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小さな英雄との出会い

ああ、なんだ勘違いか。

肩を叩かれた気がしたんだけどな……。


僕は一度地に置いた、およそあそこで幸せそうに買い物をしている妊婦の腹くらいの大きさの荷物を再び持ち上げる。ちなみにその妊婦の隣には夫と思われる身長の高い男がいた。


今日の荷物の中身はあまり鮮度が良くなさそうな果物たちで、いくらこのクルトス通りの人の賑わいようでも、どうにも売れそうにない。


まあ、僕自身こんなちんけな果物、値が安かろうがサイズが大きかろうが買わないと思う。荷物の中身をちらりと見ては、ため息が出る。


よくて生活に困っているホームレスが盗みを働く程度だろう。


この先残り二十メートルほど歩くと、僕の名前が置いてある行座商(ぎょうざしょう)グループの露店が固まっている通りがあって、今日は僕もそこに割り当てられた。


当番制で、月に二、三度だけしか座商当番が回って来ず、残りは行商当番と言って各地を練り歩かなければいけない。


だから月に数回の座っていられる座商当番を、僕はものすごく待望していた。


止まっていた歩みを再び進める。座って仕事ができると思うと、果物が数十個入った荷物を持ってしても足取りは軽い。ところが小さな、六歳くらいに見える男の子が、いきなり僕の行く手を阻む。


手にはあまり鮮度のよろしくない(・・・・・・・・・)林檎が握られていた。


「お前んとこのクッソまじぃーぞ! 死ねよバァーカ!!」


そうして美味しくなさそうなそれを思い切り振りかぶって、投げてくる。


見事僕のヒゲ面にヒットして泣きたくなるが、我慢我慢。


落ちた色の悪い林檎を拾う。この時点で既にあのワル餓鬼は走り去っていたようで、もう顔を拝むことさえできやしない。


ああ、さっきの肩を叩かれた勘違いは勘違いじゃなかったのか。肩を叩いた隙に荷物に手を突っ込んで盗む。手慣れたホームレスなら可能だろうが、あの小さなワル餓鬼にそんなことができるのだろうか……


いや、できたからこうなったんだよな。


僕は申し訳程度にかじってあるもう売れない林檎を、かじる。


……こりゃ今日は望み薄だ。




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