表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

第二章 シバと最初の仕事

 翌朝、担当者が部屋に来た。


 シバという名前だった。四十代くらい。背が高く、動きに無駄がなかった。端末を持って、入り口に立った。


「レン。おはよう」


「おはようございます」


「緊張してるか」


「少し」


「正直でいい」シバは部屋の中を見回した。「慣れるのに時間がかかる子もいる。慣れない子もいる。どっちでも構わない。ただ、仕事はする。それだけだ」


「仕事って、今日からですか」


「教育課程が先だ。まず学ぶ。七歳から十五歳まで、学びながら働く。両方同時だ」


「学ぶことと働くことが、同時?」


「当たり前だ。学ぶことが仕事で、仕事が学ぶことだ。分けられるものじゃない」


「なんでそうなんですか」と俺は聞いた。


 シバが少し止まった。


「なんで、か」シバは小さく笑った。「お前、なんでって聞くタイプか」


「よく言われます」


「悪いことじゃない」シバは廊下に向き直りながら言った。「なんでって聞き続けろ。答えが出ないうちは、考え続けろ。それが仕事だ」


 その言葉が、最初にシバを信頼した瞬間だった。


---


 最初の実習は、データの「読み方」だった。


 タジマという先生が担当した。三十代くらいで、眼鏡をかけていた。黒板に数字の表を書いて、俺たちに見せた。


「これを見て、何がわかるか言ってみろ」


 俺は表を見た。縦と横に数字が並んでいる。


「大きい数字と小さい数字がある」と俺は言った。


「それだけか」


「右上が大きい。左下が小さい」


「パターンがある、ということだ。パターンがあるとき、そのパターンは何かを語ってる可能性がある。それを読むのが、データ分析だ」


「パターンが語ってる、って、どういう意味ですか」


「数字は言葉じゃない。でも、並び方が何かを示してることがある。どんな状況でこの数字が生まれたか、を逆算できる」


「なんで逆算できるんですか」


 タジマは少し止まった。他の子たちは黒板を写していた。俺だけが、タジマを見ていた。


「なんで逆算できるか——因果関係があるからだ。結果には原因がある。原因があるから、結果を見て原因を推測できる」


「推測が間違うことは?」


「ある。だから仮説と言う。仮説を立てて、データで確認する」


「確認できなかったら?」


「また別の仮説を立てる」


「ずっと続くの?」


「ずっと続く」タジマは少し笑った。「止まるまで続く」


「止まるのはいつですか」


「答えが出たとき。あるいは、問いがなくなったとき」


「問いがなくなることはある?」


「お前には——ないかもしれないな」


 タジマのその言葉を、俺はかなり長い間覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