1 メガネ、、、だと
俺の名前は、目鏡 翔
33歳のどこにでもいるサラリーマンだ。
小さい頃から目が悪く、小学1年生には眼鏡をかけていた。
どこにでもいるような陰キャな自分には、彼女も出来たことがなく、未だに魔法使いである。
仕事はいわゆるブラック企業というやつで、IT業界の仕事をしていた。
朝8時に出勤し、退勤するのは終電近くの23時は超えている。
毎日、同じことの繰り返しで、何のために仕事をしているのかさえ、わからなくなっていた。
今日は、久々の休みということもあり、ネットゲームをしながらお酒を飲んでいた。
お酒を飲んでいるからか、いつもよりトイレが近い気がする。
そう思いながら、ゲームに一区切りがつき、トイレに向かおうとした時、視界が歪んでいる気がする。
そこまでお酒を飲んだつもりはないが、世界が揺れているようで、気持ちが悪い。
千鳥足で急いでトイレに向かい、便器に顔を突っ込んで嘔吐した。
久々の休日なのに、最悪だ。と思いながら意識が途切れていく。
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気がつくと、目の前には地面がある。
トイレでもなければ、床でもない状況に困惑し、起き上がろうとしても、手足の感覚がない。
『酔っ払い過ぎて、手足の感覚が麻痺しているのだろうか?』
最早、そういう次元ではない。
皮膚感覚的なものはあるのだが、どうも手足の感じではないのだ。
『感覚的に全身の形は、たぶん……メガネじゃないか?』
確かに、俺の名字は目鏡ではあったが、体がメガネになっている。
たぶん、酔っ払っているだけだろうと思うが、ここ最近の中で、1番頭がクリアな感じがする。
冷静になろうと周りを見てみる。
『ここは洞窟の中だろうか?』
真っ暗ではなく、ところどころに生えている苔みたいなのが、青白く光っており、洞窟内を薄く照らしている。
『こんな苔、見たことないけど、もしかして異世界なのでは?』
彼女もおらず、家族とも疎遠だった俺には、日本での生活に未練も無かったため、少し気持ちが昂ってきた気がする。
『もし異世界なら、鑑定なども出来るのでは?』
目の前の地面をよく凝らして見てみる。
名称:タラスクの洞窟
『おおー、本当に、情報が見えた』
今度は、自分のことを鑑定するように見てみる。
名称:目鏡 翔
種族:アーティファクト(メガネ)
ステータス:攻撃力0 魔力100 耐久力:50
スキル:遠近眼、鑑定、念力、念話、自然治癒、スキル共有、装着、魔法回路
遠近眼:近くや遠くのものがよく見える
念力:魔力を使用し、物体に干渉する
念話:魔力を使用し、考えを相手に伝えることができる。
自然治癒:自動的に修復する。完全破損しない限り復元可能。
スキル共有:装着者に対し、自分のスキルを使用することができる。
装着:意識がないもの、物体を操ることができる。
魔法回路:魔力の流れを感じることができる。魔法の使用が可能。
『攻撃力0って弱過ぎだろ。もしかしてスキルに装着があるから、装着者によるのか?』
1番心躍るのは、魔力回路だ。
なんて言ったって、魔法が使えるのだ。
男の夢!そして、童貞を30年貫き通すと魔法使いになるというが、本当に魔法使いになったのだ!
