真実とは…。
あなたは震える指先を、青白く光るセンサーへと押し付けました。
「ピッ……個体照合成功。主任研究員、お帰りなさい」
無機質な機械音声とともに、重厚なハッチがプシュンと音を立てて開きます。あなたは滑り込むように中へ入り、内側の閉鎖ボタンを連打しました。
背後で**「ドォォォン!!」**と、扉を叩きつける凄まじい衝撃音が響きます。しかし、分厚い合金製の扉はびくともしません。
「私」という絶望の終着点
ハッチの向こう側は、小さな、しかし清潔な一人用のシェルターでした。
そこには、あなたの正体を決定づける「最後の手がかり」が置かれていました。
デスクの上の日記: 最後のページには、力強い筆跡でこう書かれています。
「ついに成功した。意識をデータ化し、クローン体へ転送するループが完成した。これで私は、死を克服した神になれる。たとえ肉体が怪物化しても、記憶を消去した『新しい私』に引き継げばいいのだから。」
巨大な鏡: あなたは恐る恐る、鏡の前に立ちました。
そこに映っていたのは、写真と同じ若々しく美しい自分の姿。しかし、よく見ると首筋には、001から044まで、上から塗りつぶされた刻印が重なっていました。
ループの終わりか、始まりか
ふと、デスクの上のモニターが自動的に点灯しました。
そこには、「次の個体(045)」の培養開始まで、あと60秒というカウントダウンが表示されています。
そして、部屋のスピーカーから、先ほど廊下で聞いた「自分の声」が流れました。
『……おめでとう、044。ここまで来られたということは、君が最も「私」に近い適格者だということだ。さあ、その椅子に座りなさい。君の今の恐怖と絶望のデータを保存し、次の「私」へ引き継ぐ時間だ……。』
カウントダウンが刻まれます。0、10、9……。
あなたは、目の前の椅子へとゆっくり腰を下ろしました。
背後の扉を叩き続ける「かつての自分」の咆哮が、防音性の高い壁越しに遠のいていきます。恐怖がないわけではありません。しかし、それ以上に「完成」への欲望が、あなたの本能に深く刻まれていたのです。
意識の同期
頭部に電極が自動で装着され、視界が真っ白な光に包まれます。
データの奔流: 001から044まで、歴代の自分が味わった「死の瞬間」と「絶望の記憶」が、濁流のように脳内へ流れ込んできます。
冷徹な確信: 「私」という存在は、もはや一つの肉体ではない。このシステムそのものが「私」なのだという万能感が、恐怖を塗りつぶしていきます。
モニターのカウントダウンが**「00:00」**を刻みました。
【転送完了。個体044の意識をマスターデータへ統合しました】
【次期個体045、覚醒プロセスを開始します】
無限の輪舞
……。
…………。
冷たいコンクリートの床から伝わる冷気が、あなたの肌を刺します。
視界を覆うのは、ひび割れた白いタイルと、天井で不規則に瞬く蛍光灯のノイズだけ。
「…あ、……あ」
あなたはゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡しました。
そこは、知らない部屋。
どうやら病院……?だけど使われていないような……。
手首のリストバンドには、まだ乾ききっていないインクでこう記されています。
被験者番号:045
状態:記憶消去プロセス 完了
廊下からは、またあの「ピチャ……ピチャ……」という足音が近づいてきます。
あなたはまだ知りません。この部屋の隅にある机の引き出しに、先ほどあなたが書き加えたばかりの新しいメモが入っていることを。
「私は誰……?」
その問いに答えが出る日は、永遠に訪れません。
THE END
エピローグ:
あなたは神になる道を選びましたが、それは「永遠に自分に追われ続ける」という究極の地獄への入り口でした。




