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モンスターテイマーシリーズ

~Wonderful Life~【モンスターテイマー ~リョーガと愉快な仲間たち~ 番外編】

作者: 紫龍院 飛鳥


「リョーガはさ、この先何十年も経ったらおっさんになってそんでじいちゃんになっちゃってさ、老いぼれて死んじゃうんだよな…」

「まぁ、人間だからな…いずれはそうなる運命だな」

「嫌だなぁ…離れたくない、顔シワシワで頭つるつるのじいちゃんでもいいから死なないでくれよぉ」

「おいおい、顔シワシワはともかく勝手に禿げるって決めつけるなよ…それに、言ったろ?俺は不死身よりも普通に歳食って死ぬ方がいいって…」

「…言ってたな」

「だからさ、死ぬ前に今の人生を目一杯謳歌してさ、その時が来たら『あぁ、とてもいい人生だったなぁ…』って思って笑顔で死ねるなら本望だよ」

「リョーガ…」

「だからさ、その時はお前らも笑って見送ってくれよな」

「うん…分かった」

「ありがとう…」




・・・・・



…なんだか懐かしい夢を見た、俺がユラに俺が死んだらお前達に笑って見送ってほしいとそう語ったあの日、今でもすごく覚えている…もうあれから随分な年月が経った。

そして今日、俺は…“私”は、死んだ。





【創世歴 1928年】



ミサワの町ができてからもうかれこれ“六十年“もの月日が経った、今日は町ができて六十周年のお祝いの式典の日


「おはようございます、リョーガさん…気持ちいい朝ですね」

「ああ、おはよう…ユーリ」

「では、起きましょうか…移動しますね」

「ああ」


妻のユーリに抱えられてベッドから車椅子に移乗する

私も御年”九十二歳“となり年相応に身体も段々と衰え始め、今となっては自分の足で歩くことすらほとんどできなくなってしまった。

今はユーリが付きっきりで私の介護をしてくれている、私がこうなってしまってからはユーリは王家専属医療ギルドを辞職し私の介護に専念してくれている…私としては、とても申し訳ない気持ちでいっぱいだ


「…いつもすまないな、ユーリ」

「もう、リョーガさん…それは言わない約束でしたよね?それに、私はリョーガさんと人生を共にすると決めた時からこうなることは覚悟してましたから…その為に一から介護のことだって頑張って勉強したんですよ?」

「そうか、すまないなぁ…」

「もう!そこは『すまない』じゃなくて『ありがとう』って言ってもらえた方が私としては嬉しいです」

「そうだったな、ありがとう…ユーリ」

「いえいえ…さ、朝ご飯にいきましょうか」


ユーリに連れられて食卓へいく、食卓にはもう既に家族が全員揃っている


「リョーガ、おはよう!」

「ユラ、おはよう…」


彼女は私のもう一人の妻であるユラ、アンデッドモンスターのヴァンパイアでありながらも人の心を持つ変わり者であり、私が魔獣使い(モンスターテイマー)として仲間に加えた一人でもあり、優秀なSランク冒険者でもある…今も現役バリバリで冒険者稼業とギルド長の仕事をしており、家に帰ってくることはホントに稀である為こうして顔を合わせるのは久しぶりな気がする。


