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通販TVプライム・フォーチュン

作者: 怠惰

ちゃらっちゃらららーちゃららーん

 

『プラーイム・フォーチュン!』

 

軽快な音楽と原色バリバリのタイトルの後、腰ほどの高さの台を前に一組の欧米人らしき男女が画面に映し出される。

「ハロー! 視聴者の皆様の痒いところに手が届く便利グッズをご紹介、プライム・ショッピングの時間よ!」

「この番組は僕、ジョンソンと」

「アシスタントのキャサリンの二人で進めて行くわ」

「さて、それじゃあ早速最初のグッズを紹介しよう。これだ!」

と言って、男は台の下から大降りな機械を取り出す。

「ワオ! ハンドミキサーね!」

大袈裟にリアクションを取る女に、男は指を振りながらちっちっと舌を鳴らす。

「そうだ。でもキャシー、こいつをただのハンドミキサーと思ってもらっちゃあ困るな」

「どういうこと、ジョン?」

「こいつは普通のハンドミキサーより、やけにでかい図体をしてると思わないかい?」

「そうね、ジョン。私みたいな女の子じゃ片手で持つのは難しいかもしれないわ」

「それには理由があるんだ。見た目が馬鹿みたいにでかいからって嘗めてもらっちゃ困る。そいつを今証明するよ」

そういって男は再び台の下に手を伸ばし、今度は白い液体の入った透明なボウルを取り出す。

「ジョン、それはもしかして」

「そうさキャシー、生クリームだ」

OH! と女は両手を拡げてぱしんと頭を押さえる。

「ちょっとジョン、いくらなんでも今からホイップしてたらそれだけでエンディングになっちゃうわ!」

「普通ならね。でもキャシー、言っただろう? こいつは無駄にでかい訳じゃないってさ」

「そんな……いや、やっぱり無理よ!」

「僕を信じて、キャシー!」

「でも……いえ、分かったわジョン。あなたを信じるわ」

いちいち大袈裟に振る舞う女に、男はにっこりと笑いかける。

「ありがとうキャシー。それじゃちょっと見ていてくれ。今エンジンを動かすから」

「ええ、分かったわジョ……エンジン?」

男はハンドミキサーの側面に手を延ばし、取っ手状になっている部分を握り絞めると勢い良く引っ張る。

ミキサーから出ているワイヤーが延び切った瞬間、ハンドミキサーは腹に響く重低音と毒々しい黒煙を上面の排気孔から惜し気もなく吐き出しながら鼓動を始める。

高速で回転する金属部分の先端からは猛烈な摩擦による火花がこれでもかとばかりに飛び散り、ぎゃりぎゃりと威圧感たっぷりの不協和音を奏でている。

「まずはこの生クリームを」

「ジョン、ウェイト!」

「え? なんだいキャシー? エンジン音で全然聞こえないよ」

「ウェイト! プリーズウェイト、ジョン!」

「おいおいキャシー、どうしてだい? ここからがようやく見せ場だっていうのに」

「なんでミキサーにエンジンがついてるのよ!? 電動で十分じゃない!」

「ヘイキャシー、アメリカンならどんなことに対してもパワフルであるべきじゃないか」

「いくらなんでも限度があるわ!」

「なに、説明書によればほんの3馬力位らしいから問題無いさ。それじゃ、見ててくれよ」

「単位が! 単位がおかしいわジョン! 数字の大きさに惑わされないで!」

女は男の愚行を止めようとしたが、もはや手遅れだった。

火花を散らす金属片が水面に接触した瞬間、ボウルに半分ほど注がれていた生クリームは勢い良くその高速回転に飲み込まれ爆散、テレビ画面の半分が一気に白く染まった。

「NOーッ!! キャシー、目が! 目が見えない!」

「ジョン! だから待てって言ったじゃない!」

「キャシー、どこにいるんだ!? こいつをちょっと持っていてくれ、顔を吹きたいんだ!」

「ジョン! それをこっちに向けないで! 心臓に悪いわ!」

「頼むキャシー。生クリームで手が滑るんだ」

「余計にいやよ! それ以上近づかないで! 台の上に置けばいいじゃない!」

「OH! それもそうだな。キャシー、君は実にCOOLだ!」

男は言われた通り台の上にハンドミキサーを置く。

エンジンがかかったままのミキサーはがたがたと振動しながら移動し、徐々に台の端、男の方へと向かっていく。

「ヘイ、ジョン! 顔なんて拭いてる場合じゃないわ、逃げて!」

「逃げる? キャシー、一体何から逃げるって」

時既に遅し。


がたん。

ぎゃりぎぎぎぎぶしゃしゅしゅしゅびちちちちちちごりゅごりゅごりょごがが

「Ah――――――――!!」

「ジョンソン!? ジョンソ――ン!!」



(画面が切り替わり、海に浮かぶ船を背景に短い英文が画面中央に映し出される)




ちゃらっちゃらららーちゃららーん


『プラーイム・フォーチュン!』

 

