の本だって買えるしな。

 最悪、例の悪魔さんを始め、魔法だって使えるんだ。絶望する程、手がないわけでもない。


 そんじゃ、いっちょやってみますか。

 モンスターハントで賞金稼ぎ、スタートだ!

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