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ご依頼はなんでしょうか。

「ほうほう。作物の収穫を手伝ってくれ……ですか」


 目の前の山のように盛られたスパゲッティっぽい食べ物をフォークで巻き巻きしながら、じいさんの依頼を復唱する。

 するとじいさんは、俺以上に麺を巻き巻きしながら頷いた。


「その通りですじゃ。もぐもぐ。実は儂、ここから三日日ほど北へ行ったスコット村という村の村長の弟でしてな。もぐもぐ。今は穀物の収穫時期なのですが、人手が足りなくて困っていると泣きつかれておりますのじゃ。もぐもぐ」


 立派な白い髭にソースをべったりつけながら、じいさんが言う。

 どうでもいいがじいさんよ、あんた、おごりだと思ってまったく遠慮しねえな。

 隣で孫――例の美少女町娘ちゃんのことだ――がハラハラしてるぞ。


「もぐもぐ……。ですが、儂もこの体たらく。腕は枯れ枝のようで腰痛もひどい。おかげで食も細くなって、とてもじゃないが手伝いに行けそうにないのですじゃ」


 いや、そんだけの食欲があれば十分じゃないでしょうか。

 つうか、パスタを思いっきりびよーんと伸ばして、腰思いっきりピーンとなっていますが。

 パスタを一キログラム近く高速巻き巻きしてもビクともしない頑丈な腕をお持ちのように見えますが。


 じいさん、十分戦力になると思いますよ。

 今すぐお兄さんのところへ駆けつけてあげたらどうですか?


「で、とりあえずこのナーシアを手伝いとして向かわせることにしたわけですが……。もぐもぐ。それでも人手は足りない上、年頃の娘一人での旅は危険がともないますでな。護衛も兼ねて、何でも屋さんに同行していただきたいのですじゃ。もぐもぐ」


 何でも屋さんは魔法も達者でいらっしゃるようなので、人出としても百人力ですしな~、もぐもぐ……と、じいさん。


 ほうほう。

 まあ作物の収穫の方はどうでも良いとして、つまりこの仕事を受けたら、ナーシアさんと旅ができると!

 それは俺にとってビックチャンスなのでは?

 共に旅する男女。危険と隣り合わせの中で育まれる愛……。

 ――いける!


「よいのか、御老人。この男と旅など、お孫さんに危険を張り付かせておくようなものじゃぞ」


 黙れロリ邪神。

 あと、そのジト目は止めろ。

 俺が何をしたというのだ。何かするのはこれからだ。


「そこは大丈夫ですじゃ。もぐもぐ。こんな見た目ですが、この子は各種武術のたしなみがありますからのう」


「昨年、ヴァン王国の武術大会で優勝しました。てへっ♪」


 恥ずかしそうにほっぺたに手を当ててはにかむナーシアさん。 


「と、このようにキングベア(←大きな熊型のモンスター。普通の人間なら頭からおいしくいただかれる)くらいなら一撃で屠ることができます。龍種ともなるとさすがに若干てこずりますが、暴漢数人くらいなら目じゃありませんですじゃ。もぐもぐ」


 ……………………。


 ガクガクブルブル……。


 やっべー、震えが止まんねえ。

 俺、今までどんだけ危ない橋渡ってたんだよ。

 よく生きてたな、俺。


「どうしたのじゃ、武者震いか」


 ニヤリと笑って俺を見上げるセシリア。

 ちくしょう。

 こいつ、わかっていて聞いてきやがる。


 つうか、じいさんよ。

 その子、護衛なんて要らないじゃないですか。

 むしろ、俺たちが守ってもらう側じゃないですかね、それ。


「ま、まあ、話はわかりました。――で、依頼料のお話なのですけど……」


 なんか恋が急速に終わってしまった気がしたので、話を仕事に戻す。


 フッ……。

 やはり男は女よりも仕事だぜ。仕事こそ我が人生。

 決して負け惜しみじゃないぞ。


「おうおう、かっこつけおってからに」


 いちいちうるせえよ、ポンコツ邪神。

 俺の顔色から心読むなと何度言えばわかる。


「依頼料なのですが、儂が用意できるのはこのくらいが精一杯なのですじゃ。もぐもぐ」


 じいさんが小さな巾着袋を取り出す。

 中を改めさせてもらったら、1000ゴルドってところか。

 今の一回の公演で稼げる金額の3~4倍くらいって感じだな。

 正直、何でも屋の相場ってもんはわからんが、今の俺たちにとってはなかなかの大金。即断で受けてしまいたいところではある。

 ただ……。


「あと、村に滞在する期間の食事はすべて用意するように伝えますじゃ。どうか引き受けてもらえんですじゃろか。もぐもぐ」


「うーん……」


 悩む俺。

 今はパフォーマンスでうまく稼げているからな。ここを離れるのは避けたいというのが本音。

 一度ここを離れて、次戻って来た時に同じように稼げる保証はないからな。


 でも、せっかくの何でも屋の客第一号だ。何とかしてやりたいという思いもある。

 さてはて、どうしたものか……。


 ――と、その時だ。


「うむ、よかろう。その依頼、わらわたちが引き受けようぞ」


 セシリアがニパァと笑って依頼を受けちまった。

 そういやこいつ、ここに飽きたとか言っていたしな。

 渡りに船が付いたとか、そんな風に思ったんだろう。


「おお、受けてくださいますか。ありがたや、ありがたや~。もぐもぐ」


 じいさんもうれしそうにセシリアを拝み始めちまった。

 こりゃもう、引っこみ付かねえな。

 ――あと、じいさん。いい加減、食うのやめろ。俺たちの分がなくなっているじゃないか。


 まあ、仕方ない。

 セシリアもワクワクした顔してるし、ここは保護者として付き合ってやるとしますか。

 正直に言えば、俺もこの世界をもっと見てみたいしな。


 んじゃ、そういうことで――。


「はあ……。まあ、乗り掛かった舟だからな。――この依頼、何でも屋『万桜堂』がきっちりと承りました」


「おお、ありがとうございます。では、出発は明後日の朝ということでお願いしますじゃ」


「ありがとうございます、お二人とも。道中、どうぞよろしくお願いいたします」


 じいさんとナーシアさんが揃って頭を下げる。

 改まって頼まれると、なんかこう、照れくさいものがあるな。


 何はともあれ、これで何でも屋『万桜堂』も本格始動ってわけだ。

 張り切って仕事をこなすとしますか!

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