コミカライズ第二巻発売記念ショートストーリー『エリスの結婚』
貴族の家に生まれたからには、家を盛り立てるために政略結婚を行う義務がある。
ロマンス小説などでは、素敵な貴公子に見初められて恋に落ち、求婚される。
そんな甘ったるい物語が流行っていた。
けれども現実はそんなに甘くない。
親子ほども年上だったり、後妻だったり、貧しかったり――結婚は夢みるようなものではないのだ。
エリスはどこの誰でも、従って結婚する覚悟はできていたのである。
いずれ父親が決めた相手と縁故を結ぶものだと思っていた。
しかしながら、エリスの人生設計はあっという間に崩れ去る。
父親は犯罪者として拘束されてしまったのだ。
貴族女性の結婚相手を探すのは父親の仕事である。
エリスの父フレデは騎士隊に捕まる前まで、結婚相手を吟味しているところだ、と話していた。
きっとその話も、すべて破談となったのだろう。
庇護者である両親を失ったエリスは、修道院に行こうとしていた。
そんな彼女を引き留めたのは、当主ブリザールの妻であるオデットである。
オデットの温情で、エリスは引き続き公爵家での暮らしを続けることができたのだ。
貴族女性としてのしがらみから解放されたエリスは、オデットから修道女が習うような仕事を覚えた。
畑仕事を通じて土に触れ、自分で育てた食材で料理を作り、ご先祖様に感謝して霊廟を清潔に保つ――。
そんな暮らしは生の喜びに満ちていて、以前よりもずっと生きているという実感を抱いていた。
この先もここでずっと暮らすのだ。
エリスはそう考えていたが、ある日ブリザールより衝撃的な命令が下される。
「エリス、結婚するという意思はあるか?」
貴族女性の役割から解放されたとエリスは勝手に思っていたが、それは過ちだったようだ。
なんと、ブリザールがエリスに結婚を勧めたのである。
エリスはもちろんある、と答えながらも、傷ついてしまった。
もうこの家にいることはできない。
畑仕事も、料理も、霊廟の管理だってできない。
何より、オデットと離れることが寂しかった。
その日の晩、エリスは枕を濡らす夜を過ごしたのだった。
オデットの結婚相手としてやってきたのは、三つ年上のキールという男性だった。
キールは貴族の次男坊だが、騎士として身を立てているという。
エリスのことを幸せにしてみせると誓ってくれた。
想像していたよりも彼はいい人で、エリスのことを尊重してくれるような好青年だった。
キールとならば幸せになれるかもしれない。
けれどもここで暮らす以上の満たされた生活を送れるものなのか。
不安だったが――。
「いやーーー、まさか公爵家に婿入りできるなんて、夢にも思っていませんでした!!」
「は!?」
キールの発言を聞いて、エリスは目が点となる。
「婿入り?」
「あれ、聞いていなかったのですか? エリスさんと結婚したいんだったら、絶対に婿入りだって、公爵夫人がおっしゃっていて、俺、二つ返事で了承したんですよー」
エリスはキールを置き去りにし、オデットとブリザールに話を聞きに行く。
「キールが婿入りするって、どういうことですの!?」
「あれ、言ってませんでしたか?」
オデットはのほほんとした様子で言う。
「聞いておりません!!」
「ごめんなさい。ブリザール様が言っていたと思って」
ブリザールはブリザールで、オデットから聞いていたものだと思っていたらしい。
「どうして、婿入りの提案をされたのですか?」
「かわいいかわいい私達のエリスさんを嫁に出すことなんて、絶対に許せなくて。でも、キールさんが引き下がらなかったので、婿入りだったらどうでしょう? って言ったら了承してくれたんです」
その話を聞いたエリスは、脱力して座り込む。
「あの、結婚が嫌だったら、断ってもいいですからね」
「いいえ、お受けします」
婿入りまでしてエリスと結婚したいというキールの気持ちを、エリスは尊重したい。
そう答えると、背後で話を聞いていたキールは跳び上がって喜んでいた。
そんなこんなで、エリスは思いがけず、幸せな結婚をすることとなる。
そして、彼女の公爵家での満たされた暮らしはこれからも続くのだった。
コミカライズ第二巻が本日発売しました!!
ケロ様ももちもち感をご堪能いただけたら嬉しく思います