「身体は大丈夫か?」

「ああ、心配ないさ…寧ろ今日はすこぶる調子がいいんだ」

「そっか良かった…」

「パパ、おはよう」

「おはよう、アム」


長女のアム、フリーの医者をしながら現役のSランク冒険者としても活躍している

強力な『樹木魔術』を操る魔術士としてその名を馳せており、『新緑の女王』という二つ名で恐れられている。

エルフの血を継いでいる為、もう既に還暦はすぎているがユーリと同じで若く美しい容姿を保っている


「パパも今日の式典出るんだよね?楽しみだね!」

「ああ、そうだな」

「お父様、あまり無理はなさらないでくださいね…一応私達医療チームも控えていますので、もし何かあったらすぐに申しつけてください」


次女のリリアラ、母と姉と同じく医者の道へと進み今はユーリに代わって王家専属医療ギルドのギルド長を務めている。

当然エルフの血を引いているのでとても若い容姿をしている。


「ありがとうリリアラ、お前は優しい子だな…」

「お父様…」

「でも、今日の父上はとても元気そうに見えますね…とても安心しました」


長男のリョジン、私の跡を継ぎ現在は現 レイヴン家当主であり、レイヴン領の領主を務めている。

ちなみにリョジンは人間である私と元 人間であるユラの遺伝子を継いだせいか家族の中で唯一まっとうに年を取り、今ではヒゲを生やした渋い“イケおじ”となっている。


「ああ、今日はよろしく頼んだぞ…リョジン」

「お任せください、父上…」



…そして迎えた記念式典、町の広場には多くの住人達が集まっている。


「皆様、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!今宵はこのミサワの町が誕生してから六十周年という記念すべき日であります!」


住人達から盛大な拍手が巻き起こる


「それでは早速、我が父であり先代領主でもあるミサワの町創立者のリョーガ・フォン・レイヴンより、お言葉を頂戴したいと思います、ではユーリお義母様…」

「はい、さ、リョーガさん…」

「ああ…」


ユーリとリョジンの二人に抱えられながら壇上へと上がる、そして息を整えた後集まってくれた民衆の顔を見渡す


「えー、皆様…ただいまご紹介に預かりました、先代領主、そしてこの町の創立者であるリョーガ・フォン・レイヴンと申します…この町ができてから実に六十年という月日が経ちました、今日という日を迎えられたのは、一重に皆様のお陰です…誠にありがとうございます、皆様も知っての通りこの『みんなの町 ミサワ』は人間だけでなく、ありとあらゆる種族の者達が住まう町…というのも、その昔はここ西大陸では人間以外の種族を迫害するという『人間至上主義』の考えが根付いておりその他の種族の方々は大変肩身の狭い思いをしてきたことでしょう…当時私は、魔獣使いを生業とした冒険者であり、あらゆる種族の方々と心を通わせる内に段々とこの国の人間至上主義の考え方について異議を持つようになりました…それから私は、この世界の転覆を企む魔族の王の企みをこの身を持って阻止し、先の女王陛下より今の貴族の地位を賜り、この町を作り上げた…以来、私はこの町を人間もその他の種族の者も分け隔てなくみんなが仲良く手と手を取り合い暮らしていける町を目指して尽力して参りました…それが功を奏したのか、段々と国からも私の頑張りが認められ、人間至上主義の考えは綺麗さっぱり撤廃され今となってはこの町だけでなく西大陸全土において人間以外の種族の方々が後ろ指差されることもなくなりました…全ては私一人だけではここまで大きなことは成し遂げられませんでした…これも支えてくれた愛しき家族、そして皆様のお陰でございます!今日という良き日を迎えられたことを心から感謝致します!…ありがとう!!」


