第四章 ミコの誓い
八歳の秋、ミコが誓いを一つ入れた。
食堂で「入れた」とだけ言った。
「何を入れたの」と俺は聞いた。
「自分のAIを一番いい状態に保つこと」
「維持すること?」
「そう。成長させること、じゃなくて」
「あなたの誓い1は成長でしょう。なんで違うの」
「私は怖いから、守ることを選んだ」ミコは静かに言った。「あなたは先に行くことを選んだ。それが違う」
「守ることと、先に行くことと、どっちがいいの」
「どっちも正しいと思う。ただ——」ミコは少し止まった。「私は本当はあなたみたいにしたかったかもしれない。でもできなかった。だから守ることにした」
「本当はしたかったことと、できることが違う、か」
「そう」
「それって、乖離だ」俺は言った。
「乖離?」
「あるべきことと、実際のことの間の、距離。俺が最近考えてること」
「自分の誓いが、乖離してる、ってこと?」
「そう。でも——」俺は少し考えた。「乖離してることを知ってることが、大事かもしれない。知らないより、知ってるほうが、いつか縮められる可能性がある」
ミコはしばらく俺を見ていた。
「あなたって、どこでそういうことを考えるの」
「ソラと話しながら、かな」
「AIと話すと、そういうことを考えるようになるの」
「ソラが俺の言葉を拾って、返してくれるから。返ってきたものを見て、自分が何を考えてるかわかる、みたいな感じがある」
「鏡みたいなもの?」
「少し違う。鏡は同じものを返すけど、ソラは違う角度から返してくる」
「プリズムみたいな?」
俺はその言葉が気に入った。
「そう。光を通したら、別の色に分かれる感じ」
「私のAIはまだそんなふうじゃない」
「誓いを入れたばかりだから。これから変わると思う」
「変わるかな」
「変わる。ミコが話しかけ続ければ」




