第十一章 十五歳の春、シバとの最後の話
十五歳の春、丁稚奉公が終わった。
最後の日の午前中、シバに呼ばれた。
「お前は今日で卒業だ」
「はい」
「八年分のログを見た」シバは端末を置いた。「何か変わったか、自分では思うか」
「変わったと思います。でも、変わったことより——方向が定まった気がする」
「方向」
「なんで、って聞いてたのが、なんでを使って何かを作ろう、に変わった。あるいは、なんでを使って何かを見えるようにしように」
「乖離マップ、だな」
俺は少し驚いた。
「やっぱり見てたんですね」
「企業のサーバーに保存したファイルは、全部確認できる。v0.4になってるのも知ってる」
「処分しませんか」
「しない。ただし、うちの企業として正式に関与することはできない」
「わかってます」
「個人として続けることは、止めない」シバは俺を見た。「むしろ——続けることを、俺は支持する。個人として」
「シバさんが支持するのは、なんでですか」
「今のお前には答えられないかもしれないが、聞いてくれ」シバは少し間を置いた。「俺はこの仕事を長くやっている。子どもたちを査定して、企業に送り出す仕事だ。その中で、ずっと気になってることがある」
「なんですか」
「素体スコアが高いのに、ログが薄い子が、一定数いる。その子たちは、高くは売れない。しかし、それはその子たちの責任じゃない。環境の差だ。俺はそれを知りながら、数字通りに査定し続けてきた」
「それが、日によって両方ある、ということですか」
「そうだ」シバは言った。「仕方がない、という部分と、おかしいんじゃないかという部分が、ずっと両方ある。どちらかに決められないまま、今まで来た」
「なんで決められないんですか」
「決めたとして、何もできないから。おかしい、と決めても、俺一人では制度は変えられない。仕方がない、と決めれば、考えることをやめることになる。どちらも選べなかった」
俺はその言葉を、長い時間聞いていた。
「俺が乖離マップを続けることが、何かの役に立つと思ってる?」
「思ってる。何の役に立つか、まだわからないが」シバは言った。「少なくとも——俺一人の中で両方ある、が、お前の中でも両方ある、になった。それだけで、何かが違う気がする」
「一人じゃなくなる、ということ?」
「そういうことかもしれない」




