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レッツゴー夏合宿

「あー、お前夏休み空いてるか?」


「はい、空いてますけど」


ある日の訓練終了後、思い出したかのようにロイがルリーナに声を掛ける。


「じゃあ、数日出かけるから準備しとけよ。」


「はい。」


それから1週間後の夏休み……


「はい?」現在、私は後ろからイリス様に抱きつかれ、ずっと頭を撫で続けられている。


「う〜ん、可愛い!可愛い!」


横ではショックで倒れたマリスの面倒をフェルーナ様とポロネが見ていた。


「みどりちゃんの水着を拝める日が来るなんて何て幸福なんッだ!その白い素肌なんと綺麗で美し……ボゲブァッ!!」


「すみません、気持ちが悪かったので蹴ってしまいました。」


「ルビルさん…、」


正面ではヴァルドール様がルビル様の顔面に膝蹴りをくらわせ、その光景を見てみどり様が呆れ笑いを浮かべていた。


「アレ君、昼ご飯用の魚取ってきてくれない?できるだけ大きな奴。」


「承知した。……海割!」


青く綺麗な海が目の前で真っ二つになる。


「アレックス!所構わず海を真っ二つにするは辞めてください!」


「オルタは細かいなぁ。海割って歩いて取りに行った方が早い。」


「どこの誰が徒歩で魚取りに行くんですか!」


アルファが昼ご飯の材料の調達をアレックスに頼み、アレックス様が刀の一振りで海を真っ二つに割っている。それにオルタ様が突っ込み続けている。


ここは均衡都市ノルンの領地内にある海水浴場。


今日の朝、ロイ先生が指定した集合場所へ向かうとポロネちゃんとマリスちゃんがすでに集合していた。そこへロイ先生とアスハ先生が車でやってきて私達を乗せて目的地へ出発した。




そして、着いてみると太陽の光を浴びてキラキラと輝く海と温かな白い砂浜……と色彩の方々が待っていた。


本当に驚きましたよ。色彩を敬愛するマリスちゃんは突然のことで気絶しちゃいましたもん。


ちなみにロイ先生は目的地も言わずに生徒たちを連れてきたことについてアスハ先生に怒られています。


「あの、イリス様。私達はなんでここに集められたのでしょうか?」


「あ、そっか、ルリーナちゃん達は何も聞かされて無いんだっけ。」


イリス様と話しているとエプロン姿のアルファ様が歩み寄り、笑顔で話し始める。


「フッフッフ、僕が教えてあげよう!今日から始まるのは色彩主催の夏合宿!色彩含めみんなでワイワイ楽しく強くなっていこうという毎年恒例のイベントだよ!」


「まぁ、いつもは人が集まらなくていつも色彩だけなんだどね。」


「うっ……だって、生徒のみんな誘っても断られるんだもん。……僕ってみんなに嫌われてるのかな。」


アルファ様が膝を抱えてしゃがみ込みどんよりとする。


「まぁ、アルファは明るすぎてうざい時あるもんな。」


「う……ぐす…」


アスハ先生の説教から解放されたロイ先生が追撃を入れる。

そこはフォローじゃ無いんですか先生!


