7人の大規模レイド
戦闘音が鳴り止まぬダンジョンにて、色彩達のレイドが始まった。
ボロボロの私は最初は手伝わなければと無理やり立ち上がろうとしたがフェルーナ様に止められた。
「大丈夫ですよ。あなたは十分以上に頑張ったんですから休んでてください。」
私はせめて座ろうと思いダンジョンの岩肌に背中を付けて色彩達を見上げた。
「攻撃が来ます。数50、アレックス、斬ってください。」
「まかせろ!」
オルタの大雑把な指示が飛び、アレックスは動く。
青い刀身の刀の柄に手を添え、楽しそうに笑ってた。
「さっきはお預けだったからなぁ、今度こそ行こうかぁ、なぁ、蒼ノ星よぉ。」
50の攻撃は高速でこちらに飛んでくる。その攻撃驚き目を閉じてしまう生徒もいたが私は異様な気を纏ったアレックスに興味が湧き、目を開いていた。
「抜刀……」
目を開いていたアレックスの動きに注意を払い見ていた……なのに何も見えなかった。
これほど「いつのまにか」という言葉が合う光景もないと思った。
抜刀と同時に刀身が青く光ったところまでは見えたがそれ以降はなにが起こったか分からず、攻撃に使われていた根は斬り落とされ、地面でビチビチと跳ねていた。
「これでええかぁ?」
「はい、では、アルファ様、フェルーナ様、イリス、ライズは待機。ロイ、アレックスはヤツの弱点探ってください。」
「了解」「おう!」
青い閃光と赤い閃光が地面から飛び、アーギアスを取り囲む根を斬り刻む。
しかし、ロイとアレックスの攻撃より再生が速く、あっという間に元に戻ってしまっていた。
「これならどうか!一閃ッ!」
アレックスの本気の一振りがアーギアスの身体に深い傷を付けた。
「ん?」アレックスは傷口から何かに気付き近づこうとするも反撃されて地面に落ちる。
「おい!オルタぁ!あの頭の中に石あったぞぉ!」ヒョイッと起き上がりアレックスは大声を上げる。
石……ではなく魔石。魔獣の心臓部分となる部位であり大抵の魔獣はこれを壊すと身体が崩れてしまい死に至る。
「壊せそうですか?」
「う〜む…あれ使ってええか?」
「あれ?………ッ!駄目です、絶対に使わないでくださいよ!?今回はあなたのあれに耐えられる装備を持ってきてませんからね!」
「わかったわかった。でも、どうするよ、あの再生速度はちと面倒だぞ。俺の力だけじゃ石まで届いても追撃前に石ごと再生されちまう。」
「待ってください…アーギアスの魔石は再生するんですか?」
「あぁ、さっき一撃入れた時にちょっち傷が入ったんだがすぐに戻ってしまったぞ。」
灰と青が話し合っていると空中の赤い閃光が大声で話しかけてくる。
「おい、アレックス!何サボってんだよ。」
「あ、すまん、ロイよ。さっき、石見つけた。」
「あ!?それを早く言えよ!」
「ロイ、そのまま足止めをお願いします。アレックスも足止めを……」
「よっしゃ」指示を最後まで聞かずに飛んでいくアレックスにため息をつく。
「それで、弱点は見つかったのかなオルタちゃん。」
後ろで岩の上に座り暇そうに足を振るアルファが報告を待っていた。
「見つかったには見つかりましたけど、魔石まで再生するそうです。」
「魔石まで再生って、凄いね。さすが災厄だ。」
「なに、褒めてるんですか。」
「それで、オルタちゃんには策はあるのかな?」
「はい、決めてはやはりロイかと、しかし、あれは威力はありますが命中精度が悪いですので撃つなら威力の最大値も考えゼロ距離が最適かと。」
「なるほどね、じゃあ、他の人でロイ君の道を作れば勝てるんだね?」
「はい」
「おーけー、じゃあ、終わりにしに行こうか。オルタちゃん、指示お願いね。」
等身以上ある杖の柄で地面を突き鳴らす。
「ロイは後退してください、アレックスはそのまま足止めをお願いします。アルファ様とフェルーナ様はアレックスの援護をお願いします。ライズはイリスの援護、イリスは準備をお願いします。」
それぞれ動き出す。アレックスは無限に生み出される根を対処し、アルファは生み出した剣を飛ばし攻撃、フェルーナは最上位魔術の五属性同時攻撃していた。
すると、アーギアスは叫び全員の障壁が消滅した、さらに身体中に根が張り巡らされたアークウルフとグランドデーモンが現れた。
叫びだけで障壁を消し、魔獣を根で操りますか。では、こちらも障壁の再生、全バフ効果を全員へ。
「ライズ、イリスに降りかかる火の粉を全部消してください。」
