第三部 十歳〜十一歳(問いが深くなる) 第六章 シバの中間評価
十歳のとき、シバに呼ばれた。
三年間の中間評価だった。
シバの部屋は、事務机と椅子だけの簡素な部屋だった。壁に何も貼っていない。窓から光が入っていた。
「座れ」
座った。
「三年分のログを見た」シバは端末を俺に向けた。「思ったより面白い動き方をしてる」
「面白い?」
「論理的推論の深さが、年齢の標準を超えてる。問いの追求が続いている。それは素体スコアから想定の範囲内だ」
「想定の範囲内、ですか」
「ただ」シバは少し間を置いた。「素体スコアから想定される成長速度より、実際が速い。ログの量は標準的なのに、内容が濃い」
「なんでだと思いますか」
「ソラだろうな」シバは言った。「誓い1——AIアシスタントが成長すること。それが本当に機能している。ソラはお前の端末として、他の子より速く変化してる」
「ソラが速いから、俺も速い?」
「相互作用だ。お前がソラを変え、ソラがお前を変える。その循環が、他より速い」
俺はそれを聞いて、少し嬉しかった。でもすぐに別のことを考えた。
「シバさん、一つ聞いてもいいですか」
「言え」
「ログが薄い子は、ずっと薄いままになるんですか」
シバは少し眉を動かした。
「なんでそれを聞く」
「俺のログは薄い、と査定で言われました。でも今、ソラが速く変化してるとシバさんが言った。ログの量が薄くても、内容で変わることがある」
「そうだ」
「でも、俺みたいになれない子が、たくさんいると思う。ソラを育てる時間がなかった子、誓いを入れていない子——そういう子は、ずっと薄いままになりやすい?」
「……可能性は高い」シバは静かに言った。
「それって、公平ですか」
シバは俺を見た。
長い時間、見ていた。
「公平かどうかを聞いてるのか」
「聞いてます」
「難しい問いだ」シバは少し考えた。「制度は公平だ、と設計されてる。誰でも試験を受けられる。誰でも評価点を贈れる。誰でも選挙に参加できる」
「でも」
「でも——スタートが違う。ログが薄い子が薄いのは、その子の努力が足りなかったからじゃない場合が多い。環境の差だ。その環境の差が、制度の数字に入らない」
「入らない、ということは」
「制度はそれを見ていない。見えない差を、見えないまま扱っている」
俺はその言葉を、大事に持った。
「シバさんは、それがおかしいと思いますか」
「おかしいかどうかよりも——」シバは少し間を置いた。「仕方がない、という部分と、おかしいんじゃないかという部分が、両方ある」
「日によって、どっちが大きいですか」
シバは少し驚いた顔をした。
「……なんでそんなことを聞く」
「ユキが同じようなことを言ってたから」
「生みの親か」
「はい。日によって違う、と言ってた」
シバはしばらく黙っていた。
「賢い人だ」シバは言った。「その人の子だと思えば、納得がいく部分がある」
それがシバについて知った、最も大事なことだった。




