5 屍食鬼
一通りスキルやステータスを確認した後、先に進もうとした時、視界の端に違和感を感じた。
『ん?』
岩陰を覗いてみると、屈まないと進めないような狭い通路がある。
小さいころからゲームをしていた俺にとっては、こういう小道が気になって仕方がない。
四つ這いになりながら、進んでいくと少しひらけた空間が見える。
『もしかして、あれは宝箱か!』
こっちにきてから、初めて宝箱を見たぞ。
やっぱ宝箱前には、お約束で魔物が待機してるよなー。
俺と同族のスケルトンが3体いるぞ。
それにみんな武器を持ってるじゃん。
弓に斧に剣と盾持ちか。
まずは遠距離から倒すのが定石だよな。
通路を抜けてひらけた空間に出るとスケルトンたちが一気にこちら見る。
剣と斧を持っているスケルトンが歩きながら向かって来る。
その後ろから弓矢が飛んできた。
スケルトンの弓矢は筋力がないからかそこまで速くはない。
矢を寸前で回避し、ファイアボールを弓矢のスケルトンに向かって放つが、手前にいたスケルトンが盾で防いできた。
『くそっ』
前衛スケルトンが二体ここまで目の前まで来たら、面倒なことになるな。
一体一体は強くなくても、三体集まると厄介だ。
レッドローチでも思ったが、やっぱり数の暴力は怖いな。
ファイアボールを盾で塞がれない位置まで駆け出し、ファイアボールを放つがまだ弓矢のスケルトンは倒れない。
やっぱりスケルトンは、打撃なんかの攻撃に弱い感じか。
今まで攻撃魔法はファイアボールを使ってきたが、今回は物理系に変えてみるか。
『ストーンキャノン!』
砂を空中で集め、石を作るイメージをする。
なるべく密度を高くするイメージで。
拳くらいの大きさになった石を、弓矢持ちスケルトンの頭部に放つ。
『よしっ。狙い通り命中!』
動きが遅いスケルトンは避ける暇なく、ストーンキャノンが当たり頭部が無くなった体が崩れ落ちる。
『残り二体』
同じようにストーンキャノンを二体のスケルトンに放つが、それぞれ盾と斧で防がれてしまう。
剣を持っているスケルトンが目の前まで来ている。
剣を振り上げ、頭上を目掛けて襲いかかってきたが、飛び退いて剣の軌道から離脱する。
盾で防がれると時間がかかるし、斧を持ちのスケルトンを先に倒すか。
地面を蹴り出し、斧持ちのスケルトンに近づ来ながら、念力を使いスケルトンの足を引っ張り体制を崩す。
その隙にストーンキャノンで、頭部を破壊する。
『よしっ。二体目』
斧を拾い上げ、振り向いた瞬間、剣が目前に迫っていた。
『あぶねっ』
咄嗟に斧で剣を防ぎ、前蹴りをするも盾に防がれる。
盾が厄介だな。
『ストーンキャノン!』
地面近くに魔力を使い石を作り、下からストーンキャノンを放ち盾を掬い上げる。
その脇腹を斧で穿ち、スケルトンの上半身と下半身が真っ二つに分かれる。
『危ないところもあったけど、なんとか倒せたか』
最後のスケルトンも崩れ落ち、メガネが光る。
そういえば、スケちゃんのスキルに初級剣術があったから斧より剣の方がいいか。
右手に剣、左手に盾って騎士みたいで格好いいぜ。
※ 一定の条件を満たしたため、スケルトンの進化可能
おおー!ついにスケちゃんの進化ができるのか!
