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お仕事時々読み聞かせ

 俺とセシリアとナーシアさんがこの村にやって来て、三日が経った。

 慣れてこれば農作業というのもなかなか楽しいもので、今や俺も立派な農夫と相成っていた。

 ……まあ、収穫時期だけの似非農夫だが。


 そうそう。

 収穫については、二日目から村の男衆にも手伝ってもらうことになった。

 全員、俺たちの魔法でチェーンソーを装備し、意気揚々と農作業に励んでいるのだ。

 

 そう。今も畑のあちこちでは……。


「唸れ、俺のストームブリンガー!」(ズガガガガガッ!)


「ハッハッハ! 今宵のソウルパニッシャーはギムギに飢えておるわ!」(スパパパパパッ!)


「おいジョニー、手を貸してくれ。こいつはなかなか大物だ!」


「任せろマイク。二人の思いを一つにして打ち破るぞ!」


「「喰らえ、イレイザー・ゼロォオオオオオオオオオ!!」」


 とまあ、皆さん農作業にハッスルしていらっしゃる。

 ドン引きするくらい楽しそうだ。


 これまで太刀打ちできなかったギムギを驚くほど簡単に切り倒すことができる。

 どうやらこの快感に、村の男どもは完全に目覚めてしまったようだ。


 おかげで揃いも揃って若干変な方向幼児退行し、なんだか香ばしい系のキャラに変貌している。(ただし、農作業が終わるといつもの優しく、気のいい農夫さんたちに戻ります)


 なお、彼らが戦力に加わったのをいいことに、セシリアはさっさと戦線から離脱しやがった。

 どうやら初日にさんざっぱらギムギを刈りまくって、ストレス解消&速攻で飽きたらしい。


 本来ならあいつも雇われの身なので、そんな勝手は許されないはずなのだが……。

 あのロリ邪神、どうやらヴァン王国での経験を通して自分のキャラ特性というものを学んだらしい。

 二日目の朝、急に村長の傍に駆け寄り……、


「じいじ~。わらわ、みんなといっしょに遊びたいな~」(←天使のような笑顔)


 なんて、超甘えた声でおじいちゃんっ子な孫を演じ切りやがった。


 元々、見てくれはものすごくいいからな。

 こういう演技をさせたら、そりゃもう、かわいいのなんの。

 あいつの本性を知らなければ、一発で騙されてしまうこと請け合いだ。

 当然、村長もあっさりハートキャッチされて、


「おうおう、そうか。それじゃあ畑のことはヨシマサ殿に任せて、みんなとたくさん遊んできなさい。ああ、お小遣いもあげようかのう」


 と、10ゴルドも渡し出す始末だ。

 おかげで今もあいつは、村の子供たちと楽しそうに野球みたいなことをして遊んでいる。


 ちくしょう。

 ヴァン王国ではあんなに演技するのを嫌がっていたくせに、都合のいい時だけ最大限利用しやがって……。

 つうか、あいつも一応神様なんだから見た目通りの年齢じゃないだろう。

 見た目は年端もいかない子供だが、中身はいい年こいたバb――ゲブラッ!


「おいこら! 何すんだ、てめえ!」


 頭にぶち当たったこん棒(セシリアがバッドのように使っていたものだ)を握りしめ、諸悪の根源に怒りを向ける。

 すると、槍投げの投げ切ったフォームのままこちらを見たセシリアはつまらなさそうに一言。


「いやなに、そっちの方から悪しき邪念を感じてのう。ちょっと成敗しておこうかと……」


「てめえ、邪神だろうが! 自分の存在意義を否定するようなことやってんじゃねえ!」


 なんだよ、邪念を成敗する邪神って。

 つうか、自分の年齢に関する思念をピンポイントでキャッチするって、どんだけ年のこと気にして――ふごっ!


