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希望の色

アスハ・ヒメナ救出の15分前……


「……ダンジョン内で崩落が発生しました。只今、原因を調査中です。ジント魔術学院の生徒の皆さんはこの場から離れないでください。もし、レイドメンバーがいない場合は近くの魔術師並びに教師に報告してください。負傷した生徒は……」


ダンジョンを管理していた魔術師が拡声機で指示を行っている。避難してきた生徒達は一箇所に集めらていた。


「ダンジョンが崩落したんだって」


「下層に落ちた生徒もいるんだってよ。」


「これどうすんだよ。」


「巨大な魔獣が原因らしいぜ。」


生徒は不安を紛らわせるように各々話し始める。

ダンジョンからは絶えず避難者が逃げ出してきていた。


仲間とダンジョンで逸れてしまった者、激痛に叫ぶ者、意識の無い友人に泣き付く者などダンジョンの外も地獄のような状況だった。


「どうしてこんなことに……ッ。」


今回の実習に同行していたキースは怪我人や物資を素早く移動させるため転移魔術を継続的に使用していた。


緊急用の物資はダンジョン管理用の建物ということもあり多くあるため物資の枯渇することは無い。


だが、ダンジョンの崩落のせいで救助隊が生徒の救助に向かえない。人数を確認したが15名が今もダンジョン内に取り残されている。このまま、時間が過ぎてしまえば助かる命も助からなくなる。


問題はダンジョンの崩落で道が塞がれたこともあるがそれ以上に崩落したことでダンジョンの構造が変化しダンジョンの外に魔獣が現れるようになってしまったことだ。今はダンジョン管理者の1級魔術師や講師、教員が対応しているがダンジョンから溢れ出る魔獣達を掻い潜ってダンジョンに潜るのは極めて難しい。ここには避難してきた生徒達も集まっているし、まだ、避難してくる生徒もいる。ここの人員をこれ以上減らす訳にはいない。


救援は呼んだが、すぐには来ない。


なぜ、魔獣達がこんなにも出現し続けるんだ。通常なら一定数の魔獣を討伐すると次に出現するまでには時間がかかる。いくら無限に湧いてくるとは言ってもこんな頻度で出現するなんておかしい。


そして、現れる魔獣が通常体とは違い、ある程度の再生能力を持っていることも1級魔術師達を苦戦させている原因だ。この短時間でダンジョン内の魔獣が変異したのか?なにが原因で変異したんだ?


どうしたら、ダンジョン内の生徒達を助けることができるか。何度も何度も思考し続ける。


生徒達の話にある巨大な魔獣が原因だとしても1体の魔獣がここまでの影響を持つのか。

だとしたら、その魔獣を討伐できれば現状は変わるのか、そもそも、そんな魔獣を討伐するためには戦力を確保しなければ……、


「クソッ!」


変えられない状況から焦燥感に駆られる。

しかし、手を止める訳にはいかず物資が積めこまれた段ボールを管理所入口から医療班のいる場所への転移させ続ける。


突如、爆発音がダンジョンの方から鳴り響いた。


「なにが起こったんですか!?」


近くにいた管理者の魔術師は青ざめた顔でダンジョンの方へ指を差した。


「下層の魔獣がダンジョンから出てきたんだ。それも小規模のレイド級の魔獣が3体もだ!急な強襲だったから対応が遅れて、1級魔術師達もやられた。」


1級魔術師達が!?


「生徒は無事なんですか!?」

管理者の肩強くを掴む。


「わ、わからねぇよ、俺だって急いで逃げてきたんだから。」


「ッ!」


生徒達がいる場所へ急いで向かう。

転移魔術で向かいたかったが向こうの状況もわからずに使えば戦闘の邪魔になりかねない。


男が指を指した方向へ走って行くと見えたのは凄惨な状況だった。


多くの一級魔術師達が地に伏し、残った講師と一部の生徒がどうにか抑えている。前線にいる生徒の中には重傷を負った者も出ていた。


対して魔獣側は無傷に近い。3体魔獣は全て悪魔型のデーモン。先程の男が話していた通り、1体でも小規模レイドが必要となる下層に住む魔獣だ。


咆哮し、悪魔は生徒達へ鋭い爪で攻撃を始めた。


「保存魔術式・テレポート発動!!」


キースはテレポートで腕を振りかぶる悪魔と生徒の間に移動した。


「保存魔術式・暴風弾、エクスブラスト、アイシクルランス!!」


風、爆炎、氷の属性の魔術を発動させ悪魔へぶつける。悪魔は防御の姿勢を取ったため攻撃は止んだ。


しかし、悪魔型の魔獣は魔術抵抗力が高いため、先程の魔術では傷一つ付くことが無い。

さらに悪魔型の魔獣は知能も高い。奴らは策を練り、敵に対して適当な対策することができる。悪魔型を相手にしている時の重要なことは対人戦だと思って動くこと。


「魔術式起動・ロックウォール、多重テレポート!!多重テレポートに追加IF魔術式・負傷者、及び医療班、医療器具、医療物資の指定。」


「"起動準備完了・発動可能"」


「発動!!」


戦闘が起こった場所の近くにあった、負傷者用のテントとそこにいた医療班を全てテレポートで管理場の外へ移動させた。本来なら生徒も全員避難させたかったが私の魔力量ではこれ以上の追加指定は不可能だった。