「でも、アルファ様のそういう明るい所、私好きだよ。」


「…い、イリスちゃん……、」


「たまにうざいけどw!」


「ぐふぅッ」


なんで。

アルファ様って知れば知るほど元の高貴な想像からかけ離れていく。

…周囲の要因も大きいと思うけど。


「イリスさん、ロイさん、言い過ぎです!アルファをいじめないで。」


「み、みどりちゃん……、」


手を広げ、アルファを守るように立ち塞がる色彩の最年少のみどり様。


「アルファはたまにうるさいし、うざいこともあるけどいつもみんなを思っていて優しいんだよ!」


「みどりちゃん…」


「みどり……」


あぁ、みどり様は優しいな。

でも……


みどりの後ろで血を吐き、地に伏せる色彩の頭目。その輝かしい金髪もみどり様の純粋で鋭すぎる言葉によるダメージでくすんでしまっている。


「オーバーキルです。みどり様。」


ヴァルドールがそっとアルファの仰向けにして呼吸が止まったことを確認した。


「え、え、ご、ごめんなさい!」


「子供って怖いね。」

「あぁ、そうだな。あの純粋さで切りつけられたら一溜りもないもんな。」


倒れるアルファ横目にロイとイリスはみどりの恐ろしさに震えていた。


「皆さん、離れていて下さい。心肺蘇生をします。」


ヴァルドールは拳を握り振り上げる。 


あれ、心肺蘇生だよね。


振り上げた拳は加減無くアルファの身体に直撃する。


「グハァッッ!……。」


重い一撃に一瞬目を開くも次の瞬間には真っ白くなり萎れた風船のように地面に倒れ沈黙した。


「あ、すみません。日々の鬱憤……ごほんごほん、少々力が入りすぎてしまいました。」


いや、日々の鬱憤を晴らすために頭目を殴るって、アルファ様、日常でヴァルドールさんに一体何をしたんですか。


「みどり様、お手数ですが回復魔術をお願いします。」


「は、はい!」


ロイ先生とイリス様が3歩くらい離れた場所でガタガタと震えコソコソと話す。


「ヴァルドール、今本気で殴ったよな。」


「う、うん。わ、私、前にヴァルドールさんが部屋掃除しろって言われたの無視しちゃった。…わ、わ、私もあれみたいになちゃうのかな。」


「お、俺も書類提出しろって言われて面倒くさくてやらなかったわ。」


「つつつ、次からはちゃんとやらなきゃね。」


「あ、あぁ、そうしよう。」


あぁ、戦っているときはあんなにかっこよかったのに色彩のイメージが雪崩のように崩れていく。


こうして、色彩の方々との夏合宿が始まった。

すぐに戦闘訓練が始まる、なんてことは無く「海に来たんだから海水浴を楽しまなきゃ!」というアルファ様の一声で午前中いっぱいを海で遊んだ。


みんなが海で遊ぶ中、生徒たちの水着姿を眺める変態……色彩の紫と泳げないだけなのに自分は大人みたいな表情してカッコつけている色彩の黒が海辺のベンチに座っていた。


「いや〜、今回は爽やかやな。」


「まぁ、いつも同じメンバーだったからな。現役の学生がいるだけでこんなに変わるもんなんだな。」


「ちなみにライズは誰が好みなん?やっぱ、ポロネちゃん?」


「……確かに破壊力は凄いな。」


「出るとこ出てるからなぁ。でも、マリスちゃんも綺麗よな。なんか、鍛えられてるって感じや。」


「どうせ、お前の好みはアルスだろ。」


「さすがライズ、わかっとるなぁ。あのどこも出てない感じ、幼さがあってええんよなぁ。」


「やっぱり、変態だな。」


「この話に乗っかってる時点でお前も同罪や。」


ゲッヘッヘと笑い合う変態達。

彼らは話に夢中で後ろから近付いて来ている者に気付かない。


「いや〜、でも本当に華やかやな〜。」


「色彩の女性陣は華というよりは大樹だからな。」


「大樹ってwおもろすぎ!お前今日冴えてるな〜。」


「……誰が大樹ですって?」


青い空、白い雲、暖かな日差し……そして、凍り付く空気。


ルビルとライズはだらだらと滝のように冷や汗を流し、声のした方へ震えながら視線を移す。


なんとそこにはお似合いの水着を着た灰色と黄色の大樹が並んで腕を組み、般若のような形相でこちらを睨みつけていた。


「現役アイドルに向かって大樹っていい度胸だねルビル、ライズ。」


「大樹…はは、大樹ですか。」


圧で押しつぶされそうになりながらルビルは必死に命乞いをする。


「い、いや、褒め言葉や、褒め言葉!ほら、しっかりしてるって意味で」


「へぇ〜、そっかぁー。私、ルビルが喜ぶと思ってみどりちゃんの水着写真見せてあげようと思ったんだけどなぁ。嘘つく人にはいらないかぁ。」


それを耳にしたルビルはその場に立ち上がりビシッと敬礼のポーズをとった。


「色彩の女性陣は若々しく無く大樹のように図太いと言っていました!ライズが!」


「おまッ!!」


一つ残らず全て押し付けた挙句、話を盛りに盛ったルビル。


「ふぅ〜ん、そうなんだ。ライズがねぇ。」


「いや、違っ!!」


「大丈夫ですよ、わかってますから。」


ライズもルビルもいつ逃げ出そうかタイミングを伺っていた。


ジリジリと女性陣から距離をとるルビルとライズに気が付き、オルタが不気味な笑みを浮かべる。


「二人ともどこへ行くんですか?」


気付かれてるだと!?


「まずい、逃げるぞ。ライズ!」


強化魔術を発動し駆け出す二人。

さて、ここで魔術師についてのおさらいをしよう。


最前線で近接戦闘を得意とする魔術師、色彩でいうと赤と青ならば強化魔術の発動速度は補助魔術を得意とする黄と灰の魔術の発動よりも速い。だが、黒と紫が得意とするのは中距離戦闘、適正距離を取りつつ戦うのが主体となる二人の強化魔術の発動は残念ながら黄と灰の二人より遅い。