民衆へ向けて深々と頭を下げる、その瞬間民衆から惜しみない拍手が送られた。


「リョーガ様バンザーイ!レイヴン領バンザーイ!」

「この町を作ってくれてありがとう!みんなの為に頑張ってくれてありがとう!」


「リョーガさん…」

「父上…」


「ずすっ…イカンな、私も歳だな…涙もろくなって敵わん」

「何言ってんだか、お前が泣き虫なのは今に始まったことじゃないだろうに…」

「えー、ユラママがそれいう~?ユラママだってパパと同じくらい泣き虫じゃん」

「なっ、お前…そういうこというなんて生意気だぞ!」

「まぁまぁ、お姉様もユラお義母様も落ち着いて!まだ式典の最中ですよ!」


…こうして式典は終わり、住人達はその後広場に集まって町を上げての盛大な宴を行い飲めや歌えやの賑やかな一日となった。




記念式典から数ヶ月、私の身体は更に衰えをみせ始めており…ベッドで寝たきりの状態が多くなってしまった。


「リョーガさん、体調は如何ですか?」

「ああ、ユーリ…問題ないよ、今日は少し調子がいいんだ…」

「そうですか…良かったです」

「失礼いたします、大旦那様、ユーリ奥様…『リュージオ様』と『リューズお坊ちゃま』がお見えになられました…」

「そうか、構わん…通してくれ」

「かしこまりました…」


リュージオというのはリョジンの息子である、つまりは私の孫に当たる人物…そしてリューズはその息子、今年四歳になる私の可愛い曾孫だ。

リュージオは現在、私がかつて兼任していたミサワの町の町長として働いている。


「お久しぶりです、お爺様、ユーリお婆様…」

「リュージオ、久しいな…」

「はい、さぁリューズ…大じじ様とユーリお婆様にご挨拶を」

「大じじ様、ユーリお婆様、お久しぶりです」

「おぉリューズ、大きくなったな…どれ、もっとよくお顔を見せておくれ」

「うん!」

「お爺様、リリ叔母様から話は伺っております…ここ最近あまり体調が優れないご様子とのことで」

「ああ、だがお前達の元気な顔が見られて私も元気を分けてもらえた気がするよ…ありがとう」

「お爺様、勿体なきお言葉…」

「良かったですねリョーガさん…」

「ああ…」


また別の日には…


「パパ」

「お父様」

「アム、リリアラ…二人揃って一体どうしたんだ?」

「実は私達、紹介したい人がいるの…」

「紹介?」

「うん、入ってきて…」


と、二人が部屋に招き入れたのは二人の男性…一人は体格の良い人間の青年でもう一人はエルフ族の青年だった。


「紹介するね、こっちの人間の彼は『エドワード』って言って私と同じ冒険者なの」

「で、こっちは『ノディ』って言って薬師をしている人なんです」

「お初にお目にかかります、リョーガ殿…自分、冒険者のエドワードと申します…お見知りおきを」

「僕はノディと申します…薬師として薬屋を営んでおります」

「そうか、それはそれはご丁寧に…それで、娘達とはどういうお関係で?」

「うん、あのね…私達この人達とお付き合いをしているの」

「っ!?ほ、本当に?」

「はい、お姉様がエドワードさんと…私がこちらのノディさんと結婚を前提にお付き合いしています」

「そ、そうか…」

「びっくりさせてしまってごめんなさい…それで、今日はパパに伝えたいことがあるの」

「…?」

「はい、リョーガ殿…いえ、“お義父さん”!どうか、娘さんとの結婚を認めていただきたくお願いに参上いたしました!」

「どうか、娘さんを僕にください!必ず幸せにするとお約束します!なのでどうか、何卒!」


二人して深々と頭を下げる


「エドワード君、ノディ君…頭を上げなさい」

「はい…」

「二人とも、不束な娘達ではあるが…どうかよろしく頼む」

「っ!?」

「パパ、本当にいいの?」

「ああ、勿論だ…二人とも、誠実そうでいい青年じゃないか…そのぐらい、目を見れば分かる」

「パパ…」

「お父様…」

「それに、死ぬ前にお前達の花嫁姿を見ることができそうで私は嬉しいよ!」

「…もうっ!パパ!縁起でもないこと言わないでよ!」

「そうですよ!折角のおめでたい報告の後だっていうのに!デリカシーがないのにもほどがあります!」

