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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

キレナイハサミ

作者: k5

この物語は前半と後半に分かれており、前半は子供向けに改修された綺麗なお話、後半は訂正無しで原文そのままの少々エグイお話をイメージしています。

後半は蛇足と言われるかもしれませんが、「童話」を表現するのに必要だと思い、投稿しました。

皆様にお楽しみいただければ幸いです……

 昔々、トループという町の外れにある小さな家に、シエという少女が住んでいました。

 シエは親がおらず、いつも一人ぼっちです。しかし、前向きな性格と努力で、いつも元気いっぱいでした。

 そんなシエが大事にしている物があります。「切れないハサミ」です。

 とても古くて綺麗なハサミなのですが、いくら何かを切ろうとしても切れません。ためしに砥いでみたり磨いてみたりしたのですが、どうしても切れないのです。

 これはずっと前からシエの家にあるもので、いつからあるのかシエにはわかりません。何度も売ってしまおうかと考えましたが、なかなか手放せませんでした。

「不思議な不思議なハサミさん。あなたは何を切るハサミなの?」

 ハサミに聞いてみても答えてはくれません。

 疑問に思いながらも、シエは毎日を精一杯過ごしていました。



 ある日、シエがお使いに出かけている時、家に泥棒がやってきました。

「こんなところに家があったとは、知らなかった。さっそく、何か盗んでやろう」

 泥棒は簡単に家のカギを開けると、中に入ってきました。

 しかし、泥棒はがっかりしてしまいました。シエは一人で暮らしているので、お金になりそうな物が見当たらなかったのです。

「いや、何かあるはずだ。探し出してやろう」

 泥棒は家中をひっくり返しました。すると、大事そうにしまわれていたハサミを見つけました。

「こいつはいい。これをいただいて行こう」

 ハサミを盗んだ泥棒は意気揚々と家を後にしました。



 しばらくして、家へと帰ってきたシエは驚きました。

「まあ! 私の家がめちゃくちゃだわ!」

 慌てて何が起きたのか確認します。

 一通り家を見たシエは、これは泥棒の仕業だと思いました。

 そして、何が盗まれたのかを見て回り、無くなっている物があることに気づきました。

「ハサミが無いわ! きっと泥棒が持って行ってしまったのね!」

 シエは悲しみました。例え切ることができなくても、とても大事にしていたものだったからです。

「どうしましょう……」

 シエは考えます。しかし、取り戻す方法は思いつきません。しばらくそうしていましたが、やがて一つの決心をしました。

「泥棒を追いかけてみましょう。まだ町の方にいるかもしれないわ」

 前向きなシエはそう決めると、家を飛び出して街へと走り出しました。



 その頃、泥棒はというと、町の中で泥棒仲間に怒鳴り散らしていました。

「なんだこのハサミは! 切れないじゃないか! これじゃあ何にもなりやしない!」

 泥棒は怒りにまかせてチョキチョキとハサミを鳴らします。

 泥棒の仲間たちはうんざりしました。この泥棒はよくこうやって癇癪を起こすので、仲間たちは困っていたのです。

「切れないハサミなど使えないじゃないか! 一文にもなりやしない! 盗みに入って損をしたよ!」

 怒る泥棒の言葉に、とうとう仲間は言い返しました。

「じゃあそんなもの、捨てちまえばいいじゃないか」

「そうだそうだ! そんなに言うなら捨ててしまえ!」

 仲間たちからの非難の声に、泥棒は頭に来ました。

「ええい! なら捨ててやる! 見てろよ!」

 そう言うと泥棒は、ハサミをポーンと遠くの方へと投げてしまいました。

「これでもう二度と見ることはない。ああ、すっきりした」

 泥棒はそう強がると、もうこんなところに用は無いと足早に去っていきました。



 泥棒が去ってからしばらくして、シエがやってきました。

「ああ、どこに行ってしまったのかしら」

 町の知り合いや守衛に聞いて回りましたが、誰もハサミの行方を知らなかったので、途方に暮れてしまいました。

「もうあのハサミを見つけることはできないのかしら……」

 シエは悲しみ、町の片隅にぽつんと立ち尽くしました。

