6 はる
おれが抱っこした瞬間寝付いた赤ん坊は、下ろしたらまた起きてしまうかもしれないと思ったが、恐る恐る葵の隣に寝かせたらぐっすりと寝たままでいてくれたので、おれはふたりを残して客間を出た。赤ん坊を抱っこしたままご飯を食べるってどうしたらいいんだと思っていたが、その難しい状況は回避できたのでほっとした。
夕飯を終えて(結局お蕎麦の出前をとった。一番頑張った葵が寝込んでいたのでお祝い気分になりきれなかったからだ)、赤ん坊と葵の様子を見に客間にもどると、葵は横になったままぼんやりと中空を見つめていた。
「葵……? 起きたのか?」
暗かったが眩しいのはよくない気がして、電気を付けずに葵のそばまで行った。月明かりのみにうっすら照らされた客間に、静かに響くのは赤ん坊の寝息。
「葵、大丈夫か? 起きたなら何か食べて……赤ちゃんにミルクもやらないとって助産婦さんが」
起き上がることなくぼーっとしたままの葵に、遠慮しつつ声を掛けると、葵はふっと目の焦点を合わせておれを見た。
「……あ……、栄……? おはよう。赤ちゃん……産まれたよ」
ほっと息を吐いて笑った葵の頭をそっと撫でる。
「うん、知ってる。もうおれ抱っこしたよ、ちっちゃくて軽いんだ。葵も抱いてあげたらいい」
出産直後に眠ってしまったからか、葵の言葉はちょっとズレていた。今更な言葉に笑いながら葵が体を起こそうとするのを手伝う。上体だけ起こした形で葵は振り返り、枕元で眠る赤ちゃんを見つめた。そこにいることは知っていたらしい。
「……ほんと、ちっちゃいね……。かわいい」
吐息に乗せるように呟いた葵の声にはどこか疲れが滲んでいた。少し掠れた声に、後で水を持ってこようと思う。
「葵、抱っこしてみたら? ……よっと」
赤ん坊を抱くのにちょっとだけ慣れたおれは、すやすやと寝息を立てる小さな体をそっと抱き上げた。そして葵の腕にそろりと下ろす。赤ちゃんを抱くのは初めてだというのに、葵は何故かすんなりと赤ん坊を抱きかかえた。おれがお袋に教わった抱き方で、危なげなく赤ん坊を抱く。
……と、赤ん坊の寝息が不意に止まり、一拍の後で小さな瞼がそっと開いた。もう本当に驚くことの連続なのだが、この赤ん坊は、誰が自分を抱いているのかがはっきり分かっているのかもしれない。母親に抱かれた瞬間に目を覚ますとか、普通の赤ちゃんにできることではない。
「……はじめまして、私の赤ちゃん。……ハル」
葵は目を覚ました赤ん坊をじっと見つめてそう言った。……はる。赤ん坊の名前は『春』にしたのだろうか。一月の末生まれなんだけどな……とか思いながら黙っていると、葵はふっと笑って話を続ける。
「……ええ、そうよ。ハル。春に生まれてくれたから、春」
「え、葵。一月は普通冬だぞ? 春は三月くらいからで……」
脈絡のない話し方に首を傾げ、しかもまだまだ寒い一月を春と葵が言ったから、それはどうかと思わずつっこみを入れてしまう。だが葵は笑っておれを見て言う。
「旧暦では一月からが春だって辞書に書いてあったの。だからハル」
いつの間にか日本語の仮名をマスターし、読める漢字もぐっと増えた葵の最近の愛読書は国語辞典だった。赤ちゃんをお腹の中に抱えている間にいろいろ調べたのだろう。旧暦なんて正直おれにははっきりわからないが、葵が言い切るのでそういうものなのかと納得した。
「あー、まぁそれならそれでいいけど……はる、か。よろしくな、はる。おれがお父さんだぞ?」
名付けは葵に任せようと思っていたから、葵が決めた名に異論はない。だからおれは先ほどの葵にならって、赤ん坊を見つめながら自己紹介した。赤ん坊――はるは瞬きをしておれの方を見てくる。やっぱり誰が話しかけてるかを分かっているみたいだ。
『おとうさん。おとうさん、ぼく、はるだよ』
「えっ!?」
耳の奥で響いた小さな声に、思わず耳を覆ってきょろきょろと周囲を見回す。今の高い声は誰だ? ……言葉からすると目の前の赤ん坊のものだと考えるのが妥当なのだが……まさか。
『おとうさん、ぼくだよ。はるだよ』
「…………あ~。はるはもう喋れるのか」