「ハハハ…スマンスマン、だがお前達の花嫁姿が見たかったのは本当だ…願いが叶って本当に嬉しい」

「パパ…うぅ」

「二人とも、娘達のことくれぐれもよろしく頼む…」

「はい、必ずや!」

「お約束します!」


…こうして、めでたく婚約が決まったアムとリリアラ

結婚披露宴は両者いっぺんに開催し、私の体を考慮して屋敷にて身内だけで執り行うこととなった。


「アム姉様、リリ姉様、この度はご結婚おめでとうございます!」

「ありがとねリョジン」

「改めて、エド義兄様、ノディ義兄様…姉上達をよろしくお願いいたします」

「え、えぇ…」

「まさか、自分の親よりも年上の”義弟“ができるなんてな…」

「あら?そんなこと言ったら私だってあなたのおばあちゃんとほぼ同世代の歳なのよ?」

「そ、それもそうだな…」

「でも、そんなこと関係なしにもうこの人しかいないって思ったのは事実だから…」

「ああ、年齢なんて関係ない!愛してるぜ、アム」

「エド…ああんもう!しゅきっ!」

「僕も、愛してるよ…リリアラ」

「やだもう!ノディったら!恥ずかしいわ…」


「フフフ、まるで昔の私達を見ているようですね…」

「ああ、懐かしいな…」

「えー?アタイあんなだったか?」

「そうでしたよ、ところ構わずリョーガさんにしゅきしゅき~ってしょっちゅう言ってましたよ?」

「はぁ?んなわけねぇし!テ、テキトーなこと言ってんじゃねーよ!」

「ハハハハハ!」

「リ、リョーガ?」

「リョーガさん?」

「いやぁ、ホンっトに愉快だなお前達!ハハハハハ!」

「おぉ、パパが笑ってる…」

「あんなに楽しそうに笑うお父様、久しぶりに見ました…」

「ええ、本当に…」


その日は久しぶりに声を上げて笑い、とても楽しい一日になった。



・・・・・



アムとリリアラの結婚披露宴から数日、私はあれから少しだけ元気を取り戻しつつあり体調の良い日はベッドから起き上がることもできるようになった。

食欲も湧き、ユーリの手を借りながら少しずつ運動もしている…そうしていく内にみるみる元気になり、ほんの短時間であれば杖をついて歩けるまでに回復した。


「すごいですリョーガさん、まさかここまで元気になられるなんて…」

「ああ、私もびっくりだ…これでまだ後十年は余裕で生きられそうだ!百歳まで目指してやろうか?」

「フフフ、流石リョーガさんですね!」

「なぁ、ユーリ…」

「はい?」

「また一緒に、旅行にでも行かないか?」

「いいですね!ここ最近はすっかりお元気なようですし、いいと思います!」

「ああ、楽しみだな」



…数日後、私はユーリとユラの三人で『和の国』を訪れた。


「…久しぶりだな、和の国」

「そうですね、私は新婚旅行で来て以来です」

「アタイはこないだギルド長同士の寄り合いで来たばっかだけどな…」

「では、まずはどこにいきましょうか?」

「ああ、そうだな…」


私達は三人で和の国を観光して回った、和の国の料理を堪能したり出店を見て回ってみたり、なんだか少しだけ若い頃に戻ったかのような気分になった。


「…お久しぶりです、リョーガの叔父貴!」

「久しぶりだなぁ、『シン太郎』…」


彼の名前は『辰巳 シン太郎』、リョウ三郎の兄弟の孫で現在は東大陸の冒険者ギルドの総ギルド長を務めている。


「お元気そうでなによりで…こちらへはご旅行ですか?」

「ああ、ついでに挨拶に寄った次第だ…」

「そうですか、それはそれは…あ、そうだ!折角なので祖父のお墓にも寄ってあげてください!」

「無論そのつもりだ…」


辰巳家の墓に立ち寄る、ここには辰巳家の人間…私も知っているソウ十郎さんもここで安らかに眠っている。

十年ほど前にリョウ三郎は妻のシーナさんを病気で亡くし、六年前に自身も病に倒れて安らかに旅立っていった。


「…兄弟、それとシーナさんも、久しぶりだな…実は報告があってな、アムもリリアラもイイ人を見つけて嫁に行ったよ、二人の花嫁姿…兄弟にも見せてやりたかったなぁ…まだいつになるかは分からないが、私がそっちへ行ったら、また一緒に酒を飲もうか…」