軽快な音楽と原色バリバリのタイトルの後、腰ほどの高さの台を前に欧米人らしき女性と黒人男性が画面に映し出される。

「ヘイ、待たせたねみんな! 番組はまだまだ続くよ!」

「あんな事故があってなんで続くのかしら……スポンサー、何者なの?」

「キャシー、カメラカメラ!」

「え? あ、ソーリー。この番組は引き続き私キャサリンと」

「ジョンソンに代わって僕、ネバダ出身のジミーがお送りするよ。では、次の商品に行こうか」

「そうね、嫌な事は早いうちに忘れるべきだわ」

「ところでキャシー、君の家に庭はあるかい?」

「ええ、実家には花や草木で一杯の素敵な庭があるわ」

「そいつはいいな! でもキャシー、手入れは一体どうしてるんだい?」

「そうね、芝刈りとかは自分でやるけど、背の高い木は業者に任せきりにしてるわ」

男は両の手の平を天井に向けながら首を竦め、ちっちっと指を振る。

「おいおいキャシー、自分の家の庭を他人に任せるなんてセンスに欠けるよ」

「でも、高い所の枝は切りにくいし、私みたいな女の子の力じゃ太い枝はカットできないわ」

「確かにその通りだ。でも大丈夫、これからはそんな問題は一切起こらない」

「どうして、ジミー?」

「それは、スーパーサイズ・グリムネックがあるからさ!」

「グリムネック? それは一体なんなの?」

「キャシー、君は力を入れずに刃を当てるだけで枝が切れる、そんな夢みたいな切れ味の刃物があると思うかい?」

「サムライのカタナより切れる?」

「そうさ、キャシー」

「ありえない! そんな刃物、あるなら見せてほしいわ!」

「よーし、分かった」

「え? ジミー、今なんて?」

「いいかい、分かりやすくもう一回言うよ。 今日紹介するのは、力を入れなくても枝から何からスパスパ切れる、ファンタジックな高枝切り鋏だ!」

「グレイト! なんだかさっきより一気に文が長くなった気がするけど凄いわジミー!」

跳ね上がって驚きと歓喜を表現する女に、男はにやりと笑う。

「もしかしたら口で言っただけじゃ信じてくれない人もいるかもしれないから、隣にステージを用意してあるんだ。今からそっちに移動するよ」

「ええ、ジミー。どんな鋏なのかしら、ドキドキするわ!」

カメラはスタジオから右へと移動する二人を追って特設ステージを映す。

「キャシー、上に金属の棒が固定されてるのがわかるかい?」

「随分高いわ……10メートルくらいはあるかしら」

「あれを今からこいつで切るんだ」

男は足元に横にして置いてある布で覆われた棒状のものを指差す。

「あんな高い所の、それも金属の棒を!?」

「そうさ。でもキャシー、このグリムネックにとってはその程度の事、息子の小遣いを下げるより簡単な事なんだよ」

「それは凄いのかどうかよく分からないわジミー! でも、そろそろその例のグリムネックを見せてくれてもいいんじゃない?」