なんだかいろいろ諦めた気持ちで、はるを見つめた。……分かっていた。だって夕飯前に聞いたじゃないか。この子が話した第一声は『おとうさん』だったんだぞ。
普通子供の第一声には喜び沸いて大騒ぎするところで、しかもおとうさんなんて呼んでもらったら歓喜の渦に巻き込まれて幸せを噛み締めるところなのだろうが、生後数時間の息子に『おとうさん』と呼ばれたおれは単純に喜べなかった。ましてこうして会話するなんて、一般常識やら普通の概念やらはどこへいったのか、という事態だ。
……まぁそうこう言っても仕方がない。“普通”じゃない人を奥さんにしたのだ、今更非日常なんて受け入れて当然なのだ。
『うん、ことば、わかるけど、でも口ではしゃべれない。だからあたまではなすの』
「頭で?」
よく見てみると、はるの口は動いていなかった。時折パクパク動いてはいるものの、そもそも言葉を発するための筋肉とかは発達していないのだろうし、歯だってない。ただ動かしているだけの、言葉にあっていない口からは声は出ていない。ではどうやってこの声はおれに聞こえているのだろうか。首を傾げていると葵が助け舟を出してくれた。
「思念を送ってきているのよ。天使が遠くにいる仲間と連絡を取り合ったり、神から指示を受けるときなんかに頭の中で考えている言葉を相手に向かって飛ばすの。この子、きっとその力を無意識に使っているんだわ」
「へぇ、テレパシーってやつかな」
じゃあさっきの第一声も、本当にしゃべったわけじゃなかったのかもしれない。声が出せるとしても本来、舌っ足らずもいいところなのだ、赤ん坊の言葉は。
さすが天使だな、なんて葵の言葉に感心した後で、いや違うだろ、と自分にツッコミをいれた。
「すごいのはわかったけど、でも無差別に話しかけるのはまずいな。だって人間の子供はそんな能力……」
「持っていないのよね。……ね、ハル? あのね、お父さんとお母さんには話しかけてもいいけど、他の人にはダメよ。みんなびっくりしてしまうから」
葵は腕に抱えたはるを揺らしながらのんびりと言った。はるはきょとんとした顔で葵を見上げ、瞬きを二つした。
『うん? わかった』
親父とお袋はどうかなぁ。この子が話せるってわかったら話したがるだろうなぁ、と考えていたが、ふともう一つ、禁止しておかなければならないことを思い出した。
「葵、葵! そういえばこの子、飛んだんだよ。正確に言えば浮いた」
「え?」
テレパシーが送られてくることよりも、視覚的にこちらの方がまずい気がする。
「さっきおれが抱いてるとき、突然ふわって浮いたんだ。はるは寝てたからきっと無意識だと思うんだけど……。……なぁ、はる。おれの言葉わかるか? おれとお母さんの前でだったら別にいいけど、誰か他の人の前で浮いたりしちゃダメだ。それってコントロールできるのか?」
焦りながらはるに向かって言う。生まれて間もない子供に言うようなセリフでも言葉遣いでもない気はしたが、今更だ。
『こんとろーる? ……ちょうせい? できる、かな?』
はるの頭の中で「コントロール」が「調整」に置き換わったらしい。なんて賢いんだ……ではなくて『できるかな』という自信のなさが怖い。
本人がコントロールできないのであれば、誰かお客が来ているときにふよふよ浮く可能性があるのだ。
「できるかな、じゃなくてしてくれないと困るんだけど……。葵、どうしたらいいかな」
困ったおれは葵に助けを求めた。葵も首を傾げて何かを考えているようだった。
「……浮くのは……もしかしたら制御できないかもしれない……。天使って生まれてしばらくの間、何もせずに空間に浮いていることが多いから……もしハルが天使の力を持ちすぎているなら無意識のうちに浮くのは止められないかもしれないわ」
「わ。本当に? ……うーん」
深刻そうな顔で葵が言うので、間違いようのない事実なのだろう。赤ちゃんが生まれてこんなことで悩むとは思ってもみなかったが、ここへ来てなんだか逆に面白くなってきてしまった。……息子が浮くとか、テレパシー飛ばして来るとか。なんか考えようによっては面白くないか。意思疎通が取れるならそれに越したことはないし。浮いてくれるなら移動にも便利か?