墓の前で静かに手を合わせる、その時二人との思い出が頭の中をよぎる


『ほらほらリョーガ君!飲んでる?イエーイ!あら?あなたお酒強いのね~!まだ全然シラフじゃないのぉ!まだまだ飲み足りないんじゃない?じゃんじゃん飲みましょ!』


『これでワシらは今日から兄弟ぜよ!たとえ離れておってもワシらの友情は永久に不滅じゃ!ワシらの友情に乾杯っ!』



「…ありがとな二人とも、一緒についてきてくれて」

「いえいえ…お礼には及びませんよ」

「まぁ、アタイもエロザムライとシーナとは何度も酒交わした仲だしな…シーナはともかく、エロザムライはいけ好かない奴だったけど、リョーガの兄弟はアタイにとっても兄弟みたいなもんだ」

「ああ…そうだな」



・・・・・



…それからまたしばらく年月が過ぎ、私はとうとう”九十九歳“を迎えたのだった

念願の百歳まで後もう少しのところ、と言いたいところではあったのだが…私の体は本格的に衰弱してきてしまい、もうベッドから起き上がることは疎か、食事を摂ることさえも難しくなってしまった…所謂『終末期』というやつだ。


「…ハァ、ハァ」

「リョーガさん…苦しいですか?」

「ユーリ、頼みが、あるんだ…」

「…何ですか?何でも言ってください」

「みんなの、子供達の顔が見たい…ここへ集めて、貰えるか?」

「…はい」


ユーリに頼んで子供達を全員呼んで集めてもらう


「リョーガ…」

「パパ…」

「お父様…」

「父上…」

「お義父上様…」

「お義父さん…」

「お爺様…」

「大じじ様…」


みんな集まって私の寝ているベッドを取り囲むようにして私のことを心配そうに見ている


「…みんな、急に集まって貰って申し訳ない…感謝する、みんなの顔が、どうしても見たかったんだ」

「パパ…やめてよ、それじゃもう、死んじゃうみたいじゃん」

「ああ、自分でも…もう分かる、私はもう、長くない…だから最後にみんなと話したいんだ」

「パパ…いやだよ、そんなこと言わないで!死んじゃやだよ!パパっ!」

「アムちゃん…気持ちは痛いほど分かるわ、けど…パパの最後の願い、しっかりと聞いてあげましょう」

「ママ…」

「アム…」

「何?パパ…」

「子供の頃のこと、覚えているか?」

「覚えてるよ、今でも鮮明に…パパもママも、私は本当の子供じゃないのにすごく大事にしてくれて…沢山愛情をくれた…パパとママにはすっごく感謝してる!私、パパとママの子供になれてすごく幸せだった!パパ…今まで育てくれてありがとう、パパ…大好きだよ!」


