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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

超童話シリーズ

マッチ売りの超少女

作者: 日向 風花

 ある大晦日の晩のことです。一人の少女が、道端でマッチを売っていました。


「マッチ、マッチはいりませんか?」


雪の降る寒い夜だというのに、少女は帽子も靴も身に着けておりません。ぼろぼろの服は小さすぎて、手足がむき出しになっていました。


「お願いです、マッチを買ってください」


少女はダブルバイセップスを決めながら、自慢の上腕二頭筋をピクピクさせました。


「お願いします……誰かマッチを買ってください……!」


悲痛な顔で訴える少女から目をそらし、人々はかかわりたくないとでも言いたげに足早に通り過ぎていきます。


それもそのはず、少女はムキムキのマッチョでした。


幼い身ながらその手足は丸太のように太く、筋骨隆々に盛り上がり、ぼろぼろの服がぴっちりと張り付いた肉体には、見事な大胸筋、腹筋、広背筋が浮かび上がっていました。


黄金の王子様からサファイアを託されたツバメも、


「いや、あれは違うでしょ、なんか絵面的に……」


とスルーするほどの仕上がりでした。


もはやマッチ売りの少女というよりもマッチョが売りの少女です。


「マッチ、いりませんか?」


なまじ、顔と声は可憐な幼女なのでかえってホラー感マシマシでした。


「一本でもいいんです……!」


少女はサイドチェストで体の厚みを通行人に見せつけました。見せつけるならせめて商品マッチにしとけ。


「誰か、マッチを買ってくれませんか?」


通りすがりの男の子がからかうように、


「キレてる!」


と掛け声をかけますが、速攻でお母さんに怒られておうちに帰っていきました。


「ああ、今日も一本も売れなかった……」


プッシュアップで肉体を温めながら、少女は嘆きます。


マッチが売れないまま家に帰ると、恐ろしいお父さんにプロテインを取り上げられてしまうのです。


「おばあちゃんが生きていたころは、よかったな……」


体から湯気上げ、少女は昔を懐かしみました。


優しいおばあさんは、少女を膝の上にのせてよく異国のおとぎ話を読み聞かせてくれたものでした。


「遠い東の昔話には、大みそかの夜に売れ残りの傘を神様の石像にお供えして、プロテインを山ほどもらうお話もあったっけ……」


それは知らない傘地蔵ですね。


「同じ大みそかに商品を持て余しているのに、なんて不公平なのかしら……ううん、おばあさんが言っていたわ。人の幸福を妬んではいけないよって」


スクワットに切り替え、滝のような汗を流しながら少女は思いつきました。


「そうだわ。私もマッチを神様にお供えしてみよう。神様の像は……なければ作ればいいのね!」


少女はきっちり筋トレを五十セット終えると、手ごろな岩を教会の前に運びました。


「フンッ!」


気合い一閃、少女は岩を殴打します。


「オラオラオラオラ!!!」


ドガガガガガガッ!!!


少女が拳を打ち付けるたび、岩は掘削機で削るように形を変えていきました。


やがて出来上がったのは、いびつな石像です。


「うーん、なんか邪神像みたいになっちゃたけど、まぁいっか。こういうのは気持ちが大事だよね」


その辺に落ちていた鉄パイプをいい感じにへし折って、石畳をゴリゴリと削ってなんかそれっぽい模様を描いていきます。


最後に、売り物のマッチを邪神像の前に供えました。


「神よ……我が願いを聞き入れたまえ……我こそは暴力神の忠実なるしもべ。我にプロテインを与えよ……」


「よかろう」


すると地面に書いた模様から闇の魔力が吹き上がり、禍々しい応えの声を上げて邪神像が動き出したではありませんか!


実は少女の一連の行いは、奇跡的に暴力の邪神を召喚する儀式に合致してしまっていたのでした。


「ククク……何世紀ぶりの受肉であろうか。礼を言うぞ、小娘」


「あ、あなたは一体……」


「我は筋肉と暴力を司る神。かつて異国の地でちょいとおいたをしたとき封印されてな……それをそなたが解いたというわけだ」


邪神はそういうと、少女にプロテインドリンクを差し出しました。


「そら、褒美のプロテインだ。筋トレ直後のプロテイン補給は基本ぞ?」


「やった!ありがとうございます神様!」


少女はお礼を言うと、ドリンクを飲み干しました。


「ところで神様、あなた様ほどのお方を封印したのはどこのどいつです?」


「遠い東の神の信徒だ。力なき者が大切なものを守り修羅の道を歩むため、阿修羅の神が授けたという武闘の流派で、われら筋肉至上主義とは根本的に馬の合わぬ輩よ」


「まぁ、なんということでしょう!暴力!筋肉こそすべてを解決するというのに」


「まったくだ。我が復活したからには、もう奴らの思い通りにはさせぬ……!」


「私もついていきます、神様!」


少女は軽いノリで邪心に魂を売り渡し、一人と一柱は東に向けて歩み始めました。


そう、これこが暴虐をつかさどる邪神の信徒と異国の阿修羅流派の長きにわたる戦いの始まりだったのです……!

俺たちの戦いはこれからだ!

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