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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桃太郎

作者: 魔弾の射手

 桃太郎に吉備団子を手渡し送り出した老夫婦。見えなくなると二人は同時に悪態をついた。


――ようやっと無駄飯食らいの孫がいなくなった


 そう桃太郎は、桃山太郎はこの現代、居もしない鬼を退治しに行くと云い家を出たのだ。彼は、頭が可笑しかった。親が彼を捨てた理由も、言わずもがなである。

 齢20を過ぎるかと云った歳の頃で、ビルの聳え立つ摩天楼をその目に収めながら、それでも彼は


『只人を不幸に陥れ悦楽に酔いしれる鬼を退治するで候』


 そう言い残して、彼は老父が若いころに稽古に使っていた日本刀を携え、老母が作った吉備団子を腰に下げ、意気揚々と出て云ったのだ。

 穀潰しがいなくなった。そう喜ぶのもつかの間、はてさて、彼の云う鬼とは何であるのか、彼らには皆目見当もつかなかった。

 そう、彼と彼らの間にあった溝は、思う以上に深かったのだ。ただそれだけなのだ。

 桃山太郎の異常な正常性と、桃山老夫婦の正常な正常性、この二つにさしたる違いなど存在しない。正常であるがゆえに正常であり、異常であるがゆえに時として異常者も正常性を発揮しうるだけなのだ。ただそれだけの問題。しかし其れが一般人に理解できる類かと云えば、否だ。

 故に、彼と彼らの間にあった溝は思う以上に深かったのだ。ただそれだけなのだ。ただそれだけが唯一にして最大の問題だったのだ。彼らの意思疎通の齟齬は、何を埋めても埋めようがないほどに破綻していたのだ。どうしようもなく、破綻していて破局していて破談した問題だったのだ。


『本日午前2時半、神奈川県横浜市みなとみらいの倉庫で、神戸山口組系直系暴力団員の男性および組員数名と男性の妻が殺害されているところを、サイクリングに訪れた男性が発見。被害者は全員袈裟掛けに切られ、所持品から財布のみが盗まれて居ることが判明しています。また、第一発見者の男性は、付近で血塗れの刀を持った男がこちらに笑顔で手を振っていたと証言しており、警察はこの刀を所持した男性が犯人とみて物盗りと殺人の両面で捜査を進めています』


 その暴力団員は、老夫婦にありもしない借金の取り立てに来ていた暴力団員だった。以前久々に繁華街で食べた折、周り中を取り囲まれたのだ。

 老夫婦はこのニュースを見た瞬間に悟った。彼の云っていた鬼とは、彼らだったのだと。

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