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婚家の墓守を押しつけられた私、ご先祖様は黄金竜だそうで、親族をこらしめてくださるそうです  作者: 江本マシメサ
番外編

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ジャスミン・サブレを作ろう!

 今日はロマン君とエリスと一緒にジャスミン・サブレを作る。


「ねえロマン、オデットの一番弟子はわたくしなんだから、でしゃばらないでくださいませ!」

「オデットお姉さんから料理を最初に習ったのは僕なんです。オデットお姉さんの右腕として、ささやかながらお手伝いをするつもりですので」

「右腕ですって!? なんて生意気なの!?」


 普段は仲良くしているのに、二人で何かをしようとしたらこれである。

 お菓子作りくらい平和にしたいものだが、闘争心が料理を上達させるためのスパイスにもなっているようなので、ひとまずこのままにしておこう。


「ロマン君はバターをクリーム状にしてくれるかな? エリスさんは粉糖を量ってください」


 二人は競うように調理を開始させる。

 ロマン君は手早くバターを混ぜ、エリスは粉糖を正確に量っているようだった。


「次にクリーム状にしたバターに粉糖と焼き塩をひと摘まみ入れて、かき混ぜてください」


 ロマン君が混ぜる役でエリスが粉糖や焼き塩をほどよいタイミングで入れる役である。息を合わせないと零したり、肩と肩がぶつかったりと大変なことになる。

 大丈夫かと思いつつ見守っていたら、問題なく調理が進んでいた。仲違いしつつも、息は合うようだ。

 工程が完了したようで、二人は揃って振り返り「次は?」と聞いてくる。


「えーっと、ロマン君はアーモンドパウダーと小麦粉を量って、エリスさんは卵を黄身と白身に分けて、卵黄のみを混ぜてください」


 白身は私が別のお菓子を作る。〝猫の舌〟と呼ばれる、卵白とバター、小麦粉を混ぜて作る口当たりが軽い薄焼きクッキーだ。

 ロマン君とエリスにお菓子の工程を説明しつつ、ちょこちょこと調理を進めていた。

 作業を終えた二人が同時に振り返る。すぐに説明を再開した。


「ロマン君は黄身を先ほどのボウルに少しずつ入れて、エリスさんはかき混ぜてください」


 アーモンドパウダー、小麦粉、粉末ジャスミンを加え、さらに混ぜる。

 生地がまとまってきたら伸ばし、濡れ布巾を被せてしばし休ませておく。


 ここまで済んだところで、爆速で作った猫の舌が焼き上がる。しばし休憩時間だ。

 エリスが淹れてくれた薬草茶と共に猫の舌をいただく。その席にはケロ様も参加していた。


『猫の舌とやらは初めて食べるな。ふむ、いただこうか』


 毒見と称し、ケロ様が一番に食べる。

 長い舌先でしっかり掴んでぱくりと食べた。


『むう! なんという軽い食感! バターの風味が濃厚で、サクサクしていて美味!』


 評判は上々のようだ。続けてロマン君とエリスも食べる。

 ロマン君はおいしかったのか、瞳をキラリと輝かせている。

 エリスは何度も頷き、おいしいと絶賛してくれた。


「オデット、わたくし、この猫の舌も習いたいです!」

「僕も!」

「でしたら今度お教えしますね」


 黄身だけ使うお菓子を考えておかないといけないな、と思う。

 猫の舌を味わっている間に、生地の休憩時間が完了したようだ。

 すべて型抜きし、あまった生地は適当にまとめて端っこに並べておく。

 温めた窯で十五分ほど焼いた。

 粗熱が取れるのを待ったあと、表面にアイシングを塗っていく。

 最後に粉末ジャスミンを表面にパラパラと落としたら、ジャスミン・サブレの完成だ。


「オデットお姉さん、上手にできましたね」

「オデットの教え方が上手だからですわ!」

「ふたりの作り方が上手かったからだよ~~」


 ロマン君とエリスにも、よかった点を言い合うように勧めた。


「エリスさんは量り方がとても早くて正確でした」

「ロマンは混ぜ方が上手で、生地が滑らかでしたわ」


 言い終えたあと、二人はまんざらでもない表情となる。

 お互いに賞賛し合い、成功を喜んだのだった。


 完成したジャスミン・サブレは、昼過ぎに帰ってきたブリザール様とのお茶会に並ぶ。

 今日、初めて家族全員でお茶でも飲んでゆっくりしよう、という話になったのだ。

 お茶会の時間になるまで、ロマン君とエリスはソワソワしていた。

 初めてブリザール様に自分達で作ったお菓子を食べてもらうからだろう。

 ついにお茶会の時間を迎える。

 席についていたロマン君とエリスを見て、ブリザール様がぽつりと指摘する。


「なんだ、今日は大人しいな」

「そ、そんなことありませんわ!」

「元気です! とっても!」


 必死な様子で訴えるエリスとロマン君がかわいい。

 笑うのを堪えていたら、ケロ様がネタばらしをする。


『今日、二人でお菓子を作ったようだ。それで、お前の反応が気になって緊張しているのだろう』

「そうだったのか。どれ、いただこう」


 二人は若干血走ったような目でブリザール様を見つめていた。

 張り詰めた空気の中、ブリザール様は感想を口にする。


「驚いた。とてもおいしい。このようにジャスミンが豊かに香るクッキーは初めて食べた」


 その言葉を聞いて、ロマン君とエリスの表情はパーーーっと明るくなる。

 ついでに私もネタばらしをしよう。


「お疲れのブリザール様のために、リラックス効果のあるジャスミンを使って作ったようです」

「そうだったのか。感謝する」


 ブリザール様はもう一つ食べて、重ねておいしいと言っていた。


「二人で仲良く作ったのだな」


 その言葉に、二人は揃って「はい!!」と返事をする。

 果たして、仲良く作っていただろうか?

 まあ、ロマン君とエリスがにこにこ笑顔なのでよしとしよう。


 その日以降、ロマン君とエリスは料理をするさい、ケンカをしなくなった。

 ブリザール様が仲良く料理をしているのか聞いたからだろうか。

 協力して料理をするようになった後ろ姿を見て、本当の姉弟のようだな、と思ってしまった。

 平和なヴェルノワ公爵家のお話である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませて頂きました!普通格好良い筈の黄金竜が、カエルになった時は本当に可笑しくて笑えました(笑)ありがとうございました!これからもご活躍楽しみにしています。他の作品も何時も楽しみに読ん…
[良い点] 番外編スタート嬉しいです!! 平和な日常に心が洗われます〜!! ブリザール様が普通に元気にしているとなんだか感慨深いです…!笑 元気になってよかった…! [気になる点] シャルトル子爵家…
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