あと15分経てばもう一度多重テレポートが使用可能な魔力量まで回復する。それまで、残りの魔力で生徒達を守り抜く。


「これよりここにいる人員で緊急レイドを開始します!指揮は私が取ります。討伐目標はデーモン3体!!」


戦っていた教師、講師、管理者、生徒が一瞬視線を送り、同時に頷いた。


「後衛は魔術攻撃をやめ、前線の補助をお願いします!前衛!タンク三人はそれぞれ各デーモンに攻撃誘導を使用してください。できるだけデーモンの攻撃が一点に集中しないように分散させてください!アタッカー8人は3、3、2で各デーモンを攻撃、学院の生徒は3人組へ参加!危険と判断次第、私がテレポートで前線から下げます!」


デーモンの爪とタンクの盾が衝突し重い金属音が響く。参加している生徒は後衛3名、前衛2名。戦闘経験の少ない生徒を前線に参加させる判断はしたくなかったが少しでもデーモンの攻撃を分散させなけれいけないため苦肉の策だ。


「後衛!回復支援はタンクを優先してください。前衛2名のグループはこれから30秒後にデーモンから距離を取ってください。カウントは5秒前からします。」


一体ずつ確実に討伐する。


「右方は剣を通さず・左方は槍を通さず・前方は弾丸を通さず・後方は弓を通さず・上方は落雷を・下方は地割れを通さない。」


「"詠唱を確認しました。高位結界魔術を発動します。」


「カウント開始します、5・4・3・2・1、今!!六方剛壁発動!!」


前衛の2人がデーモンから距離を取った、その瞬間を逃さず一体のデーモンを高位の結界魔術で囲んだ。


「焔は消えず燃え続け・その場全てを灰となす」


「"詠唱を確認しました。中位攻撃魔術を発動します。"」


「炎火の界」


デーモンを囲み密閉した結界内に炎が広がる。勿論、デーモンにはダメージが通らず、無意味な行動だ。デーモンもそう思ってるだろう。


だが、デーモンは数秒後に苦しみ悶えながら死んでいった。


デーモンには明確な弱点がある。身体は強靭で生半可な物理攻撃は通らず、魔術抵抗力も高いため魔術攻撃も通らないデーモンだがその体内の構造は人間に近しいものとなっている。


私の炎は空気中の酸素を燃やし尽くし、その後は不完全燃焼で一酸化炭素を発生させる。………奴は一酸化炭素中毒で息絶える。


アスハ統括は自身の膨大な魔力を使いで空気中の酸素を利用せずに炎を発生させるが私は炎魔術に関してはまだまだ未熟なため魔力だけでは足りず酸素を使ってしまう。


しかし、それを逆手に取り、空気中の酸素を使い続けることで人間と同じ生物構造を持つデーモンを討伐することができる。


「デーモンは残り2体です!前衛は4、4に分かれて戦闘続行!後衛は支援継続!」


魔術を行使したため、次の多重テレポートまでのクールタイムが伸びてしまった。しかし、あの場で確実に一体討伐した方が全員の生存確率は上がる。


この人数であればデーモン2体ならどうにか……、


……希望は近付くほど遠ざかり・絶望は笑いながら後ろ髪を引き続ける・絶望は人を狂わせ・壊し尽くす。


これは魔術詠唱。一体誰の……。


どこからとも無く聴こえてくる不気味な声の主は姿を見せることなく、絶望を謳う。


悪魔の頭上に崩れた形の天使の輪っかとも形容出来そうなものが現れる。すると悪魔達は形を変え、2体の悪魔は1体となり、殺したはずのデーモン死体までも形を変えた悪魔の腕のような部分から現れた大きな口が捕食してしまった。


