鎌倉時代のヲタクが理想のヒロイン達を対決させた結果www
いつの時代もヲタク達は同じようなことをやっていた。好きな作品のヒロイン同士を比べることを、当時の言葉で「女合」というらしい。これは鎌倉時代のとあるヲタクが、『伊勢物語』と『源氏物語』のヒロインを対決させたときの記録である。
作者不明『伊勢源氏十二番女合』
左コーナー…ケイコちゃん!from伊勢物語
右コーナー…キリツボちゃん!from源氏物語
さあ、盛り上がって参りました!この対戦カードは面白い。お互いが天皇のお妃サマという、ファーストレディー同士の対決だ!
まずは伊勢物語のケイコちゃん、彼女は良いねぇ。
何が良いって、性格が最高なのよ。尽くすタイプなんだよなあ。
尽くすって言っても旦那に尽くすわけじゃないよ?国と国民に尽くしてくれてるの。
国のために天皇を叱るお妃サマなんて、なかなか居ないよねー。そんなお妃さまって他に居る?
ああ、中国の文王のお妃サマは確かにスゴイね。
「これも国の安定のため…」って美人な女の子を他所から引き取ってきて、自ら進んで旦那をハーレム状態にさせたんでしょ?
…まあ確かに、それはスゴイことだよ。なんて立派な女性なんだとは思う。
だけど、それって中国が周のときの話なわけじゃん。周って一体いつの時代の話なのさ!?古すぎてもはや神話のレベルじゃないか。
…まあそんな古代の神話が引き合いに出されるくらい、ケイコちゃんの性格の良さは伝説レベルなわけだ。しかもその性格の良さに加えて、ルックスの方も抜群ときてる。
その証拠に、彼女のお父様がつくった和歌をみてみよう。
年ふれば 齢は老いぬ しかはあれど 花をし見れば 物思ひもなし
(私はもう年老いてしまったが、桜の花のように美しい自分の愛娘を見ると、もはやこの世に思い残すことは何もない!)
いやあ、スゴイね。桜の花に例えられるなんて、よっぽどの事だよ。そんな美しすぎる愛娘を間近でずっと見続けたせいか、このお父様はすごく長生きするんだよ。「思い残すことは何もない!」とか言ってるくせに、このあと70歳近くまで生き抜いたからね(笑)
ただケイコちゃんが天皇以外の男性と浮気していたのはマイナスポイントだ。こればっかりは庇えないかな。
でもお父様の寿命を引き延ばしちゃうくらいの美貌だったわけでしょ?そう考えると若干は同情の余地もあるんじゃないかなーとは思うね。最後にはちゃんと天皇との間に子供を産んでいるわけだし、その子も天皇になってハッピーエンドなわけだから、彼女の浮気もそれでチャラなんじゃないかな。
さあ、次に対戦相手のキリツボちゃんだけど、こちらは若い頃にお父様が亡くなっちゃってて少し気の毒だね。それでも天皇のお気に入りに選ばれちゃったのは、実はスゴイことだよ。普通、強力な後ろ盾が無いと、そこまで上り詰めるのは無理だからね。相当な美人だったんだろう。
でも美人過ぎたのかな。キリツボちゃんに溺愛してしまった天皇は彼女の部屋にヒキコモってしまうようになった。これには他の女性たちも大激怒だよ。まあ、嫉妬なんだけどね。
天皇があまりにもキリツボちゃんの魅力に夢中になってしまったせいで、男性陣からも「国王が一人の女に入れ込みすぎるのは、中国じゃ乱世の前触れなんだが…」なんて嫌味を言われてしまう始末。
そんなわけで二人の仲は天下の悩みの種になってしまった。
程なくしてキリツボちゃんは天皇の子供を生むんだけど、これをきっかけに女性陣からのイジメは更にエスカレートした。美人なだけで金も無く父親も居ない彼女がまるでビッチに見えたんだろうね。
そのビッチがついに天皇の子供を生みやがった!しかもこのままじゃその子が次の天皇になってしまう!それだけは許せない!って感じだったんだろう。…いつの時代も女は怖いねぇ。
そんなイジメのストレスが原因で、キリツボちゃんはついに病気になってしまう。病気の療養のために彼女は三歳になったばかりの我が子を連れてそのまま田舎の実家に帰ってしまうんだけど、彼女とその子供を宮中から追い出すことに成功した女達は思わずガッツポーズをしたに違いない。
『やった!日ごろの粘着質なイジメがついに実を結んだ!大事なのはやはり「友情・努力・勝利」だったんだ!』ってね。
そのままキリツボちゃんはすぐに死んでしまうのだけれど、彼女の死が天皇に与えたショックは相当なものだった。
「ああ、キリツボちゃんよ!ごめんなさい!いつかあなたを正妻にしようと思っていたのに、周りの嫉妬が酷すぎるので何もできなかった!本当に申し訳ない!」
天皇はお嘆きになって、今まで以上に政治にも手が付かなくなり、死後の人間と交信できるとかいうウサンクサイ霊媒師に大金をつぎ込み始めたりとメチャクチャになってしまった。
悲しみに暮れる天皇は、キリツボちゃんの実家に手紙を送る。
「私は悲しい毎日を送っています。萩の花の上に露を運ぶ秋風が、私の目元にも涙を運んで来ます。秋風の音を聞くだけで、彼女のことを思い出してしまうのです。ああ、彼女の形見の息子に早く会いたい…!」
天皇はキリツボちゃんの子供を引き取ると、まるで次期後継者のように大事に育て上げた。
その子は7歳で学問の道に入るとメキメキと頭角を現し、朝鮮からやってきた有名な占い師には「王の器である」と占われ、本来ならば20歳で行われるはずの成人の儀式もわずか12歳で済ませ、見た目が光のように輝きを放つ超絶なイケメンだったので、ヒカルと名づけられた。
そう、彼こそが天下の光源氏サマである!
ああ、光源氏バンザイ!『源氏物語』バンザイ!
…が、よくよく考えてみて欲しい。光源氏は確かにすごい、すごすぎて勝負にならない。
しかしこれはヒロイン対決なのだ。
あの伝説の光源氏のお母様…という一点のみでキリツボちゃんは過大評価されすぎじゃないか?
世間はキリツボちゃんのことを「悲劇のヒロインだ!」なんて祭り上げているけどさ。
悲劇にならないように日頃から常に配慮して、誰にも嫉妬されることなく、天皇を陰からサポートし続けたケイコちゃんの方が、地味だけど「女」としては立派だと思うんだが?
というわけで、このファーストレディー対決は、ケイコちゃんの圧勝である!