「……な、葵。しばらくの間って言ってたけど、しばらくすると浮くのはやめるのか?」
「え? うん、そうね。自我が確立されて自分で動けるようになれば、無意識に浮くことはなくなるわ」
「じゃあ決まりだな」
――今更非日常なんて、受け入れて当然ってさっきも思ったし。ガタガタ言っても始まらないし。
「よし、はる。あのな、この家の中でだったら浮いててもいいし、誰に話しかけてもいい。おれや葵……お母さんだけじゃなくて、おじいちゃんにもおばあちゃんにも話しかけていい。それとついでにおじいちゃんおばあちゃんに抱っこされても泣かないでいてくれると嬉しいんだけど」
最後の方は苦笑まじりで言って、はるのほっぺたを突っついた。ぷに、と柔らかい感触となめらかな肌がなんとも言えない。
『……おとうさん、いいの?』
はるは少し不安げな顔でおれを見つめてきた。おれが困っていたのが分かったのだろう。新生児がこんな表情を出せるのかと思いつつ、はるの頭をそっと撫でる。うっすら生えた髪の毛がふわふわと柔らかい。頭も確か頭蓋骨が固まってないって話だったと思うが、全体的にふにゃふにゃしている。
「いいんだ。だってはるはそれがはるじゃないか。元気に生まれてきてくれただけでお父さんは嬉しいんだ。はるがのびのび育ってくれるのが一番さ。我慢は良くない」
おれがそういうと、はるはひとつ、ふたつまばたきをした後で笑った。歯の生えてない口を開けて、きゃらきゃらと。その嬉しそうな様子にほっと息を吐くと、葵が嬉しそうにおれを見ていた。
「……栄、ありがとう」
「お礼を言われることじゃないよ。そもそも多少のことじゃ動じない家族なんだ、親父もお袋もはるとおしゃべりできたら喜ぶに決まってる。知られるとまずい人を家にあげなきゃいいし、もしお客さんが来ちゃったら二階に避難したらいい。あれこれダメって言うよりは、おれたちでなんとかできることはなんとかしよう、な?」
言葉がわかっても、やっぱりはるは赤ん坊だ。赤ん坊に禁止事項を突きつけたっていつもそれが守られるとは限らないし、それを期待するのは大人の怠慢だろう。何をどう考えようとはるがこうある以上、うまいこと世間に隠せさえすれば穏やかな日々は守られるはずだ。葵が楽しく暮らしているように、はるにも楽しく成長して欲しい。
「それから……葵、まだ言ってなかったけど、こっちこそありがとう、な。こんな元気な赤ちゃん産んでくれて……大変だっただろう?」
大切なことを言い忘れてしまっていた。はるの存在があまりにも驚きに満ちていたので、頑張った葵を労うのを忘れてしまっていたのだ。はるを抱っこしたままの葵に腕をまわし、そっと抱きしめ髪に触れる。はるの髪とはまた違った、でも柔らかい感触。額にそっとキスをして離れると、葵はふんわりと笑った。
「よかった、無事に生まれてくれて。それだけで、よかった」
葵は嬉しそうに見上げてくるはるを見つめて言った。感慨を含んだその言い方に、お産の大変さを思う。
男のおれには膨れて重くなっていくお腹も、調子が悪くて辛そうな時でさえもどうしたって人事で、その苦しみを理解することができなかった。出産に立ち会うこともできなかったから、どれだけ大変だったかも想像はできないけれど、いまこうして生まれてきてくれた小さな子供を前にしたら、葵が楽になるように協力して子育てしていかないとな、と強く思った。
「……楽しみだな、どんなふうに育つのかな」
もはや先行きなど予想もできやしない我が息子であるが、成長は純粋に楽しみである。大きくなったら一緒に何をしようかと早くも妄想を始めてしまうところだ。ふっとそんな想いを零したら、葵もおれにならって笑って言った。