混ざっていく、悪魔は形を変え、異形の絶望へと進化していく。無数の目、腕に付いた大きな口。全身は黒い泥のようなものに覆われている。


悲鳴など聴こえない。声すら出せないほどの威圧感に耐えられず後衛の生徒が気絶してしまった。


「うわぁぁあ!!!」


前衛の一人が異形の姿の化け物を前に剣を掲げて走り出す。


「待てッ!!」


グシュッ……走り出した男は上半身が食いちぎられ、脚だけ地面に残された。


脚だけとなった男を観た化け物はケタケタと笑い出す。

不気味に命を嘲笑う。


考えろ、全員を救うための方法を、どうしたらいい、何か手立ては……、


「無理だ……。」


本心が口から漏れてしまった。

化け物は目にも留まらぬ速さで動き次から次に魔術師達を喰らっていく。


血の水たまりが増えていく。

「保存術式!!」


できる限りの攻撃魔術の展開。自身が使える四属性全ての攻撃を化け物にぶつける。


無傷、中級魔術では傷一つ付かない。だが上級魔術の使用するには詠唱が必要。そんな時間は無い。


やはり、現在の魔力で生徒をテレポートで逃がすしか、しかし、失敗すればそれこそ生徒を殺しかねない。


どうしたら……どうしたらいいんだ……、


「"……キース先生、7人分の転移の扉を開けてください。接続はこちらで行います。お願いします。"」


突然、脳に直接下された命令、誰からの命令かすぐに理解し、躊躇いなく今ある魔力を使い切り、7人分の転移の扉を開く。


転移の魔法陣の前で私は膝をつき頭を下げる。


私ではどうにもならなかった。だが、絶望は終りを迎える……、希望(彼ら)の手によって。


「キール先生ありがとうございます。助かりました。」


「キール君いなかったら終わってたね。」


「オルタって、やっぱドジっ子だろ。」


「うんうん、オルタちゃんってここぞッ!って時にすっ転ぶんだよね。」


「ドジっ子そのものだな。」


「ごめんなさいね!!わかりましたからドジっ子ドジっ子って言わないでください!」


銀は私に丁寧にお礼をしてくれた。他の色は灰色をドジっ子だと言い続け、灰色はいつもの冷静な姿ではなく失敗を恥じて顔を赤くし、ドジっ子と言われることに反対している。


彼らは緊張感など微塵もなく、この場の空気など気にもせずに楽しそうに話す。


「おぉ!あんなところに斬り甲斐のありそうな化け物がいるじゃねぇか!」


青は化け物を前にして笑みを浮かべる。

「アレックス様、あれはデーモンの融合体で……、」


私はあの化け物についてできる知る限りの情報を伝えようとするが青は「いらんいらん、どうせ、俺が聞いてもわからんからよぉ!で、あれは斬ってもええのか?なぁ、オルタよ。」と言って聞く耳を持たない。


「良いですよ、あれを残していても邪魔にしかなりませんから。」


「そうか、そりゃ良かった。」


アレックスが蒼い刀身の刀を鞘から引き抜こうとすると「アレックス、それは使わないでくださいね。」とオルタは止めた。


「なぜだ?」


「生徒ごと斬るつもりですか?」


アレックスは周囲を確認する。生徒が一箇所に集まっているのが見えて溜息をつく。


「仕方ない、こっちにするか。」


2本差のもう一方の刀に手をかけ引き抜く。

刀身は銀色、先程の刀とは違い一般的な刀だった。


「こっちは刃を落としてるんだがなぁ。まぁ、あの程度ならええか。」


「ケラケラケラケラ…ッ!!」


化け物はアレックスに気付くとすぐに襲い掛かる。デーモンの時にあった知能は最早微塵も無いようだった。


「碌でもないことをする奴もいるもんだなぁ。……静かに眠ってくれ。」


一閃……次に見えたのは刀を振り上げる姿では無く、すでに振り下ろした姿だった。


斬撃は化け物を欠片も残さず消し飛ばす。

再生など関係ない。なにも残らないのなら再生などしようが無い。


詠唱無しの無詠唱上級魔術……などでは無く、ただ刀を振っただけ。無茶苦茶だと私は笑う。


私はこの人達と同じ時代にいられることを光栄だと思う一方で自分がどれほどちっぽけな存在かを思い知らされるこの瞬間が嫌いだった。


しかし、生徒達の驚きはアレックスの斬撃では無く、ある一人の男へのものだった。


一人の男子生徒がその男に指を差し口をパクパクさせてやっと一言放つ。


「……ロイ…先生、なんで……。」


いつも気怠げで、遅刻は当たり前、常にだらし無い姿をしていて、アスハ先生にいつも怒られている。そんな、どうしようもないような講師だったはずの男が色彩の紋章の付いたローブを羽織り、平然と色彩達と並んでいる。


