第二章 シバと最初の仕事
翌朝、担当者が部屋に来た。
シバという名前だった。四十代くらい。背が高く、動きに無駄がなかった。端末を持って、入り口に立った。
「レン。おはよう」
「おはようございます」
「緊張してるか」
「少し」
「正直でいい」シバは部屋の中を見回した。「慣れるのに時間がかかる子もいる。慣れない子もいる。どっちでも構わない。ただ、仕事はする。それだけだ」
「仕事って、今日からですか」
「教育課程が先だ。まず学ぶ。七歳から十五歳まで、学びながら働く。両方同時だ」
「学ぶことと働くことが、同時?」
「当たり前だ。学ぶことが仕事で、仕事が学ぶことだ。分けられるものじゃない」
「なんでそうなんですか」と俺は聞いた。
シバが少し止まった。
「なんで、か」シバは小さく笑った。「お前、なんでって聞くタイプか」
「よく言われます」
「悪いことじゃない」シバは廊下に向き直りながら言った。「なんでって聞き続けろ。答えが出ないうちは、考え続けろ。それが仕事だ」
その言葉が、最初にシバを信頼した瞬間だった。
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最初の実習は、データの「読み方」だった。
タジマという先生が担当した。三十代くらいで、眼鏡をかけていた。黒板に数字の表を書いて、俺たちに見せた。
「これを見て、何がわかるか言ってみろ」
俺は表を見た。縦と横に数字が並んでいる。
「大きい数字と小さい数字がある」と俺は言った。
「それだけか」
「右上が大きい。左下が小さい」
「パターンがある、ということだ。パターンがあるとき、そのパターンは何かを語ってる可能性がある。それを読むのが、データ分析だ」
「パターンが語ってる、って、どういう意味ですか」
「数字は言葉じゃない。でも、並び方が何かを示してることがある。どんな状況でこの数字が生まれたか、を逆算できる」
「なんで逆算できるんですか」
タジマは少し止まった。他の子たちは黒板を写していた。俺だけが、タジマを見ていた。
「なんで逆算できるか——因果関係があるからだ。結果には原因がある。原因があるから、結果を見て原因を推測できる」
「推測が間違うことは?」
「ある。だから仮説と言う。仮説を立てて、データで確認する」
「確認できなかったら?」
「また別の仮説を立てる」
「ずっと続くの?」
「ずっと続く」タジマは少し笑った。「止まるまで続く」
「止まるのはいつですか」
「答えが出たとき。あるいは、問いがなくなったとき」
「問いがなくなることはある?」
「お前には——ないかもしれないな」
タジマのその言葉を、俺はかなり長い間覚えていた。




