第一部 七歳(到着) 第一章 広さの正体
ラプラス社の寮に着いたのは、昼過ぎだった。
担当者に連れられて廊下を歩いた。白い廊下。角を曲がるたびに、同じ白い廊下が続いた。どこも同じに見えた。でも担当者は迷わずに歩いた。この廊下を何度も歩いた人の歩き方だった。
部屋の前で止まった。
「ここがあなたの部屋です」
ドアを開けた。
1LDK。寝室と、小さなリビングダイニングキッチン。
七歳の俺には広すぎた。
でも広いのに、狭い感じがした。
しばらく立ったまま、部屋の中を見回した。白い壁。窓から外の光。台所に小さなトースター。
トースター。
俺は台所に近づいて、それを見た。ユキの家のと同じ形をしていた。
「ソラ」
「はい」
「これで朝食が焼ける?」
「焼けます」
「焦げる?」
「設定次第です」
俺は少し考えた。
「明日の朝、少し焦がして」
「……理由を聞いてもいいですか」
「焦げる匂いが、朝だから」
ソラは少しの間、何も言わなかった。
「わかりました」
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夕食は食堂で、他の子たちと一緒だった。
同じ寮に十二人の子どもがいた。七歳から十歳くらいまで。みんな制服を着ていた。お仕着せ——ラプラス社の制服だ。紺色のシャツと、グレーのズボン。俺も同じのを着ていた。
隣に座った女の子が、俺を見た。
「新しい子?」
「そう。レン」
「ミコ。中央区から来た」
「俺は中央区から少し外れたとこ」
ミコは少し考えた。
「ログ、薄いって言われた?」
俺は驚いた。初対面で、そこから入るのか。
「言われた。薄いって」
「私は厚いって言われた」
「それはよかったね」
「よくない」ミコは少し眉を寄せた。「厚いって言われたのに、誓いをまだ入れていない。それが問題らしい」
「なんで入れてないの」
「書き換えられないって言われると、決められない。間違えたら一生そのままだから」
俺はその「一生そのまま」という言葉を、少し転がした。
「でも入れないと、AIの能力が半分になるよ」
「知ってる。でも間違えるよりましだと思って」
「間違えることと、入れないことと、どっちが正解かわかる?」
「わからない」
「わからないのに、入れないほうを選んでる」
ミコは少し黙った。
「あなた、きつい言い方をするね」
「ごめん」俺は言った。「でも本当のことだと思う」
「本当のことって、きついね」
「そう」俺は頷いた。「俺はもう入れた」
「何を?」
「三つ全部」
ミコは少し目を丸くした。
「全部? 七歳で?」
「昨日の夜に入れた。入れないまま来るのが嫌だったから」
「何を入れたの」
「ソラが俺と一緒に成長すること。対人課題に対して交渉して妥協点を見つけること。情報を使って何かを生成すること」
ミコはしばらく、俺を見ていた。
「三つとも、今できることじゃないね」
「うん。できないことを入れた。向かう方向を入れた」
「怖くなかった?」
「怖かった。でも方向がないまま八年いる方が、もっと怖い」
ミコはまた少し黙った。
「あなた、変わってるね」
「よく言われる」
「悪い意味じゃない」ミコは言った。「私の周りにそういうふうに考える人があまりいないから、びっくりした」
それが俺とミコの始まりだった。




