やっと得た日常
「魔術器学の小テスト今日だよね、勉強は大丈夫?」
「え!?小テスト今日でしたっけ?」
「ルリーナちゃん……」
ポロネちゃんに呆れられながら歩く通学路。
私がユークリストさんと魔術戦をしてから一ヶ月が過ぎた。
ユークリストさんの最後の一撃、六天が直撃した後、私は意識を失ってしまいロイ先生に保健室まで運んでもらったらしい。
自分から望んで最後の勝負をしてもらったのに気絶してしまうなんて………。
「そういえば、ロイ先生との訓練はどう?やっぱりきつい?」
「きついです。ロイ先生は一切容赦が無いですから毎日毎日ボコボコですよ。でも、意外と教え方は丁寧でわかりやすいです。普段の授業の姿からは考えられないくらいに。」
「ロイ先生って、遅刻が平常運転だもんね……。」
「そうなんですよ!遅刻は当たり前ですし、用事があると呼ばれたかと思ったら部屋の掃除の手伝いだったこともありました。片付けぐらい自分でしてほしいですよ。まったく。」
「あははは……ルリーナちゃんも苦労人だね。」
「……そういえば、そろそろ、ダンジョンのレイド実習がありますよね。ポロネさん、よかったら一緒のパーティーになりませんか?」
「うん、いいよ。」
ダンジョンのレイド実習。この世界にはダンジョンが存在する。ダンジョンには1年に3回大型魔獣が出現し、大型魔獣が存在する限りダンジョン内部で無尽蔵に小型魔獣が生み出されてしまう。大型魔獣は複数人の一級の魔術師で構成されたレイドパーティが討伐するのだがその間に生み出された小型魔獣の討伐は1学生が担うことになっている。
「他のメンバーは決まってるの?」
「う〜ん、それがまだなんですよね。ポロネちゃんが魔術支援で私が前線、だとすると魔術での火力支援が出来る杖に適性がある人がいいんですけど……」
「その火力支援が出来る杖に適性がある人ならここにいますわよ!」
そう声をかけられ後ろを振り向くと輝くブロンドの髪の縦巻きロールが胸を張って立っていた。
「ユークリストさん!」
「おはようございますわ、ルリーナさん。」
「おはよう、ユークリストさん。」
「ポロネさんもおはようございますわ。……それで、先程のパーティーのお話ですが私は入れてもらえますの?」
「いいんですか?貴族科は貴族科同士で組むものだと思ってて。」
「そんな決まりはありませんわ。それに周りがそうであっても私が合わせる必要はありませんことよ。」
「じゃあ、本当に私達のパーティーに入ってくれるんですか!?」
「私に二言はありませんわ!」
「うぅ、やりました!!ユークリストさんが入ってくれれば百人力です!」
「そこまで喜ばれると少し照れますわね。ポロネさんもそれでよろしいですか?」
「はい、私もユークリストさんとパーティーになれて嬉しいです。」
「ありがとうございますわ!」
ん?あれ何でしょうか。
新たなパーティーメンバーの登場に喜んでいると学院の近くの草むらで倒れているボロボロ着物を着た男が倒れているのをポロネが見つけた。
ポロネはすぐに駆け寄って声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
肩を叩くなどして意識があるか確かめる。
すると「うぅ……」と男が反応した。
意識があるようだ。「大丈夫ですか?」ともう一度声を掛ける。
すると寝坊けた男の大きな手がポロネの胸に触れ、挙げ句の果てに揉み始めた。
「ん?」
寝坊けていた男が薄っすらと目を開く。
ポロネの顔は真っ赤く染まっていく。
後ろからやってきたユークリストさんはそんな男の姿を見て「女の敵ですわ!」と杖を持ち最大まで強化魔術をかけた足で寝ている男の顔面を蹴り飛ばした。
「グガァッ!」
回転しながら中に弧を描いて飛んでいく男はそのまま大きな木に激突し動かなくなる。
「早く逃げますわよ。」とユークリストはポロネと私の手を握りその場を走り去った。
