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プロローグ バンの中で
バンの窓から、街が流れていった。
シートベルトが、少し硬かった。
ユキの姿が見えなくなった。曲がり角を過ぎて、あの六畳の部屋が視界から消えた。ソラのデータベースの中に全部ある、と思った。ユキの声が。焦げたトーストの匂いが。熱の夜の手の温かさが。七年分の「なんで」が。
消えない。
でも消えないことと、そこにあることは、違う。
シートベルトに手をかけて、少し引っ張った。やっぱり硬かった。
「ソラ」と俺は言った。
「はい」
「これから何年、こういう硬さの中にいるんだろう」
「八年間、ラプラス社の教育課程があります」
「長い」
「長いです」
「長いけど、終わりはある」
「終わりはあります」
バンが橋を渡った。川が広かった。水が光を反射していた。
橋の向こうに、俺のこれからがある。
なんでそこに向かうのか——制度がそうなっているから。でもそれだけじゃない気がした。
向かう先に、何かがある気がした。
それが何かは、まだわからなかった。




