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邪神式魔法チュートリアル

「ハァ……、ハァ……。ひ……ひどい目に遭った……」


「なんじゃい、新たな魔王ともあろう者が情けない。あんなザコモンスター、恐れるほどのものじゃなかろうが」


「いや、俺、魔王じゃなくて普通の人間だから。マンガやラノベの主人公とかじゃないから。あんなん普通に倒せないッス」


 ハンドルにもたれて、とりあえず荒れた息を整える。

 やべー。俺、本当に異世界に来ちゃったみたい。

 つうか、よく見たら空も緑色してるし。

 なんか、太陽っぽいのが二つ浮かんでるし。

 ガチで地球じゃねえや、ここ。


「とりあえず、ここが異世界であることはわかった。――で、次だ。何でお前は俺をこんな世界に召喚した。何が目的だ?」


「じゃから、さっきから何度も新たな魔王として呼んだと言っておろうが」


 何をいまさら、とあきれた様子のセシリアちゃん。


 ハハハ。

 このガキ、小バカにした笑みまで浮かべていやがる。ふてぶてしいことこの上ない。

 美少女でなければ殴り倒してやりたいところだ。


「実は二年ほど前、勇者パーティーにわらわの魔王が倒されてしまってのう。まあ、その後色々あったわけじゃが、最近ちょっと一人になってしまったので、今流行りの召喚というものを試してみたのじゃよ」


「何だよ、流行りって……」


「いや、このサイトにたくさん出ておったので、流行っているのかな~と……」


「……お前、今どこからそのノートパソコンを取り出した?」


 俺の言葉を体よく無視したセシリアは、ファンタジーな世界には似合わないノートパソコンの画面を見せてきた。

 で、そこに映っていたのは――俺もよく知る某小説投稿サイトだった。


「ここな、ここ。この累計ランキングとか見ているとな、召喚やら転生やらがたくさん――」


「邪神がWeb小説読んでんじゃねーっ!」


 思わずパソコンを車の窓から投げ捨てる。

 ちくしょう!

 異世界小説のバカヤロー!!


「ともかく、俺は魔王になる気はない! すぐに元の世界に帰らせろ!」


「ん? 無理じゃよ。適当に召喚したから、お主の世界がある座標がわからん」


「なんですとー!?」


 このロリ邪神、最悪すぎる。

 つうか、インターネットとかはつなげられるのに、何で俺の世界を特定できん!

 

「まあまあ、安心せい。これらの小説で、わらわもちゃんと勉強済みじゃ。ほれ、お主にもチート? なんかそんなもんくれてやるから」


「そんなもん(チート)くれる力があるなら、全力で俺の世界をダウジングでもしてくれ」


「超絶キュートな邪神であるところのわらわにも、できることとできんことがあるのじゃ。お主も男だったら、広い心でスッパリ諦めよ」


 このクソガキ……。

 勝手に呼び出しといて、いけしゃあしゃあと……。


 だが、こうなっては仕方ない。

 帰れない以上、こいつがくれるというチートはオレにとって命綱。

 ここは怒りを抑えるようにしよう。


「で、チートって具体的に何をくれるんだ」


「ああ、それはもう与えてある。後ろに積んである本を見てみるがよい」


 言われるがままに万桜号の後部――図書館部分へ移動する。

 そこに置かれた本を見て、俺は目を見開いた。


「何だ、これ。知らない本が混ざってる!」


 そう。なんと乗せてきたはずの本が、一部知らない本に置き換わっていたのだ。


「ハッハッハ! どうじゃ、驚いたか!」


 俺の後ろで、腰に手を当てて高笑いするロリ神様。

 いや、あんた、何してくれちゃってんの?

 この車の本、全部万桜市立図書館の備品なんだけど。

 なくすと俺が怒られるんだけど!