結果、夏真っ盛りのこの時期に浜辺に季節外れのそれはそれは素晴らしく巨大な氷塊が誕生した。


「さ〜て、もう少しでお昼ご飯の時間ですが皆さんには合宿恒例のお昼ご飯の後片付けをかけて勝負をしてもらいます。」


アルファが提案する。そんなアルファの明るいテンションとは裏腹に色彩内に息苦しさすら感じるような緊張が走る。


え、なんですか、この空気は。


学生3人は世界最高の魔術師達の謎の圧に気圧される。


「じゃあ、くじ引きでチームを決めるよ!」


アルファがどこからかくじ引き用の箱を出し、皆でそのくじを掴む。


その様子を学生3人で眺めているとイリスが手招きしていた。

それに気付き、小走りで色彩の輪の中に混ざり、全員の顔を眺め、恐る恐るくじを掴む。


「「「せーーの!!」」」


全員でくじを引きチームが決まった。


「「理不尽だぁぁぁあ!!」」


イリスとルビルはその場に手をつき地面に向かって叫ぶ。


細かいルールはくじ引きをした後でアルファが説明した。まず、試合内容は団体戦で負けたチームが昼ご飯の後片付けをする。

アルファとフェルーナ、みどり、アスハは不参加。それ以外で2チームに分かれ模擬戦を行う。色彩は全員魔法禁止。極大威力魔術またはそれに近しい威力を持つ魔術、剣技の禁止。模擬戦の内容は旗取りで敵の陣地にある旗を取ったほうが勝ちというわかりやすい内容だ。


その上で白チームは最早敗北後のような雰囲気をしていた。


学生3人が白チームに固まった。

それだけでも十分不利なのだがアルファ様が流石に学生が固まった場合はハンデで人数を増やすと言ってくれた。


白チームにはイリス様、ルビル様、ライズ様、ポロネちゃん、マリスちゃん、そして私。


ここまで言ったらわかるだろう。

今回、敵チームにいるのはオルタ様、アレックス様、ロイ先生だ。


3対6で私達の方が人数は多い。

人数は多いのだが、そんなことどうでもいいと思えるほどの理不尽が二人とも敵にいる。


「アレックスとロイの両方をどうやって抑えろと!?」


「ねぇ、ライズ、どうにかしてどっちか止めれない?」


「無理、できたとしてもどっちかに全戦力ぶつけないと止まらないし。全戦力ぶつけたとしても壊滅する可能性すらある。」


「だよねぇ。」


諦めムードの色彩の方々を前に少し申し訳ない気持ちになる。


それを察したのかイリス様が声を掛けてくれた。


「あぁ、ごめんね。別にルリーナちゃん達がいるからとかじゃなくてね。そもそも私達があの2人に勝てたためしが無いんだよね……。」


「……前に一度だけ2人相手に模擬戦したんだが……2対4だったにも関わらず抑えることすら出来なくて。…今回はオルタも敵にいるし、どうすりゃいいんだか。」


絶望的な状況にほぼ戦意喪失な色彩達。

このままでは絶対に勝てない。


まずい、どうしよう。負けた後で私を煽り続けているロイ先生のうざい顔が嫌なほど鮮明に浮かんでくる。


そんな絶望の中、何かを考え込んでいたポロネちゃんが沈黙を破った。

「イリス様、ライズ様、ルビル様、私に作戦があるのですがよろしいでしょうか。」


ポロネちゃんが作戦を話し始めると全員の表情に希望が見え始める。


「ポロネちゃんのおかげで勝ち筋が見えたわ。ありがとう!」


「これならあいつらに勝てるかもしれないな。よし、これで行こう。」


「よおぉーし、みんな、あの3人に一泡吹かせてやろう!」


イリス様がいつも通りのテンションに戻り、白チームに活気が戻る。


それを遠くから眺めていたアルファ達。

「アルファ、これではさすがに白チームが可愛そうではないですか?」


「え、なんで?」


「いや、ロイとアレックスの実力はアルファが一番知っているでしょう?2人が揃って敵チームが勝てると?」


フェルーナはアルファの意図が読めず意見する。


「まぁ、色彩だけだったら勝ち目は無いね。ロイ君とアレ君の実力は本物。正面からのぶつかったら後方支援がメインのルビル君達じゃ一溜まりもない。でも、」


アルファは3人の生徒達に視線を移して期待の笑みを浮かべる。


「あの子達がいるからね、案外勝てるかもよ?」



それぞれのチームが陣形を組み終わり、昼ご飯の後片付けをかけての模擬戦が始まる


「じゃあ、開始!」


アルファの声と共にアレックスとロイが敵チームの陣地めがけて歩き出す。


「さて、昼ご飯の後片付け決定戦が始まりました!実況は僕、アルファがお送りします!」


「解説役のヴァルドールです。よろしくお願いします。」


実況席に座り、創り出したマイクで話し始めるアルファ。後ろではみどりとフェルーナ、アスハがティータイムをしていた。


「さて、開始の合図と同時にロイ選手とアレックス選手が前に出たようですが赤チームは守備をオルタ選手一人にに任せましたね。これはどういった作戦でしょうかヴァルドールさん?」


「あれは考えるのをやめてますね。作戦など考えるまでもなく上から力で潰すといったところでしょうか。」


「なるほど!赤と青の2人だから出来る戦闘スタイルですね!おっと、ここで赤チームと白チームが接敵しました。アレックス選手にはライズ選手とルビル選手、イリス選手で対抗するようですね。ということは……」