「いい加減にしろよ、てめえ!」


 あのロリ邪神め、今度はホームベースっぽいものを円盤投げみたいに飛ばしてきやがった。

 

「いい加減にするのはお主の方じゃ。ほれ、さっさと仕事に励まんか」


「その台詞、少なくともお前にだけは言われたくねえよ」


「何を言うか。わらわだってしっかり働いておるのだぞ。親が畑仕事をしている間、子供たちの面倒をじゃな……」


 とつとつと自分の行っていることの意義を語るロリ邪神。

 くっそ~、ああ言えばこう言うやつだな。普段ポンコツなくせに、こういう時だけ頭が回りやがる。


 ――なんて、コント紛いのやり取りをしていたら……、


「おーい、ヨシマサさんや。そろそろ休憩に入りなさいな」


 遠くから、そんな村長の声が聞こえてきた。

 

 俺が魔法で収穫用の人員を増やしたことで、今はローテーション制で収穫を回すことができている。

 朝一から働いていた俺は、ちょうど休憩の時間というわけだ。


 ……ちなみに、俺といっしょに仕事を始めたナーシアさんは、今も元気に鎌を振り回している。

 あの人、ノンストップで一日中ギムギ刈りを続けるんだよな~。ホント、どんだけ底なしの体力をしているんだか。

 魔法をかけますかって聞いたら、この鎌の重さが好きなんで大丈夫ですって笑顔で断られたし。

 あの鎌、試しに持たせてもらおうとしたんだけど無茶苦茶重くてな。俺じゃあ持ち上げられなかった。

 あんなの平然と一日中振り回していられるとか、ナーシアさんって本当に人間だろうか。


 ともあれ、休憩時間は有限だ。

 俺もさっさと木陰に引き上げていく。

 すると……。


「ヨシマサ、きゅうけいか~?」


「じゃあ、またご本読んでよ。昨日のやくそく~」


「あたしも聞きたい、聞きたい!」


「ぼくも~」


 セシリアといっしょに遊んでいた子供たちが、俺の周りに集まり出した。


「安心しろ。ちゃんと覚えてる。本だってこの通り、用意してきた」


 絵本を詰め込んできたバッグを掲げて、子供たちに見せる。

 そしたら子供たちは、キャッキャと喜びながら、俺の周りに腰を下ろした。


 何で俺がこんなものを用意してきたかと言えば、理由は単純。

 昨日、何となく思うところあって、子供たちを集めて読み聞かせをしてみたら、これが意外にも評判が良かったのだ。

 この世界の物語は知らないんで、万桜号に乗せていた桃太郎の絵本を読み聞かせしたんだが、どうも子供たちのツボにはまったらしい。

 さすがは遠い昔から読み継がれている物語。異世界でも無敵だ。


 で、昨日の読み聞かせが終わった後、子供たちからリクエストがあって、今日も読み聞かせを行うことになったというわけだ。


 なお、子供たちの輪の中には、ちゃっかりセシリアも混じっている。なんか一番目を輝かせているようにも見えるんだが、こいつ、実はこの中で一番子供なんじゃないだろうか。


「ねえねえ、ヨシマサ。今日はなんてお話をしてれくれるの?」


「おひめさまのお話、もってきてくれた~?」


「かっこいい話も~」


 ワイワイガヤガヤ。

 子供たちがはずんだ声であれこれ聞いてくる。

 こういうところは、どの世界でも変わんねえんだよな。

 なんつうか――いいな、こういうの。

 自分の世界との共通点を見つけたって感じで、少しうれしくなる。


「任せておけ。ちゃんとリクエストに適うもんを持ってきたからな」


 そう言って、俺は二冊の絵本を取り出す。

 今日持ってきたのはシンデレラと金太郎だ。


「さてはて、休憩時間も限りがあるからな。早速始めるとすっか。――むか~し、むかし……」


 目を爛々と輝かせる子供たちを前に、俺は朗々と読み聞かせを始めた。

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