「おう、大丈夫だったかガキ共。」


テキトーな言葉を投げかけくる男は間違いなくロイ先生だった。


あまりの衝撃に生徒達は声も出ない。


「ほら、ロイ君が先に言っとかないから皆固まっちゃったじゃないか。」


アルファはヘラヘラと笑っていた。 


「……仕方ないだろ。色彩ってバレたらサボれないんだから。」


「「「色彩じゃなくてもサボんなよ」」」


灰と黒と黄から同時に突っ込まれる。


「きゃあ!!」「急いで外へ!!」ダンジョンの方から声が聞こえ振り向くと、ポロネ、マリス、クロム、ハーニアが魔獣の大群を連れてダンジョンから逃げ出してきていた。


「ライズ!魔獣の処理をお願いします。」


直ぐ様、オルタの指示が飛び"色彩の黒"ライズが魔獣の大群に向けてマシンガンを構える。


マシンガンの射線に生徒がいることもお構い無しにライズは引き金を引いた。


射出された魔力弾は生徒を避けるように動き魔獣達の頭だけを貫く。


二十はいた魔獣の群れが数秒で残骸となった。


「大丈夫ですか?」


膝に手をつき息を整えていた、マリスは声をかけられ返事をしようと顔を上げる。


「はい、大丈夫です……わ…ッ!!」


声をかけてくださっていたのは"色彩の銀"助けてくださったのは"色彩の黒"……そして、こちらを心配そうな目で見てくださる色彩の方々……


「ふぇ……」


憧れの方々に囲まれてマリスの感情は爆発した。その場に倒れ込むマリスをクロムが受け止める。


「助けてくださりありがとうございます。」


ポロネは深々と頭を下げる。

ボロボロでダンジョンから出てきたポロネ達の姿を見てロイは首を傾げる。


「……あれ?ポロネ、お前のチームってルリーナと引率でアスハいなかったっけ?」


ポロネは息を整えたのも束の間、動揺も見せずハキハキと応えた。


「アスハ先生は巨大な魔獣から私達を逃がすために3階層で魔獣の足止めをしています。ルリーナちゃんは……逃げてる最中に床が崩落して下の階層に落ちて……」


言葉を言い連ねるごとに震え始めたポロネの肩をフェルーナは優しく手を置いた。


「……私の友達も下に落ちてしまって、」

「……俺のダチも」

「……私の親友も」


生徒がダンジョンに取り残された仲間を想い助けを求めている。


「わかったわかった。全員見つけて助ければ良いんだろ。任せておけって」


ロイはその声を適当にあしらい。その上で近くにいたアルファに告げた。


「……先に行く。」


その言葉を聞いたアルファは「わかった、僕達も現状の把握が終わり次第すぐに向かうよ。」とあっさりと応える。


「纏い」ロイがそう呟くと髪の先が赤くなり、瞳も真っ赤に染まる。


ロイは予備動作も見えないほどの速さでダンジョンの中へ向かっていった。


その姿を見届けた後、アルファはキールに歩み寄り、ニコッと笑いながら言った。


「じゃあ、キール君、()について教えてもらっても良いかな。」



時間は進み、アスハ・ヒメナ救出と同時刻。

ダンジョン九階層にて……


「クソッどうなってるんだ!?」


ダンジョンの崩落に巻き込まれた生徒達はどうにか合流し、九階層の一つの小さなエリアに集まっていた。ダンジョン潜入前の障壁が落下のダメージを肩代わりしたらしく崩落での重傷者や死者はいなかった。