 すると……どこからか、楽しげな音楽が聞こえてきました。

「綺麗な音……どこから聞こえてくるのかしら?」

 不思議な音に惹かれて、シエは歩き出しました。

 その音はどうやら町の広場から聞こえてくるようです。シエと同じように不思議な音に惹かれた町の人々が集まってきていました。

「いったい何があるのかしら」

「何があるのかだって? なんでもこの広場に珍しい音楽団がいるらしいよ。その音楽団が使うのは楽器じゃなくてハサミって話だ、確かに珍しいよなあ」

「ハサミですって⁉」

 親切な街の人が教えてくれたことに、シエは驚きました。

 やがて広場に着くと、そこには人が輪になって集まっていました。その中心から、不思議な音が聞こえてきます。

「もしかして私のハサミは……」

 シエは人をかき分けて、なんとか輪の内側に出てきました。そこから見えた光景はとても幻想的でした。

 旅の楽団でしょうか、様々な楽器を持った人たちが楽しそうに演奏しています。中でも一際目を引くのが、美しい青年でした。流れている音楽に合わせて優雅に、華麗に舞っています。その手にはハサミが握られ、時折チョキチョキとあの不思議な音を奏でていました。

「あれは私のハサミだわ!」

 シエは思わず大きな声を出してしまいました。青年が楽器のように奏でていたのはシエのハサミだったのです。

 その声で、広場の注目がシエに集まりました。

「おいおい、あのハサミがお前のだって?」

「そりゃねえぜ、じゃあなんだって音楽団がそんなハサミを使うんだってんだ」

「そうだそうだ、嘘はいけないなあ」

 町の人々に馬鹿にされ、シエは俯きました。彼女がどんなに主張しても、誰もあのハサミがシエのものだとは信じてくれないからです。

 シエは広場に背を向けました。早くここから立ち去りたくてたまりませんでした。

「お待ちください、お嬢さん」

 そんなシエに声がかかりました。シエが振り向くと、目の前にあの青年が跪いています。

「申し訳ありません、このハサミは拾った物です」

「まあ!」

 シエと町の人々は驚きました。

「私たち楽団は町から町へ旅をしており、つい先ほどこの町へと辿り着きました。さっそくこの広場で演奏を始めようとした時、私は広場の片隅に落ちていたこのハサミを見つけたのです。普段なら気にも留めないのですが、このハサミからは何かを感じました。不思議と、手に持ってみたくなったのです」

 人々は黙って青年の言葉に耳を傾けていました。みな、青年の語りに引き込まれていました。

 青年はおもむろにシエの手を取ると、広場の真ん中へ歩み出しました。

「手に持って、不思議な感覚は一層強まりました。まるでこのハサミが何かを催促しているかのように、訴えかけるかのように、生きているかのように、私には感じられました」

 青年とシエが広場の中心にくると、楽団がまた演奏を始めました。静かで穏やかな曲です。

 その曲に合わせて、青年がまた踊り始めました。チョキチョキという音が鳴り出しました。

「私は衝動に任せてハサミを広げ、閉じました。ハサミは、チョキンと不思議な音色を奏でました。その音で、私の中に何かがストンと落ちてきました」

 青年は踊り続けます。ハサミを振り回し、そこにいる見えない何かを切り裂いているかのように、踊っています。

「どうやら私はこのハサミの魅力に取りつかれてしまったようです。そして――お嬢さん、あなたの魅力にも」

 不意に演奏が止まりました。

 青年はまたも、シエの前で跪きました。

「お嬢さん。私はあなたの言葉を信じます。なぜなら、あなたからも不思議なものを感じるからです」

 そう言って青年はシエの手を取りました。

「私は音楽家です。音楽が持つ、目に見えない力があることを知っています。このハサミは、お嬢さんのもとに行きたがっている。私にはそれがわかります」

 シエの手にハサミが返されました。心なしか、ハサミが喜んでいるようにも見えます。

「私のハサミ……」

「ええ、あなたにお返しします。これはあなたにふさわしい」

 広場の誰もが、二人の会話に耳を傾けています。

「……いえ、このハサミはあなたに差し上げます」

「なぜ?」

「私はこのハサミにふさわしくありません。ただ私の家にあったからというだけで、大事にしまっていただけです。それをあなたは、こんなにも綺麗に演奏してくれました。だからこそ、あなたが持つべきだと思うのです」