数分後、そこへ灰色のローブを羽織り、丸いメガネをかけた女性が現れ、着物の男に声を掛ける。
「なにやってるんですか?」
「なぁ、オルタ。俺は幸せが掴めた気がしたよ。」
青空を見上げながら天に手を伸ばす男。
「………なにを馬鹿なことを言ってるんですか?早く行かないと遅刻しますよ。」
着物の男は「よっこらせ」と声を出し立ち上がる。灰と青の二人は学院に向かって歩き出した。
「サイッテイでしたわねあの男。初対面の女性の胸を揉むなんて。」
「あの人も寝惚けてたし多分偶然だよ。」
「偶然でも許せませんわ。次あったら灰にしてやりますわ!」
4時限目の授業が終わり、特別講義があると言われ一学年は広い教室へと集められた。
ロイ先生やキース先生が生徒の人数を数え、アスハ先生に報告していた。
全員揃ったのを確認してアスハ先生が口を開く。
「皆さん。今日は特別講義として色彩のお二方に来ていただいてます。お二人には魔術についての講義をそれぞれしてもらいますので真剣に聞き質問があればしてください。」
アスハ先生が話終わると教室の扉を開き2人の魔術師が顔を見せた。
「あーーーッ!」その瞬間、ポロネさんは驚いて目を開き、ユークリストさんは指を刺した。
「あ、」教室に入ってきたボロボロの着物を着た男もすぐさま顔を隠した。
「なぜ、朝の変態がここにいますの!?」
灰色の女性が顔を隠す青の顔をじっと見る。
アスハ先生はなんのことか分からない様子で「ユークリストさん、どういうことですか?」と質問を振る。
「今日の朝にその男が私の友人の胸を触ってきたんですの!」
会場が「え?」「あの色彩の人が?」と騒がしくなる。
「アレックス、本当ですか?」灰色の女性は微笑んだまま激怒している。
「いや、違うんだオルタ。ありゃあ事故で」
「では、触ったのは事実なんですね?」
「あ、」
教室の壁に大穴が空き、先程までそこに立っていた着物の男は跡形も無く消え去った。
窓の外をよく見ると地面に頭から深く埋まって、脚だけ見えていた。
「ユークリストさん、あのゴミに猥褻行為をされたという生徒はどちらの方ですか?」
灰色の女性に聞かれ、横に座っていたポロネが怯えながら手を挙げた「わ、私です。」
「この講義の後で私のもとに来てください。あのゴミにはしっかりと罪を償わせて謝らせますので。」
ニコッと微笑む灰色の女性。全く笑っていないことがわかるのが怖すぎる。
「あ、自己紹介が遅れましたね。私は"色彩の灰色"オルタ・イーリスです。主に支援系統の魔術を得意としています。短い時間ですがよろしくお願いします。」
挨拶が終わると風通しが良くなり過ぎた教室でオルタさんによる講義が始まった。
支援魔術の重要性やレイドでの各魔術器を持つ者の基本的な配置や動き、指揮者としての適性の判断基準やその心得など多くのことを学んだ。
オルタさんが教えてくれたことはこれからのレイド実習で必要になることばかりでいつの間にか外で地面に埋まっている男のことなど気になりもしなくなった。
1時間があっという間に過ぎ、次は地面に埋まっている男の講義の時間となった。
ユークリストさんは相手が色彩と、わかってもあの男を許すことは出来ないと言っている。ちなみに私もそれに同意している。
「あ〜、俺はアレックス・ロドリアス。"色彩の青"だ。この講義だが実戦形式で俺と試合をして貰う。とはいえ、全員が試合をする時間は無いから、自分に自信のある奴、俺と戦いたい者は手を上げろ。」
色彩と戦いたいなんて誰が思うだろうか。実力差はハッキリしてるし、どんなに変態だろうとその実力は魔術師としての頂点だ。だから戦う前から多くの人が戦意は喪失している。一学年全員の前で負けが濃厚な勝負をしたくないのは理解できる。
だから、誰も手を挙げない……はずなのだが、今回は違う。
生徒の中から2つほど手が上がる。
未だにアレックスを睨みつけているユークリストとルリーナだった。