「私達、これからどうなっちゃうの……」


ある生徒はどうしようもない現状に怒り、ある生徒は泣き崩れ絶望した。

連絡用魔力媒体は崩落によって全て壊れてしまい。九階層の魔獣に襲われ命からがら集まっている。


ここに逃げ込むまでの戦闘で生徒達は気力も体力も魔力も使い切ってしまっていた。


「……私、助けを呼んでくる。」


一人の女子生徒…メアが立ち上がりそう言った。


「了承出来ない、何階層かもわからないこの状況で魔獣達と戦いながら上の階に行くなど、死にに行くようなものだ。」


A組でもマリスに並ぶ程優秀な生徒のグランツは現状の彼女では無理だと判断し引き止める。


「でも、このままじゃ、全員助からないよ。」


「………大丈夫だ、待っていれば助けが」


「助けには来れないよ、だって私見たよ、ここの階層の入口、崩落で塞がってたの。だから、誰かが崩落した場所を登って助けを呼ばなきゃだめなんだ。」


「……じゃあ、俺が行く。その役目はメアでは無くレイドリーダーの俺がやるべきだ。」


「だめだよ、グランツ君がいないと誰が皆んなをまとめるのさ。」


「それは……」


咆哮が上がる、奥から現れたのはグランドデーモン、デーモンの上位種だった。


「湧き上がれ炎よ・敵を囲み・焼き払え!」


「"詠唱を確認しました・中級魔術 炎牢発動可能です。"」


「発動!」


炎がグランドデーモンを取り囲む、しかし、魔力が足りずグランドデーモンが振り払っただけで炎は掻き消されてしまった。


「はぁあ!!」


メアはグランドデーモンに剣を持って斬りかかる。


「動けるものはメアの援護を……」


ここでグランドデーモンを止めなければ全滅する。覚悟を決めて指示をする。

しかし、後ろにいる生徒達は怯えて震えるだけで誰も動いてはくれなかった。


「きゃあっ!!」


カンッ……グランドデーモンによって剣を弾き飛ばされ、メアはその場に倒れてしまった。


「メアッ!!」


助けに入ろうとするも後衛の立ち位置にいたグランツでは間に合わない。


グランドデーモンは鋭い爪を振り上げ、メアを貫こうとした。


……その時、グランドデーモンの横から何かが物凄い速さで現れグランドデーモンを横から蹴り飛ばした。


土煙が立ち、シルエットだけが見える。


メアは土煙の奥にいる乱入者に声をかける。


「誰?」


「あれ?メアさんじゃないですか!」


土煙の中から現れたのはF組のルリーナちゃんだった。


「ルリーナちゃん!ルリーナちゃんも崩落に巻き込まれたの?」


「はい!……あ、ちょっと待ってくださいね。」


グランドデーモンが立ち上がり、標的をルリーナに変更して襲い掛かる。


「ルリーナちゃん逃げて!」


グランドデーモンの爪は空振り地面に突き刺さる。グランドデーモンは残りの3本の腕で追撃するがルリーナはそれを見事に空中で躱しきった。


「視えてますよ。」


着地してすぐに踏み出し、グランドデーモンの首を切り落とした。


「嘘……」メアはあまりの驚きに口をぽかりと開けて固まってしまった。


グランドデーモンはB級以上の魔術師が大規模レイドが必要となる魔獣だ。それを学院の生徒が単騎討伐するなんて……


「メアさん達は全員無事ですか?」


「うん、全員無事だよ。ルリーナちゃんはこれまで一人でこの階層を?」


「はい、崩落で一人だけ落っこちてしまいまして、それからはずっと一人です。」


「…一人で大丈夫たったの?これまで魔獣に会わなかった?」


「いえ、たくさん会いましたよ。さっきのにもよく会いましたし、なんか大きな犬にも会いましたし。」


「待て、あれによく会ったと言ったか?」グランツはグランドデーモンを指差し、ルリーナに尋ねる。


「はい。」


「グランドデーモンが多く徘徊する階層……」


少し、考え込む。そしてすぐに結論がでた。


「メア……ここはダンジョン深層の第九層だ。」


「九……層?」


「あぁ、グランドデーモンとその犬というのは多分アークウルフだ。両方下層の魔獣だ、そしてその二体が複数存在する階層は九層以下だ。そして、十層は1フロアしか存在しないはずだからここは間違いなく九層だ。」


ダンジョンの天井から水の雫が落ちる音が響く。フロアが静まった、メアやグランツは現状を把握し絶望する。


九層の魔獣はA級魔術師の小規模レイドまたはB級魔術師の大規模レイドが必要となる。A級魔術師は10名以上、B級魔術師は30名以上いなければならない階層なのにここにいるのは一学年の生徒のみ、人数は21名。これではグランドデーモンすら倒すことなど不可……


グランツの視線がルリーナに向く。

グランドデーモン倒すことなど……倒すこと…など、


ルリーナはグランツと視線が合うも、きょとんと理由もわからず首を傾げる。


「ルリーナ、君のことはユークリストから聞いている。…あぁ、すまない。挨拶がまだだったな。グランツ・エバーだ。よろしく。」


「はい!よろしくお願いします!」


「それでルリーナ。君はグランドデーモンを討伐できるんだよな。」


「グランドデーモンってあれですか?」


先ほどルリーナが首を飛ばした悪魔の死体を指差す。


「あれだ。」


「はい、倒せますよ。」


グランドデーモンがどんなものかも知らず、ルリーナは現状だけ見て返事をする。


「よし……これからルリーナを筆頭にレイドを組みダンジョンから脱出する!」


ルリーナと合流できたことで希望が見えたグランツは宣言する。


だが、フロアの隅っこで重く暗い空気を漂わせている19名の学生達は苔むした石のように動くことは無い。


この現状では無理も無い。この状況で平常心である方がおかしいのだ。……ルリーナのように。


「ルリーナが入れば最低限の戦闘を乗り越え上層に上がることができる。上層に上がることができれば救助が来る可能性が格段に高まるんだ。頼む、共にこのダンジョンから脱出するのを手伝ってくれ。」


彼らの苔の生えた心には響かない。

彼らの疲労と疲弊を立ち上がらせるほどの力が彼の言葉には無い。


「無理だろ、そこのグランドデーモンを倒せたのだってたまたまだろ。次襲われた死ぬに決まってる。」


「わざわざ、動く必要ない。ここにいればいつか救助がくるんだ。」


「そうだよ、わざわざここを出る必要なんて無いよ。」


正しいのはその場で待機することだ。それは知っている。ダンジョン内での緊急時の行動はそうすべきだと教えられたから。


だが、ここは安全地帯ではない。

ここは九階層の1フロアに過ぎず、ここには魔獣が出現する。五階層以上にしか安全地帯は無いが少なくともあと一階層上がればグランドデーモンとアークウルフの出現区域から外れることができるはずだ。


グランツは必死に今動くべきだと説得を試みる。情が厚いグランツは全員を説得しなければならないと焦りを感じていた。このままでは残った人が死んでしまうと……、


だが、その行動が呼んだのは残念ながら全員脱出という未来ではなかった。


先に違和感に気付いたのはルリーナだった。

その後すぐにメアも気が付いた。


「魔獣の音がしない。」


ダンジョン内では音が反響しやすい。だからこそ、魔獣の位置などを把握するのに音は重要になる。先程まではとても遠くで魔獣の声や足音がしていたのだが急に全て消えてしまった。例えるなら蝋燭の火が風に吹かれてパッと消えてしまったような……。


「メアさん!!」


地面からメアを狙って突き出した木の根。ルリーナがメアを押すことでメアは助かった。だが、木の根はルリーナの腹部に貫かんとばかりに激突しダンジョンの壁まで飛ばされ、ルリーナは背中を強打してしまった。


「がッ……」


あまりの激痛に身体が動かない。


ダンジョン内に女性の叫び声が再び響き渡る。


異変に気付いたのはグランツだった。


「障壁が消えた……。」


グランツに残っていた魔術障壁が叫び声だけで消された。


九階層の床は再度崩れ始め、九階層と十階層ではビル10階分程の高さがあるにも関わらず十階層から巨大な白い顔が現れる。それは石膏像でできた女性のような顔をしていて、不気味に笑っていた。