って思うと悲しくなってきた。
もうメガネになったのだから、これから先も童貞を捨てることは出来ないのだろう。
『なってしまったのなら、しょうがない。メガネにはメガネの面白さがある。』
せっかく異世界に来たのだから、思い切り楽しもうではないか。
でも手足もないし、ここから動かない限り、ずーっと壁や地面を見ているだけになる。
それだけは絶対に嫌だ。
どうにか移動する手段を考えなくては。
『お、そういえば、念力があるぞ。念力で飛べるんじゃないか?』
念力発動と心の中で、集中しながらイメージしてみる。
ふわっと地面から離れた感覚があり、まだ使いなれない感覚にフラフラとしながら、宙に浮かぶ。
くるりと全体を見てみると、後ろに白骨死体がある。
『こいつにスキル装着を使えば、歩いて行動できるのではないか?』
慣れない念力で、フラフラと白骨死体の方に近づく。
上手くメガネをかけるように、頭にくっ付きスキル装着と念じてみる。
感覚機関が繋がったのか、手足の感覚を感じる。
地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。
筋肉がないのに、どうやって動いているんだ?と思いながらも人間だった感覚と同じ感じで、立つことに成功する。
『おお、装着に成功した』
手足があることに対して、嬉しくなり、ジャンプしてみるが、特に問題なく動けるようだ。
この状態で鑑定してみると、どうなるんだ?と思い鑑定で自分自身を確認してみる。
名称:目鏡 翔
種族:アーティファクト(メガネ)、スケルトン
装着者:スケルトン
ステータス:攻撃力50 魔力98/100 耐久力:30(スケルトン)50(翔)
スキル:遠近眼、鑑定、念力、念話、自然治癒、スキル共有、装着、魔法回路、初級剣術
『魔力が減ってるのは、念力を使ったからか。それに装着者のステータスがそのまま追加されるのか。種族スケルトンってことは魔物とかいるよな』
このまま、魔物と遭遇した時、武器もないため心許ない。
たぶん、スケルトンは脆いし、俺自身もスケルトンと耐久力が大差ない。
少し強い魔物と出会って、攻撃を受ければ修復できなくなるに違いない。
せっかく手に入れた体なんだから、壊さないようにしないと
『とりあえず、武器探しだな。武器がない間はどうにか魔法を使おう』
スキルに魔力回路があることを思い出し、目を瞑り(瞑る目はないのだが)体内にある魔力をイメージしてみる。
集中してみると、何かの流れが体中に流れているのを感じる。
手の方に魔力を集めて、火のイメージをしてみると、ボッと小さい火の玉が出てきた。
『簡単に念願の魔法が使えたぞ』
メガネの方に魔力を集め、光るイメージをしてみると、レンズが光出す。
『おお!メガネをかけてるスケルトンだけでも異様なのに、光っているメガネをかけているスケルトンになったぞ』
スキル魔力回路のおかげか、スムーズに魔力を移動させ魔法は問題なく使えるようだ。
魔法もイメージと魔力次第で、色々と工夫出来そうだなと思いつつ魔法を試していると、走って息切れするような感じになってきた。
たぶん、魔力が少なくなるとそれなりに疲労を感じるのだろう。
少し休憩をし、洞窟内を歩くことにした。
歩いてどれくらい経っただろうか。
感覚的には数時間だろう。
眠くもならず、お腹も空かないため、ずっと歩きながら魔法の練習をしていると前の方から、影が見えた気がした。
スキル遠近眼を使い、遠くの方を見てみる。
そこには、ゴキブリみたいな虫が壁に止まっている。
ゾワッと鳥肌が立つような(肌はない)感覚がし、鑑定をしてみる。
種族名:レッドローチ
相手のステータスなどは見れないのだろうか?
そんなことを思っていると、鑑定したのがバレたのか、一気にこちらに走ってきた。
カサカサカサカサ
地球では見ないサイズのゴキブリが、こっちに走ってくる。
気を血が悪過ぎて、後ろに猛ダッシュで逃げる。
逃げるが、スケルトンがゴキブリに速さで敵うだろうか?
気持ち悪く、パニックになり、走ったが振り返るともう寸前まで近づいている。
『うわーーー、気持ち悪いーーー』
手に魔力を集めて、火の玉を投げつけるが、ヒョイっとレッドローチは避けてしまう。
『なら、避けられないように手当たり次第、投げるだけだ!』
両手に魔力を集め、何度も投げつける。
「ギュュ」
そのうちの一個があったのだろう。
気持ち悪い音を出し、レッドローチがひっくり返る。
倒したのだろうか?魔法を連発したからか、レッドローチの気持ち悪さからか疲労感がドッと出る。
ピカっとメガネが光った気がした。
『ん?俺今光ったか?』
鑑定で自分自身を確認してみる。
名称:目鏡 翔
種族:アーティファクト(メガネ)、スケルトン
装着者:スケルトン
ステータス:攻撃力60 魔力32/110 耐久力:60(スケルトン)60(翔)
スキル:遠近眼、鑑定、念力、念話、自然治癒、スキル共有、装着、魔法回路、初級剣術、new装着者ステータスアップ(極小)
装着者ステータスアップ(極小):装着者の全てのステータスに+10
光ったのは、レベル的なものが上がったのだろうか?
新しいスキル以外に、自分自身のステータスである、魔力と耐久力も10ずつ上がっている。
このまま色んな魔物を狩まくって強くなろう。