「いい、面構えだなあ。まぁ、安心しろ流石にハンデなしじゃ無い。俺は左手しか使わずその場から一歩も動かない。お前等二人は制限時間以内に俺を一歩でも動かせたら勝ちだ。」
「わかりましたわ。二人同時でよろしくて?」
「当たり前じゃ……いつでも来い。」
試合場に立ち魔術器ですらないただの木刀を構えるアレックス。
「ルリーナさん、最初からぶっ飛ばしますわよ!」
「はい!」
「六天を司る・六首の龍・その力は空をも焦がし星をも穿つ・万象はここに集い・一切は滅びとなる・少女の叫びに・龍は応える!」
ユークリストは杖を構え初手から七節の魔術詠唱。
「制限解放90%、雷魔術 雷撃発動!」
ルリーナは剣に雷魔術の雷撃を纏わせ構える。
「六天ノ龍撃ッ!」
「はぁあああ!!」
魔術の六首龍と共に走り出しアレックスを真っ二つにする気で剣を振るう。
しかし、男が木刀を振り上げ、少し力を込めて振り下ろすとその風圧でユークリストの魔術は掻き消され、私は場外ギリギリまで吹き飛ばされた。
「掻き消されましたわ!?」
「二人共強いな。だが、それじゃあ、俺には届かないぞ。」
ヘラヘラと笑いながらこちらを見る男。
なんか、ロイ先生に似ててムカつきます。
「一撃が重い魔術よりも相手が捌けない程の量で押し切ったほうが良さそうですわね。」
「じゃあ、私が動きを止めます。そこを狙ってください。」
「わかりましたわ。」
再度走り出し剣で切り掛かる。よく見て、素早く判断する。力は相手の方が圧倒的に上、正面から受けずに相手の力を流すことに徹する。
アレックスは再度木刀を振り下ろす。
今度は剣身で受け流しそのまま横に薙ぎ払う。しかし、すぐさま防がれてしまう。
下段からの振り上げをフェイントに中段まで振り上げて剣先で突くがそれも弾かれる。
最早、全部見切られているような錯覚に陥る。いや、錯覚では無いのかもしれない。
振る剣がことごとく防がれ、男が振り下ろす木刀をどうにか受け流し続ける。
「準備できましたわ!」
その言葉を聞き私は一気に間合いを詰めて切り掛かりわざと弾かれ距離を取る。
ユークリストの周囲を埋め尽くす程の氷、雷、炎、水、岩、光の魔術が剣の形を成して浮かんでいる。
「これで終わりですわ!」
その全てが雨粒のようにアレックスに降り掛かった。
……オレンジ色に染まった空の下、私達はコンビニで買った食べ物に食い付いていた。
「悔しいですわ!あんなの反則ですわ!」
"色彩の青"またの名を変態男に対する文句をぐちぐちと言いながら肉まんに齧り付くお嬢様。
「ほんほうにほくほうふっははへへなんへほうなふふんふは!!」
「ルリーナちゃん、何言ってるかわからないよ……。」
フランクフルトと唐揚げ棒を両手に持ち、その両方をもぐもぐとリスのように頬張るルリーナ。
「魔術を一切使わずに力だけで魔術を消すなんて聞いたことがありませんわよ!」
「ほんほうにほうへふほ!」
「何ですかあの力はゴリラですか!あの男は人の皮を被ったゴリラなんですか!」
「ほひはへふ、ほひは!」
「ルリーナちゃん、食べてから話そうよ……。」
「ポロネさんは腹が立ちませんの?いくら謝罪されたとはいえセクハラされましたのよ!」
「……でも、あれは偶然の事故だったし、それにお昼寝を邪魔した私も悪いよ。それに私のために起こってくれる友達が2人もいてくれて嬉しい方が勝っちゃったよ。」
「ポロネさん!」
「ひゃい!」
ユークリストは優しくポロネを抱き締めた。
「私、ポロネさんが大好きになりましたわ。」
「ふぇ!?」
「ポロネさん、またセクハラされたら私達に言ってくださいね。相手が色彩であっても今度こそぶっ飛ばしますから!」
「あ、ありがとう……でもなんで、セクハラ限定なのかな、ルリーナちゃん?」
「え?それは……」ルリーナは自分の足元を見下ろしてからポロネの身体に視線を移す。