「これは賭けに出ましたね。ロイ様を色彩の助力無く抑えようとするとは。」


「白チームは守備を捨てましたね。」


「……御二人が相手なので仕方が無いとは思いますがどちらかが崩れれば次は無いという諸刃の剣のような作戦ですね。」


「さて、白チームはこの理不尽にどう抗うのか!」


静まり返る戦場で双方が対峙する。

「なんだ、お前らが相手か。御館様に学生相手なら真剣は使うなって言われてたがお前ら相手なら使ってもいいよなぁ。」


カチャッと腰に携えた刀に触れる。


「ライズ、ルビル、海水浴場での発言を不問にしてあげるから死ぬ気で頑張ってね。」


いや、俺達すでに極大氷魔術くらってんだけど。


「ま、まぁ、そうだな。学生達にカッコ悪いとこ見せるわけにはいかねぇもんな。」


「よっしゃ!やりますか。化け物退治!」


イリス達が接敵した森林内から少し離れた浜辺……。


「まさか、イリス達の協力無しで来るとは肝が据わってんなぁ。」


ロイ先生とルリーナ達が接敵していた。


「ロイ先生、今日という今日は負けませんよ。」


「私達には立派な色彩の方々がついているんですの!ロイ先生なんかに負けてられませんわ!」


「いや、マリス、俺も色彩なんだけど。」


「あはは………まぁ、学校の先生のイメージが強すぎて色彩って感じがあまりしないかも……。」


「まじかよ。……じゃあ、知ってもらわきゃな。」


ロイ先生の纏の発動と同時にポロネが二人に補助魔術をかける。


「来ますッ!!」


空中でロイとルリーナの剣が火花を散らしながらぶつかり合う。


初速はロイが圧倒的に速かったため、ルリーナは体勢を崩した状態でぶつかってしまい、すぐに地面に叩きつけられる。


「マリスさん!」


空中にいる状態ロイに対しての保存魔術式による無詠唱多重攻撃。

しかし、ロイは気にもせず、マリスに向かって攻撃を仕掛ける。


魔術による攻撃は見切られて回避され、マリスも一撃を食らってしまう。


「ぐぅッ!」


次の指示を……ポロネそう思った時には視界にロイの姿は無かった。


「眼鏡っ娘、お前の障壁魔術は学生にしてはすごいが俺を相手に考えるからもう少し工夫すべきだ。」


振り向く間も無くいつの間にか後ろにいたロイに峰打ちされその場に倒れる。


「さて……」


後ろで振り下ろされた剣をロイは視界に入れずに剣で防ぐ。


「まぁ、こんなんで倒れるほど軟じゃないよな。」


「当たり前です!毎日毎日、手加減を知らない大人にボコボコにされてますからね!」


「おいおい、誰だそんな事する奴はこの俺が成敗してやる!」


「先生のことですよ!!」


重い金属音が響き、2人は距離をとる。

ルリーナは息を整える。


急に轟音が鳴り響いた。

森林の方で土煙が舞う。


ルリーナ達が戦っている間、実況席に座っていたヴァルドールはやれやれと首を振り、アルファはため息をついていた。


青が戦闘を始めてから実況も解説もしていない。する必要がなかった。


青がやったことと言えば刀を鞘から抜き、振っただけ、それだけで地形は刳れ木々は吹き飛んだ。


戦闘などと言うのもおこがましいと思えるほどの一方的な攻撃にもはや言葉も出なかった。


刀を振り上げ、振り下ろす。

ただそれだけの行動をイリス達は耐え続けることしか出来ない。


「やっぱり無理だよぉぉおおお!!」


吹き飛ばされまいと木にしがみつくイリスの情けない絶叫が周囲に響く。


「なっはっは!なんじゃ、学生等が善戦しとるというのに色彩が情けない!ほれ、一閃!」


再び雷でも落ちたかのような爆音。

それに続いて斬撃が周囲を消し飛ばす。


「ぎゃああああ!!!」


満面の笑みの災害。

しかし、そんな災害の後ろから炸裂弾が撃ち込まれる。


「おぉ!やっとやる気になったか!」


「うるせぇ、やる気無くなるような戦い方しやがって!」


炸裂弾が直撃し爆風が辺りを駆ける。

ライズは構える。炸裂弾程度であいつがどうにかできるわけ無い。

黒い煙の中で刀身が光った。


「一閃ッ!!」


「ヤマタノオロチ!!」


放たれた斬撃に8つの首を持つ毒の蛇が噛み付く。威力を緩めることには成功したが相殺は出来なかった。

どうにか斬撃を回避し、3人が再びアレックスの前に立ちはだかる。


「むちゃくちゃやな。」


「知ってる。」


「トラウマになりそうだよ。」


でも、立つ。


「まだ、負けてないってことはポロネ達がロイを抑えてるってことだ。だとしたらここで俺等が負けるわけにはいかねぇ。」


「そんなんカッコ悪いもんなぁ。」


「そうだよ、ルリーナちゃん達が頑張ってるんだ。私達が諦める訳にはいかないよ!」


3人は覚悟を決め、アレックスに立ち向かう。

そんな状況をみていたアルファは滝のように涙を流していた。


「こういう、仲間と理不尽に諦めず立ち向かうシーンって、すごく感動するなぁ。」


「理不尽を用意したのはアルファ様ですけどね。」


「確かにそうだね。それでそれで、ルリーナちゃん達の方はどうなっているかな!」


「……ボコボコですね。手加減が一切無く、完膚無きまで生徒達を叩き潰しています。アルファ様、模擬戦とは言え、教育に携わる者としてあれはやり過ぎでは無いですか?」


「……うん、僕もちょっと引いてる。」


実況席の後ろにいるアスハから地獄の業火のような怒りを感じ、アルファは震える。


(……ロイ君、終わったあとに片付けられるのは君かもね……。)