 俯いたシエの顔は、広場の人々には見えません。唯一シエの顔を見ることのできる青年は、真っ直ぐシエを見つめていました。

 シエの手はハサミを握っていました。

「では、こうしましょう。我々と共に来ませんか?」

「……どういうことですか?」

「我々の楽団と共に旅をしませんか? ということです」

 青年は立ち上がると、シエをリードしながら踊り始めました。踊ったことが無いシエでもついて行けるような、ゆったりとした動きでした。

「私は言いました。お嬢さん、あなたの魅力にも取りつかれたと。あなたはとても美しい。私はあなたが欲しいのです」

「そんなことはありません。私はただの町娘です。」

「いいや、あなたは特別だ。このハサミの持ち主なのだから」

 二人は、広場の中央で立ち止まりました。

 青年が、シエの握られた拳に手を添えました。

「来て、くださいますね」

「……私は前向きなだけの、町はずれに住む、何もない少女です。それでも――いいのですか?」

「もちろん」

 シエの手の中で、ハサミがチョキリと、鳴った気がしました。

「……連れて行ってください、私を」

「ええ、行きましょう」

 音楽団が演奏を再開しました。とても陽気で楽しげに、新しい仲間を歓迎するかのような曲です。広場は拍手に包まれました。

 シエは笑っていました。青年も笑っていました。ハサミも、笑っているような気がしました。



 その後、シエは音楽団と共に様々な国を渡り歩き、いつまでも楽しく暮らしたそうです。





















 昔々、トループという町の外れにある小さな小屋に、シエという少女が住んでいました。

 シエは一人ぼっちでした。母親には病気で先立たれ、父親はシエの物心つく前に事故で命を落としたそうです。しかし、前向きな性格と努力でいつも元気いっぱいでした。

 そんなシエが大事にしている物があります。「切れないハサミ」です。

 とても古くて綺麗なハサミなのですが、何かを切ろうとしても切れません。ためしに砥いでみたり磨いてみたりしたのですが、どうやっても切れませんでした。

 これはずっと昔からシエの家にあるそうで、シエのお母さんのおばあちゃんの、そのまたおばあちゃんが魔女からもらった物だとシエは聞きました。売ってしまえば少しは生活が楽になるかとも思いましたが、ずっと昔からあるものを売る気にもなれず、大事にしまっていました。