涙ながらにそう答えるアム


「パパも、アムのこと大好きだ…エド君、アムのこと、よろしく頼む」

「はいっ!お義父さんっ!うぅ…」

「リリアラ…」

「はい…」

「お前は、これからも医者として、沢山の人を救ってあげなさい…お前はすごく優しい子だからきっと、これからもっといい医者になれる…」

「お父様…はいっ!」

「ノディ君も、リリアラを一生懸命支えてあげてくれ…」

「お任せください…」

「リョジン…」

「はい…」

「お前は、私の後継者として立派にやってくれている…これからは、レイヴン家も、領地も、全て託した…しっかりと、守ってやってくれ」

「はい、家族も、領地も、そして領民達も…立派に守ってみせます!父上のように!」

「安心してくださいお義父上様、リョジン様のことは…これからも私が支えて参りますわ」

「メイヴィスさん…ありがとう」

「私も精一杯支えて参ります!」

「僕も、いっぱい勉強して大人になったら父様とおじいちゃんの仕事を助けるよ!」

「リュージオ、リューズ…お前達の将来にも、期待しているぞ」

「はい!」

「うん!」

「…最後に、ユーリ、ユラ」

「はい…」

「ああ…」

「お前達も、ずっと側で私のことを支えてくれて…本当にありがとう、感謝してる」

「リョーガさん…いえ、こちらこそ」

「そんなの当たり前だろ?妻なんだから」

「ユーリ、ユラ…愛、してる、ぞ…今までも、これから先も、ずっと、ずっと…」

「私も、愛してます…リョーガさん、う、うぅ…」

「リョーガ、アタイも、愛してる…この世で誰よりも、この先もずっとずっとずっと!お前だけを、愛してるっ!!」

「…ユラ、あの時の約束、覚えてるか?」

「約束?」

「…もし私が死ぬ時、お前達には、笑って見送ってほしい、と…だから、笑ってくれよ…」

「リョーガ、うん…へへへ」

「リョーガさん、フフフ…」


泣きながらも精一杯の笑顔を作るユーリとユラ


「お前達も、泣いてないで、笑ってくれ…」

「うん…フフフ…」

「ハハハ…」

「フフフ…うぅ」


みんなして泣きながらも精一杯笑顔を作る


「フフフ…みんな、ひっどい顔だなぁ…泣いてるのか笑ってるのかどっちかそれじゃ分からんよ」

「馬鹿野郎、みんなお前の為に必死にやってんだよ…」


ユラのその一言で、みんなから自然の笑みがこぼれ始めた


「そうだ、その顔が見たかったんだ…みんな、イイ笑顔だ」

「パパ…」

「お父様…」

「父上…」

「…もう、思い残すことはないよ…嗚呼、いい人生だったな」


そう言って私はニッと微笑みゆっくりと目を閉じた


「リョーガさん?」

「おい、リョーガ?」

「パパ!」

「お父様!」

「父上!」

「お義父上様!」

「お義父さん!」

「お爺様!」

「大じじ様!」


ユーリが手首に触れて脈を測り、リリアラが聴診器で心音を測る


「…心肺、及び呼吸も停止しています」

「脈もなし…午後18時54分、ご臨終です」

「そんな、パパ!パパぁ!」

「父上…うぅ」


…かつて『魔獣王』と呼ばれ、大魔王や邪神をも討ち下した英雄…冒険者 リョーガ、またの名をリョーガ・フォン・レイヴン…老衰にて、ここに死す

彼のこれまでの生き様は、その後沢山の人々に語り継がれていき…やがて『伝説の英雄』としてその名を歴史に刻むことになるのだが、それはまた後の話…。



・・・・・



(…ここは、そうだ…俺はもう、死んだんだった…なんだかんだで結構長生きしちまったなぁ)