「きっと大きくなるよ。栄に似て背が高くなる」
「葵が言うとなんだか予言みたいで恐いな。でもそうなったらいいな」
クスクスと笑いあっていると、不意にまた小さくて高めの声が頭の中に響く。
『おかあさん、おなかすいたー』
会話に夢中で助産婦さんに言われていたことをすっかり忘れていた。はるはまだ何も口にしていない。葵が眠ってしまっていたので本当は粉ミルクを与えようとしたのだけれど、この子は頑として吸おうとしなかったのだという。だとすれば他に口にする可能性のあるものは母乳しかない。
「えっと……とにかく口に含ませて吸わせてあげるって言ってたっけ……」
葵はつぶやきながら、前合わせの浴衣から片方の胸を取り出した。はるの口元へ持っていくと、はるは待っていたかのように吸い付いてクンクンと飲み込んでいる……様子だ。
「……飲んでる?」
おれが尋ねると、葵は
「……多分」
と不思議そうな顔で返す。感覚がないのだろうか、と思っているとはるから
『おいしいよー』
と思念が送られてきた。
やっぱり意思疎通が取れるのはいいことだよ、と葵と笑いあってみているうちに、はるは好きなだけミルクを飲んで満足したらしい。口を離すとウトウトし始めた。さすが赤ちゃん、飲んだら寝るだけ。だが葵ははるを肩の方へ抱き上げてとんとん、と背中を叩きだした。
「あ、ゲップさせるんだっけ」
そういえば助産婦さんに習ったなぁとうろ覚えのおれに対し、葵はちゃんと覚えていて当たり前に実行している。見習わないと、と様子をみていると、はるは「けふっ」と空気を吐き出した。……どうやら初めてのゲップは成功したらしい。
『おとうさん、おかあさん、おやすみなさい』
とろんとした目を半分くらい閉じた状態で、はるが言う。なんと律儀な、と思いながら、おれは返事を返した。
「ああ、おやすみ。よーく寝ろよ? 寝る子は育つって言うし」
「おやすみ、ハル。また明日ね」
『うん……』
それっきり、小さな小さな体をくてんと葵にあずけるように、はるは寝入ってしまった。あれ、赤ちゃんって寝かしつけるの大変なんじゃなかったっけ、と頭の隅で思ったが、人間的常識はもうどこかへしまってしまったほうがいい。はるははるだ、好きなように成長するだろう。
葵ははるを布団の上に下ろし、手近にあったタオルを乗せた。いつも使っている大きさの普通のタオルが赤ちゃんには布団の代わりになるのだから面白い。呼吸で上下する胸を見ながらほっとして、はるの頭をそっと撫でた後ではっと気づく。
「そうだ、葵も何か食べた方がいいな。一応蕎麦がとってあるけど……もうフニャフニャになってるなぁ……」
汁を吸ってしまった蕎麦を思い浮かべながら葵を見ると、葵は慈愛に満ちた表情ではるを見つめていた。おれの視線に気づき顔を上げ、にっこりと笑う。
「あのね、栄。ハルの名前の漢字、知りたい?」
食事の話は聞いていなかったらしい。だがキラキラと楽しそうな目でそういうので、とりあえず話に乗ることにした。
「え? なんだ? 普通に『春』、じゃないのか?」
「ふふふー。実はね……そのノートに書いてあるんだけど……」
這ってノートを取りに行こうとする葵を制して、おれは部屋の隅に置いてある葵のノートを取りに行った。葵の元へ戻ってぱらりとノートを開くと、たくさんの漢字が一面に並んでいた。
「うわっ、葵、こんなに調べたの?」