 ……あ、いや、帰れないんだっけ。そっか……。(←しょんぼり……)


「すごいじゃろう? ここにあるのは全部、お主の世界にあった魔導書やら何やらを再構成したものじゃ。こちらの世界なら、実際に魔法として使うことができるぞ!」


「ほー」


 気のない返事をしてみたが、ロリ神様は自分の業績自慢に夢中だ。

 俺の様子に気づくこともなく説明を続けた。


「数としては大体百冊くらいあるかのう。お主がこの世界にやって来る時、ついでに内容をコピーしておいたのじゃよ。――まあ、お主にも理解できるよう、多少脚色はしてあるがな」


「いや、俺、魔法使いでも何でもないんだけど。本だけあっても何もできないんだけど」


「安心せい! ――まあ、言うよりも実際にやって見るのが一番じゃろう。おい、ヨシマサ。一冊持って、外に行くぞ」


「あ、ああ……」


 とりあえず、手直にあった本を手に取ってみる。

 タイトルは、ええと、何々……。

 『サルでもわかる! レメゲトン』?


 ……………………。


 ひどいな、タイトル。


「おおい! さっさと来んか」


「ああ、わかったよ」


 もうこの際、何でもいいや。

 俺は『サルでもわかる! レメゲトン』を手に、外へ出た。


「んじゃ、適当なページを開いて使ってみ」


 適当って言われても困るんだけどな。

 まあいいや。

 適当でいいなら一番最初のページを開いてっと……。


「ええと、『レメゲトンの世界へようこそ。それでは、難しい説明は面倒くさいのではしょって、早速実技に移りましょう』……」


 脚色者の性格がよく現れた本ですこと。

 いいのか、これで。

 

「ステップ1、まずは心を落ち着けるために深呼吸をします」


 ヒッ、ヒッ、フー、ヒッ、ヒッ、フー……。(←ラマーズ式呼吸法。決して深呼吸ではない)


「ステップ2、下記の呪文を心を込めて、臨場感たっぷりに唱えてください。『悠久の時を生ける悪魔よ、我が命に答え、その姿を顕現せよ……』」


 く……。

 なんだ、このこっぱずかしい呪文。

 これじゃあ、まるで中二病じゃ……、


「『はい。よくできました。中学二年生時分の恥ずかしい自分を取り戻せましたか? では、遊びはこのくらいにして本番に行きましょう』」


 とりあえず投げ捨てた。

 何だ、この本。なめてんのか。

 燃すぞ、ゴルァ。


「何をするのじゃ。ちゃんと書いてある通りにしないとダメじゃろうが。――ぷくく……」


「てめえ、今笑ったよな? これ、明らかにお前の仕業だよな?」


「まあまあ、落ち着け。ほれ、続き続き」


 不承不承で本を受け取る。

 次やったら承知しないからな。


「ええと……『本番ステップ1、半径十メートル以内に溢れんばかりの美貌を持った超絶キュートでビューティフルな美少女邪神がいることを確認してください』」


 周りを見回す。

 半径十メートル以内にあったのは……。

 ①万桜号

 ②草原

 ③なんか腰に手を当てて、ものすごく偉そうにふんぞり返っているジャリ

 ――以上。


 ふむ、これは……。


「どうやらこれ以上先に進めることはできないみたいだな。残念、残念」


「がうっ!」


 ジャリがものすごい形相で噛みついてきた。

 チッ!

 仕方ない。


「え~、邪神OK。次は……『本番ステップ2、【悪魔さん、おいでませ~】と唱えましょう』」


 と、俺が言った瞬間だった。

 俺の前方三メートルほどのところに、どす黒くて如何にも危険そうな魔方陣が出現。

 そこから悪魔としか形容できないマッチョなサムシングが現れ……、


 ――チュドォオオオオオオオオオオンッ!


 地平線の先に広がる山を一つ、悪魔式のレーザービームみたいなものできれいに吹き飛ばしてくれた。

 ちなみにそれを成した悪魔さんは、満足気にコクコク頷きながら即退場。

 魔方陣も何事もなかったように消え去った。


「…………。……なあ、セシリアさんや」


「……なんじゃ?」


 二人並んで、クレーターとなった元山だったものを真顔で眺める。


「これは、さすがにやり過ぎじゃないかと思うのですが……」

 

「奇遇じゃな。わらわも、『チュートリアルにしては、ちょっとばかしやり過ぎたかな~』と思っておったところじゃ……」

 

 俺とロリ邪神様は、しばらくの間、部分的にすっきりした地平線を見つめて立ち尽くすのだった。


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