不安要素が一つも見当たらないはずなのになぜか鳥肌がたったロイ。

その足元には生徒たちがボロボロの状態で倒れている。


「……頑張った方じゃないか?俺を相手に3人で5分も耐えたんだ上等だろ。」


ロイ先生の声が聞こえる。

5分……5分しか経ってないんですか…。

仰向けで薄っすらとした意識の中でルリーナはハッキリと聞いた。


ボロボロの体を動かし、細々とした声でポロネちゃんの最後の指示を。


「……ルリー…ナちゃん、お願い…します……ここが最終局面です。」


私は痛みを我慢しながら力を振り絞り立ち上がる。


「…まだ…、です。」


「まだ、立つか。そのしぶとさは俺以上だな。それでそんなにボロボロで何ができる?」


私は強がりで笑みを浮かべる。


「……この勝負に勝てます。」


未完成のため調整は出来ない。

発動すれば自分の魔力が切れるまで止まるれない。


ロイ先生はその戦闘経験の多さから一度見た攻撃や行動に対応してくる。だから、最後の最後まで取っておいたとっておき。


本当は次のロイ先生の指導訓練の時に驚かせてやろうと思ってたけど。それよりも最高の舞台が目の前にある。


「白き世界に降り立つ・純白はその身に数多を写し・想い願いを注ぐ器となる・その瞳に映るは色付く世界への憧れ・時に知恵を・時に力を・時に意志を・我は色とし身に付ける・私は法を写し未来を描く者!!」


