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ここは本当に本屋ですか(泣)

 本はどこへ行っても高級品。

 以前、ナーシアさんはスコット村に向かう道すがら、そんな風に言っていた。

 それは当然このヴァーナ公国でも同じであり、つまるところ本を売っている場所というのは自然と金持ちが集まる場所に限られてくる。

 というわけで、俺たちは慣れ親しんだ市場街から離れ、貴族たちや富裕層が暮らす国の中心区画へとやって来た。


 ――のだが……。


「なんつうか、俺たち、場違い感が半端ねえな」


「まあ、お主のその格好と顔ではしょうがないな。ぷくく……」


「うん。百歩譲って格好のことはいいとして、顔は関係ないよね。いい加減なことばっか言ってるとメシ抜きにするぞ、クソガキ」


 青筋立てながら、笑顔で拳を震わせつつセシリアをたしなめる。

 こいつは定期的に俺をこき下ろさんと死んでしまう呪いにでもかかってんのか。

 晩飯抜きにするぞ、クソジャリ。


 なお、なんでたしなめるなんて回りくどい方法を使ったかと言えば、警備兵と思しき連中が集団で俺を監視しているからだ。

 なんかこの区画に入ってから、ずっとこんな感じなんだよね。


 フッ……。

 モテる男は辛いぜ!


「まあ、パッと見で判断すれば良くて浮浪者、悪ければわらわを攫った誘拐犯じゃからな、今のお主」


 言ったなーっ!

 俺が頑張ってぼかそうとしていた事実を、包み隠さず言い切りやがったなーっ!


「ともかく、金はちゃんと持っているのだからさっさと行くのじゃ。あまり妙な顔芸ばかりしていると、本当に逮捕されてしまうぞ」


 誰の所為だ、誰の!


 だが……まあいい。

 こいつの言うとおり、こんなところで立ち止まっていては完全に不審者だ。

 さっさと本屋へ行くとしよう。


 気持ちを切り替え、できるだけ堂々と道を歩く。

 こういう時は、自分がここにいるのは当然と振る舞うのが大切だ。


「ふむ。浮浪者からガラの悪いチンピラにランクアップしたのう」


 やかましい!

 というか、そのランクアップって職質される確率のアップだろう。

 逆に危険度増してませんかね!


「なるほど、そうとも言えるな。まあ、気にするな」


「気にするわ!」


 俺、これでもそういう人からの見られ方とか気になるお年頃なのよ!

 ホントやめてくれませんかね、そういう傷つく冗談言うの!


「まあまあ、落ち着け。ほれ、見えてきたぞ」


「あん?」


 セシリアが指差す方に目を向ければ、確かに目的の店が見えてきた。

 富裕層の街にあって、ともすれば見落としてしまいそうになるひっそりとした佇まい。まるで人の目を避けるような街の陰に隠れた隠れ家のような店。

 ただし、この店こそヴァーナ公国で唯一の本屋『ブラム堂』だ。


「店自体は、なんか得も言わん雰囲気があるな。なんつうか、こう……お宝が眠ってそうな?」


「単にぼろいとも言えそうじゃがな」


 セシリアと狩る口を叩きあいながら、店の前に立つ。

 店の中からは、物音一つ聞こえないな。

 市場街の連中から聞いた話では、店の名前にもあるブラムというじいさんが一人で切り盛りしているらしい。

 高価なものを扱う店という割には随分と不用心な感じだが、大丈夫なんかねぇ……。


 ――と思いつつ店のドアを開けたら……。


「いらっしゃい……」


 店の奥から筋骨隆々で禿頭、三白眼の大男にドスの利いた声で迎えられた。

 

 ――バタン!


 ふう……。

 いかんいかん。

 焦って本屋とヤ○ザ屋さんの事務所を間違えてしまったようだ。この世界にヤ○ザ屋さんがいるのかは知らんけど。


「おーい、ヨシマサ。大丈夫か?」


 とりあえず左右を確認。

 ついで、店の看板をもう一回見上げてみる。 

 

「……諦めよ、ヨシマサ。ここがお主の探しておった店じゃ」


 うなだれた俺の肩をたたき、静かに現実を突き付けてくるセシリア。

 つうか、なんだよあれ。

 用心棒? グラディエーター?

 この店、じいさんが一人で切り盛りしてんじゃなかったの?


 あと俺、思いっきり睨まれたんだけど。

 このまま入っていったら、あの太い腕で物理的に絞られそうなんだけど……。


 と、そんなことを考えていた時だ。


「おい、店の前でうずくまってんじゃねえ。入るなら、さっさと入りやがれ……」


 店の中からご本人様降臨。

 俺とセシリアはそれぞれ丸太のように太い腕で軽々持ち上げられ、店の中へ連行された。

 ヤバい……。俺、死んだ……。


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