そして、あるものと無いもの差をはっきりと理解し笑顔で誤魔化した。
「なんでもありません!」
「ルリーナさん大丈夫ですわ、あれが異常なんですわ……私達は平均な筈ですわ。」
「ユークリストさん……私、悔しいよ……。」
「ねぇ、なんの話をしてるのかな。なぜか私が悪いみたいになってる気がするんだけど……ねぇ、ルリーナちゃん、ユークリストさん?なんで、私が近付くと二人とも一歩づつさがるのかな!?」
「圧……かな。」「圧……ですわね。」
「二人ともあまりふざけると怒るよ!」
「あはは、冗談ですわ。」
三人で笑い合いながら歩く夕暮れ時。
なんでもないその状況が楽しくて仕方がなかった。
「はぁ、選出ミスにも程があるだろ。」
同時刻、ロイは学院の自室で資料を片手に頭を抱えていた。
手に持つ資料は今日行った色彩による特別講義についての報告書だった。オルタの方の報告書はしっかりと書かれていて問題無く処理できた。問題はアレックスの報告書、そこに書かれているのはたった一文「めんどい、任せた。」だけだった。
外部から講師を呼んだ場合、授業の報告書は講義を行った者がどのような講義をしたのかを細かく書き記し、それを学院の教員が確認しなければならない。
だが、この一文しか書かれていないふざけた報告書のどこを確認すれば良いんだろうか。
天井を見上げ、アレックスの笑った面を思い出し、後で思いっきりぶん殴ることを決めた。
コンコンと自室の扉がノックされる。
「ロイ君いる?」
扉が少し開きその間から顔を出したのはアスハだった。
「どうした?」
「ごめん、忙しかった?」
「いや、忙しくは無いが。こんな時間に珍しいな。」
「うん、渡すものがあってね。」
「渡すもの?」
そう言ったアスハは俺を前に膝をつき頭を下げ手紙を出した。
「"色彩の灰色"オルタ・イーリス様より"色彩の紅色"ロイ・ニルグリム様へのお手紙を預かっております。」
アスハは魔術隊時代からの同僚であり、今は学院の講師統括であるため俺の上司に当たる。そのアスハが俺に頭を下げて丁寧な言葉遣いで手紙を渡してくる。その姿にいつまで経っても違和感が拭えない。
「普通に渡してくれていいんだぞ。」
「そう言うわけにはいきません。」
雰囲気が違いすぎて話辛い。
仕方ないと溜め息をつき手紙を受け取る。
内容は3日後に均衡都市ノルンにて色彩全員を集めて次のレイドの話し合いをするとあった。
3日後か……予定は無いがルリーナには俺が休みって言わなきゃな。
「あ〜、受け取ったからそれやめてくんね?」
アスハはチラチラと俺の顔を確認し、ふぅ…と息をつき立ち上がる。
「疲れるねこれ。」
「だから、やんなくていいって言ってるだろ?」
「そういうわけにはいかないよ。色彩達がいなかったら私達はここにいなかったんだから。これは私からの感謝の形だよ。」
「…………。」
「で、手紙にはなんてあったのかな?」
「手紙の内容は聞くんだな。」
「当たり前だよ。色彩の会議に出席するなら講義を休みにしなきゃでしょ?」
「まぁ、そうだな。今日から3日後だから15日か。」
「だね、じゃあ、その日はロイ君は休みにしとくよ。」
「頼む。」
二人の会話が止まり、数十秒の間カチカチと時計の音だけが響く。
アスハは俯向き、口を開く。
「……今回はレイドの話し合いなのかな……。」
「そうだな。」
「また、起きちゃうんだね。もうずっと寝てて欲しいのに。」
「………今回は大丈夫だ。」
「……前もそう言ってたよ。…あの日は心臓止まるかと思ったんだから。今回は本当に大丈夫なんだよね。信じるよ。」
歩み寄り俺の手を優しく握るアスハと視線が合う。
「あぁ、今度は勝つ。」
「………なんか、変な空気になっちゃったね、ごめん。よおぉし!今日は私が奢るから飲みに行こう!」
「え、今からか?」
俺は手元の資料に視線を落とす。
「大丈夫だよ。その報告書は後で私が理事長に報告しておくから。だから、ほら行こ!」
