商工ギルドではマナーに気を付けましょう。
そこらで漏れ聞いた話によると、この国の市場は商工ギルドとかいうのが管理をしているらしい。
よって、店やら何やらをやるには、このギルドの許可証が必要になるそうだ。
仕事ができなければ、俺たちは食いっぱぐれ確定。
おいしそうなにおいに囲まれながら、腹の音のBGMを聞いて眠らなければならない。
まあ、実際はヴァン王国で結構荒稼ぎしているのですぐ金欠ってことはないけどな。
本を買い集めるという目的もできた以上、お金はいくらあっても足りないのだ。
というわけで、俺とセシリアは早速件の商工ギルドへ直行した。
「では、こちらの用紙に必要事項を記入してください」
「わかりました。代わりといってはなんですが、こちらにあなたの連絡先を記入してください(キリッ!)」
「……本当に懲りないヤツじゃのう」
セシリアの『やれやれ、こいつは……』的な視線を受け流し、ギルドの綺麗な受付嬢に挨拶代わりのナンパをしつつ、必要事項を記入。
ええと、職業は『大道芸人』っと……。
『何でも屋』は……まあいっか。経験上、ろくな依頼が来ないし。
ここらで、本業を『大道芸人』にしぼっておくのも悪くはない。(←本業・図書館員であることを忘れた男の図)
最後にもう一度書類を見直し、受付のお姉さんに手渡す。(←どさくさにまぎれて受付嬢の手を触る)
うむ。
スベスベの実に良い手だ。(←反省の色なし)
さて、書類を提出して、しばらく待っていると……。
「お待たせいたしました。こちらが営業許可証になります」
「ありがとうございます、美しいお嬢さん。それで感謝の印に、この後ディナーなど如何でしょうか?」
「大変うれしいお誘いですが、生憎間に合っております(ニコリ)」
――ガシャン。
目の前で勢いよく閉まる受付。
間髪入れずに奥から出てきた、なんか筋骨隆々でスキンヘッドのお兄さん方。
瞬間、セシリアの首根っこを引っ掴んで逃げる俺。
「失礼しました~!」
「待てや、ゴルァ!」
「うちのアイドルに手ぇ出そうとしやがって! その舌、引っこ抜かせんか!」
物騒な声を聞きつつ、後ろを振り返ることなく全力疾走。
捕まる前に万桜号に乗り込んだ。
フウ……。危ないところだったぜ。
だが、万桜号に乗ってしまえばこちらのもの。
だってこの車、セシリアの邪神パワーで、俺かセシリアが許可しない限り、他人は乗ってこられない仕様になっているんだもん♪
ハハハ!
お兄さん方、乗り込めないもんだから、万桜号の前で悔しそうに舌打ちしているな。
やーい! バーカ、バーカ!
ここまでおいで~!
ハーッハッハッハ!
「……さて、ちょっとあやつらに乗車許可を出してくるかのう」
「調子乗ってすんませんでした。マジで殺されちまうんで、許してください!」
恐ろしいことをしようとするお嬢様を、寸でのところで引き止める。
あんた、何考えてんの!?
俺の命を華と散らせるつもりですか!
マジ勘弁してください!
「まあ、仕方ないの。じゃあ、許可証を取り消されても困るからな。とりあえずあやつらに謝ってこい」
「いや、それは『死にに行け』と言うのと同義では……」
酷なことを言うクソガキだ。
俺に何か恨みでもあるのか。
「そうか……。では、致し方ないの。車の中でゆっくりと話し合ってもらうと……」
何やら肩を下げたまま恐ろしいプランを実行しようとするセシリア。
――って、ちょっと待ってくださいよお嬢様!
「後生ですからマジやめて! 逃げ場のないところにあのお兄さん方を誘い込まないで!」
みっともなくセシリアのスカートに縋りつき、最悪の事態だけは回避する。
ただまあ、結局セシリアに「男らしくさっさと逝って来い」と車から蹴り出されてしまった。
気のせいかな。『いってこい』の字が、普段使ってはいけない字に変換されていた気がするのだが……。
ともあれ、青筋立てたお兄様方の前に、体一つで放り出されてしまった俺。
ただ、機先を制して速攻で土下座を決めたら、「……タコ殴りだけで許してやる」という寛大なお言葉をいただくことができました。
……いや、でもこれ、許してもらえた時の処置じゃない気がするんだが。(バシッ、ゲシッ、ドゥクシッ!)
~~30分後~~
「お勤めご苦労。なかなかに見ごたえのある残虐ショーじゃったぞ」
「ご期待に沿えて……何よりです……」
――バタリ。
この後、俺は半日くらい眠り続けるはめになった。
ともあれ、こうして営業許可証は、俺という尊い犠牲のもとに無事発行されたのだった。(←自業自得)