漢字の並びを見ていると、どうやら葵ははるの『は』と『る』を別の漢字で表そうとしたらしい。『は』と読む漢字と『る』と読む漢字が整然と並び、その意味や成立の由来などまで書かれていた。
「うん。それでね、いろいろ考えてみたんだけど……これがいいかなって。どうかな?」
葵が指し示したのは、その次のページに書かれたものだった。
『覇 朧』
……なんだろう、何を制覇するつもりだろう。っていうかこれではるって読むのか? それに字面が硬すぎるし、なにより画数が多過ぎる。
「……なぁ、葵? これ、はるが名前書くときにすごく苦労すると思わないか? 本人が一番この漢字を書く事になるんだぞ?」
テストの時とか、名前書くのに時間をロスするパターンだよなぁと思いつつ、それは言わないでおいた。
はる、という名前の響き自体はいいのだが、いかんせんこの漢字ではちょっと、と難色を示すと、葵はああ、と納得した様子で唸った。
「ああ~そっか、書くの大変だよね。考えてなかったなぁ。そしたらもうちょっと簡単な漢字の方がいいよね。うーん、どうしよう」
そういって考え込んでしまった葵に苦笑しながらおれは提案する。
「そしたらさ、ご飯食べながら考えた方がいいんじゃないか。な、お腹が空いてるといいアイデアって出ないもんだよ」
おれはうまいこと促して葵にご飯を食べさせることに成功した。膝の上のお盆に乗せた温めなおした蕎麦(残念ながら汁はほとんどなかった)を口に運びながら葵は脳内で漢字の組み合わせを模索しているらしい。近くに広げたノートの漢字を見ながらの上の空の箸運びで、口の中に入らない蕎麦が落ちる度にはっとする。
「葵……とりあえず食べてから考えたら? 時間はたくさんあるんだし。いますぐに決めなきゃいけないわけじゃないんだから」
「……うん……。ね、これはどう?」
葵はそう言って鉛筆を取り、ノートに書き記した。
『羽 留』
だいぶ画数も減って見慣れた漢字になった。これならまぁいいかな、と思って頷く。
「ああ、さっきのよりだいぶいいな。羽を留める……か。ふふ、季節の春かとおもいきやってところが面白いな」
意外性がまた葵らしい、と思って笑うと、葵はにこにこ笑いながら説明してくれた。
「春生まれだからね、はる、なんだけど、せっかくだから漢字は違うのにしようかなって思って。そうすると二つの意味が名前に付くじゃない? それでね、この字はそのまま、ずっと傍にいられるようにっていう意味で……わかるかな?」
「ああ、わかるよ。つまり鳥の羽のことだろ? こう……飛んで行かないで、羽を休めて、みたいな?」
身振りを交えて理解したことを示すと、葵は大きく頷いて瞳をきらめかせた後、ふっと笑った。
「うん。……そんな感じ。ね、どうかな、いいかな?」
了承をせかすような言い方に笑いながら答える。
「ああ、いいんじゃないか。決まりだな。羽留」
「ふふっ、よかった」
葵は安心したように笑って蕎麦を食べるのを再開した。今度は懸念要素がないので集中して食べている。なんでも夢中になっちゃうのが葵らしい。一般的に言えば子供っぽいのだろうが。
親父とお袋はもう寝てしまったようだ。明日、羽留と会話できることやあの子が浮くことなんかを話したらどうなるんだろう、とほくそ笑みながら、羽留を見つめた。何も不安のない、穏やかな眠り。
今日から親子三人、川の字だなと笑っておれは葵が蕎麦を食べるのをぼんやり眺めていた。
出産やら赤ちゃんのあれこれに関してはフィクションですのでぼんやりスルーしていただけると幸いです。ただ絶対にこれは違うよー!などの記述がありましたらご指摘いただけますようお願いします。




