表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

第七章の一 十一歳の夏、ユキと空白

 十一歳の夏の里帰りは、長かった。


 いつもより一日多く延長してもらえた。シバが「里帰りは大事だ」と言って、特別に手続きをしてくれた。


 ユキの部屋に着いたとき、壁が少し変わっていた。


 カリキュラムの予定表が貼ってあった場所が、空白になっていた。


「何か貼ってたとこ、なくなった」


「あなたが行ったから、カリキュラムがなくなったから」ユキは言った。「そのままにしてる」


「貼らないの?」


「何を貼ればいいかわからなくて」


「空白のまま?」


「空白のまま」


 俺はその空白を見た。四角い、白い壁。何も語っていないように見えて、何かを語っている。


「ユキ、空白が語る、ってこと覚えてる?」


「前に話したね。書いてないことがデータになる、って」


「あの空白も、語ってる」


「何を?」


「ユキの七年間が、あそこにあった。カリキュラムの予定表という形で。それがなくなって、空白になった。でも七年間がなくなったわけじゃない。形が変わっただけ」


 ユキはその空白を見た。


「……そういうふうに見るんだね」


「最近そういうことを考えてる」


「ラプラス社で学んでることが、そこに繋がってるの?」


「繋がってると思う。データを読む、パターンを見る、空白を語らせる——全部、同じ方向に向かってる気がする」


「誓い3の方向?」


「そう」


 ユキは少し考えた。


「情報を使って何かを生成すること——生成って、ゼロから作ることじゃなくて、あるものを別の形にすること、かな」


「そう思う。データがある。パターンがある。空白がある。それを、別の誰かに見えるような形にすること」


「見えるようにする」


「うん。見えないものは、考えられない。考えられないものは、変えられない。だから見えるようにすることが最初だ」


 ユキはしばらく黙っていた。


「あなたがそういうことを言うようになるとは思ってなかった」


「なんで」


「七歳のとき、なんでって聞いてばかりだったから」


「今も聞いてる」


「聞いてる。でも今は、聞いた後に自分で答えを作ろうとしてる。前は止まってたけど、今は止まった後に歩こうとしてる」


 俺はその分析を、少し考えた。


「それがシバが言ってた、成長、かな」


「成長って、なに?」とユキが逆に聞いた。


「……前より先に行けること?」


「前より先に行けること、か」ユキはそれを繰り返した。「先って、どこ?」


「まだわからない。でも向かってる方向はある」


「その方向が、誓いの方向?」


「そう」


 ユキは頷いた。


「あなたの誓いは、正しかったと思う」


「なんで」


「あなたが向かいたいところに、向かいながら育ってるから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