進化するに決まってる。
進化の承諾を確認。進化を開始します。
それは一瞬の静寂の後、突如として訪れた。
今までの白く乾いた存在だった骨格が、内側から激しい熱と振動を帯び始める。
胸骨の隙間から、まるで溶岩のようにどろりとした赤黒い粘液が滲み出てくる。
それは単なる血液ではない。
生きた肉を渇望する、原初の飢えそのものが形になったようなものだ。
「グ……ア……」
喉の奥から、乾いた骨ではありえない、湿った、軋むような呻きが漏れる。
全身の骨がきしむ音、ミシミシ、パキリと、耐えきれずに砕ける寸前のような不快な音が周囲に響き渡った。
次の瞬間、全身の骨の継ぎ目、眼窩、肋骨と肋骨の間、、あらゆる隙間から、溜め込まれていた血肉が爆発するように噴き出す。
それは熱く、生温かく、濃厚な鉄の匂いをあたりに撒き散らした。
骨の檻を打ち破り、噴出した肉がみるみるうちに体表を覆い始める。
まず手の骨に、貪欲に食らいつくように分厚い筋肉が盛り上がり、細く空虚だった指先に力強い爪の付いた指が形成される。
眼窩には、獲物を捉える濁った黄色い光が宿り、顔の骨を押し広げ、皮膚が張られていく。
変貌は、激しい苦痛であり、同時に満たされない渇望の歓喜だった。
かつての骨だけの姿は消え、そこには、血と肉を纏い、背筋を凍らせるほどの貪欲な生気を宿した人型が立っていた。
進化の過程は、めちゃくちゃ痛い。
前の人生では味わったことのない痛みだ。
気絶したいけど、気絶も出来ないし、体が作り変わるってこんな感じなのか。
それに少しなら声が出せるようになった。
「グ…ア゙」
もしかして、進化し続けたら人間みたいになるんじゃないか。
そしたら街などがあれば、街中にも行けるようになる。
今のままだと魔物と間違えられて討伐されかねない。
いざとなれば、メガネで宙に浮けばいいと思うが、宙に浮いてるメガネなんて怪しすぎるしね。
最優先でスケちゃんを人間みたいにしないと。
そういえば、もうスケちゃんじゃなくなったのか。
名称:目鏡 翔
種族:アーティファクト(魔法使いのメガネ)、屍食鬼
装着者:屍食鬼
ステータス:攻撃力150 魔力200/330 耐久力:200/200(屍食鬼)230(翔)
スキル:遠近眼、鑑定、念力、念話、自然治癒、スキル共有、装着、魔法回路、装着者ステータスアップ(極小)、毒耐性、麻痺耐性、マップ作成、暗視、ストック、インセクトキラー、気配察知、隠密、進化の可能性 、メタモルフォーゼ、初級剣術(屍食鬼)、new捕食変換(屍食鬼)、new毒付与、new麻痺付与、new死肉探知
ユニークスキル:メガネ魔法
捕食変換: 食べたものを、生命力や魔力、耐久力に変換する。
毒付与:毒をあらゆるものに付与できる。
麻痺付与:麻痺をあらゆるものに付与できる。
死肉探知: 死肉や血液の匂いを遠方から嗅ぎつける、強化された嗅覚能力。
屍食鬼になったのか!
あとでどんな姿か見てみよう。
捕食変換は、レッドローチと一緒のスキルで、毒付与と麻痺付与は、魔物がいたら試してみるか。
『死肉探知』
鼻腔の奥、新生した肉の塊のさらに奥で、何かが熱を帯びる。
それは物理的な鼻で嗅ぐ匂いではない。
骨から血肉へと変貌した彼の、獣としての魂が世界を嗅ぎ取る感覚だった。
『うっ、これは割とキツいぞ』
鉄の味がする。
血の匂い。
しかし、それは生きた人間の鮮烈な血の匂いではない感じだ。
冷たく、落ち着いた、既に命が抜け落ちた後の、しかし栄養価の高い腐敗の匂いな感じだ。
脳裏に、匂いの強弱を示す熱源図のようなものが浮かび上がる。
最も濃く、強く、誘う熱源は、ここから数十メートル離れた広間のの方向を示していた。
たぶん、レッドローチの死骸の匂いだろう。
気配察知と死肉探知の両方を上手く使えば、生き物だけじゃなくて死骸なんかも簡単に見つけられそうだ。
『よし、お待ちかねの宝箱を見てみるか』
スケルトンが守っていた宝箱へと歩み寄る。
その心臓は高鳴っていた。
心臓はないのだが、初めての宝箱だ。
剣か、それとも金貨か。
ゴクリと唾を飲み込み、両手を箱の蓋にかけた。
ゆっくりと、期待に満ちた静寂の中で、蓋が開かれる。
――が、中は空だった。
『……は?』
どういうことだ。
何も入ってない。
箱の底には、ほこり一つない空洞が広がっているだけ。
金貨もない、剣もない、呪いの紙切れすらない。
命を懸けて戦い、開けた宝箱は、ただの空っぽの木箱だった。
『くそっ』
虚脱感と、騙されたような怒りが全身を駆け巡ったその瞬間、足元で異変が起きた。
ヴゥン!
宝箱があった場所から、青白い光が突如として溢れ出した。
見ると、床全体に複雑な魔法陣が、熱と魔力で石を焦がすように刻まれている。
『最悪だ。罠か!』
飛び退こうとした瞬間、光は瞬時にその力を解放した。
爆発的な魔力の奔流が全身を包み込み、耳がキーンとなるほどの高周波の唸りが辺りを満たす。
景色が一瞬でねじ曲がり、歪んだ。
色彩が溶け出し、重力が意味を失う。
それはまるで、激流に飲み込まれるような、意識の急降下だった。
次の瞬間、翔の姿は、宝箱と共にあった石室から完全に消え去っていた。




