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11 魔王の戯れ

「ところで、先ほどのお主が考えていた前の人生のことじゃが、お主は転生者か?」


転生者と聞いてピクリと身体が動く。

考えを見なくてもその反応で、アワリティアは分かったようだ。


「やはりお主は面白いのう!久しぶりの転生者じゃ!お主と遊んでいたらこの世界にも楽しみができそうじゃ」


転生者は他にもいたということだろう。

わからないことが多すぎる。


「わからないことが多すぎるようじゃのう。何でもかんでも教えるのはつまらないからのお」


つまるつまらないの話ではないんだけどなあ。

でもアワリティアからすれば、これも余興の一つか。


「よくわかってきたのう!その感じで敬語をやめよ。堅苦しくて仕方ないのじゃ。配下たちは、敬語を絶対にやめないからのお」


その方が俺もありがたい。

話がまともにできる魔王でよかった。

魔王のイメージといえば、会話できる余地がなく、自分勝手で力の象徴的なイメージだからなあ。


「ふむ。お主のその認識でたいていは合っておるのじゃ。わっちがまともに話ができる魔王であって、他の魔王たちはそうはいかんのじゃ」


ん?

魔王って複数いるのか。

アワリティアみたいな存在が複数なんて恐ろしすぎる。

最強のメガネの道はまだまだ先が遠そうだ。


「ふふ。最強を目指すのか。メガネとやらが何かはわからんが、険しい道を行くのじゃのう。じゃがそんなに弱くては道のりは遠すぎるぞ。」


もしかして、この世界には眼鏡は存在していないのか。


「そうじゃな。この世界には、お主が考えているような視力を補うような道具はないのう」


アワリティアが口角を上げる。

それは笑みではなく、知的好奇心を満たす時に見せるような喜びに見えた。


「それにお主のメガネ魔法は面白そうなユニークスキルじゃな。お主はスキルや魔法をうまく使えていない。転生者ならではの発想で面白い使い方をしとるが、色々と無駄が多すぎるのう。」


アワリティアは人差し指を立て、指先から一つの光の球を作り出した。


「これは魔力の塊を見えやすくしたものじゃ。」


その光の球をアワリティアの体まわりを高速に回り出し、気づけば二つ三つ四つの球の数が増えていく。

光の球が複数に増えてそれぞれが独立し、くるくる回っているかと思えば、色々な形に変わり出した。

鳥や蛇、蝶々など様々な生き物の形に変わり、動き回っている。


「魔力は万能で魔力自体に形状や硬度など魔力を操作して自由自在に変化が可能での。このくらい魔力を操れるようになれば、ある程度効率的に魔法やスキルを使えるようになる」


あれを全部自分の意思で動かしているのか。

やっぱり基礎から鍛えないとダメか。


「お主は弱すぎる。そんなに弱くては遊びに興じたくてもできん。5年時間をやろう。その間に強くなれ。5年後にわっちのところまで来れるようにするのじゃ」


アワリティアのところに行くってことは、魔王の城まで行くってことか。

そんなこと5年でできるのだろうか。


「5年経っても弱かったらその時はお主の魂で対価を支払ってもらう」


5年か。

よし、やってやる。


「もしわっちの場所まで来なかったら、また飛んでくるからのう。お主の位置はいつでもわかるようになっておるのじゃ」


なんかサラッととんでもなく怖いことを言っているぞ。


アワリティアは、座ったままスラリとした身体を僅かに斜めに傾け、その銀髪の長髪の一部を細い指先で弄ぶように持ち上げ、ゆっくりと落とす。

その動作は、まるでいつでもお前を捕まえてどうにでもできるぞといっているような仕草だった。


「お主が強くなるためにここの場所は好きに使って良い。人間たちの魔導書なども置いてあるし、タラスクもいるしの」


アワリティアは、ちらっとシャドウドラゴンを見る。

あのドラゴンはタラスクっていうのか。


「わっちも忙しくての。もう行かないといけんのじゃ」


そういうアワリティアは少し寂しそうな顔をし、その顔をみて胸が熱くなる自分がいる。

アワリティアは、ゆっくりと立ち上がった。

その動作には、僅かな無駄もなく、スラリとした長身が部屋の空気を一瞬で塗り替える。


「わっちの欲は、無限じゃ。お主に興味が湧き、お主の未来、お主の過去、お主の全ての価値。その全てをわっちが頂戴する」


その言葉は、強欲の魔王アワリティアという名にふさわしく、優雅で冷徹な宣言であった。

その言葉を言い終えると、アワリティアは初めて満面の笑みを浮かべた。

それは心底からの愉悦を示す笑みであり、同時に私のものだという強欲の魔王の純粋な歓喜に見えた。


その瞬間、理性は崩壊した。


それは単なる美しい女性の笑顔ではない。

「世界を全て手に入れた」という、無限の強欲が完璧に満たされた瞬間に、一瞬だけ表層を突き破って現れた、純粋無垢な魂の輝きだった。

冷徹な赤目は、まるで夕暮れの太陽のように温かい黄金の光を帯び、銀色の髪は祝福のオーラのように見えた。

身体の全細胞が凍り付くのを感じた。

憎悪も、恐怖も、屈辱も、全てがその一瞬の光によって無意味な塵へと変換された。


メガネの奥の瞳は、目の前の存在が人類の敵であると知っている。

論理は、この感情を精神支配か極度の恐怖による錯乱だと解析しようとした。

しかし、心臓が刻んだのは、絶望的な畏怖ではなく、運命的な服従を告げる、たった一度の、重い「鼓動」だった。

愛だ。

理解してしまった。

自分の命を奪い、魂を弄ぶであろうこの魔王の「強欲」そのものに、抗いようもなく、恋に落ちたのだ。

そして、この感情は、理性を放棄してでも、この美しさを永遠に肯定したいという、新たな、そして最も破滅的な欲望となった。

アワリティアが消え去るまで、ただその満面の笑みを崇拝するように見つめることしかできなかった。


そして、アワリティアの足元の黒曜石の床に、音もなく、しかし確実に黄金の複雑な魔法陣が展開する。

その魔法陣は、光を放つのではなく、周囲の光そのものを呑み込むように展開した。

次の瞬間、アワリティアの銀色の長髪が黄金の輝きを放ちながら、宙に舞い上がった。

彼女のすらりとした身体全体が、粒子へと変化し始める。

そして、その粒子が、アワリティアの赤く妖しい瞳が最後に輝きを放つのと同時に、一瞬で空間から弾け飛ぶように消滅した。

それは、アワリティアの「強欲」という本質が、物質的な存在という枠組みすらも超越している証のようだった。


「では、またな。わっちの愛しき玩具よ。」


その艶やかな声だけが、空間の遥か遠く、あるいは脳裏の直接に響き渡る。

次の瞬間、アワリティアは完全に消え去った。

その場に残されたのは、冷たい床と、彼女の圧倒的な支配の残り香だけだ。

それは、まるで世界中の財宝を詰め込んだ巨大な宝物庫の中に放り込まれたかのような、濃厚で、息苦しいほどの欲の魔力だった。


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