「不思議な不思議なハサミさん。あなたは何を切るハサミなの?」

 ハサミに聞いてみても答えてはくれません。

 疑問に思いながらも、シエは毎日を精一杯過ごしていました。



 ある日、シエが町へ買い物に出かけている時、小屋に泥棒がやってきました。

「ほう、こんなところに小屋があったとは、知らなかった。何か掘り出し物があるかもしれないな、入ってみよう」

 泥棒は易々と小屋の中に侵入しました。

 しかし、がっかりしました。小屋の中は思ったよりもひどくみすぼらしかったからです。

「いいや、何かあるはずだ。探し出してやろう」

 泥棒は小屋中をひっくり返しました。

 そして、見つけてしまいました。大事にしまわれていたハサミを。

「あったあった、こういうのを探していたんだ」

 掘り出し物を見つけた泥棒は、意気揚々と小屋を去っていきました。



 それからしばらくして、小屋へと帰ってきたシエは驚きました。

「私の小屋がめちゃくちゃだわ!」

 慌てて何があったのかを見て回ります。

 そして、無くなっている物があることに気が付きました。

「無いわ! 私のハサミが無い! きっと、泥棒が持って行ってしまったのね」

 シエは悲しみました。例え切れないハサミでも、ずっと昔から大事にしてきた物だからです。

「どうしましょう……」

 考えても名案は浮かばず、時間ばかりが過ぎていきます。

「……考えていても仕方ないわ。できるだけ追いかけてみましょう!」

 前向きなシエはそう決めると、町へとかけて行きました。



 その頃、泥棒はというと、町の中で泥棒仲間に威張り散らしていました。

「みっすぼらしい小屋でな、何も無いように見えるんだ。だが、俺の勘が何かあるって言ってたのよ。そこで入ってみたら、こんな掘り出し物があったってわけさ」

泥棒は上手く盗めたことに得意満面でした。

 しかし、仲間は面白くありません。泥棒の自慢話に飽き飽きしているからです。

「はっはっは、お前らには真似できねえだろうな」

 この言葉にとうとう仲間たちが怒り出しました。

「うるさい! お前にそのハサミはもったいない!」

「俺たちが使ってやるよ!」

 そう言うと、仲間たちが泥棒に襲い掛かりました。

「なにすんだ!」

 泥棒と仲間たちはもみ合いになり、地面を転げまわります。

そのうちにふと、泥棒の握っているハサミがチョキンと鳴りました。

 コトリと、仲間の一人の手首が落ちました。

「ひ、ひいっ」

「えっ」

「お、俺の手、手がっ!」

 もう一度、ハサミがチョキンと鳴りました。

 今度は腕が落ちました。

「な、何すんだ!」

「ち、違う! 俺じゃない!」

「いたいよう! うでがないいよう!」

 仲間たちは怯えた目で泥棒を見つめます。

 泥棒は、呆然としました。自分の意思と関係なくハサミが動いたように感じられたからです。

「おい、行くぞ!」

「ひひっ、腕が無いぃ。うっでがっないー」

 仲間たちが、こんなやつといられないとばかりに逃げ出しました。

「ま、待ってくれ!」

 泥棒は焦り、仲間たちを追いかけていきました。



 一方、シエはというと、町の中を歩き回っていました。

「ああ、どこにいってしまったのかしら」

 町の知り合いや守衛にも聞いて回りましたが、誰もハサミの行方を知らないので、途方に暮れてしまいました。

「もう私のもとに戻ってくることは無いのかしら……」

 シエは悲しみ、足を止めて立ち尽くしました。

 すると……どこからか、チョキンと不思議な音が聞こえた気がしました。

「今のは……!」

 シエは不思議な音に惹かれて歩き出しました。

 少し行くと、広場の方で何やら騒ぎが起きているのか、人が集まっていました。

「何かあったのかしら?」

「なんだ、嬢ちゃんは知らないのか? なんでもこの辺りじゃ有名な泥棒が、ハサミ片手に暴れているらしい。それを衛兵隊が捕まえようと大捕り物を繰り広げてるって話だ」

「ハサミですって⁉」

 教えてもらった内容に、シエは驚きました。

 やがて広場に着くと、人々が輪になって、思い思いに中心を眺めていました。その中心の方からは、大きな怒号と、不思議なチョキンという音が聞こえてきます。

「もしかして……」

 シエは人をかき分け、輪の中心に出てきました。そこから見えた光景は、とても凄惨でした。

 広場のちょうど真ん中で一人の男が暴れています。その手にはハサミが握られ、傍らにはいくつかの真っ赤な塊が転がっていました。男と対峙するように、凛々しく精悍な青年が立っています。数多くの衛兵が緊張した面持ちで二人を見つめていました。

「早くそのハサミを捨てるんだ!」

「ち、違う! 俺がやったんじゃない! このハサミがやったんだ!」

「わかったから早く!」

「う、うわあっ!」

 ハサミを持った男――泥棒は、ハサミを大きく振り上げると、自分の首を切り落としてしまいました。

 広場は奇妙に静まり返りました。

「……」

 青年はおもむろに泥棒だったものに近づくと、その手からハサミを抜き取りました。

 ハサミは赤く光っていました。

「……私のハサミ……」

 シエが思わず呟いた言葉は、静かな広場にとてもよく響きました。広場中の注目がシエに集まりました。

 青年が振り向き、シエを見つめました。シエは俯きました。

「……顔を上げてください、お嬢さん」

 シエの前へと青年が歩み寄り、跪きました。

「……」

「私は、この町の近衛隊の隊長をしている者です。この町の正義を守っています。先ほど、この広場で暴れている者がいるとの報せがあり、駆け付けてみれば、巷を賑わす泥棒が仲間を切りつけていました」