「逃げろッ!!」


殺される、そいつと目が合った瞬間にそう思わされた。崩れた床下から先の鋭い木の根が伸び始め生徒達を貫く。


腕や脚に根が突き刺さり、生徒達の叫び声がダンジョン内に広がる。


だが、幸運にも死者は出なかった……と一瞬思ったが認識が間違っていることに気が付いた。奴は面白がっているだけだった。奴は生徒達が絶望している様を見てニタニタと笑い続けている。


逃げ場は無い、既に逃げ道は崩れて消えた。

しかし、あれを相手に戦うほどの覚悟をグランツは持ち合わせていなかった。


「………終わりだ…、」


奴と視線が合う、無数の鋭い木の根がこちらを向き飛んでくる。


何が優秀な魔術になるだ、何が魔術の高みに登るだ。グランツ……お前はただの臆病者だ。


ドンッ……誰かに横から押された。

頬に冷たい雫が飛んでくる。


理解できなかった理解したくなかった。


「あ…あぁぁぁぁぁあああ!、!」


大切な幼馴染であり、最後まで自分を信じてくた彼女……メアが目の前で木の根によって腹を貫かれていた。


彼女の血が木の根を伝い地面に血溜りを作っている。


近付くと彼女の今にも消えてしまいそうな小さな声が聞こえた。


「………い…き…て……」


木の化け物はこれじゃないとでも言うように貫いたメアを振り払い、投げ捨てた。


ベチャッ……投げ捨てられたメアは血を散りばめながら転がる。


「メアッ!!!」


すぐに駆け寄り、声をかける。抱きかかえた彼女の身体から流れ出た血で制服が染まる。


身体を揺らしても、大声をかけても、彼女が目を開くことは無かった。


なんで……こんなことに………。


他の生徒達の叫び声が遠ざかっていく。

距離が変わったわけじゃない。俺が絶望に落ち続けているだけ。


奴は口角をさらに上げる。俺が絶望しているのが面白くてたまらないらしい。


俺の腕に木の根が突き刺さる。血が溢れ出るが痛みは感じることは無かった。奴は面白がって俺の命で遊び始めた。足を突き刺して見たり骨を折ってみたりして遊んでいる。だが、一向に叫ばない俺に奴は飽きたらしく目の前に鋭い木の根を伸ばしてきた。その根はゆっくりと距離を取り、頭めがけて勢い良く飛んできた。


すまない、メアとの約束は守れない。


「何をしてるんですかッ!!」


バキッ、俺の頭を貫こうとしていた根っこは目の前で切り落とされた。


「何を諦めてるんですか!立ってください

。まだ、メアさんは生きてます!勝手に諦めないでください!!」


「ルリー…ナ。」


頭から血を流し、体は傷だらけの彼女はそれでも奴に立ち向かう。


「私にはわかります、まだ、彼女の命は消えてません。すぐに処置をすれば間に合うはずです。だから、グランツさん、あなたはメアさんを連れて急いで上層へ向かってください。」


「……君はどうするんだ?」


「私は……あれを足止めします。」


「あれ」が目の前で玩具を取り上げられた子供のように不機嫌な木の根っこの化け物を指していることはわかった。


「無理だ!君がいくらグランドデーモンを倒てもあれはレベルが違う。アイツが本気で殺しに掛かってきたら君一人では捌ききれるはずが……」


「知ってますよ。自分がアレに勝つことができない事も、奇跡でも起こらない限り私が死ぬこともわかってます。」


「じゃあ、なんで……」


ルリーナは振り向き笑ってみせる。


「後悔したくないからですよ。ここであなたを見捨てたら私は一生後悔します。助けなかったことを後悔しながら生きるなんて、そんな人生まっぴらごめんです!だから、私は戦います。大丈夫ですよ、奇跡が起これば生き残れるなら奇跡を起こすだけですから!」


