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異世界で、命尽き果てるまで  作者: liarと書いてリアと呼びたい
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プロローグ

 ——雪乃は追われていた。


「はっ……はっ! ぅぐぅ……!」


 走ってどれだけの時間が経ったかは既に忘れた。

 後ろには黒い影のような、人型の化け物がいて、木々の隙間を縫うように飛んで来る。

 人型の化け物はしかし、人ではない。

 頭には山羊をのようなぐねぐねに捻れた角が生えていて、移動手段が飛ぶことから察するに背後で羽ばたいているのは蝙蝠のような羽、おまけに顔はのっぺら坊主のようになにも置かれていなかった。

 追いかけているのは視認しているのか、五感のうち視覚聴覚嗅覚のないように見えるが、それは関係ないとばかりにこちらに顔を向けていた。


「シャァァァァァァァァァァ!」

「お、おおおう!!」


 初めて口を見せた! ていうか口かよあれ!? 全部の歯が牙とかどうやって口閉じるんだよ!


 肺が酸素と二酸化炭素の交換に集中していて、叫びかけた声は無意味な言葉として息と共にそとに吐き出される。

 悪魔の様ない見た目のそいつの口もやはり化け物だった。そいつの顔は上から黒い皮で覆われており、叫ぶ時は皮が捲れて口を見せる。閉じるのが難しそうな牙が並べられた口は、黒塗りのナイフのように見え、唾液によって暗くテラテラと光って見える。


 走りながらこうなった原因を頭の中で思い返してみる。

 学校の帰りに少し瞼を閉じた後に場所が変わり、いきなりあいつが目の前に現れたのだ。

 ハイな頭で異世界転移!? なんて馬鹿なことを考えても、しかしそいつの異常な見栄えと生存本能的なものにより全速力で逃げ始めて今に至る。

 健康志向の家族に連れて行かれた陸上講習のおかげである程度人よりも長く速く走れて、肺が慣れて来たことより身体の限界までは逃げれるだろう。

 問題は後ろの化け物がどこまで追って来るかだ。

 食料を求める肉食獣でもそろそろ諦めるレベルではないだろうか、速さを求めた猫科で単独の狩りをするチーターなんかの動画を何度か見たが、奴らも短期決戦で望むようなスタイルだった気がする。


 人型のあたりで考えていたことだが、知能がありそうでむしろ怖い。知能が失っても普通に怖い。

 ただ、状況に慣れるに連れて境遇を受け入れ始めた自分がいる。

 この現状は受け入れたくないが。

 

 ……もう立ち向かっても勝てるんじゃないか?


 そんな考えはあっても、上手くいきそうにない賭けで命をベッドする気は毛頭なかった。

 逃げることに意識を集中して、体制を整えて逃げる。

 相手より弱い動物が生き残るにはそれしか方法がない。


 現実とゲームがごっちゃになった夢を思い出す。

 突如殺人犯が現れて、何故か自分を殺しにくる夢に似ていた。

 しかし、今回夢じゃないといえるだけの体感を、雪乃はすでにしている。

 

 後ろを見ると、化け物は息をしている様子が窺えないが後ろを張り付いているのを見て雪乃の背筋は凍りそうだ。

 冷や汗がやばい、脳に変な快楽が押し寄せている気さえする——つまり、本気で生存本能を発揮しているということだ。

 森の中に逃げたのは失敗かもしれない。木と木の隙間を通させている為に逃げることはできるが、誰にも助けを求められない。

 こんな場所なら村でもあるはず、いや駄目だ現実を受け止めろ。


 妄想に逃げようとして現実に引き戻す、無心で走ることが苦手な雪乃にとって、頭をぐちゃぐちゃにかき回しながら走る方が気が紛れると判断しての行いだが、パニックに陥り注意力が散漫になる欠点を持ち、足下の根っこに足をかけ、身体の重心が前に出る。