「あぁ、おけ。」
弾丸が次々と魔獣達の脳天を撃ち抜くが魔獣は一度は倒れるもすぐさま起き上がった。
「あー、これ、操られたやつ全部再生持ちになるのか……めんど。」
魔術空間からグレネードランチャーを2本取り出し弾を込める。
「こういうときは炸裂弾が最適だな。」
ポンッ……気の抜ける音からの爆発音が鳴り響く。着弾したグレネードの爆発に巻き込まれ魔獣たちが木っ端微塵になっていく。再生して立ち上がろうにも追撃によって塵となる。
「準備できました!」
イリスはこの場に似合わないフリフリの可愛らしいアイドル衣装を身に着け、片手にマイクを持っていた。
「5カウント後から約5分間、イリスの魔法が発動します。その間で奴にトドメを刺してください。」
「イリス、お願いします。」
「お〜けー、いっくよーー!!!」
世界観すら今の現状から逸脱している彼女はマイクを口に近づけ、笑顔で歌い始める。
彼女が歌い始めるとその足元から現実が書換えられ、ダンジョンだったはずのこの場所が綺麗な城の広々としたエントランスに成り変わる。
世界が彼女の世界で飲み込まれる。
「イリスちゃん、すごいですよね。」
五属性の最上位魔術をアーギアスに自動掃射しながら手が空いたフェルーナが唖然として固まる生徒たちに歩み寄る。
「フェルーナ様、これは……」
一人の生徒が口を開き、質問するとフェルーナは嬉しそうに応え始める。
「これはイリスさんの魔法です。」
「魔法?魔術では無いのですか?」
「そうですね。では、学園に戻ったらそれについての講義を開きましょう。」
魔術は魔力を変換し火や水などを生み出す。その魔術で生成した水を凍らせて氷を作り出すことはできる。だが魔術で生み出した水を砂に変えることは不可能。これは水が砂になるわけが無いという世界の制約が存在するからである。しかし魔法は発動すれば世界に新しい制約を追加できてしまう。創り出した魔法によっては水を金にすることも、石をダイヤに変えることもできる。
イリス・メイプルの魔法は範囲内の現実を彼女の心相世界に書き換えるというもの。……この心相世界内では範囲内の味方には一切の傷がつかず。どんな攻撃を受けてもダメージというものになることはない。
綺麗な歌声が響き続ける、その音に乗るように色彩の攻撃がアーギアスを追い詰めていく。
「よっしゃぁ!まだまだ、行くぞぉ!」
「アレックス楽しそうだね!よぉし僕も!」
ドンッ!と3mを超える大剣がアーギアスに突きさり、その上をアレックスが走り、そのまま、アーギアスの頭上から斬撃を叩き込んだ。
後退していたロイは大きめの拳銃を手に持ち不備が無いか確認していた。
「ロイ、準備はできましたか?」
「あぁ、問題無い。」
「では、行きましょうか。」
オルタは杖を振り上げ最後の指示を飛ばす。
「カウント5の後にアレックスは魔石まで斬り込んでください。アルファ様は魔石までの道をお願いします。フェルーナ様とライズは飛んでくる攻撃を撃ち落としてください。……カウント開始します!」
5…4…3…2…1……
「0ッ!!」
「一閃!」「武器創造」
青の斬撃で現れた魔石に巨大な金の剣が伸び道となる。黒の弾丸と銀の魔術がアーギアスの反撃を撃ち落とし、赤い光がアーギアスの魔石に向かって線を引く。
「装填」巨大な魔石に銃口を突きつけロイは引き金を引く。
「すまねぇなアーギアス、お前の物語はここが終点だ……夜明けの弾丸」
赤い弾丸がアーギアスの魔石をダンジョンごと貫く。
「ギャァァァアアアッ!!!」
魔石が再生を始めるが赤い魔力に阻害されて再生できず崩れ始める。
体が崩れていく最中、アーギアスは自分を殺した7人を睨見つけ、最後の足掻きに全員を道連れにするため根を伸ばす。
根は伸び色彩達の目の前まで迫っていたが崩壊が早く伸びた根も灰となって消えていった。
「流石は色彩だな。」ダンジョン内に高らかな笑い声と拍手が響き渡る。
暗闇から現れた男は正装に黒いシルクハットを被っていた。
「褒めてくれてどうも。で、君は何者かな?」
わざとらしく頭を下げ、にこやかな表情でアルファはシルクハットの男に問いかける。
「我はフェイカー。仮初の世界に終止符を打つ者だ。」
「面白いこと言うね。その年で中二病はちょっと痛すぎじゃないかな。」
「これが世迷言かどうかはお前が一番知っているのではないか?」