なんで、彼女は絶望しないんだろう。あれを前になぜ立ち向かえるのだろう。わからない。


立ち上がろうとすると鋭い痛みが全身を回る。突き刺された傷口からは血が溢れ出す。それでも、お構いなしにメアを抱きかかえ立ち上がる。


「……この借りは必ず返す。だから絶対に生きてくれ。」


「それはいいこと聞きましたね。じゃあ、帰ったらご飯奢ってくださいね。約束ですよ!」


「あぁ、わかった。……ありがとう。」


走り出す、彼女の命を救うため。穴だらけの身体と心に無理をさせ、激痛の中で足を動かす。勇気は勇者(ルリーナ)がくれた、あとは動くだけだ。


大切な人のために命を賭けて走り出した男の背に優しく微笑む。


そして、現実と…絶望と正面から向かい合う。

死を想像してしまうほどの殺意を向けられている。


私の正面にいる化け物は先程までの笑みを忘れ、憎悪に満ち溢れた表情をしていた。


「あなたの遊び相手は私です!」


女性の顔をした化け物は女性らしからぬ咆哮を上げる。


地面から巨大な根が現れる。中に飛ぶことで回避し、巨大な根を足場に化け物に飛びかかる。


正面から4つ、上から5つ。


剣を地面に突き立てそのまま右へ回避し、直ぐ様立ち上がり走り出す。


後ろから1つ…、地面から5つ。


後ろを振り返り、炎を纏わせた剣で斬り上げる。地面からのは少し後退して突き出たところをまとめて斬る。


前から10、右から4、左から9、後ろから6。

前から飛んでくる根っこに向かって走り出し切り開きながら一本の根っこの上を駆け抜け奴の顔の前まで向かう。


石膏像のような女性の顔の額までたどり着く。


「制限解除!」


一瞬の制限解除で全身の強化を最大まで上げ、化け物の額を剣で突き刺す。だが、化け物の白い頭部は硬く剣は金属音を鳴らして弾かれてしまった。


直ぐに額を蹴り地面に着地する。傷一つつけられていないというのに化け物は怒り狂っていた。


息を整える。

すぐに敵の攻撃が始まった。根っこの薙ぎ払いに対して剣で斬り捌こうとしたが剣と根っこがぶつかった瞬間に地面を蹴り飛んで回避した。


斬れない……根が硬化してる。


上から叩きつける攻撃も空中で体を捻り回避し、もう一度、斬りつけてみるもやはり傷一つつかない。


どうしましょうか……ねッ!


再び走り出す、剣で捌かず身体を動かし回避し続ける。


攻撃速度上がってますね。


全方向から迫りくる攻撃に対応し続けながら前に進む。一撃でも貰えば足が止まってしまうため、全ての攻撃が即死に近い。


再び敵の顔の前まで来た……なんで、笑って……。


先程まで自分に向けられていた中を蠢く木の根がこちらを向いていないことに気付いた。


化け物の視線の先にいたのは足を負傷し逃げ遅れた同級生達だった。


まず……ッ!


直ぐに自分が立っていた根を蹴り、彼らの元へ向かう。


間に合え!


ルリーナは化け物の根を飛び移りながらどうにか彼らの前にたどり着く。


しかし、構えていたところへの攻撃では無く、焦って動いてしまったところへの攻撃であるため、捌ききれるはずが無く。ルリーナは急いで剣を盾がわりにするも剣は折れてしまい、身体に巨大な根が直撃する。


そのまま、ダンジョンの外壁まで突き飛ばされてしまった。


い……しき……が……、


背中を強打し地面に伏せたままルリーナは意識を失った。




………れ……


…………るん……


…………複を…………


どこからか薄っすらと声が聞こえる。


あれ……私は………。


水中から浮き上がるように段々と意識が戻っていく。


「全員!耐え続けろ!なんでもいい使えるものは使え!ここで彼女を死なせることだけは絶対に阻止するんだ!」


雄叫びがダンジョンを震わせる。


目を開くと先程まで恐怖によって隅で固まっていたはずの女子生徒と視線があった。彼女は私が目を開くと涙を溢れさせた。


「よかっ…た。」


周囲を確認すると複数の同級生達が化け物に対して魔術や剣で立ち向かっていた。


その同級生達はグランツの言葉でも動かず、その場にいることを提案していた者達だった。


「どうして……」


「ごめんなさい!戦わずに逃げて。ルリーナさんに全て押し付けてといて何を今更って思いますよね。……でも、あなたに守られながら、あなたが戦っているのを観ていて思ったんです。私は……私たちはこのままじゃ駄目なんだって。」


盾を構えて攻撃を抑え続けている男子生徒は命を張りながら笑う。


「お前を見てて思い出したんだ、俺は前線で命張って戦う魔術師達に憧れて魔術師を目指したんだって。危なく忘れたまま死ぬとこだったよ!」


危険を目の前にしながら私に回復をかけてくれている女子生徒は震えた手を押さえていた。


「ごめんなさい、戦っていたのを震えて見ていることしかできなくてごめんなさい。……ルリーナちゃん、守ってくれてありがとう。」


その女子生徒は先程の攻撃からルリーナが助けた生徒だった。


前線で剣を握る男子生徒が叫ぶ。


「全員、覚悟を決めろ!隅っこで動けずにいた臆病者(俺達)がすべきことはルリーナ(勇者)を助けることだけだ。あいつは命を張ったんだぞ俺達が張らねぇわけにはいかないだろ!」