気がつくと俺は一面真っ白な世界にいて、姿がかつての若い頃の姿に戻っていた。


「ごきげんよう、三澤 遼河さん…いえ、もうこう呼ぶべきですね…リョーガ・フォン・レイヴンさん」

「アンタは、神様…」


そう言って現れたのは転生を司る神様『転生神 リオン』、俺を一度あの世界へ転生させた張本人だ


「随分な大往生でしたね、お疲れ様でした…」

「ああ、わざわざ出迎えてくれたのか?」

「ええ、それと…あなたに会わせたい方々もおりましてね」

「えっ?誰だ?」

「どうぞ、こちらです」

「お、お前達は…!?」


そこへ現れたのはなんと…ミーニャとゲータだった、二人とも亜人種であった為人間ほどは長く生きられず、俺よりも早くに亡くなってしまっていたのだった。


「久しぶりっすね、リョーガの兄ちゃん」

「待ってたでやんすよ、旦那!」

「ミーニャ、ゲータ…うぅ」


俺は二人に駆け寄りたまらず力強く抱きしめた、まさかの再会に心がたちまちいっぱいになった。


「兄ちゃん、そんなにぎゅーってしたら苦しいっすよ」

「馬鹿野郎…俺がお前らにどんだけ会いたかったか、お前らが先に死んだ時、どんだけ悲しかったことか…うぅ、うあぁぁぁぁぁ!!」

「兄ちゃん…」

「旦那ぁ…」

「良かったですね、これからはまたこの天の国で皆さん一緒に暮らせますよ?」

「ああ、ああ!」

「じゃあ早速行くっす!ウチが天の国を案内してあげるっす!」

「旦那のお知り合いも沢山いるでやんすよ!アルカイル様やリョウ三郎の兄貴も!」

「ああ、早速みんなに挨拶しにいこう!」

「うぃっす!」

「へい!」



・・・・・



今日はリョーガの葬儀の日、かつての英雄であったリョーガの葬儀は国を上げての『国葬』にて執り行われ、多くの人達が参列した。


「ハナビさん、ぷよたんさん、それにドッガさん…今日はきてくれてありがとうございます」

「いえいえ、この度は…お悔やみ申し上げるでありんす」

「ぷよよ〜、ご主人様…」

「まんず、惜しい人が逝っちまったもんだすなぁ…」

「ええ、是非最後に見送ってあげてください…」

「あい…」

「ぷよ…」

「んだ…」


次にやってきたのはクリム、いつものウルフの姿ではなく狼鬼化した姿でキッチリと喪服スーツに身を包んでいる。


「クリムさん…」

「ボスのこと、聞きましたっす…僕もボスに最後のお別れに来たっす」

「ありがとな、きっと喜んでるぜ…」

「ガウ…」


次にやってきたのはフウラ、フウラは双子の子供達を連れており二人は大粒の涙を流している


「う、うぅ…」

「ほれ、いつまで泣いておるのじゃお前達!しゃきっとせんか!」

「はい、すみません母上…」

「フウラさん、それに『フウリ君』と『ライカちゃん』も…きてくれてありがとうございます」

「ああ、我らが主の最後なのじゃ…しかとこの目に焼き付けてキッチリと見送ってやらんとな」

「リョーガのおじ様には、私達も子供の頃うんと可愛がってもらいましたから…」

「うぅ…リョーガおじさん、うぅ…」

「これフウリ!いつまで泣いておる!しゃきっとせい!」

「だって、俺、リョーガおじさんにまだまだ教えてほしいこといっぱいあったのに…うぅ」

「まったく、我が息子ながら泣き虫じゃのぅ…誰に似たのやら」

「うぅ…」



続いてやってきたのはメリッサ、側近の二人の悪魔を連れゲートを通って現れた。


「…君達はここまでで大丈夫なのだ」

「はい、ではお気を付けて…」

「レイヴン卿によろしくお伝えください…」

「のだ…」

「メリッサ、お前も来てくれたのか…」

「うん、この度は…お悔やみ申し上げるのだ」

「ああ、ありがとうな…」

「では、お邪魔するのだ」

「…メリッサさん、大分雰囲気変わりましたね」

「ああ、流石は魔界の女王…こういう時はびしっとしてんなぁ」


続いてやってきたのは佐奈と流弦の二人、二人ももう九十すぎの高齢ということもありガンディにエスコートされる形で葬儀場へ入る


「さ、着きましたぞお二人とも」

「ああ、済まないねぇガンちーや…」

「お易い御用であります、では参りましょう…」

「おうガンディ、ご苦労さんだな…」

「いえいえ、困っている人を助けるのも騎士である自分の役目であります故…」

「てか、何もこんな日までわざわざお前が警備に入ることもないだろうに…しかも隊長なんだから今日ぐらい部下にでも任せればいいじゃん」

「いえ、そういうわけにもいきませぬ…今日という日を安全且つ滞りなく守りきることこそ!騎士である自分にできるリョーガ隊長への最高の手向けであると、そう思っているであります…」