「OK、それじゃいくよキャシー。こいつがグリムネックさ!」

男は棒を包み隠していた布を取り除く。

まず黒い柄と竿の部分が現れ、次に機構の部分、最後にブレードが姿を見せた。

真っ赤な塗装がされた機構部にはワイヤー付きの取っ手が、ブレード部分には細かい刃のついたチェーンが巻き付けられている。

男はグリムネックの側面に手を延ばし、取っ手状になっている部分を握り絞めると勢い良く引っ張る。

機構部から出ているワイヤーが延び切った瞬間、グリムネックは腹に響く重低音と毒々しい黒煙を上面の排気孔から惜し気もなく吐き出しながら鼓動を始める。

ブレード部分に巻き付けられてたチェーンは目に見えない程の高速で運動を始め、触れるもの全てを切り裂かんとばかりに鈍い光を放つ。

「さて、それじゃ早速ショーを」

「ストップ!! ジミー、ストップ!! リッスンミー!!」

「なんだいキャシー、これからがいいところなのに」

「どこからどう見てもチェーンソーじゃない! 何がグリムネックよ!」

「何言ってるんだキャシー、この長柄が目に入らないのかい?」

「つけりゃいいってもんじゃないわ! 第一そんなの女の力でどうやって扱えってのよ!」

「大丈夫さキャシー。専用のベルト型ホルダーがあるからそれを使えば君でも上手く扱えるよ」

「無駄な部分に知恵を絞ってるわね! もっと別の部分に使いなさいよ!」

「話は済んだかい? それじゃ、始めようか」

「もう好きにして……」

男は棒の長さを調整し、それからグリムネックを立てて棒を切断しようとする。

「あれ? うまく切れないな」

「ちゃんとブレードに当たってないのかしら」

「いや、当たってると思うよ。変だな」

男は何度か繰り返しブレードを棒から離しては押し当てたが、一向にうまくいかない。

「Shit、どうなってるんだ?」

「ちょっとジミー、力を入れすぎよ」

「何言ってるんだいキャシー。力なんて全然入れてないよ!」

「でも、竿がやけにしなってるわ」

「気のせいさ! ……くそっ、早くしないと!」

「ジミー! 何やってるの! たたき付けても棒は切れないわ!」

「手元が震えてるだけだ! やばい、このままじゃ組織に……!」

「ジミー! 駄目! 今上で変な音がしたわ! もしかしたら竿が折れるかも」

時は戻らない。

 

べきっ

どりゅりゅりゅばしゃしゃしゅびぢぢぢぢぢぎゅいいいいいずずびびびびびび

「Woooohhh――――――――!!」

「ジミー!? ジミ――――!!」

 

 

(画面が切り替わり、湖に浮かぶ船を背景に短いラテン語の文が画面中央に映し出される)

 

 


ちゃらっちゃらららーちゃららーん

 

『プラーイム・フォーチュン!』

 