恐怖で固まった心を動かしたのは全知を得た賢者の言葉でも、過去に栄光を成し遂げた偉人の言葉でも無い、たった一人の少女が戦う姿だった。


「……ルリーナさん、再びあなたに頼らなければならないことを心苦しく思いますがこのままではあと数分で全滅します。何か手立てはありませんか?」


杖を持ち支援魔術を全体にかけながら全体の指揮を執っている女子生徒に声をかけられた。


手立ては……ある。

でも、倒せるかはわからない。

それでも今はやれることをやるしかない。


「倒せるかはわかりませんが傷を負わせることぐらいはできると思います。」隣にいた同級生に支えられながら立ち上がる。


「わかりました、それに賭けましょう。ルリーナさんは準備をお願いします。私達が時間を稼ぎます。」


敵の攻撃に傷付き、涙を流しながらも必死で戦う彼らの背を見て覚悟を決める。


これが使った後は動けなくなるからロイ先生にダンジョン内で使うのはやめろって注意されたばかりだったんですけど……ごめんなさい、ロイ先生、言いつけ破ります。


魔力を操作し、身体に鎧を纏うように広げていく。魔力の色で瞳が白くなる。


「纏い」……魔力による強化を最大まで全身に施し、思考の通りに身体を強制的に動かす。痛みや出血でも怯むことなく動くことができるいわばマリオネットのような状態だ。


メリットは魔術器を介さずに魔術を使用できる点と制限を超えた強化魔術の行使が可能なため普段とは天と地の差もある程の動きができる。


デメリットは魔術器を介していないため、魔力の制限が外れる、例えるなら蛇口を開けっ放しの状態になるため、すぐに魔力が枯渇してしまうこと。自分の魔力が身体を包むため、それに妨害されて支援魔術や障壁魔術が受けられなくなること。あと、身体への負担が大きいため使用後に身体が動かなくなってしまうことだ。


だが、今のルリーナにとってそのデメリットは使用を止める理由にはならなかった。


静かに息を吐く、化け物は私を脅威だと認識し、視線を向ける。


回復してくれていた女子生徒がルリーナの姿を見て「天使……」と呟く。純白に包まれたルリーナはさながら天使のようだった。


一瞬だけ指揮をしている女子生徒と視線を交わした。


「全員に通達!前衛は3カウント後に後退し、後衛は攻撃魔術をやめてください。」


3……2………1


0の合図と共に私は走り出した。そのまま化け物の額に着地し、拳に魔力を集中して打ん殴る。


化け物は私の動きを認識できず根の動きが止まってしまっていた。


バキッ!!化け物の額にヒビが入った。

痛みがあるのか化け物が絶叫する。私を排除しようと全ての根がこちらに襲い掛かってきた。


だが、纏いによって極限まで思考加速している私には遅く見え、並外れた機動力で回避し再度傷口に拳を叩き込む。


化け物が後ろに蹌踉めいた。


もう一度!


殴るごとにヒビは大きくなり、このまま押し切れると思った最中、化け物の傷が塞がり再生し始めていた。


ルリーナの攻撃速度を化け物の再生速度が上回っていた。


攻撃はすべて捌き切りダンジョンの壁を飛び交いながら攻撃を叩き込む。


私は今以上の速度は出ない。今のまま連撃を続けてもアイツにとって致命傷にはならない……なら、


距離を取り、右手に魔力を込める。


攻撃速度が再生速度を超えられないなら、一撃で決めるしかない。


纏いの時間切れまであと10秒も無い。

次が最後の一撃。


敵の周囲には100以上の木の根が空中で蠢いていた。その全てがこちらを向き固まる。


………来るッ。


100本の根が私の息の根を止めるため飛んでくる。


私も直ぐに走り出した。

頬や太股に掠り、血が滲む。

だが、そんなことお構いなしに突っ走る。


「私達はこんなところで終われないんです!」


貯めた魔力を拳に込めて奴にぶつける。


巨大なヒビが入り、ボロボロのその仮面が崩れ始める。

「キャァァァァア!!」


化け物は木の根が絡んでできた大きな手でその顔を隠した。仮面を壊されたことがよっぽど嫌だったらしい。


使い物にならなくなった身体はなんの防御も取ることができないまま地面に向かって自由落下していた。


手の隙間から怒り狂った女性の目が見える。だが、口は仮面が崩れ、頬まで裂けた大きな口が現れた。


化け物はこちらに向かってその大きな口を開き、私を喰らおうとしている。


まずい……避けなきゃ……、


思考ではわかっていても身体が動くことは無い。魔力も空っぽで動くこともできない私はただひたすらに死を待っていた。


皆さん、すみません、やっぱり駄目でした……。


「人の弟子を食おうとしてんじゃねぇ!」


突如、横から現れた赤い光に化け物は蹴り飛ばされダンジョンの壁に倒れこんだ。


その光は空中で方向を変え、こちらに近付くと私を抱きかかえた。


「勝手に死のうとしてんじゃねぇぞ。お前がいなくなったら誰が俺の部屋の掃除すんだよ。」


「……掃除くらい自分でやってくださいよ。」


いつもの会話ができたことに少し嬉しくなった。


近くの地面に着地するとそこには色彩の面々が化け物を向き各々の武器を構えていた。


「イリス、ルリーナを頼む。」


そう言ってロイ先生は優しく地面に横たわらせてくれた。


「オッケー、任せてよ!……よく頑張ったねルリーナちゃん。」


イリス様に優しく声をかけられ、やっと高鳴り続けていた心臓が落ち着きを取り戻した。


剣を構えた"色彩の金"アルファ・デウスが生徒達へ声をかける。


「最悪の絶望に立ち向かいし生徒達よ!世界は君達のその勇気ある行動に救われた!我々"色彩"は君達を尊敬し賞賛する。……みんな、よく戦ってくれたね、ありがとう。」


アルファの言葉を聴き終え、オルタは杖を構えた。


「……これより、"色彩"による災厄の使徒アーギアスの討伐を行います。全員準備は出来てますか。」


「おう」「うむ!」「おーけー」「うん」「はい」「いいよ」


全員の返事を聞いたオルタは宣言する。


「…戦闘を開始します!」
















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