コミカライズ版第一巻発売記念ショートストーリー『叔父と叔母の面会へ』
ある日の朝――エリスさんからあるお願いをされた。
「実は今日、両親の面会日でして、よろしければ、その、ついてきていただけたらな、と思っているのですが」
「あーはいはい、いいですよ!」
あっさり了承したからか、エリスさんは目を丸くする。
「あの、よろしいのですか?」
「ええ! お元気か、気になっていたんです」
「し、しかし、その、わたくしの両親は、あなたにその……」
盛大な嫌がらせを受けた。
けれども今は気にしていない。毎日幸せに暮らしているので、嫌な記憶を振り返っている暇がないのである。
そんな気持ちを打ち明けたら、エリスさんは安堵の表情を浮かべていた。
「本当にありがとうございます」
なんでも一人で行くのが怖かったらしい。
会わないほうがいいのではないか、と思いつつも、心配する気持ちが勝ってしまったようだ。
「いろいろ差し入れを持っていってあげましょう」
「そうですわね」
そんなわけで、エリスさんと共に叔父夫婦が収容されている刑務所へと向かったのだった。
まず先に、叔母ウラリーとの面会である。
「お母様……」
「エリス!!」
叔母はガラス一枚で遮られた場所にいるエリスに駆け寄り、涙をぽろぽろ流す。
「ごめんなさい! ごめんなさい……あなたの人生を台無しにしてしまったわ」
「お母様、わたくしは元気に暮らしていますので」
エリスさんは差し入れとして持ってきた石鹸を看守に手渡す。
「お母様、この石鹸はわたくしが彼女に習いながら作りましたの。体にいい薬草をたっぷり入れておりますので」
「ありがとう」
親子の温かな再会に、じーんとしてしまう。
「お母様、また会いにきますので」
「ええ、ありがとう。でも、無理はしないで」
「わかっています」
あっという間に面会時間は終わってしまった。
最後に、叔母は私に話しかけてきた。
「オデットさん、その、悪かったわね」
「いえいえ、今は気にしていませんので~」
ばつが悪そうな表情を浮かべつつ、叔母は看守の誘導で去って行った。
続いて叔父がやってくる。
「お前!!」
叔父フレデは私を見つけるなり、ずんずんやってきて拳を振り上げた。
けれども看守に取り押さえられてしまう。
床に這いつくばった状態のまま、面会を開始するらしい。
「おい、離せ! こら!」
叔父は相変わらずなようで、こうして刑務所にいても心を入れ替えるということはしていないらしい。
まあ、そうだろうな、と想像はしていたのだが。
「お父様、わたくしです、エリスです」
「お前は、なんのつもりで会いにきたんだ! 私を嘲笑いにきたのか!?」
「いえ、そんなつもりは……」
「はいはい、落ち着いて落ち着いて」
これ以上は話をするのも無駄になりそうだ。
差し入れのことだけ伝えておく。
「差し入れを持ってきましたー!」
「それを早く言わないか」
解放された叔父はむくりと起き上がると、看守が持っていた包みを奪い取る。
すぐに開封したものの、眉間に皺を寄せ、怪訝な表情を向ける。
「おい、これはなんだ?」
「ウサギのぬいぐるみです! 寂しくないように、つれてきてみました!」
「なっ――!?」
こちらにウサギのぬいぐるみを投げて寄越そうとしたものの、看守が許すわけもなく。
ウサギのぬいぐるみを手にした状態で、連れ去られてしまった。
「フレデ様、これからウサギのぬいぐるみと仲よくされてください」
そう呟くと、エリスさんが笑い始める。
「ふふふ、あはは、あなた、なんておかしいことを言いますの?」
「ウケは狙っていないのですが」
「ああ、おかしい!」
沈んだ表情を浮かべるエリスさんだったが、表情が明るくなる。
「お父様と会うのが怖かったのですが、対応の仕方を覚えた気がします」
「これからも、ラブリーなお品を差し入れしましょうね」
「ええ!」
そんなわけで、思いがけず愉快な面会となったのだった。