アスハに手を引かれて自室を出る。
仕方ない付き合うか。
「よし、アスハの奢りだしじゃんじゃん飲むか」
「あまり高いのは頼まないでよ。」
「ジント学院の講師統括っていったら給料はとてもいいってよく聞くんだが、」
「まぁ、少なくともロイ君よりは高いかな。減給されたこと無いし。」
「………なぁ、アスハ、俺の減給取り消してくんね?」
「それは無理。よし行こう!」
日が沈み街灯の明かりが照らす夜道、夜風が吹いて涼しいはずなのに顔が火照ってしまっていて少し熱い。顔が紅くなっているのがバレないように前を向いてあるき続ける。
ちょっと、恥ずかしかったな。
アスハは隣を歩こうと歩幅を合わせてくれるロイの手を絶対に離さないように握りしめた。
3日後……均衡都市ノルンの中央に位地する虹彩の塔の最高階。
大きな円卓に十個の椅子があり、そこへ色彩のメンバーが着座している。
「お、来たね。」
「珍しく全員揃ってるな。」
「まぁね、とりあえず席に着きなよ。みんなでご飯食べよ。」
アルファにそう言われ黙って席につく。
俺が席に着いたのを確認してアルファの後ろに立っていたメイド長のヴァルドールが口を開く。
「色彩の皆様、本日のお食事をお聞きします。」
今日も変わらずボロボロの着物を身に着けている"青色"アレックスがそれを聞きすぐに手を挙げる。
「塩むすびと味噌汁。」
「私はサンドイッチにします。」"銀色"フェルーナがそう言ってメイド長に微笑んでみせる。
「では、私も同じものをお願いします。」"灰色"オルタもそれに合わせて手を挙げる。
「僕はアイスコーヒーだけでいいや。」黒いワイシャツに黒縁メガネの男、"黒色"ライズ・サティノスは貼り付けたような笑みを浮かべている。
「ミドリちゃんはどうする?みんな食べるから遠慮しないでね。」
色彩最年少の"緑色"ミドリに"黄色"イリス・メイプルが優しく声をかける。
「じゃあ、私はプリンアラモードが食べたいです。」
小さく可愛らしい声、薄く緑がかったきれいな白髪に大きな瞳、"金"や"銀"のように姿を変えているのではなく間違いなく幼い少女のミドリがサイズ感の合わない椅子にちょこんと座っている。
「いいね、じゃあ、私もプリンアラモードで!」
イリスはわざとしく大きな声で注文し手を挙げる。イリス・メイプルはこの世界で一番有名なアイドルだ。彼女の歌は都市に関わらず多くの人に愛されている。
「メイドよ。10歳前後の少女を頼む……ゴグハァッ!!」
「色彩の皆様申し訳ございません。色彩の席に燃えないゴミが落ちていたため直ちに捨ててきます。」
変態、"紫色"ルビル・オグニス、金髪でイヤリングをつけ、首からは金色のチェーンを垂らしている。見た目はただのチャラい男だが中身は変態のロリコンだ。今も変態発言をしてメイド長に鋭い一撃を貰い動けないところを燃えないゴミの袋に詰められている。
「あはは、ルビル君は面白いね。う〜ん、僕はねぇ……」
ゴミ袋に詰められるルビルを見て腹を抱えて笑い転げているアルファは自分のお昼ごはんを考えついたのか席を立ちミドリとイリスのプリンアラモードを持ってきた別のメイドに声をかけた。
「ねぇ、僕に食べられてみない?」
メイドの手を下から優しく握り、口説いている。……妻であるフェルーナがいるにも関わらず……。
結果など見なくともわかるがわざわざ事の顛末を説明するなら現在アルファは建物の壁に大の字で埋まっている。
「ごめんなさいね、ヴァルドール、ゴミを増やしてしまったわ。」
「問題はありません。」とテキパキとした動きで2つ目のゴミ袋にアルファを詰め込んだ。
「本当に変わらねぇな。」俺は2つの大きな燃えないゴミを前に呆れていた。
「ロイ様、お食事はどうされますか?」
「ん、あぁ、俺もアイスコーヒーでいいや。飯は食ってきた。」
「わかりました。」
それから数分後アルファとルビルはゴミ袋から解放され、ヴァルドールから与えられた慈悲のオムライスを美味そうに食べていた。