軽快な音楽と原色バリバリのタイトルの後、腰ほどの高さの台を前に欧米人らしき女性と筋肉質な男性が画面に映し出される。

「ソーリー、ちょっとしたアクシデントがあったみたいだ! でも大丈夫、番組はまだまだ続くよ!」

「……動脈の血って本当に綺麗な赤色をしてるのね」

「ヘイ、キャシー。元気を出すんだ、あれは不幸な事故さ。気にしちゃいけないよ」

「事故? じゃああの黒服の男たちは誰なの? 血みどろのジミーをまるで荷物みたいに運んでいった奴らは一体何!?」

「医者じゃないかい? ブラック・ジャックみたいなさ」

「あんな不穏なオーラを纏った医者はいないわよ! あれは人体を治すよりむしろ壊すのが本業の人達よ!」

「キャシー、忘れるんだ。いや、忘れなくちゃいけない」

「な、なに? 急に真剣に……そういえば、なにか最後にジミーが言ってたわね。確か『組織』がどうとか」

「さあ! そろそろ始めようかキャシー! 司会はこの僕、ディケイが勤めさせてもらうよ!」

「ちょっとディケイ! どうしたの急に大声を出して」

「ああキャシー、僕の事は遠慮なくディックと呼んでくれて構わないよ! さあいこうか!」

「ねぇだからディック……ってさっきからジョンソンだのジミーだの一体なんなのよ!? 三度続けば偶然も必然になるわよ!?」

「落ち着いてキャシー。カメラはもう回ってる、これは生放送だよ」

「分かってる……分かってるけど、ひどすぎるわ。私、しばらくミンチ肉の料理は食べられそうに無いもの」

「それは災難だね。ダイエットだと思って我慢したらどうだい?」

「ディック、いくらなんでもそこまでポジティブには考えられないわ……」

「そうだね、断食は確かに痩せられるけどあまり健康的とは言えないね」

「ディック、会話になってないわ」

「そこで今日紹介するのが電動トレーニングスーツ、トミー・ロボさ!」

「ディック、なんだかその名前から色々と不安な臭いがするわ」

「そうかい?」

「大体、トレーニングマシンなら分かるけどスーツってどういうこと? 大リーグボール養成ギブスでも真似したの?」

「また古いネタを知ってるねキャシー。でも違うよ。あんなバネのお化けみたいなアナログな装置じゃなくて、トミー・ロボはもっと現代的なトレーニングスーツなんだ」

「へえ。どんな? 見せてよディック。ハリー。ハリーハリー」

「キャシー、頼むからもう少し愛想良く会話してくれないかい? とにかく、これがトミー・ロボさ!」

男は台の下から所々に機械のパーツが付いた戦隊ヒーローを彷彿させる黒い服を取り出す。

「あら、今度はなんだかまともそうね」

「何言ってるんだいキャシー。まともどころかこいつは凄く画期的なスーツなんだよ! ちょっと待っててくれ、今こいつの性能を見せてあげるよ」

そう言うと男は一度舞台裏に引っ込み、しばらくしてからトミー・ロボを着込んで戻ってくる。

「待たせたね! それじゃ早速こいつの説明をさせてもらうよ!」

「ええ、お願いディック。それで一体それは何なの?」

「こいつは背部のバッテリーを用いて全身に電圧をかけることで筋肉を収縮させ」

「ディック、フリーズ」

「ちょっとキャシー、まだ話は途中」

「聞いてディック。私は感電死なんてアダムスファミリーとグリーンマイルで見られれば十分なの。目の前で見たいなんてこれっぽっちも思ってないわ」

「おいおい、そんな物騒な。電圧は細かく15段階に調節出来るから、そんな危険なことにはならないよ」

「そう? それならいいんだけど……」

「子供や女性は下から二番目のピ●チュウ、筋力に自信のある人は下から四番目のライデ●ンがオススメだ。僕は下から五番目、ラムチャンでやってみるよ」

「やけに上限に余裕があるわね!? しかもネーミングが色々危険だわ!」

「さあ、スイッチを入れるよ!」

「本当に大丈夫かしら……」

男が右腕のスイッチをいくつかいじると、甲高い駆動音の発生と共に男の体が規則的に小さく痙攣を始める。

「WOW……! これは、結構クルね!」