「っと! 危ないなあ!」


 無理矢理に体制を整えた結果、転倒は回避できたが足を痛めていることに気付く。

 気付けば涙は止まること無く流れ、それに伴い鼻が詰まり始める。

 そして限界は訪れる。


 体力は刈り取られ、足は痛み、これ以上走ることを拒否しているかのように雪乃の思う通りに動かない。

 次の木の陰に身体を割り込ませるように倒れると、体内の空気が押し出されて、ついでに消化されかけていた食べ物も口から吐き出される。


「……っはあ! ……嫌だぁ……死にたくない……ッ!」


 心の底から吐き出した言葉は、怪物にとって意味のないものと反応が無く、顔が近づくとともに口が徐々に開き始める。

 臭い、気持ち悪い、臭い臭い臭い、気持ち悪い、なんでなんでなんでなんで!


「っああああああああああああああああ!!!」


 化け物は首を突き出して雪乃の首に牙を立てようとしたのを見て、雪乃は咄嗟に右腕で防いだ。

 ——代償は、雪乃の右腕が失うということに気がつかず。


 ゴキン、と右の肘から先の骨が噛み砕かれると、痛みと共に焦りが生まれる。

 このまま放置すれば出血死する可能性もある、右手はもう使えない。


 そしてそれが、悲しくも初めてここが現実であると見せつけられる雪乃の出発地点のなることになる。


 ふざけんな、俺が一体なにしたからこんな運命になるんだよ神様! 神様とか、ふざけんな! 死ね!死ね死ね死ね死ね死ね!シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネしねしねしねしね死ね死ねシネシネしねしね死ね死ねしねしねしねしね死ねしねしねしねしね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシねしねしねしねッ死ね!!!


 右手はもう使えない、こいつの所為だ、だから、こいつを殺せば助かる。


「lkさうほあだあpゔぃじゃおcいあs!!?」


 右腕を租借している化け物の口に向けて右足の踵で蹴り潰す。

 それも何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


「————————ーッ!」


 牙が折れて喉を切ったのか化け物は口から出す声は先程よりも明確に掠れている。

 自分からは赤色の、化け物からは黒色の血が噴出してお互いを混ぜ、凄惨な色に周りを染め上げる。


 ——倒した、倒せた! やったぜ! やっぱり俺強い! 異世界転生者舐めんな! まだ動いてる! 死ね! お前はもう意味ないんだよ! こんなの中学でいじめしてた先輩にも倒せない! 俺は強いんだ!

 なんで最初からこうしなかったんだろう! こうしてりゃあ腕を失うことも無かったのに!


「じゃむあげほげっほ!」


 ざまあみろ、と言おうとして喉が潰れているのに気付く。雪乃もかなり叫んでいた上に、喉には血と涙と鼻水がぐちゃぐちゃに溜まっていて気管に入ったようだ。


「ばった! ぶじゃったんでえぁ! あはっ! あははははははっっはははははああああああ♥︎」


 もう、帰ろう、帰りたい。

 血はまだ少し流れていて痛みも感じなくはないが、帰ればどうにかなる。もう帰れるだけで充分だ。


 視界が揺れて、霞んで、ぐちゃぐちゃに潰れる。今日はぐちゃぐちゃの日だ。

 帰る場所なんて無い、これ以上は求められてももう無理だ。

 死ぬ程の痛みってきっとこんなのだ。もう痛いのなんて嫌だ。

 死ぬ程痛い、死の程寒い、死ぬ程熱い、死ぬ程気持ちが悪くて、眠い。


 ふざけんなよ。

 誰もこんなもの望んじゃいない。

 異世界ってもっと夢のあるものだろ。

 なんでこんな不条理なんだ。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。


「じにだぐねえだぁよおおおおおおぉぁぁぁぁ……」

 一度は上手く書きたかった異世界転生。

 書き溜めはない、なんとなくこんな風に歩んでくれればと主人公を虐めたいと思います。


 作者が短気なので、この後すぐに数年後とか経たせようと思います。

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