「ほほぅ、相変わらずでござるのうガンディ氏…騎士の鑑じゃ」

「その気持ちは嬉しいです、でもせめて先に花の一本でも供えてあげてください…そうして下さった方がきっと喜ぶと思います」

「そ、そうでありますか…ではお言葉に甘えて、お二人も一緒に参りましょう」

「えぇ…」

「承知でござる…」

「相変わらず、真面目な方なんですね…」

「ま、そっちの方がガンディらしいけどな…」

「ですね」


それから、リョーガの葬儀が淑やかに進められて葬儀が終わった後、屋敷で会食が行われ…そこではリョーガに近しい者達が集まりリョーガとの思い出を語り合った。


「う゛おぉぉぉぉいお゛いお゛い!!リョーガ隊長ぉぉぉぉ!!」

「やれやれ、結局こうなったか…無理もないな、式の間ずっと我慢してたもんな、今日はもうとことん泣いていいぞ」

「う゛おぉぉぉぉいお゛いお゛い!!」

「主殿、今宵が一緒に交わす最後の酒になるのじゃな…寂しくなるのぅ」


リョーガの遺影の前に酒を注いだグラスを置き献杯するフウラ


「…おっと?イカンな、折角の酒じゃというのに今日の酒はどうにもしょっぱくて(・・・・・・)飲めやせぬわ…主殿、うぅ」

「母上…」

「うぷっ、気持ち悪いのだ…」

「メリッサさん!?大丈夫ぷよ?」

「きっと、皆の悲しみの感情を取り込みすぎたのでありんしょう…」

「もうダメ、限界…吐きそうなのだ…うっ」

「メ、メリッサはん!とりあえずお手洗いへ!もう少し辛抱でありんす!」


ハナビ達に連れられて一時退場していくメリッサ


するとそこへ…


「失礼いたします…」

「ルリさん、ルカさん…」

「おう、もう仕事はいいのか?」

「はい、後は部下達に任せてきましたので…」

「アタシ達も、リョーガ様にお別れをさせてください…」

「ええ、どうぞ…」


二人はリョーガの遺影の前で静かに手を合わせる


「大旦那様…今までありがとうございました、貴方様の元に仕えることができて私はとても誇りに思います…今までお疲れ様でした、どうか安らかにお眠りください…」

「これからもアタシ達、レイヴン家の使用人として頑張りますから!どうか天の国から見守っていてください!」


リョーガに感謝の言葉を述べる二人、その目からは涙が一筋溢れ落ちていた。


「ルリさん、ルカさん…」


会場が再びしんみりした空気に包まれたその時だった。


「ナウ・ミュージックタ〜イム!」


「!?、メリッサ!?お前…」

「体調が悪くて退席されたのでは?」

「ハナビちんに魔力を分けてもらってこの通り復活したのだぁ!そんなことよりも!みんなメソメソしてばっかりで辛気臭いのだ!リョーガちんの為に、みんなで笑ってハッピーにリョーガちんを見送るのだ!」

「メリッサ…」

「メリッサさん…そうですね、リョーガさんだってきっと賑やかに見送られた方が嬉しいに決まってます!」

「…フッ、そうだな!辛気臭いのなんてやめやめ!最後はみんなで、笑って見送ってやろうぜ!」

「クァーハッハッハッ!そうじゃそうじゃ!そうこなくっちゃのぅ!祭りじゃ祭りじゃあ!クァーハッハッハッ!」

「は、母上…」


…それからは、メリッサのギターの演奏でみんなテンションマックスとなり、歌えや踊れのどんちゃん騒ぎとなってしまった。


「こ、これは…一体?」

「私達夢でも見てんのかな?」

「はい…とてもお葬式の会食の場とは思えません」


目の前の状況をポカンとした顔で見るリョーガの子供達


「おっ?リョジン達もそんなとこでつっ立ってないでこっちこいよ!」

「アムちゃんもリリちゃんも、みんなで楽しく笑ってリョーガさんを見送ってあげましょう!」

「…だってさ、行こっか?リリアラ!リョジン!」

「フフ、はい!」

「仕方がありませんね…ここは私もノるとしましょう!」



…俺はそんなみんなの賑やかに騒ぐ様子を天の国から地上の様子が見えるという不思議な鏡で見ていた。


「…アイツら、ホンっトに騒がしい連中だな」

「でも、なんかすごく楽しそうっす」

「そうでやんすね、まるで昔みたいでやんすね」

「ああ、ホント…愉快な奴らだよ」






Fin...

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