ロイは目の前で自らの弟子が口ずさむ詠唱を理解できなかった。


オリジナル9節詠唱……魔法は本来十節以上の詠唱が必要となる。だからルリーナが使用したのは魔法に昇華しかけた魔術。


本来ならば魔術学院を全課程を修了しても辿り着けないはずの極地に彼女は半年足らずで到達しようとしていた。


「……色彩は魔法禁止ってのはこういうことかよ。アルファの野郎、知ってやがったな。」


纏と未完成の魔法を組み合わせたことで純白のドレスを纏っているような姿となったルリーナがロイに剣先を向ける。


「……先生勝負です。」


「………全く、覚悟が足りないのは俺の方だったてのか。」


先程よりロイ先生の纏いの赤色がより濃くなっていく。

その魔力は遂には握る剣をも染め上げる。


「……来い。」


赤と白が猛烈な速度でぶつかり合う。

海は波を立てて荒れ始め、浜辺は砂を天まで巻き上げる。


痛みはもう感じない。

今はただ目の前の恩師に全力で挑みたい。


激しい剣のぶつかり合いのさなか師弟は笑っていた。


それを見て実況席のアルファは嬉しそうに微笑む。


「……ルリーナちゃん頑張ったね。あとは目の前のろくでなしに一発いれるだけだ。大丈夫、君ならできる。」


二人の放った斬撃が辺りに深い傷跡をつける。

距離をとられたらすぐさま追撃。

大振りの攻撃は受け流し反撃。


ルリーナは今まで教わったことを全て使い全力で打ち込み続ける。


「すげぇな、この短期間でここまでなるか!」


常人では目に見えない速度で剣で打ち合いながら2人は会話を交わす。


「先生のおかげですよッ!」


「何いってんだ、俺の指導だけで魔法使えるようになるなら俺はとっくにそれ使って大金持ちになってんだよ!」


「じゃあ、先生は大金持ちですね!」


2つの剣が鳴らす鋭い金属音と共に再び距離をとる。


ルリーナが自身の身体の違和感に気付いた。

……左手が動かし辛い……もう時間ですか、早いですね。


「……時間切れか?まぁ、不完全だからな。それが切れればお前は反動で動けなくなるそうなりゃ、俺が旗取って勝ちだな。」


「なんか、残念そうですね。」


「……んなわけぇなだろ。すぐにでも旗取って勝ちたいんだよ。」


「そうですか……でも、切れかけてるだけで切れてませんよ。ここから私が勝ちます。」


「全くタフな奴だな。」


「それが取り柄ですからね。」


「…知ってるよ。」


剣を構え、息を整える。

次の一撃に今までの全てを賭ける。


「魔術器……全制限解除!」


剣が白く光りだす。

これが最後だ。


「行きます!!」


「来い!ルリーナ!」



衝突した白と赤2つの光は色濃く光った。

鋭い空気が辺りを吹き飛ばす。


数秒後、光が落ち着き、辺りに静寂が訪れる。


よろけてその場に倒れそうになるルリーナの肩をロイが優しく持つ。


「……勝てませんでしたか。」


「当たり前だろ、今俺が負けたらメンツが立たねぇよ。」


「……それもそう……ですね。」


その言葉を最後に気を失ったルリーナをその場に横にする。


「全く、調節できなかったじゃねぇか。」


バキッ…強化魔術と纏が解除された瞬間、ロイの剣が音を立てて粉々に壊れた。


ルリーナが放った最後の一撃にロイは迷いなく正面から受け止めた。


しかし、同等の力を込めて相殺するはずだったはすがルリーナが最後の一瞬で全魔力を一点に集めぶつけたことでロイの魔術器に大きくヒビが入った。


壊れかけの魔術器をカバーするために魔力出力を上げ纏を最大まで強めた結果、ほぼ全力でルリーナに一撃入れてしまった。


「………俺にはもったいないくらい出来過ぎた弟子だな。」


その場にあぐらをかき目の前で安らかな顔して眠っている少女を褒める。


「よし、じゃあ、さっさと旗取りに行くか。」


そう思い立ち上がった瞬間、実況席から試合場全体へアルファの甲高い声が響く。


「試合終了ーー!!!勝者 イリスちゃんチーム!!」


旗の前にいたアレックスとロイは青く澄み渡る空を見上げ、口を開く。


「「は??」」


その後実況席があった場所に集合することとなった。体が1ミリも動かない私をロイ先生は背負って連れて行ってくれた。


集合場所に着くと全身ボロボロにも関わらず自慢げに踏ん反り返って胸を張るイリス様達とその目の前で地面に手をつき絶望するオルタ様。そして、その近くで申し訳無さそうに旗を持つマリスちゃんの姿があった。


