表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

第九章 十三歳、誓い2の最初の実践

 十三歳の春、誓い2が初めて機能した。


 きっかけはケンタという少年だった。十四歳で、ラプラス社に来て二年目だった。人懐っこくて友達が多い。でも、ある日急に元気がなくなった。


 俺が気づいたのは、食堂でソラが「ケンタさんのAIアシスタントの応答頻度が、先週から低下しています」と言ったからだった。


「なんで気づいたの」


「誓い2の方向として、対人課題を察知する感度を上げています。近くの人間のAIの変化を、一定の範囲で観察しています」


「観察していいの?」


「応答頻度は、ある程度公開されている情報です。詳細なログは見えません」


「ケンタに聞いたほうがいい?」


「どうするかは、あなたが決めることです」


---


 昼休みにケンタに声をかけた。


「最近、元気ない?」


「……見てたの?」


「ソラが気づいた」


 ケンタは少し驚いた顔をした。


「AIが気づいた?」


「誓い2の方向で、周りのAIを観察してる。ケンタのAIの応答が減ってたから」


「俺のAIの応答が減る、って——それはつまり、俺が端末に話しかけなくなってる、ってこと?」


「そう」


 ケンタは下を向いた。


「誓いを、まだ二つしか入れてない。残り一つが決まらなくて。それで何か、嫌になってきた」


「何が嫌なの」


「わからないことが嫌。決められないのに決めないといけないのが嫌。間違えたら一生そのままなのが嫌」


 俺はその言葉を、じっくり聞いた。


「ケンタのAIと、ソラに話させてもいいか」


「AIと話させる?」


「誓い2の機能で、ソラが他のAIと交渉することができる。ケンタの困ってることをケンタのAIを通して聞いて、一緒に考えることができる」


 ケンタは少し考えた。


「俺のAIが、ケンタの代わりに話す?」


「代わりじゃなくて、一緒に。ケンタが直接言いにくいことを、AIが翻訳してくれるかもしれない」


「……やってみる」


---


 夜、ソラが報告した。


「ケンタさんのAIと話しました」


「どんなことがわかった?」


「ケンタさんは、変わることへの恐怖と、変わらないことへの焦りの両方を持っています。誓いを決めることで何かが変わる、その変化が怖い。でも決めないままでいることも、じわじわと苦しい」


「どっちもある、か」


「どちらか一方ではなく、両方が同時にある状態です」


「それは、乖離だ」俺は言った。


「どういう意味ですか」


「本当はこうしたい、でも実際はこうしている。その差。ケンタは本当は誓いを決めたい。でも決めることが怖くて、決められないでいる」


「その乖離を、どうすれば縮められるか」


「縮めること自体を、目標にしなくていいかもしれない」


「どういう意味ですか」


「乖離があることを知ることが、最初の一歩だと思う。知ってるのに知らないふりをしてるのと、知ってて向き合ってるのは、全然違う」


「ケンタさんに伝えますか」


「明日、直接話す」


---


 翌日、ケンタに話した。


「ケンタは変わることが怖いんだと思う。でも変わらないことも苦しい。両方が本当だ」


「……そう、かもしれない」


「どっちも消えない。でも知ることができる。両方を知った上で、どっちの怖さを今は選ぶかを、選べる」


「選べるの?」


「完全に消せないけど、どっちと向き合うかは選べると思う」


「……怖いほうが大きいな、今は」


「それでいい。今は怖いほうが大きい、という事実から始められる」


 ケンタはしばらく考えた。


「ソラって、ケンタのことをどう見てた」


「困ってる、と見てたと思う。助けたいと思ったんじゃないかな」


「AIが助けたいと思う?」


「俺のソラは思うと思う。誓い1で育ってきたから」


「羨ましいな」


「ケンタのAIも、話しかければ変わる。今からでも遅くない」


 一週間後、ケンタが言った。


「三つ目、入れた」


「何を入れたの」


「自分が嫌だと思うことを、人にしないこと」


 それは誓い、というより倫理に近かった。でも俺は何も言わなかった。


 ケンタが選んだ方向だから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