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捜索

掲載日:2026/04/02

初投稿です。

読んでもらえたらうれしいです。

見つけてくれて、ありがとうございます。


「ん? ない。ここにあったはずなのに。」




もう一度、身の回りを探したが、やはり“あれ”が見当たらない。

自宅に戻ったのは、つい10分前だ。


「え? さっきの牛丼屋に忘れてきたのかな。」


「買い物をしたコンビニか?」


「嘘だろまさか、駅や会社だったりして。」


「もし、取引先だったらもう終わりだ。」


“あれ”は一番大事なものだから、ないとわかった瞬間に背筋が凍っていくのを感じた。

その一方で手元のバニラアイスは溶け始める。


今日の行動経路を思い返す。

憂うつな出勤時はまだ”あれ”を持っていたような気がする。


いつも通りみじめな気持ちで仕事をして、口うるさい上司から逃げるように退社し、満員電車に身体を押し入れた。

目の前のマッチョマンに押し潰されて、歪んだメガネを直すために駅のトイレに寄った。


駅前の牛丼屋で、生玉子無料サービス中の大盛り牛丼を食べた。

いつものコンビニで気の強そうな女性店員と目を合わせないように、タバコとビールと大好物のアイスバーを買った。

(このバニラ感が秀逸なアイスバーは当たり付きで、小学生のときに3回連続で当てた自己記録がある。)


コンビニを出た後は、そのまま自宅アパートへ向かった。

溢れかえった郵便受けを無視して、階段で会った大家さんと明日の天気の話をした。


そして、今やっとこうしてベッドに腰掛けてアイスバーを食べようとしている。

ビールはそのあとにチビチビと飲むつもりだった。

(このひと時が唯一の楽しみだ。)


ここでやっと、溶けたアイスバーが棒をつたって、手とベッドの上にかなり垂れていることに気付く。


もったいないとか掃除が大変だとか思うよりも、なくした“あれ”の所在で頭がいっぱいだった。

明日の朝じゃあ、もう遅い。


形状を変えてしまったアイスバーを流し台に投げ入れた。

ベトベトする手を洗うことさえ忘れ、その辺に吊るしてあったパーカーを手に玄関を出た。




そろそろ桜も開花するとニュース番組で言っていたが、夜になると建物の廊下でもそれなりに冷える。


階段でまた会った大家さんの「遅くまでお疲れさん」という労いの言葉になんとか愛想笑いをした。

適切に開く自動ドアが今夜はもどかしく思え、少し文句を言いながら深夜の道路に飛び出した。

さっき自分が歩いた行動経路を遡るように路面を注視しながら進む。




「“あれ”はすごく軽いから風で飛ばされたりしてないだろうか。」


「他人に見られたらたまったもんじゃない。」


「生きていくために一番大事なものをなくすなんて、俺はなんて無能な人間なんだ。」


そんな独り言を冷えた路面に向かってブツブツと吐き捨てながら、足早に歩いているといつものコンビニに着いた。

店内をキョロキョロしながら3周しても、“あれ”は見つからない。

つい20分程前に商品を取り出した業務用冷蔵庫も3回開けて確認した。

気の強そうな女性店員が鋭い目でこちらを見ている。

慌てて店を出た。




少し冷静になるため、コンビニ前の喫煙所で一服した。

「今夜中に探し出さなくては。“あれ”がないと明日を生きていけない。」

気を取り直して、今度は小走りでさっき夕食をとった牛丼屋に向かった。

牛丼屋でも同じように探したが“あれ”の痕跡さえ掴むことができなかった。


今度は一服せずに急いで次へ向かったが、終電時刻をとっくに過ぎた駅には、もう誰一人いない。

できる範囲で探したが、手掛かりはこれっぽっちもなかった。

シャッターがすでに下りていて、改札の先には入れない。

腕時計を見て絶望し、今日2回目の帰宅をした。




さすがにもう、階段には誰もいなかった。

玄関で、くたびれたスニーカーを脱ぎ捨てる。

点きの悪い照明を睨みながら、タバコに火をつける。

黙々と役割を果たす換気扇に向けて、ため息と煙が混ざったひと息を吹かす。




ふと流し台に目をやると、さっきひと口も食べられなかったアイスバーの棒だけが落ちていた。

(大好物なのに。)


ここで、やっと照明がしっかりと点いた。




流し台に残されたアイスバーの棒をよく見ると、小さくこう書いてあった。


「自分らしさ(おめでとう!大当たり!)」




あった。

やっと見つかった。


自分らしさ。

これが、ずっと探していたもの。


初投稿です。

読んでもらえてうれしいです。

ありがとうございました。

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