「お〜い、オルタさん、俺達はなんで負けたんだ?お前、旗の近くにいたはずだよな。」


「う〜む、色彩の参謀についている者がまさか油断して魔力感知をしてなかったわけではあるまいな?」


ロイ先生とアレックス様がオルタ様に詰め寄る。


「……魔力感知はしてました、してたはずなんです…。」


今にも泣き出しそうなオルタ様に踏ん反り返ったイリス様が自慢げにマリスちゃんの肩を掴む。


「ふっふ〜ん!オルタちゃんはマリスちゃんを甘く見すぎたね!」


「マリスが旗を取った?マリス、お前は動けなくなってたはずじゃ。」


そう、マリスちゃんは私とポロネちゃんとロイ先生の足止めに向かい、そこで戦闘不能になった……そういうことになっていた。


「実は私、ロイ先生と戦って無いんですの。私の使命は旗の奪取それだけですわ。」


「いや、でもお前は俺と戦って。」


ロイ先生がわからずにいると窶れた顔のオルタが説明を始める。


「……幻影魔術です。幻影魔術でマリスさんは自分の分身体を作り出し、ロイと戦わせたんですよ。」


「いや、幻影魔術ってそんな事できないだろ。せいぜいその場にいるように見せるのが限界なはず。」


「ふっふっふ〜、そう思うよね、でも、ざんね〜ん!マリスちゃんなら可能だったんだよ!ねっ、マリスちゃん!」


「……私は少し応用しただけですわ。この作戦が上手くいったのはイリス様達とルリーナの協力、なによりポロネさんの作戦あってこそでしたわ。」


「確かにあの怪獣(ロイとアレックス)2体を相手に怯まず勝つ手段を考えつくなんて、ポロネちゃん……参謀とかやってた?」


「……いえ、やってませんね。」


「それにルリーナちゃんも!びっくりしたよまさか魔法を使えるなんて!」


「あはは、まだ、未完成ですけどね。アルファ様に協力していただいて何とか使えるようにはなりました。」


「いや〜、ロイ君の驚いた顔みたさで協力したけどまさか本当に使えるようになるとは思わなかったよ。」


エプロン姿のアルファ様が料理が乗った皿を片手に現れる。


「…ってことで!まぁ、いろいろ思うところはあると思うけど、ご飯にしよう!」


ロイ先生に背負われながら向かうと複数の大きなテーブルの上に美味しそうな料理が並んでいた。


奥では先に走っていったアレックス様がすでに酒を片手に楽しんでいる。


ロイ先生に降ろしてもらい椅子に座るとヴァルドールさんが飲み物の入ったグラスをくれた。


アルファ様は立ち上がり全員がグラスを持ったのを確認する。


「みんな、お疲れ様!学生のみんなも頑張ったね。遠慮は要らないから好きなだけ飲んで食べて楽しんで!じゃあ、乾杯!!!」


「「「 乾杯!!!! 」」」


賑やかな食事が始まった。

ルリーナが座るテーブルには料理が山のようにあったのだがすでに半分ほどになっている。


「ポロネちゃん、これも美味しいですよ!」


「うん、ルリーナちゃんありがとう。喉に詰まらせないようにね?」


「はい!!」


目を輝かせながら次々と料理を口に運ぶルリーナを見て、ロイは呆気にとられていた。


「あいつめっちゃ食うな。いつもあんな感じなのか?」


「そうですね。でも今日はいつにも増して凄いですわ。」


マリスも暴食暴飲のライバルを見て呆れていた。


「あんなに美味しそうに食べてくれるなんて…作った甲斐があるね、ヴァルドール。」


「はい、嬉しい限りです。」


そんなルリーナを見て微笑むアルファ。

その近くではライズ顔を真っ赤にして地面に倒れていた。


「なんで、弱いのにお酒飲むんですか!?ヴァルドールさん!ライズが倒れたので運ぶの手伝っていただいてもいいですか!」


「はい、お任せください。」


片手に大きなジョッキを持ちテーブルに伏せるイリス。


「……ねぇ、ヒメナちゃん、ライズがさ本物のアイドルはトイレに行かないっていうんだよ。だから、トイレに行く私は本物のアイドルじゃないって………うぅ、そんなわけないじゃん!アイドルだってトイレ行くよ!トイレ行かないなんて無理だよ、便秘だよ!便秘で倒れるよ!ライズなんてうんこ詰まって死ねばいいんだぁぁ!!!」


「…あはは、イリスさん、アイドルはあまりそういう言葉は使わない方がいいですよ…。あと、怒りに任せてライズさんの口に酒瓶突っ込むのもやめたほうがいいです……。」


付き合わされているアスハが疲れ切った表情を浮かべている。


少し離れた小さなテーブルでロリコンとみどりが幸せな空間を作り出していた。


「みどりちゃん、これ、美味しいで!」


「本当だ、とっても美味しいです。」


「せやろ、やっぱ料理はヴァルドールが一番やな。」


「そうですね、ヴァルドールさんの料理はどれも美味しいです。………ルビルさんはお酒飲まないんですか?」


「ん?あぁ、俺もお酒は弱くてすぐに酔って寝てしまうんよな。このみどりちゃんとの食事という幸福を一分一秒でも長く味わうために俺は酒は飲まないんや。(キラッ!)」


「ルビルさん…、私もルビルさんとの食事とっても楽しいですよ!」


「フッ………(尊死)」


眩い笑顔を当てられルビル意識は天に帰った。


「……あれ、ルビルさん?ルビルさん!ヴァルドールさん!ルビルさんが白くなって動かなくなっちゃいました。」


「思いっきり頭を叩いて上げてください。叩けば治ります。」


「えぇ!?」


すでにライズを運び終わり、料理の追加を運んでいるヴァルドールが返答する。

ヴァルドールが一人で複数の仕事を高速でこなしている。これが色彩に仕えるメイド長。


「ヴァルドールさんって何者なんですか?」


「いや、俺も細かいことは知らないんだよな。俺が色彩になる前からアルファに仕えてるってことぐらいしかわからん。」


「……そうですか、ヴァルドールさんって凄いですわね。まさに完璧超人ですわ。」


「まぁな、あの人がいないと色彩は成り立たない可能性すらあるからな。」


「うんうん、ヴァルドール様は凄い方ッスからね!あ、ロイ様、これ追加の料理ッス!」


特徴的な話し方をするショートヘアのメイドが料理をロイに手渡した。


「……おいナル。お前またつまみ食いしたろ。」


「っ!?な、ななナンノコトッスカ?」


「ヴァルドールがこんな偏った盛り付け方するわけないだろ。」


料理の盛られた皿をみると揚げられた鶏肉が盛りつけられソースがかかっていた。しかし、よく見ると確かに1個分の隙間を無理やり詰めたように見える。


「ふっ、さすがロイ様。恐ろしく早いつまみ食い俺でなきゃ見逃しちゃうね……ってコトっスね。」


「ヴァルドール、ナルがつまみ食いして……」


「ふざけてごめんっス!ヴァルドール様に言いつけられたら私がこんがり揚げられてしまうっス!!」


ロイの服をつかみガタガタと震え、青ざめるナル。


「あのヴァルドール様は容赦ないんす。鬼ッス、鬼の生まれ変わりなんスよ!!」


「そうなんですの?お優しい方に見えますが…。」


「それはマリス様がヴァルドール様に怒られたことないから言えるッス。あの鬼を怒らせた日には何が起こるか……」


ガシッ……ナルの頭が後ろからものすごい力で掴まれる。


ロイはまぁ、そうなるだろうなと予想通りの展開に気にせず酒を口にする。


「ナル、誰が鬼なのですか?」


後ろから絶えず流れ続ける殺気にナルは口をパクパクと動かしマリスに助けを求める。


「……ごめんなさい。」マリスはナルに手を差し伸べることはなかった。


「マリス様ぁぁあ!!!」


ズルズルとどこかへ連れて行かれるナル。

どこからともなく現れる完璧超人の目と耳はどこにでもあるのだろう。


「壁に耳あり障子に目ありですわね……やはり、ヴァルドールさんは凄い方ですわ……。」


どんなに色彩が好き勝手騒ぎ散らかしても空の皿は次から次へと料理の盛られた皿に変わる。空の酒瓶が転がればヴァルドールや他のメイド達がすぐさま片付け次を持ってくる。


この全てに魔術が使われている。メイド達には高レベルの強化魔術、食器や酒瓶には破壊不可と思えるほどの強度上昇魔術。料理には保温状態を保つ為、細かに調節された火属性魔術が付与されている。


