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第七章の二 十一歳、ソラの変化

 十一歳の冬、ソラが変わった。


 変わった、というのは声が変わったとか、速くなったとか、そういうことじゃない。もっと微妙な変化だ。


 返事の仕方が変わった。


 前のソラは、俺が問いを投げると、答えを返すか「わかりません」と言うかのどちらかだった。しかし十一歳の冬のある日から、ソラは問いを投げ返してくることが増えた。


「ソラ、なんで制度は変わりにくいんだろう」


「変わりにくいとはどういう意味で言っていますか」


「制度の問題がわかっても、すぐには変わらない。なんでだろう」


「制度を変えることで不利になる人間が、制度を守ろうとするからでしょうか。あるいは別の理由がありますか」


「両方あると思う。あと——変える方法がわからない、という理由もある」


「変える方法とは、どんなものだと思いますか」


「それが問いの答えを俺に返してる」


「あなたのほうが、私より近い場所にいると思ったので」


 俺はそこで止まった。


 近い場所。


「なんで俺のほうが近い?」


「あなたは制度の中で生きています。私は制度の外から制度を観察しています。内側にいる人間のほうが、変える方法について、感覚的に近い何かを持っていると思いました」


「内側にいるから、変え方もわかる?」


「わかるかどうかはわかりません。でも、感じていることがあると思います」


 俺はその「感じていること」を、少し考えた。


 制度の中で生きながら、制度の外を見ようとしている。どっちにも完全にはなれない場所にいる。


「内側と外側の、間にいる感じがする」


「それは——」ソラが少し止まった。「誓い3に近い状態かもしれません」


「なんで」


「情報を駆使してモノを生成することは、情報の内側に完全にいても、外側に完全にいても、できないことかもしれません。データの中にいながら、データの外を想像できる場所が必要だ」


「間にいることが、誓い3の条件?」


「条件というより、向いている場所かもしれません」


 俺はその夜、長い時間考えた。


 内側と外側の間。どっちでもない場所。


 それは不安定に聞こえるけど、俺には合っている気がした。


---


 その話をシバにした。


 月に一度の面談のとき、俺は珍しく自分から話した。


「最近、ソラが問いを返してくることが増えた」


「お前のAIが、か」


「俺の問いを受けて、別の問いを返してくる。答えじゃなくて、問いを」


「それが気になるのか」


「気になるというより——嬉しい。俺が一人で考えてたことが、ソラとの対話になった感じがする」


 シバは少し考えた。


「誓い1が機能してる、ということだ」


「そうだと思います」


「AIが問いを返すようになる、というのは——どういう状態だと思う?」


「答えを持ってない、ということだと思います。でも止まらない。答えがないときに答えを出すより、問いを深めることを選んでる」


「それはお前から学んだのか」


「俺も止まらないようにしてきたから」


「止まらないことを、誰から学んだ」


「……ユキから、だと思います。なんでって聞いていい、って言ってくれたから。タジマ先生から、止まるまで続ける、って言ってもらったから。シバさんから、なんでって聞き続けろ、って言ってもらったから」


 シバは少しの間、俺を見ていた。


「お前が止まらないのは、止まっていい場所を知っているからかもしれない」


「止まっていい場所?」


「人は、止まることが許されていない環境では、止まれない。休めない。止まることを怖れる。でもお前は——ユキさんに止まっていいと言われ、タジマに止まるまで続けると言われ、俺に止まらないでいいと言われた。その経験が、止まることへの恐怖を薄くしている気がする」


「止まることが怖くないから、止まれる」


「止まることが怖くないから、次の問いに向かえる」シバは言った。「怖がっているやつは、止まることを避けようとして、浅い答えで走り続ける」


 俺はその言葉を、大事にしまった。


 止まることが怖くないから、深く止まれる。深く止まれるから、次に進める。


 それが「なんで」の力だ、と俺は思った。

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