「ねぇ、ヴァルドールちゃん。僕のオムライスに魔法かけてくれない?」
「魔法……ですか?」
「そう、メイドとオムライス……この組み合わせにはある魔法が無くてはならないんだよ。」
「……申し訳ありません。そのような魔法があるとは知りませんでした。」
「大丈夫、僕が教えてあげるよ。まずは手でハートを作って、オムライスに向かって〜、萌え萌え、キュ…」
アルファはなぜ学ばないんだろう。絶対にその要望が通るような状況じゃ無いだろうに。
もはや、誰も気にしていない。ミドリだけが心配そうに天井に上半身が突き刺さったアルファを見上げている。
アルファを天井に埋めた張本人のフェルーナは何も無かったかのように座り食後の紅茶を口にしていた。こんな茶番だらけのメンバーが現在の魔術師のトップ達だ。
それから再び数分後……
「さて、遅くなったが本題に入ろうか。」
全員が食事を取り終え、メイド達が空になった食器を片付け始めた、全ての食器を片付け終わり、メイド達が部屋を後にしたのを確認し、アルファが話を始める。
「まず、今回集まってもらったのは五大厄災のうちの一体である第三の厄災であるアーギアスが目覚めてしまうためだ。アーギアスは半年前に急に目覚め、ロイ、アレックス、オルタ、そして僕が対応した。だが、その時の戦力では討伐が不可能と判断し存在魔力量を出来る限り減少させることで、一時的に仮眠状態とすることで抑えることができた。しかし、5日前にアーギアスが再び必要量の存在魔力を得たことが報告された。今回はアーギアスの討伐を目標としレイドの策戦を思案するためにこの場を設けさせてもらった。細かいことはこれからオルタちゃんに説明してもらう。お願いね、オルタちゃん。」
オルタは資料を持ち、立ち上がる。
「では、アーギアス討伐レイドについての説明をさせていただきます。まず、アーギアス討伐メンバーですが今回は都市ノルンの防衛も考え、紫と緑には都市に残ってもらいます。アーギアス討伐にはその他の全員で当たります。」
「今回はミドリちゃんと留守番か……勝ち組やな。」
「え〜〜!!|ロリコンとミドリちゃんだけなんてミドリちゃんが可哀想だよ。」
「私もそう思いましたがアーギアスの対策には選出メンバー全員が必要となるため、ミドリさんと変態の二人を防衛に回すという苦渋の決断をすることとなりました。しかし、変態の対策としてメイド長にはミドリさんの護衛を任せていますので安心はできると思います。」
「メイド長ちゃんが守ってくれるなら安心だね!よかったね、ミドリちゃん。」
「ははは……」
「俺の信用無さ過ぎだろ!」
ルビルへの全員の信用の無さと選出メンバーの確認はされた。
「次にアーギアスの魔力特性と攻撃行動の……」
オルタがアーギアスについての説明をして、詳しい話し合いが始まった。
話し合いが終わった時には日は完全に落ていしまっていて、ミドリは最後まで真剣に聞こうと頑張っていたが10歳の彼女には長時間の話し合いは難しかったらしく途中でこくこくと眠ってしまった。
ミドリが眠り始めた時にはちょうど話し合いも終了したため会議はそこでお開きとなった。ミドリの寝顔を見たルビルが写真を撮ろうとして静かに女性陣にボコボコにされ、イリスに引き摺られて外に出ていった。
……無事に会議は終了した。
浮かび上がる問題点は多く、アーギアスについても全てがわかっている訳では無い。
厄災は色彩のレイドでしか討伐できず、色彩である俺達が負ければ厄災が表に現れ多くの命が灰となる。
厄災に対する人類の最終防衛ラインそれが色彩だ。
俺は帰宅しながら空を見上げる。
澄んだ夜空に浮かんだ星は世界の危機など微塵も感じさせないほど綺麗に輝いていた。
「俺は認めねぇ」「助け合いですわよ」「私が指揮をします」「それでも」「これが世界の頂点たちの戦いだ。」……
次回 色彩の紅