「確かに良く効きそうだわ。ところでディック、背中のバッテリーだけど、どうしてそんなリュックサックみたいに大きいの?」

「ああ、なんでも特殊なバッテリーらしくてね。大出力なんだけど小型化出来なかったらしいんだ」

「まさか核反応炉とか言わないわよね」

「まさか! そんな危ないエネルギーを使う訳無いだろ」

「それはそうね、ごめんなさい。馬鹿な事を聞いたわ」

「もっとクリーンなエネルギーさ。確か……水素電池とか言ったかな」

「この馬鹿野郎!! 引火したらスタジオどころかビルが根こそぎ吹っ飛ぶじゃない!!」

「ナイスジョーク」

「大まじめよ! いいから早く止めなさい、ディック!」

「全く、分かったよキャシー。そんなに怒るなって」

男は腕の操作スイッチに手を伸ばし、電源に手を掛けた。

その瞬間、背後のバッテリーから発生した電圧が男の全身を駆け巡り、収縮した筋肉は意思に反してその隣の電圧と周期のゲージを動かして最高レベルの『ラグナロク』に設定した。

一秒一回、数百ボルトだったその周期は十倍に、そして電圧は百倍を優に越えた。

「Doooooom!?」

「ディック!?」

男は直立の姿勢から指先の力だけでニメートル近く跳躍し、気をつけの体勢で地面と平行に着床。

白目を剥いて半開きの口から泡を吹き出しながら男は世界陸に打ち上げられた魚コンテストでぶっちぎりで優勝できそうな程の圧倒的なのたうちっぷりでスタジオ中を跳ね回る。

ついにはセットから飛び出し、カメラに衝突しながら海老のような動きで床を縦横無人に跳ね回る。向かう先には雷を模したマークにDANGERと描かれた配電板。

 

ごつっ

びりりりりりばんばんばんばんばんぶぼぼぼぼぼぼだだだだだだだだじじじりじじりじりぼん

 

「ディック!? ディ――――――ック!!」

 

 

(画面が切り替わり、東京湾に浮かぶ屋形船を背景に『nice boat』と画面中央に映し出される)

 

 


ちゃらっちゃらららーちゃららーん

 

『プラーイム・フォーチュン!』

 

軽快な音楽と原色バリバリのタイトルの後、腰ほどの高さの台を前に欧米人らしき女性と端正な顔立ちの白人男性が画面に映し出される。

「メルシー、たびたび済まないね。電源の復旧にちょっと手間取って」

「神は死んだ。もういない」

「キャシー!? いきなり何を言ってるんだい!?」

「ここはステイツよね……ベトナムでもアフガンでもないわよね……なのに、どうして人の肉が焦げた臭いがするの?」

「キャシー! 気をしっかり持って!」

「黒服が一人、黒服が二人……ねぇ、どうしてあの人達はディックを見てこいつは金に出来ないな、って言ったの? こいつ『は』? ねえ、ジョンとジミーはどうなったの?」

「駄目だキャシー! それは口にしちゃいけない! 仕事だ、今は仕事をしよう!」

「仕事……仕事をするの?」

「そう仕事だ! 君もプロなら、どんなに辛くても最後までやりきるんだ!」

「プロ……最後まで……。……分かったわ、えっと」

「クリスだよ、キャシー」

「ありがとうクリス。私、頑張るわ」

「ああ、次が最後の商品だ。力を合わせてやりきるぞ!」

「ええ! でも最後の最後にまともな名前が出て来て救われたわ。もしマーラとかだったらどうしようかと」

「僕の妹は正にその名前だよ。僕の生まれたトリス家の長男・長女は代々必ずクリスとマーラなんだ」

「そうなのそれは驚きねっつーか結局そういうオチかよ●ァック! なんかもう全てがどうでもよくなってきたわ!」

「いいテンションだねキャシー! そのまま一気にエンディングに向かって突っ走ろう!」

「OK、クリス! さあ、今日最後の商品はなんなの!?」

「時間も無いし急いでいくよ! ラストはこいつ、ペット用フェロモンスプレー『モンスター・ポケット』!」

「逆さにして噴射したら訴えられそうなスプレーね!」

「こいつは様々な動物の発情期に生産されるフェロモンを採集して作られた最強のスプレーで、体にシュッと一吹きすれば爬虫類から両生類まであっという間にベストフレンドさ!」

