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最強の……嫁(?)候補

 わっふーい!

 ついに来ましたよ、俺の春が。

 しかも、超お金持ちの娘で深窓の令嬢。

 きっと清楚系な美人に違いない。何たって、俺に一目で惚れ込むくらい御目の高い人物なんだから! (←どこから来るのかわからない自信)

 なんか若干愛が重たい気もするが、そんなことは知ったことではない。俺はいずれハーレム主になる男。むしろドーンと来いだ!


 と、俺が心の中で自分の胸を叩いた、その時だった。


 ――カラーン……。


 隣で何かが床に落ちる音が響く。

 何事かと思ってそちらを見てみたら、セシリアがスプーンを取り落としたまま、世界の終わりでも見たかのようにカタカタと震えていた。


「そ、そんな……。ヨシマサが、結婚なんて……」


 震える声で悲しげにつぶやくセシリア。

 

 ……そうか。

 そういやこいつ、俺に惚れていたんだっけか。(←This is 勘違い!)

 すまんな、セシリア。

 俺、お前の分まで幸せになるからな。

 

「こやつがいいなどと言う節穴の目を持った女子が、よもやこの世界にいようとは……。あまりにも驚愕の事実に、震えが止まらん……」


 うん。

 何言ってくれちゃってんの、このクソガキ。

 お前、俺を一体何だと思ってたんだ。

 いてこますぞ、ゴルァ♪


 ――と、こいつのことはあとだ。


 ええと、とりあえずさわやか系のイケメンフェイスを作って……。


「ほう、娘さんが私に……。それは身に余る光栄です。――お義父さん!」


「おお! それでは、受けてくれるのか」


「もちろんです! 必ずマリアンナさんを幸せにしてみせます。――お義父さん!」


 カイゼル氏とガッシリハグを交わす俺。

 感極まったカイゼル氏の万力で背骨がいやな悲鳴を上げているが、まあ幸せ税みたいなものだろう。

 うんうん。ここは、甘んじて受けるとしよう。


 ――ギリギリギリギリ……。(←万力で抱きしめられる音)


 ――ビシッ、バキッ、ゴキッ!! (←限界を超え始めた背骨の音)


 ……………………。


 痛い痛い痛い!

 いい加減離してください、お義父さん。

 てか、あんた、明らかに娘取られた恨み込めてるだろ、これ!

 蝶よ花よ云々言ってた割に決断早えなとか思っていたけど、実は全然渡す気ないだろ、あんた!


「おっといかん。恨み……喜びのあまりつい本気が出てしまった。ハハハ!」


「ハ……ハハハ。気……にしないで……ください」


 背中をさすりつつ、なんとか笑顔を保つ。

 やっぱり逆恨みだったか。

 だが、ここで悪態をついて破談になっては元も子もない。

 我慢だ、俺。


「では、早速娘にあってもらおう。――マリアンナ、入ってきなさい」


「……はい」


 扉の向こうから控え目な、しかし鈴を転がしたように綺麗なソプラノボイスが聞こえてくる。

 やっべ! 声優さんみたいにめちゃくちゃいい声だ。

 これは否が応でも期待が膨らむ。


「うおっ! もうですか! 心の準備が……」


 と言いつつ、期待に胸踊らせて扉の方を凝視。

 さてさて、俺の花嫁さんはどんな美人かな~と。


 なんて考える俺の前で扉は開かれ、俺の嫁第一号がその姿を現した。


「…………」


 ……ふう。

 落ち着け……。落ち着くんだ、俺……。

 旅の所為でちょっと疲れがたまっているのかもしれないしな。

 もう一度ちゃんと見てみよう。


 背中に流れる豊かできめ細かい巻き毛。

 エメラルドをはめこんだかのように輝く緑の瞳。

 決して華美になり過ぎない上品な淡いピンクのドレス。 


 OK。ここまでは問題ない。

 次行ってみよう。


 男の俺でも見上げてしまうくらい高い身長(推定190cm)。

 キリッと吊り上がった極太の眉毛。

 親譲りの先の割れたあご。

 化粧でも隠し切れない青ひげ。

 巨乳好きの俺も思わずドン引く厚く逞しい胸板。

 ドレスの袖がパッツンパッツンになるほど膨れ上がった筋肉を纏う二の腕。


「…………」


 おかしい。

 俺の知っている深窓の令嬢と何かが決定的に違う……。

 主に、性別的な何かが……。


「――って、明らかに男じゃん!」


「安心したまえ、ヨシマサ君。見た目は男だが、中身は立派な女性だ」


「それは世間的に、『女』ではなく『オカマ』と言うんじゃ!」


 的外れな返答をするカイゼル氏に食って掛かる。


 何これ!

 深窓の令嬢は?

 超美人な娘さんは?


「見たまえ、この美しい大胸筋、そして上腕二頭筋。これこそ、美の究極系だとは思わんかね」


 知らんがな。


「……すみません。まったく思わねえッス。あと僕、ノーマルなノンケですので、肉体的性別が男の人はちょっと……」


 つか、このおっさん、息子を嫁に出すのを嫌がっていたのかよ。

 いやそれ以前に、この男というより漢な息子を嫁に出そうとしていたのかよ。

 正直、ドン引きですわ!


 と、俺が心の中で悪態全開となっていると……。


「幸せな家庭を築きましょうね、ヨシマサさん」


「ギャアアアアアアアアアアッ!」


 マリアンナ氏に隠密並の気配のなさで近寄られ、プロレスラー並の腕力で腕を取られました。


 いや~っ!

 や、やめて~っ!

 頬をすり寄せないで~!

 青ひげがジョリジョリする~!


「ハッハッハ! この子の希望に合わせ、今日まで女と思って蝶よ花よと育ててきたが、跡取り問題だけが心配でね。いやはや、立派な婿殿が見つかってよかった」


「ニャハハハハハハハ! 良かったのう、ヨシマサ。素敵な花嫁が見つかって」


 感慨深げに何度も頷くカイゼル氏の横で、セシリアがお腹を抱えて笑い転げる。

 このヤロ~、人の気も知らないで~!


「てめえ、クソガキ。他人事だと思ってふざけたこと言ってるとシバくぞ、ゴルァ! ――あ、うそです。すみません。どっか行かないください、セシリア様。この状況で俺を見捨てないで~!」


 吹けない口笛を吹きながら部屋に戻ろうとするセシリアを、必死に呼び止める。


 すんません!

 俺、調子に乗ってました!

 反省するんで、マジで見捨てないでください!

 こんな人外魔境に一人で取り残さないで~!


「さて、挙式はいつにしようか?」


「ハネムーンはどこがいいかしら、マイダーリン♡」


「すんません! ちょっと俺の話を聞いてくださ~い!」


 タッグで迫ってくる肉の壁親子から、死にもの狂いで逃げ惑う。


 この晩、屋敷どころか街中に新米魔王の悲鳴が木霊しましたとさ……。


 ハハハ……。

 マジで笑えねえよ……。


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