表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

第四部 十二歳〜十三歳(問いが動き出す) 第八章 十二歳のデータ

 十二歳の秋、データ分析の実習で、転機が来た。


 依頼されたのは教育関連の統計整理だった。年齢層ごとの試験成績推移を、グラフ形式に整形する。単純な作業だ。


 しかし整形しながら、俺は止まった。


「ソラ」


「はい」


「依頼と関係ないことを調べていいか」


「依頼外の処理になります。ただし、データは手元にあります」


「七歳時の買取価格と、試験成績の相関を出してみたい」


 数秒後、グラフが出た。


 正の相関があった。当然だ。高く売れた子どもは試験成績も良い。


 しかし次に、素体スコアを重ねると——


「ソラ、見てる?」


「見ています」


「素体スコアが高くて、買取価格が低い層——試験成績が、素体スコアから期待されるより低い」


「統計的に確認できます」


「逆に、素体スコアが平均的で、買取価格が高い層——試験成績が、素体スコアより高い」


「その通りです」


 俺は画面を見続けた。


 これは俺のことだ。


 俺の素体スコアは上位二パーセントだったのに、買取価格はギリギリだった。ユキの持ち点が低かったから。その結果が、このグラフに出ている。


「制度が言ってる公平と、このグラフが言ってることは、一致してない」


「どういう意味ですか」


「制度は、試験を頑張れば誰でも上がれると言ってる。でもこのグラフは、買取価格——生みの親の持ち点——が試験成績に大きく影響していることを示してる。頑張りの前に、スタートが違う」


「その通りです」


「これをもっと大きなデータで確認したい」


「公開統計の範囲で、かなり広げることができます」


「やってみてほしい。夜中までかかっても」


「わかりました」


---


 翌朝、ソラが報告した。


「全登録者の約三十パーセントをカバーするデータで確認しました」


「結果は」


「同じパターンです。素体スコアと実績スコアの間に、買取価格が強く介在しています。素体スコアの影響は、買取価格によって大幅に上書きされています」


 俺はその言葉を、繰り返した。


 上書きされている。


「制度が評価しているのは、素体スコアじゃなくて、素体スコアへの投資額だ」


「その表現は正確だと思います」


「投資額は生みの親の持ち点で決まる。持ち点は制度が決める。制度は公平だと言っている」


「円環していますね」


「円環——そこに入れない人間は、どこにいる?」


「円の外です」


「円の外にいる人間は、円の外にいることが、制度の数字に出てくる?」


「出てきません。乖離として存在するだけです」


 乖離。


 あのときソラが教えてくれた言葉。


「ファイルを作る」俺は言った。


「どんな名前にしますか」


「乖離マップ」


 ソラが少しの間、沈黙した。


「……その名前を、私は前にあなたに教えました」


「覚えてた」


「今、その名前でファイルを作る意味を、あなたは感じていますか」


「感じてる。里帰りのとき、空白が語る、ってユキと話した。このデータが語っている空白を、地図にしたい」


「地図——マップ」


「そう。地図は、見えないものを見えるようにする。どこに行けばどこに着くかを、見えるようにする。この乖離マップは、制度が見えなくしているものを、見えるようにする地図だ」


「保存します」


 ファイル名:乖離マップ_v0.1


 それが始まりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