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お仕事開始!

 手早く着替えを済まさせられた俺とセシリアは、再び村長について村の中を歩いていた。

 ただまあ、それほど広くない村だ。すぐに目的地に着いた。


「収穫のお手伝いをしていただきたいのは、これですじゃ」


 連れていかれた村の畑で、村長が作物を指し示す。

 それを見た俺の口から出てきたのは……、


「でっけ~……」


 の一言だった。

 家々が並ぶ住居区画の奥、なだらかな丘の斜面をそのまま利用した畑には、黄金色の風景が広がっていた。

 そう。畑に生えていたのは黄金色をした小麦のような植物。

 ただ、大きさが問題だった。

 何とこの植物、目算で二メートル以上ある。ちなみに、その頂部分にはたわわな麦の実がたくさんできていた。

 まあ、簡単に言えば、俺が知っている小麦をそのまま巨大化させたような感じだ。

 おかげで畑というか森だな、これは。小麦の森。


「村長、これってなんて植物なんですか?」


「おや、これを知らないのですかな。これはギムギという植物ですじゃ」


 ほうほう。

 このお化け小麦は、ギムギというのか。

 ギムギのギ~は、ギガントのギ~♪


「では、こちらをどうぞ」


「あ、どうも」


 村長さんが差し出した片手サイズの鎌を受け取る。

 これで刈れということか。


「そ~れ。よいやさ~♪」


 ――シュパパパパッ!


 ……………………。


 うん。

 ナーシアさんが両手持ちのバカでかい死神の鎌みたいなのぶん回しているように見えるけど、きっと目の錯覚だな。


 ……さて、近づいたらギムギごと首を刈られかねんので、あっちに行こう。


「んじゃまあ……よいやさ~」


 ――ガキン!


 ……………………。


 今、植物にあるまじき音がした気がするのですが。

 金属同士をぶつけ合ったと言いますか、何と言いますか……。

 あと、気のせいか、手がジーンと痺れているのですが……。


「ああ、言い忘れていましたが、収穫前のギムギの茎は鉄のように固いので、注意してくださいなのじゃ」


「先に言えや、クソジジイ!」


「いや~、ギムギは味が良く、栽培も簡単で、二期作にも対応。その上、一回ごとの収穫量も多いのですがな~。この茎の固さだけは如何ともしがたいのですじゃ。おかげで村の男たちでも手に余る始末。毎年、これを刈れる安くて屈強な人材を見つけるのに苦労しておるのですじゃ」


「『人身御供』ってそういう意味か! 刈れるか、こんなもん!」


「いやいや、刈れますじょ。ほれ」


 村長が畑の一角を指さす。


「そ~れ!」


 ――ブォーンッ!!

 ――ザクザクザク!


 超キラキラとした笑顔で鎌を振るうナーシアさん。

 鎌は見事な円弧を描き、何の抵抗もないかのようにギムギを刈り取っていた。


「ね!」


「『ね!』じゃねえよ!」


 あんな巨大熊を一撃でのせるパワフルキュートガールといっしょにしないでいただきたい。

 こちとら、先日まで現代日本でのんべんだらんと暮らしていた筋金入りのもやしっ子だっつうの。


「……おい、ヨシマサ」


「あん? なんだよ、セシリア」


 村長相手にヒートアップする俺の服を、セシリアが引っ張る。

 何事かと思って振り返ってみたら、セシリアが「ほれ」と一冊の本を差し出してきた。


「作物の収穫と聞いて、一応用意はしてきた。時期的に、まあこの穀物じゃろうなとも予想はついておったしのう。――この魔導書を使えば、なんとかなるはずじゃ」


「マジか! ナイスだ、セシリア。愛してるぜ!」


 俺の愛の告白にボンッと顔を赤くしたセシリア。

 相変わらずこの手の話には弱い奴だ。


 何はともあれ、これで百人力。

 俺は早速セシリアが持つ本を受け取った。


「ええと、タイトルは『これで完璧! 今日から君もエレメンタルマスター』……」


 相変わらずひっで~タイトルだった。


 まあいい。重要なのは中身だ。

 どうもこの本、四大元素を使用した魔法を記してあるらしいな。

 と言っても、火は当然NG。土や水系も土壌に影響与えちまう可能性があるから今回はパスだろう。

 となると……。


「使えそうなのは風魔法か。どれ……」


 風魔法が乗っているページをパラパラとめくっていく。

 そしたら発見。

 使えそうなやつが載っていた。


「んじゃ、いくか。【エアチェーンソー】!」


 唱えると同時、俺の手の周りに風のチェーンソーが出来上がる。

 試しにギムギにゆっくり近づけてみると……。


 ――チュイイイイイイイイン!


 明らかに植物がたてているとは思えない金属音だが、面白いようによく切れる。

 それに、力も大して使わない。

 これなら、いけそうだ。


「おい、ヨシマサ。わらわにもその魔法を使ってくれ」


「おう、任せておけ」


 赤面地獄から回復したセシリアにも、同じ魔法をかけてやる。

 エアチェーンソーを手にしたセシリアは意気揚々とギムギの森に分け入った。


「ハーッハッハッハ! 見よ! これぞわらわの力。わらわの前に敵はない!」


 なんかすごく楽しそうにギムギを断ち切っていく、うちのお姫様。


 うーむ……。

 ここまでの道中に聞かさせられたナーシアさんの勇者トークが、余程ストレスだったのかもしれないな。

 気絶した段階で記憶は飛んだようだが、溜まったストレスだけは発散されないまま残っていたのだろう。


 まあ、そのストレスが丸々勤労意欲に変換されているようだし、こちらとしてはラッキーといったところだ。

 ここは気持ちよく、ストレス解消の滅多切りを続けてもらうとしよう。

 

「ほっほっほ。やはり儂と弟の目に狂いはなかった。あなた方こそ、村の救世主。――さあ、思う存分ギムギを刈りつくすのじゃ!」


「てめえはちょっと黙ってろ!」


 何が「刈りつくすのじゃ!」だ。

 割に合わない仕事を寄こしやがって。

 追加料金請求するぞ、こらぁ!


「ピー、ピー、ピー♪」(←村長の口笛)


 俺の非難に満ちた視線を、どこ吹く風で受け流す村長。

 これも年の功か、まったく動じやしねえ。

 このふてぶてしさ、もはや清々しくさえ思えてくるな。


 まあ、このジジイのことは置いておこう。

 下手に構うと、こっちの血圧がうなぎ上りするだけだしな。


 ともあれ、得物は手に入ったんだ。

 俺もストレス解消を兼ねて、せいぜい張り切って収穫するとしよう。


「ほっほっほ。レッツ・ハーベスティング!」


「…………」

 

 ジジイがウゼえし、やっぱ帰ろうかな……。



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