9 側近は忙しい
大広間を歩く。
私の前には私より頭一つ分高く、スラリとした背中が見える。
カツカツと歩くたびにヒールの音だけが大広間に鳴り響く。
赤いカーペットを当たり前かのように歩いていき、その両側には、ずらりと並ぶ魔族。
彼女が歩き、横を通るたび恭しく頭を垂れていく。
この女性は、魔王のうちの1人なのだ。
魔王様の側近になり、どのくらい経ったのだろうか。
魔王様が椅子に座り、椅子の横に立つ。
「報告をしろ」
「は」
魔王様の一言から、短く答え、内容を報告する。
「一週間後に行われる魔王様方の会議の準備は整っております。場所はいつもと同じ会場になっており、私を含め三名同行する予定です」
「誰が同行する予定だ?」
「ダグラスとウェルナ、そして私になります」
「ダグラス、お前は喧嘩っ早い。騒ぎを起こすなよ」
「魔王様のご迷惑にならないよう努めていきます」
ダグラスは、幹部の中では1番若く喧嘩っぱやいところはあるが、実力は確かである。
1番強いのはもちろん魔王様である。
同行するのは、何かあるときには命にかえても魔王様をお守りするためというのもあるが、守られるほど魔王様は弱くない。
私自身も魔王様の力の一部しか知らず、極力力を見せなかった。
それでも同行する理由は三つある。
一つ目は魔王様の威厳を示し魔王様を守るため、魔王様同士が集まるため人間の国と一緒だ。
二つ目は会議の記録や分析を行うため、会議の一言一句を正確に記録し分析を即時に行なっていく。
三つ目が1番大事なのだが、魔王様の管理だ。
つまらないものには興味がなく、会議をバックれないようにちゃんとについていないといけない。
「うむ。そもそもお主がいれば、わっちがいかなくとも大丈夫そうでじゃな」
「魔王様、ダメです。」
「つまらん会議は嫌なのじゃ!他の魔王どもも癖が強く面倒くさいのじゃ!」
魔王様同士が集まる会議は数年に一度ある程度だ。
毎回、魔王様は直前になると駄々をこねる為、説得するのが恒例だ。
「魔王様、この会議が終われば一週間仕事をしないで大丈夫です。その間私とウェルナが代わりに仕事を果たします」
「えっ」
「おおー!では終わったら遊び放題じゃの!」
ウェルナが戸惑いの声を上げたのだが、そんなのは無視し、黙っていろと目配せする。
ウェルナもしょうがないと諦めた様子で、キリッと気持ちを切り替えたのがわかった。
魔王様は、綺麗で強く親しみやすいため、皆から尊敬され人望はあるが、威厳がないのだ。
その分、私が魔王様を支えれば良く、そんなところに魔王様の良さがあるのだが。
「ん?」
突然、魔王様が疑問のような声を上げる。
「どうされたのですか?」
「いや、私の領域に何やら面白いやつが急に現れたようでの」
「面白いやつですか?」
不味い。
魔王様の興味が、出てきてしまった。
会議に出席させるために、あらゆる準備をしてきたのに緊急事態だ。
「うむ。タラスクの洞窟にいきなり現れた魔物?ではないの。何やらわからんものが現れたようじゃ」
「タラスクの洞窟といえば、魔王様が先日ペットにしたあのシャドウドラゴンがいる洞窟ですか?」
「そうじゃな。面白そうじゃ。ちょいと観察してくるかの」
「魔王様、会議が近いため、会議後にしましょう」
「嫌じゃ。会議には間に合うように帰ってくるのじゃ」
止めようとしても、もう遅い。
一瞬で転移し、タラスクの洞窟に行ってしまった。
「まあ、魔王様のいきなりの行動はいつものことだ」
「そうなのですが……」
「魔王様も会議までには帰ってくると行っていたのだ。帰ってきたらすぐに向かえるようにしておこう」
ウェルナは、諦めているのか気持ちを切り替えていた。
でも急に魔王様の領域に現れるものなんているのだろうか?
他の魔王様たちはしないとは言い切れないが、たぶんないだろう。
人間たちも穏健派の魔王様には戦争をふっかけないはずだ。
気になりはするが、数日で戻ってくるだろうと思い、気持ちを切り替える。