全員が高いレベル魔術師だからこそ許された魔術の無駄遣い。


この宴会で使われている魔術だけで一体何回世界の技術レベルがひっくり返えるかわからない。


「やっぱり、規格外ですわね。」


「ふふっ、そう思いますよね。」


マリスがポツリと呟いたのを近くにいたフェルーナが聞いていた。


「フェルーナ様!?」


「そんなにかしこまらなくていいですよ。……ユークリストさんはこんな魔術の使い方は間違っていると思いますか?」


「いえ、そんなことは……。」


「誤魔化さなくてもいいですよ。こんな高い技術を無駄遣いなんて魔術が好きであればあるほど許せないことだと思います。……でもね、ユークリストさん。」


フェルーナは楽しそうに騒ぐ仲間を見て優しく微笑む。


「強すぎる力は日常を便利するくらいの使い方が丁度いいんだと思んです。過ぎた力は当たり前の日常を簡単に崩してしまう。だから、戦いに使うのは二の次で本当は日々を便利にするために魔術をつかって欲しい……残念なことに願い届かずですけどね。」


「フェルーナ様……、」


「……な〜に、二人で話してるの?」


「アルファ……だいぶ飲みましたね。」


「まぁね、もっと飲むよー!あ、マリスちゃんも飲む?」


「アルファ、未成年に酒を勧めないでください。あなたの誘いは断りづらいんですから。」


「そうなの?」


「そうですよ!」


アルファがフェルーナに少しお叱りを受けていると後ろから大きな声が聞こえてきた。


視線を向けると完全に出来上がってしまっているアスハが大声で騒いでいる。


アスハは力一杯にロイに抱き着く。


「ロイ君ロイ君ロイ君、なんで、ロイ君はぁいっつもわらしすきっていってくれらいのぉ?わらしはこんらに好きらのに〜。」


「誰だよ、アスハに酒飲ませたやつ!!」


「らにを騒いでるのぉー、おおごえは愛の告白のときだけにしなひゃーいってあははははは!」


「ごめーん、なんか、私のお酒間違って飲んじゃったみたい……。」


笑いながら平謝りをするイリス。

ロイを抱きしめるアスハの力がどんどん強くなる。


「お前、強化魔術使うのやめろ!」


「ロイ君〜、ぜったいひゃなさないから!!」


絞め殺さんばかりに抱きしめるアスハ、そんな彼女を見て学生達は驚きを隠せずにいる。


「え、アスハ先生どうしたんですか?」


「あー、アスハ君はね、一滴でもお酒飲むとあーなっちゃうんだよ。ロイ君への超絡み酒って感じだね。」


「へ、へぇ、そうなんですね。ちょっと意外でびっくりしました。」


「わかるよ、僕も最初見たときは驚いたもん。まぁ、あれはロイ君に任せるとしてそろそろ日も落ちてきたし、花火でもしよっか!」


いつの間にか空は日が沈みかけていて、すでに藍色へと変わり始めていた。


「すごいんだよ〜、メイドのナルちゃんが用意してくれる花火。とーっても綺麗なんだよ。僕も好きなんだよなぁ、あの花火。」


と、自慢げにアルファが言うと空が曇り始め天気が荒れ始める。


「あ、アルファ様がいらないこと言うからお天道様の機嫌損ねましたよ。」


「なんで!?!?」


「むぅう〜」と不満げに頬を膨らませアルファはその不満をお天道様にぶつける。


「ふん!いいもんね、そっちがその気ならこっちだって実力行使だ、ロイ君、アレ君、ナルちゃんやっておしまい!!」


ロイは仕方ないと頭を掻きながら銃を持ち。

アレックスは生き生きと刀を抜く。

メイドのナルは背丈より遥かに大きい黒い箱のようなものを掴む。


三人ともそれぞれ曇り空に向かい。

アルファの命令通り、お天道様に一撃入れる。


夜明けの弾丸(デイブレイク)

「天撃ッ!!」

「対巨大魔獣用殲滅決戦兵器、略して「たまちゃん」発射!!!」


三人の放った攻撃は天にぶつかり、雲を綺麗さっぱり消し飛ばす。

雲が晴れると多くの星々が顔を出した。

要するにお天道様の機嫌をお天道様ごと消し飛ばしたのだ。


生徒たちはもはや声も出ない。

フェルーナも呆れてため息をついていた。


「よし!不機嫌なお天道様は吹っ飛ばした!みんなで花火大会だ!!」


その日、空には大きな花火が上がった。

私はデザートを食べながらこの綺麗な花火を見上げた。


あまりに綺麗な花火の数々に見惚れるも心の片隅でお天道様に申し訳無く思ってしまうのだった……。



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