「ファンタスティック、クリス! でも対象が微妙に狭い上にマニアックだわ!」

「早速その効果を証明するよ! さあ、ステージへ移動しよう!」

「分かったわ!」

カメラはスタジオから左へと移動する二人を追って特設ステージを映す。

ステージには布を被せられた直方体が四つ、左から右に行くにつれて段々大きくなるように置かれている。

特に一番右端のは他の優に三倍はあろうかという大きさである。

「ついたわねクリス!」

「ついたねキャシー! それじゃ一番左のボックスの布を取ってくれ!」

「OK!」

女は勢い良く布を剥ぎ取る。中にトカゲの入ったアクリル製の箱が現れた。

「それじゃ腕にこいつを軽くスプレーして、よく見ててくれよ、それっ!」

「WAO! トカゲが腕に寄ってきたわ!」

「どうだい、凄いだろう? じゃあ次のボックスだ!」

隣のボックスの布を剥ぎ取ると、今度は大きなカエルが入っていた。

「爬虫類の次は両生類ね! 本当に効くのかしら?」

「大丈夫、行くよ――ほら! ゲコゲコと楽しそうに鳴き始めたよ!」

「ワンダフル! でも、なんとなく私にはグエグエと威嚇してるように見えるわ! 次!」

そのまた隣のボックスには巨大な蛇。

「立派な蛇ね! 私、最近これと同じ種類の蛇を動物園の危険動物のコーナーで見た覚えがあるわ!」

「それは恐い! でもこのスプレーがあればそんな動物だって、ほらこの通り!」

男がケージの中に手を突っ込むと、蛇は見た目からは想像もつかないような機敏な動きを見せてその腕に巻き付く。

「ハッハァ! じゃれついてきてるよ、可愛いやつだなあ!」

「ソー・キュート! ところでクリス、骨は大丈夫?」

「ヘイキャシー、これは彼らなりのスキンシップなんだから、全然平気さ! 

ところで、その辺に尖った棒はないかい?」

 

「さて、これが最後のケージだ!」

黒炎の龍に見える痣がついて変な方向に曲がった右腕を揺らしながら、男は大きなボックスの布を取り除く。

「中身はなんと、クロコダイルだ!」

「ワイルド&タフね、クリス! でも一体視聴者のうち何人がこんなの飼ってるのかしら!」

右腕が使えない男の為に、女がその左腕を取ってスプレーを吹き付ける。

「準備オーケーよ、クリス!」

「イエス! さあ、いくよ!」

蓋をずらして男が腕をその中へ突っ込んだ所で、女は一人ステージから中央のスタジオへと戻る。

「さて、今回のプライム・フォーチュンは如何だったでしょう。皆様の欲しいものは見つかりましたでしょうか」

「ヘイ、キャシー? 何処に行ったんだ、痛っ! ちょ、舌がすっごいザラザラして」

「商品のご注文はこちらのそれぞれの番号までお電話下さい。送料等はこちらが全て負担致します」

「Ouch! 違う! それは餌じゃない! うわっ! ちょっ、引っ張るな、落ち」

「それでは次週、何らかの力が働いて事件が揉み消された場合はまた同じ時間にお会いしましょう。さようなら」

「No! Don’t come here! Help,please hel…………Ahhhhhhhh!!」

 

 

 

ちゃらっちゃらららーちゃららーん

 

『プラーイム・フォーチュン!』

 



これを投稿した時点で「通販」で引っ掛かる小説にこれと似たようなものが無かったのでやってみました。




やらなければよかったかもしれない。


コメディーということで残酷描写の警告は抜きましたが、どうなんでしょうね。このくらいはジョークで済むと思うのですが。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。アメリカンな通販番組の感じがよくでてました。こういうの正直結構好きです。これからも頑張って下さい。
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