アルファとフェイカーは両者不敵な笑みを浮かべ睨み合う。
「それでフェイカー……アーギアスが封印場所から移動したのは君の差し金かな?」
「そうだとも、あの災厄を君等にバレないように動かすのは大変だったよ。しかし、あれ程、手間取ったというのにあなた達が来てからというもの10分程度で討伐されるとは厄災も名折れではないか。」
「そっか、君のせいか……ロイ、アレックスやれ。」
アルファの命令を受け、フェイカーは赤に心臓を貫かれ、青によって首が斬り落とされた。
フェイカーの斬り落とされた首は宙に浮き、黒い霧が集まり体を形成し、再生した。
「そうか、お前にも人間のように怒りという感情はあるのか、アルファよ。」
「そういう君は首一つになっても再生するなんて人間辞めてるね。」
「お前に言われたくは無いさ。執念の怪物よ。」
二人が会話する中でロイはその会話の内容が理解できなかった。
人間のように?執念の化け物?こいつ何言ってんだ。
フェイカーの視線が色彩達の顔を通る。
「ん?なんだ、貴様ら、金から何も聞かされてないのか?知っているのは銀くらいか。これはこれは未だ味方すら信用できないのか、可哀想な奴だ。そんなことでは死んでいった彼等も報われないな。」
「……黙れ。」
色彩達すらアルファのその表情には驚きを隠せないでいた。あの温厚でいつでも二ヘラと笑っているアルファが怒りの感情を現にしている。
アルファの怒りに呼応して、アルファの周囲に3mほどの大剣が数十本化現した。
「おぉ、怖い怖い。…………時間か。もう少し、貴様と話をしたかったが仕方ない。では、また。」
フェイカーは急に後ろを振り向くとそう呟き、丁寧にお辞儀をする。
ロイとアレックスはこちらに背を向け歩きだすフェイカーに追撃を考えるがアルファが視線で指示を送り、ロイ達は武器を降ろした。
「あぁ、そういえば。なにやらゆったりと動いているようだが、もう間もなくだぞ。」
「何が?」
「如月 真百合の命が尽きるまでがだよ。……あぁ、彼女の亡骸をお前に見せるのが楽しみで仕方ない。」
フェイカーがそう言った放った時にはアルファは奴の背に急接近し、大剣を振り被っていた。
「消えろ。」
アルファの大剣はフェイカーの肩から脇腹まで一刀両断し、宙に浮いていた大剣が次々とフェイカーに突き刺さる。体が半分になり穴だらけとなったフェイカーはそれでも笑いながら黒い霧となって消えていく。
「せいぜい抗ってみたまえ、希望の残滓が消えるまでに。」
フェイカーが消え静寂だけが残される。
アルファは地面に突き刺った剣を引き抜き、いつも通りの笑顔で全員に伝える。
「じゃあ、帰ろっか。」
ロイはアルファに装弾された銃を向ける。
「待てよアルファ。お前、何を隠してる。」
「急に銃を向けるなんてびっくりするなぁ。やめてよ、ロイ君。」
「何を隠してるんだって訊いてんだよ。」
カチャッ、ロイの首元で刀身が光る。
「ロイ。今すぐそれを下げてくれねぇか、でなきゃ、俺はお前を斬らんといけんくなる。」
「アレックス……お前も知ってるのか?」
「いいや、俺は何も知らんよ。だがなぁ、恩師である御館様に銃向ける奴には仲間といえど容赦はできんよ。」
一触触発の状況に緊張が走る。
そんな中、イリスはパチッと手を叩き「喧嘩はそこまでだよ!」と腰に手を当てて頬を膨らます。
「ロイは銃を下げる、アレックスは刀を鞘に納めて。」
それを聞いた二人はゆっくりと自身の武器を下げる。
「はぁ、アルファ様が秘密にしてることが何か私もすごーく気なるけど、それは多分、今は言えないことなんだよね。じゃあ、仕方ないよ。秘密にしてることなんてみんなあるでしょ。アルファ様にもそれがあるだけ。だから喧嘩はやめて、早く帰ろう。まだまだ、やることはたくさんあるんだから!」
ニコッと笑うイリスに皆やれやれと思う。
「仕方ねぇ、今日のところは引き下がるが後で話してもらうからな。」
「ごめんね、僕もその時が来たら隠し事なく全てを話すと約束するよ。」
こうして、アーギアス討伐戦は幕を閉じた。
生徒には重傷者も多くいたが都市ノルンと都市ジントの対応が早く、全員が助かることができた。
そして、今回、アーギアスを移動させ、多くの被害を出し、暗闇へ消えたフェイカーという人物については都市警察が動き今も動向を探っている。
全てが終わり、ダンジョン内に佇む色彩達の姿を見て私は思う。
私、なれるのかな……。