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ヴェルノワ公爵家の秘密

「ご、ご当主様はおいくつになられるのですか?」

「八十だ」

「は、八十……!?」


 私との年の差は五十八歳。二十二歳の花嫁を歓迎するわけである。

 それにしても、六十代の義弟ができるなんて……。


「その、ご当主様とあなたも、年が離れているのですね」

「花嫁はたくさんいたからな」

「は、はあ」


 まるで、使い捨てのように花嫁が大勢いたような口ぶりである。

 質問に答えてくれるようになったので、気になっていたことをぶつけてみた。

 隣にいる女性は娘と言っても過言ではないくらいの若さだったが、妻らしい。名前はウラリー。

 さらに年若い少女は孫に見えるものの、娘だという。名前はエリスというようだ。

 続けて、もっとも気になっていたことをぶつけてみる。


「えー、そのー、ご当主様は、生きていらっしゃるのですよね?」

「失礼な!! ご当主様の御身が骸に見えるというのか!?」

「いえ、だって、ミイラにしか見えませんし」


 体に包帯が巻き付けられているのも、ミイラに見えてしまう理由のひとつなのかもしれない。


 たしかに、よくよく見てみると、胸が上下している。

 このような状態になっても、生きているのだろう。


 まさかヴェルノワ公爵家のご当主様が八十歳で、ミイラのような状態になっていたなんて……。


「あの、ご当主様はもしかしなくても、寝たきり状態なのですか?」

「そうだ」

「お医者様はなんとおっしゃっているのでしょう?」

「医者にはかかっていない」

「ど、どうしてですか!?」


 年上の義弟は表情を暗くしながら驚きの事実について口にした。


「ご当主様は、呪われているのだ」

「の、呪い、ですか!?」

「そうだ。ヴェルノワ公爵家の歴代当主は、このようにして呪いを受け、苦しみながら死んでいく」

「なっ――」


 このような姿になれば、起き上がることも、自分の意思で動くことも、食べることも排泄すらもできないらしい。


「で、では、このままお亡くなりになるのを待つばかりなのですか?」

「いいや、違う。これは苦しめるための呪いで、食事や治療をせずとも、ある程度の生命は維持されるのだ」


 歴代の当主は呪いを受け、このような姿になってしまうらしい。


「父が呪いを受け、死んだのは九十歳だったか。十年以上はこのような姿だった」

「そ、そんな……!」


 いったい誰が、どんな目的でこのような呪いをかけたというのか。

 その疑問に義弟は答える。


「これは先祖の呪いと言われている」

「ご先祖様の、ですか?」

「ああ」


 ヴェルノワ公爵家は豊かな金脈を有していた。

 けれどもその栄光の影に、血塗れた歴史があるようだ。


「金脈を探すために、多くの命を使ったのだ」


 なんでも金脈を発見した当時の当主は、人々の命を引き換えに金脈を探った。


「捧げた命は、自らの家族だったのだ」


 金脈を発見したあと、霊廟を立てて安らかに眠るように祈った。

 けれども祈り程度で許すわけがなく、死した者達は当主を呪った。


「呪いはその当主だけでなく、脈々と続く子孫も呪い続けたのだ」


 ヴェルノワ公爵家のご当主様の例に漏れず、このような状態になったらしい。


「お前にはご当主様の世話と、この家の管理、それから霊廟に毎日通って先祖の墓を掃除し、先祖に祈りを捧げるのだ」

「はい?」


 信じがたいような言葉の数々だったので、思わず聞き返してしまう。


「一度で理解できませんでしたの? この低脳!」

「エリス、あなたの叔母様になる人に、そんなことを言ってはいけないわ」

「お母様、なんだったらよろしいの?」

「頭が足りない、くらいにしておきなさい」

「わかりましたわ」


 母子の会話なんて、ぜんぜん気にならなかった。

 それくらい、義弟からの要求がとんでもないものだったから。


「お前の仕事はご当主様の世話、ここでの家事、それから墓守だ! 二度と言わんぞ」

「いやいや、待ってください! 墓守って、一族全員でするものではないのですか?」


 先祖の怒りがあるのならば、他人任せになんてしていいものではないだろう。

 義弟に訴えたが、舌打ちしか返さない。

 エリスのほうを見ると、にっこり微笑みながら話し始める。


「霊廟って、暗くて不気味ですの。わたくしは一度だって行ったことなどありません。お母様とお父様もそうでしょう」


 義弟と義妹は頷く。

 どうやら彼らは、一度もお墓参りをしていないらしい。


「ど、どうして?」

「だって、わたくしまで呪われたら恐ろしくって、行けるわけがありません」


 皆、同じような考えを持っていたのだろう。


「では、これまで誰もお墓参りをしていなかったのですか?」

「それは、ご当主様のご子息が――」

「おい!!」

「ああ、ごめんなさい。なんでもないわ」


 ご子息様がいらっしゃる?

 紹介するように言ったものの、無視されてしまった。

 なんというか、もう、呆れたの一言である。

 はーーーーー、と盛大なため息を吐く背後で、〝声〟が聞こえた。


「……ガッ……レ」

「え?」


 呻くような苦しげな声が聞こえた気がして振り返る。


「どうした?」

「いえ、話しかけられたような気がして」

「ご当主様がか? ありえない」

「そうですわ。ご当主様がずっと、意識がなかったので。あなた、隙間風の音を声と聞き違えたのではなくって?」


 そうだったのかもしれない。

 なんて思った瞬間、ご当主様の体がびくん、と動いた。


「え!? なっ――」

「ぐああああああああああ!!!!!」


 ご当主様が断末魔のような悲鳴をあげる。いったい何事なのか。


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