 人々は戸惑いました。何故青年がそんなことを話し出したのかわからなかったからです。

 しかし、誰も文句を言いませんでした。みな青年の言葉に引き込まれていました。

「私は目を疑いましたが、すぐに納得しました。泥棒の手にこのハサミが見えたからです。とても不思議な力を持ったこのハサミが」

 青年は、シエに向かってハサミを掲げました。

 シエは俯いたままでした。

 いつの間にか、シエと青年が輪の中心になっていました。

「手に持ってみて確信しました。このハサミは魔法のハサミだ。正義を振るい、悪を切るハサミだ。泥棒はその手に握った正義で、自らの悪を断ち切ってしまったのです」

 青年はふと立ち上がり、ハサミを数度振って見せました。とても綺麗な舞を舞っているかのように見えました。

「このハサミの魔法はとても強力だ。正義を持つ私ですら、その正義に飲まれそうになる。この広場にいる悪という悪を切り裂きたくなる。――この私自身さえも」

 そう言って青年は自らの首にハサミを当てました。

 シエは驚いたように顔を上げました。

「ですが、あなただけは違う。あなただけは切りたいと思わない。いや、切りたいと思えない」

 青年はおもむろに、シエに向かってハサミを突き出しました。しかし、その手はシエに届く前に止まり、力なく垂れ下がりました。

「お嬢さん、私はあなたの言葉を信じます。このハサミは紛れもなくあなたのものだ。あなた以外に、このハサミにふさわしい者はいない」

 青年はまた跪き、シエへとハサミを差し出しました。

 シエは青年を見つめていました。

「……いえ、私にこのハサミはふさわしくありません」

「なぜ?」

「私はこのハサミを、ただの切れないハサミなのだと思っていました。昔からあるというだけで大事にしまっていただけです。ハサミにふさわしい正義など持ち合わせていません。むしろ、こんなハサミを持っていたことを罰せられるべきです」

 シエは目を伏せました。

 青年はシエを見つめていました。

「……ではこうしましょう。お嬢さん、私の伴侶となってください」

 突然の告白にシエは動揺しました。固唾を飲んで見守っていた広場にも、ざわめきが広がります。

「……どういうことですか?」

「これはお互いへの罰です。私が正義に飲まれ、己の悪を大きくした時、すぐさまこのハサミに切られることになる。それが私への罰。そしてお嬢さん、あなたには――」

 青年はハサミをシエに握らせました。

「その時、このハサミで私を切り捨ててください。それがあなたへの罰だ」

「罰……」

 シエは、ハサミを持った手を強く握りました。

「……私は前向きなだけの、町はずれに住む、何も無い少女です。それでも――いいのですか?」

「もちろん」

 シエの手の中で、ハサミがチョキリと、鳴った気がしました。

「……そのお話、お受けいたします」

「伴に過ごしましょう」

 シエと青年を見守っていた町の人々は、突然決まった婚姻に驚きました。しかし、次第に一人、二人と手を叩いていき、やがて広場中から拍手があふれ、祝福の歓声に包まれました。

「実は、お嬢さんに一目ぼれだったんですよ」

「まあっ」

 シエは笑っていました。青年も笑っていました。ハサミも、笑っているような気がしました。



 その後、シエは青年の伴侶として、慎ましく暮らしたそうです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「切れないはさみ」という道具の設定。それに続く、 それは何故なのか、という説明がちゃんとあること。 [気になる点] 青年が告白するところが唐突過ぎる。 「切れないはさみ」と少女の関係が希薄…
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